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森の中の海

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2005.11.03
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テーマ: お勧めの本(8172)
カテゴリ: 世界&社会のこと
先日入手した 「砂漠の女ディリー」



波乱万丈の人生が軽やかに綴られていたけれど,体験者としての割礼儀式のくだりが語られた数ページは,海の身を硬直させてしまうほどの苦痛と迫力に満ちていた。



現代でも,クリスチャンの家庭では男児の割礼を行っている。  外国人の夫がいて,西洋人の同僚が多い海,どういった手術をするのかと,彼らに何度か尋ねたことがある。


夫は,何も覚えていないと。  同僚にしても,事細かく覚えている人はいない。


「どうやって切るの? 縫合するの?」と訪ねる海に,「いや,鋏みたいのでちょんぎるだけだよ。  後はほっておくんじゃないかな・・・。」



それだけでも絶句だ。  あかちゃんの先っちょ切っちゃって,放置? 切りすぎちゃったらどうなるの?  皮は伸びると言ったって・・・?



西洋文化の中の男児割礼は,まだ程度が穏やからしい。  割礼を受けている世の男性から,不都合の声を聞いたこともない。



ワリス・ディリーの告白は,もっともっと壮絶。





うまくいったとしても,患部はその後の排尿や生理の度にひどい痛みを引き起こし,過酷な生活を営まなくてはならないアフリカの少女,女性達に,絶えるしかない無言の痛みを強いるのだ。


初夜や出産時にしても,どうやら特に切開手術をするでもなく,硬く縫い合わせたものを破れるに任せるか,あるいは手荒に切り開くかが行われているらしい。


その後は,夫の性の悦びを満たすために,また縫い合わされる場合もあると。



ソマリアでは,この習慣は違法行為となったそうだが,アフリカ全土28カ国でいまだに広く行われているという。  過去に切除を受けた女性は推定で13億人。  毎年さらに200万人が犠牲になっている。  日に6000人だ。



これらの地域は,依然として進んだ医療行為が可能なわけでないので,使われるものはかみそり,ナイフ,はさみ,割れたガラス,尖った石。

地域によっては歯で噛み切ることもあるらしい。


麻酔は一切使われない。



さらにこの習慣が,アフリカ系移民が増えているアメリカにも持ち込まれているというのだから,二の句がつげない。




いつの試算かわからないが,アメリカ疾病センターによると,ニューヨーク州だけで,推定2万7千人が切除を受けたか,その途上にあると考えられている。



各州では法案を可決し廃絶への介入対処が行われているのだが,宗教行為として主張されその数は減る傾向にはなく,わざわざアフリカからジプシーや産婆を呼び寄せ,年頃の女の子をまとめて割礼しているそうだ。






現代社会で,まだこんなことが行われているなんて。 廃絶しようとする一方で,根強く信じられている,女性を封じ込める習慣。




最も軽いもので クリトリスのみの切除。


最も重いもので,外性器を全て切り取った後に,排尿・排血の小さな穴を残して,残りを全て縫合してしまう方法。


合併症は多岐にわたり,ショックを起こす可能性は高いし,感染症,尿道や肛門の損傷,破傷風,膀胱炎,敗血症,HIV,B型肝炎,泌尿器や骨盤の感染症からの不妊症,嚢腫や膿瘍,激しい痛みを伴う神経腫,排尿困難,月経困難(経血が腹部にたまってしまう),体の麻痺。


このどれもが,過酷な住環境に上乗せされ,死にいたる道を早めるか,生涯後遺症に悩まされることとなるのだ。



砂漠でとても貴重な財産は,らくだ。 花嫁は,らくだ数頭と引き換えに取り引きされる。







文明社会では,精神への虐待が問題になる昨今だが,かの地アフリカでは想像を絶する習慣が,今も連綿と受け継がれている。



そうすることが当然で,そうしないと生きてゆけない女達のために,自分の経験を語り続けるというワリス。



以下,「砂漠の女ディリー」より抜粋。


******************************


前日の夜,水やミルクをあまり飲まないようにと言った。 おしっこがたくさん出ると困るからね―私はそれがどういうことかわからなかった。 ただうなずいた。 怖かったけれども,大人になる決心はついていた。 その晩,私はいつもより大事に扱われ,食べ物も余計に食べさせてもらった。 これまで姉達がそうしてもらうのを見て,うらやましかったことだ。 ・・・ 今となってみれば,割礼される少女たちがいつもどうしてあんなに早い時間に連れ出されるのかは明らかだ。 みんなが起き出す前にすませて,悲鳴に気づかれないようにしているわけだ。 ・・・ 母が古木の根を拾ってから,私を岩の上に座らせた。 自分も私を後ろから抱きかかえるようにして坐り,私の頭を自分の胸に押しつけて,両脚で私の体をはさむように押さえつける。 私は腕を母の腿にまわした。 母が古木の根を私の歯の間に差し入れる。「さあ,これを噛んで」・・・「今日は母さんは一人だからね,お前が暴れたら押さえつけていられないんだよ。だから,いい子にして,いいかい? 母さんのために勇気を出しておくれ。 そのほうが早く終わるからね。」 ・・・ 私は両脚の間にジプシーの老婆がかがむのを見ていた。 ・・・ その老婆が私を見据えた目は,まったく無表情だった。 それから老婆は,古い布製のバッグをかき回した。 私は目を離さずにじっと見ていた。 どんなもので切るのか知りたかったのだ。 きっと大きなナイフだろうと思っていた。 ところが取り出されたものは・・・欠けたかみそりの刃・・・細かなところまでは見えなかった。 だがそんな中で,カミソリの刃に乾いた血がこびりついているのははっきり見えた。  老婆はカミソリにつばを吐き,それを自分のドレスでこすった。  突然目の前が暗くなった。母が私に目隠しをしたのだ。

次に感じたのは,肉が切り取られる激烈な痛みだった。 切れ味の良くないカミソリが,のこぎりでも引くように肉を切り取っていく。 今から考えても,あんなことが自分の身に実際起きたなんて,信じられない。 誰か別の人に起こったことのようだ。・・・ だが,私は動かずにいた。 アマン(注:ワリスの姉)が逃げても,結局はつかまってしまったことが頭にあった。(注:以前姉の割礼を,好奇心にかられて盗み見ていたことがある)それに私は,母にえらいと思ってもらいたかった。 ・・・ それからまもなく,私は失神した。 

気づいたとき,私はもう終わったのだと思った。 だが実は,最悪の部分がそれから始まろうとしていた。 目隠しははずされていたので,「殺し屋」(注:ジプシーの老婆のこと)が側にあったアカシアの木から刺を集めているのが見えた。 ・・・ その刺で私の皮膚に穴を開け始めたのだ。 それから白い糸をそこに通した。 脚の感覚はなくなっていたが,その間の部分の痛みは信じがたいほどだった。 本当に死んだほうがましだと思った。 ・・・ 次に気づいたときには,もうジプシーは消えていた。 ・・・ 近くの地面に横たえられていた。 両脚は動かないように,布で足首から腰までぐるぐる巻きにされている。 ・・・ 首を回して岩のほうを見ると,動物が殺された後のように血だらけになっていた。 上に私の肉片が置かれたままになっている。 それは容赦なく照りつけ始めた太陽の下で,干からび始めていた。 ・・・ ようやく母と姉が来て,私を木陰に引きずっていった。 ・・・ 傷が治るまでの2,3週間,私は小屋に一人で隔離されるのである。 そういうしきたりだった。 ・・・ 次の排尿のときまで,私は苦悶のときはもう終わったと思っていた。 ところがそのときが来て,どうして母があまり水を飲むなと言ったのか,そのわけがわかった。 ・・・ 最初の一滴が出て来たとき,皮膚が酸に溶かされたような痛みが走った。 性器を切り取って縫合したあとには,マッチ棒の直径ほどの小さな穴が二つ開いているだけだった。 一つが排尿のための穴,もう一つが月経のための穴である。  この素晴らしい方策のおかげで,私達は結婚するまでは誰ともセックスできない。夫となる人は,処女を保証されるというわけだ。  尿は傷口を通って,一滴ずつ,脚を伝って砂の上に落ちた。 私は泣き出した。 殺し屋の老婆に切り刻まれているときでも,泣かずにいられたのに,その妬かれるような痛みには耐えられなかった。 

・・・ 日はゆっくりと過ぎていった。 だが何日か小屋で寝ているうちに,傷口が化膿してしまったようだった。 高熱が出て,意識が朦朧とした。 排尿のときの痛みがいやで,私は排尿せずにこらえていたが,母が「ずっとオシッコしないでいると,死んでしまうよ」と言うので,我慢してするようにしていた。・・・ そうやって,傷の治るのをひたすら待っていた。 熱に浮かされ,やることもなく,動くこともできず,私はただ考えていた。 なぜ,こんなことをするのだろう? これは何のためなんだろう? そのときの年齢では,セックスのことは何もわからなかった。 わかっていたのは,母の了解のもとにわたしは切り刻まれ,それがなぜなのかわからにということだった。

***************************


現在,彼女は夫と息子に恵まれ,ソマリアの砂漠の母との再会も果たし,幸せな家族の営みを味わっている。


経験者としてのワリスが,割礼儀式は,「無知で身勝手な男達が勝手に作り出したものなのだ。 女性の性の喜びを,自分の手で支配したいに過ぎない。 そのために男達は,妻になる女性の割礼を要求する。」「無知と妄信のため以外のなにものでもない。 性器切除に伴う痛みと苦しみ,そしてそれによって奪われる生命を考えたら,この習慣をやめるべきなのは誰の目にも明らかなはずだ。」 と断じている。


西洋で,娘に良い教育を受けさせるのと同じように,社会が要求する儀式を,砂漠で生きていくために,娘を良い条件の嫁ぎ先へ送り出せるように,親の義務として受けさせているのだと。



そして語る。


「これまでずっと,女子割礼が行われる理由はなんなのかと考えてきた。 何か納得のできる理由があれば,自分にされたことを受け入れることができるかもしれない,と思った。 だがそんな理由は,何も思い当たらなかった。 考えても,一つも納得できる理由が見つからなかったとき,年月とともに怒りは膨れ上がった。 この秘密を誰かに話さなければ,窒息しそうだった。 母も姉妹も近くにはおらず,同じ悲しみを共有する仲間もいなかった。 『犠牲者』という言葉の響きは,いかにも無力で好きではない。 だが,あのジプシーの女性に性器を切り取られたときの私は,まさにそれだった。 しかし大人になった今,私はもはや犠牲者ではない。 私は自分で行動できる。」







命の重さ。  健康な肉体をわざわざ損なわせる行為。  女性の美しさをわざわざ貶める習慣。



型を破り,不満な情況に甘んじない強さと,どんなときにも希望を失わない耐久力。



かつて犠牲者だった自分を乗り越え,『私は犠牲者ではない』と言い切るたくましさ。



彼女は,この体験を世に発言した,初のソマリア女性として国連特別大使となり,この女子割礼儀式をやめさせる運動を,WHOや国連人口基金と協力している。




知る事。 知らせる事。  



地球は,女が支えている。


そして,その女を慈しみ大切に愛する男がいることで,女はもっと軽やかにがんばれる。



奪い合うのではなく,与え合う関係を。  部族も習慣も国境も越えた,愛に基づく行為を。



人としての尊厳を。



ワリスに寄せて,願う。






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Last updated  2005.11.03 22:53:49
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