で、翌年の3月、二人はミルズ&ブーン社の最初の出版物を世に問います。それはソフィー・コールという女性作家による『Arrow from the Dark』という本で、もうコテコテのロマンス。しかしこれは単なる偶然で、創立当初のミルズ&ブーン社では特にロマンスに力を入れていたわけではありません。一般の小説・政治論・ユーモア・健康・育児・料理・旅行などいかなる種類の本でも選り好みせず出版していたようです。ただ、創立当初から単一の装丁、単一の定価で売り出すということはしていたらしい。つまり「叢書」としての形を最初から取っていたんですね。これはその後のこの出版社の行く末を考えた時、なかなか興味深い問題です。「叢書」というのは、そもそも個々の本のタイトルや著者の名前よりも出版社のネームバリューで本を売る戦略であり、後にミルズ&ブーン社に成功をもたらすことになる販売戦略を、創立当初から意識していたのではないかと思わせるフシがあるからです。しかし、この問題に関してはまた後に述べることといたしましょう。
さて、こんな感じでイギリス出版業界に新たな船出をしたミルズ&ブーン社ですが、その後 Laughter Library (ユーモア叢書)や Thrilling Adventure Library(サスペンス叢書)、あるいはNovels of the Plays(芝居のノベライズ叢書)といった各種叢書でそこそこの成功を収めた後、これらよりももっと大きな成功を同社にもたらすことになる、ある人気作家との契約にこぎ着けます。その人気作家の名は、ジャック・ロンドン。日本でも『荒野の呼び声』や『白い牙』などで有名な作家です。意外なことに、ミルズ&ブーンの最初のドル箱作家は、イギリス人ではなくアメリカ人の作家だったんですね。