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September 26, 2005
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カテゴリ: 思わず納得!
昨日、ハーレクイン・ロマンスのヒーロー像についてお話しし、現在では「アルファ・マン」と呼ばれる全知・全能の高圧的なヒーロー像がハーレクイン・ロマンスの売り物になっている、というようなことを言いました。しかしアルファ・マン的なヒーロー像というのは、実はここ3、40年ほどの間に確立した産物なのであって、それ以前、つまりミルズ&ブーン社が独自にロマンスを出版していた時代には、必ずしもアルファ・マンばかりがヒーローではなかった。今日は、その辺りのことを補足説明したいと思います。「20世紀大衆ロマンス小説史におけるヒーロー像の変遷」ってヤツですね。

さて、前回、ハーレクイン・ロマンスのヒーローというのは、肌の色が浅黒く、黒目・黒髪で、人種的にはラテン系・アラブ系・ジプシー系であることを窺わせるような人物が多い、というようなことを述べました。つまり、アングロ・サクソン系ではないというところがミソでありまして、そこにエキゾチックな魅力が生じてくる。

ところがミルズ&ブーン社が1910年代くらいに出していた初期のロマンス小説ですと、ヒーローははっきりイギリス人、しかも落ち着いた紳士であることが多いんですね。思想的には帝国主義的かつ封建的、一見、動かざること大地の如しに見えるのだけど、それでも時々、その強面の陰にある弱い部分をチラッと覗かせ、それでヒロインの愛情を勝ち得る。そのあたりはちょっと現代のアルファ・マン的なところはありますが、少なくとも「エキゾチックな魅力」の持ち主ではなかった。

それが1920年代になりますと、そういう自信に満ちあふれたヒーローというのは姿を消すんです。男臭さでヒロインを圧倒するようなヒーローに代わって、この時代のロマンスの主流になるのは「ボーイ・ヒーロー」と呼ばれるタイプ。身体も小柄で、どちらかというと繊細で優しい、フェミニンな特質を持ったヒーローです。

こうした1920年代のヒーロー像の変化については色々な説があって、たとえば第1次世界大戦で肉体的にも精神的にもダメージを受けた世の男性たちの多くが、その男性性を一時的に失っていたからだ、というようなことが言われたりする。しかし、それよりももう少し直接的な要因として指摘されるのは、1919年に有名になった「アラビアのロレンス」の影響です。小型爆弾を活用したゲリラ戦という斬新な戦法を用い、アラビアの広大な砂漠を舞台に小柄でハンサムなロレンスが活躍するというイメージ、これが「ボーイ・ヒーロー」の原型ではないか、というわけ。ふーむ、なるほど・・・。

そしてもう一つ、アラビアのロレンスの登場によって、がたいが大きく、紳士然とした色白きイギリス人ヒーローよりも、日に焼けた褐色の肌をし、身軽で、情熱的な地中海的ヒーローの方がステキ、という意識が生み出されたことも、言っておかなくてはなりません。そしてこの傾向をさらに高めることに貢献したのが、E・M・ハルという人の書いた大ベストセラー、『ザ・シーク』(1919)です。現在までも続くエキゾチック・ヒーローの系譜というのは、実はアラビアのロレンスと『ザ・シーク』あたりから発しているんです。

ところが流行というのは、振り子のように振幅が大きいもので、ボーイ・ヒーロー時代が10年続いた後、続く1930~1940年代には再び「ファーザー・ヒーロー」の時代となります。これは田舎に広大な土地を持つ大地主であり、かつロンドンで仕事もしている、というような押しも押されぬジェントルマンのヒーローです。ちなみに、ボーイ・ヒーローからファーザー・ヒーローへの流行の移り変わりについても色々ともっともらしいことが言われていて、曰く、第2次世界大戦の混乱の後、人々は落ち着きを求めたのだ、と。ま、それはそうなのかも知れません。そう考えると、ロマンスの変遷を知れば、その時代その時代のツァイトガイスト(時代精神)が見えてくる、なんてことも言えそうですね。ま、後で述べるように、ロマンスの流行と時代精神の変遷とは、必ずしも一致しないところもあるのですが・・・。

ところで、ここで一つ面白いことがあります。それは1940年代を通し、直接戦時中の風俗を描き込んだロマンスというのがほとんどない、ということです。これ、なぜだか分かりますか? 現実生活の中で様々な困難に直面しているのだから、せめて空想の中では戦争と関係のないことが読みたいと読者が思ったから? うーん、鋭い。それも一つにはあるでしょう。しかしですね、一番大きい理由は「再刊する時に都合が悪いから」なんです。第2次世界大戦に限らず、その種の時事ネタというのは、ちょっと時代を経るとすぐに古臭くなってしまう。ですから、戦争ロマンスなんていうのを出してしまうと、10年後くらいに再刊しようと思うと、もう古臭くって使い物にならないんですね。ですから、過去に出版したロマンスを定期的に再刊する慣行があったミルズ&ブーン社では、時代が特定できてしまうような要素をロマンスの中からできるだけ排除しようとしてきた。そこで、あまりにも戦争とリンクしたロマンスというのは、書かせなかったんですね。ビジネス、ビジネス。

ところで、現実生活の中の困難を、ロマンスの中まで持ち込んでもらいたくない、ということについて言いますと、これは1950年代のロマンスについて当てはまるところがあります。この時代、第2次世界大戦後がもたらした社会的混乱・価値観の混乱を背景に、若い世代の人たちが親の世代に反抗し始め、出世コースから意識的にドロップアウトしたり、あるいは不良のグループに入ってその日暮らしの荒んだ生活を始める若者たちが現れ出し、それが社会問題になってきた、というようなことがありました。で、一般の文学の世界ではこの時代、そうした世相を反映した小説が続々と出版され、文学史的には「アングリー・ヤングメン(怒れる若者たち)」の時代と呼ばれているわけ。懐かしいですね、アングリー・ヤングメン。私も若い頃、アラン・シリトーの『土曜の夜と日曜の朝』とか、そういうのに夢中になった時期がありました。



それからもう一つ、1950年代のミルズ&ブーン・ロマンスのヒーロー像で多いのは、社会的成功者です。フェミニンな少年でもなく、かといって郷紳タイプでもない、新しいビジネスマン・タイプのヒーローです。このあたりからミルズ&ブーン社のロマンスのヒーローは、大会社の社長(たとえそれが大伯父さんから譲られたものであろうと)といったような「パワー・エリート」になっていくんですね。そして言うまでもなく、この傾向は現在も続いています。

そして1960年代後半になると、再び肌の色浅黒き、ラテン・アラブ・ジプシー系ヒーローの人気が高まってきます。そしてその決定版となったのが、1969年にヴィオレット・ウィンスピアという人気作家の書いた『ブルー・ジャスミン』なるベストセラー。1919年に出された『ザ・シーク』を明確に意識し、そのちょうど50年後に書かれたこの作品は、エキゾチックでマッチョ、しかも高圧的で無慈悲なボスタイプというヒーロー像を確定し、1970年代以降のロマンスの方向性を決めた作品と言われています。

で、ここで思い出していただきたいのは、ちょうどこのあたり、すなわち1971年という時点で、ハーレクイン社によるミルズ&ブーン社の買収が行なわれた、ということです。つまり、ハーレクイン・ロマンスのヒーロー像というのは、ミルズ&ブーン社がその半世紀を越えるロマンス出版の歴史の中で、様々な紆余曲折を経ながら作り上げてきたヒーロー像の、その最後のパターンを踏襲し、これを発展させたものなんですな。そしてその結果誕生した「アルファ・マン」の何たるかは、前回お話しした通りです。

さて、これでようやく一通り、ロマンス・ヒーローの条件についてお話しし終えました。次回こそは、ヒロインとヒーローの恋愛におけるおとぎ話的要素、というところに話を進めることといたしましょう。ということで、次回もお楽しみに! 「お気楽日記」は夜更新しまーす。





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Last updated  September 26, 2005 04:07:43 PM
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