米マイクロソフトと米ヤフーの検索エンジンに関する提携のニュースは、筆者がコカ・コーラのアトランタ本社出張中に入ってきた。今回の、まさにインター ネットビジネスの創世記から常に業界をリードし続けていた両雄の提携は、果たして世界、あるいは企業のマーケッターにどのような影響を与えるのであろう か。
ご存知の方も多いと思うが、そもそもマイクロソフトは2008年2月にヤフーの買収を提案したが、同5月にそれを断念した経緯がある。当時の買収 がうまく行かなかった理由として、筆者はヤフー側に独自性を保ちたい意向が強くあったのではないかと考えている。そして今回の提携では、恐らく当時のこと を教訓に買収という形態ではない方法で取り込む意図があるのでは、と推察する。今回の提携内容の全容は明らかにされていないが、独自性を保ちたいヤフーに 配慮した内容になっているのではないだろうか。筆者も通っていたが、自立心の強い生徒が多いシリコンバレーのスタンフォード大学の学生が立ち上げた企業 が、独自性を保ちたいと思うのはごく自然なことであろう。
では、マイクロソフトはなぜヤフーとの提携に躍起になっているのであろうか?
競争力を定義する1つの理論「ランチェスター戦略」では、トップ企業のシェアが2位の3倍以上ある場合には追いつけないとされている。その中で米 国における検索エンジンのシェアは、米コムスコアの調査(2009年6月)によるとトップのグーグルが6割強で、2位のヤフーとは3倍強の差をつけてい る。今回の提携により、マイクロソフトの検索シェアを合わせると約3割になるとみられており、ようやくトップのグーグルの約半分のシェア、つまり競争力を 保てる領域に入ったことなる。つまり、直接的には検索広告で過半のシェアを持つグーグルに対する競争力を保つためであると考えられる。
しかし筆者個人としては、今回の提携は単に検索エンジンのシェア確保とは若干違う様相を呈していると考えている。
検索の覇者がWEBの覇者となるのか――米マイクロソフトが開始した新検索サービス「Bing」
その大きな理由としては、昨年の買収から今回の提携の発表までの期間に、マイクロソフトが新型検索エンジン「Bing」を開発・発表したことにあ る。同社は独自の検索エンジン(Windiows Live サーチ)でサービス提供していたが、2009年5月28日にBingを開始すると発表した。これによってユーザーの検索に、結果だけでなく意思決定を支援 する仕組みを導入してゆくという。まずは、「商品購入」といった検索ユーザーの意図を理解し、適切に情報を選別・提供することで、キーワードを追加した再 検索などの手間をはぶき、迅速な意思決定を支援していく。また、今回の提携内容に「ヤフーのコア検索技術に関するライセンスをマイクロソフトが受けるこ と」が含まれていることも注目したい。
なぜ、意思決定支援を掲げた新しい検索の仕組みを開発し、ヤフーの技術を組み合わせてまでも検索の仕組みを進化させなければいけなかったのか。あ くまでも筆者の推測ではあるが、そこには「検索」の意味自体を進化させようとしている強い意志が感じられる。インターネットの検索サイト上、言い換えれば ブラウザー経由で行なうことが前提となっている現在の検索の仕組みそのものを変えようとしていることさえ、考えられる。つまり、検索の欲求が起きてからブ ラウザーを立ち上げて検索をするのではなく、端末画面でそのまま検索できるインターフェース(日本の携帯電話では一部実現している)を開発し、それに意思 決定支援機能を連動させてユーザビリティを一層高めるといったことだ。こうなると、これまでとは全く違う広告モデルが誕生することも考えられる。
企業のマーケッターにとっても、こうしたサービスでは検索からブランディングや購買までが直結しやすくなるため、消費者に対してこれまでとは違っ た価値を提供することが可能になり、マーケティングのプラットフォームとしての重要性を増すことが想定される。例えば、検索がOSの一部となり、ネットに つながっていなくても宣伝ができるインフラが登場するかもしれない。そういった未来の検索の戦略的な活用方法を考えるためにも、これからの両社の提携の行 方、ひいては「検索」そのものの進化の行方を注視しておくことが非常に重要ではないだろうか?
偶然にも、これまでマイクロソフトが追い抜いてきた表計算ソフトやブラウザーなどの競合企業には、シリコンバレー発のところが多く含まれている。 今まさにシリコンバレー企業の代表とされることが多いグーグルとのインターネットビジネスにおけるリーダーシップ争いの行方が、今回の提携によって今後ど のような決着を見せるのか、個人的にも非常に楽しみである。
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