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2012.07.10
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カテゴリ: 安積親王と葛城王



   【葛城王(橘諸兄)】

 葛城王は、『王』の名が示すように、敏達天皇の曾孫の美努王(みぬおう)を父に、三千代を母にして684年に生まれている。

   注)第三十代・敏達天皇—難波皇子—栗隈王—美努王—
     葛城王

 幼少期の葛城王の記録はまったく残されていない。ただ母の三千代は皇室の信頼が厚かったのであろう、この葛城王を育てながら軽皇子(のちの文武天皇)の乳母(めのと)を務めていた。文武天皇と葛城王はいわゆる乳兄弟ということになる。

持統天皇八(694)年、美努王が筑紫大宰帥に任命されて赴任して行ったのであるが、三千代は何故か中央に残り藤原不比等と再婚した。父が遠くに赴任している間に母が再婚したのであるから、幼少期の葛城王は決して幸せな生活であったとは言えないと思われるし、母をとられたということで藤原に憎しみさえを感じていたと思われる。彼は『反藤原』として成長していったのであろう。しかし葛城王にとって、文武天皇の妃・宮子は、母親の三千代を通じて父違いの兄妹の間柄にあり、しかも宮子の姉の多比能を妻にしていたことで、藤原氏とは微妙な関係にあったことになる。

 片平町の王宮伊豆神社の由緒によると、葛城王が和銅四(711)年に安積を訪れたことになっている。しかし和銅三年、 葛城王二十七歳のとき従五位下に、和銅四年には馬の軍事的な重要性から令外官である馬寮監(めりょうげん)に叙せられて左右の両馬寮を統括している。はたしてこのような年に、葛城王は安積に派遣されたであろうか。しかも葛城王が二十七歳になるまで任官できなかったのは、文武天皇との乳兄弟という身近な関係が藤原氏の側から嫌われたのかも知れない。その後も、葛城王の出世の速度は決して速いとは言えなかった。

 養老五(721)年、葛城王は従五位上・右大臣となったがすでに三十七歳となっており、最初の叙任から十年が経っていた。元正天皇の即位から六年目である。そして二年後の養老七(723)年、正五位上に叙せられた。この二年ぶり三度目の叙位は三十九歳の頃と推測される。神亀元(724)年、葛城王は聖武天皇の即位と同日、従四位下・左大臣に進んだ。そのような神亀五(728)年、安積親王が生まれた。葛城王四十四歳のときであった。いわゆる『安積派』は、安積親王の誕生とともに発生したと考えてもよかろう。

 神亀六・ 天平元(729)年、葛城王は正四位下に、次いで九月二十八日、朝廷の最高機関である左大弁に任じられた、葛城王の昇任の多くは、元明・元正天皇の時代にあたる。恐らくこの二人の天皇は、藤原を、『良し』としていなかったのではあるまいか。また葛城王自身も、天皇への道を閉ざされた地位にあったことを自覚して行動していたと思われ、そこを二人の天皇に好まれたと想像できる。二人の天皇は葛城王に叙任という恩を売ることで、首皇子の将来の後援者にしようとしたのではなかろうか。しかしそうすると二人の天皇は反藤原では葛城王と一致するが、首皇子を葛城王に支持させるということでは矛盾を生ずることになる。それにもかかわらず、二人の天皇がそうしたことは、首皇子(聖武天皇)についてはやむを得ないと考えながらも、せめて安積親王を次の天皇に立てたかった。そのための接近であったとも考えられる。

 天平三(731)年、葛城王は参議となり、天平四(732)年には従三位 となった。この年の 十一月十一日、葛城王は弟の佐為王と共に臣籍降下をし、母・三千代の姓氏である橘宿禰を継ぐことを願い許可された。橘諸兄(たちばなのもろえ)と称した。この王の位を捨て、わざわざ朝臣より下の宿禰の姓を授かるという一見不可思議な行為は、 藤原氏に対する処世術ではなかったかと推測されている。

 元正上皇は葛城王が橘の氏を賜与された宴会で、橘をことほぐ歌を作っている。

   橘の とをの橘 八つ代にも 我れは忘れじ この橘を
(めでたい橘の中でも とくに枝もたわわに実ったこの橘 いつの代までも私は忘れはしない この橘を)
                (万葉集 18/4058)

 天平九(737)年、疱瘡の流行によって、藤原四兄弟が相次いで亡くなったため、藤原氏の勢力は大きく後退した。藤原氏抜きで橘諸兄が政権を担い、安積派の勢力が拡大した。

 天平十(738)年、橘諸兄は正三位右大臣に任命され、一躍朝廷の中心的地位に出世した。これ以降の国政は事実上橘諸兄が担当し、聖武天皇を補佐する形となった。これに対し、藤原宇合の嫡男広嗣は強烈に反発した。

 この藤原広嗣の乱のあと、光明皇后の庇護のもとで頭角を現してきた藤原仲麻呂(武智麻呂の次男)の後見する阿倍内親王と、橘諸兄の後見する安積親王に、房前の三男・藤原八束(ふじわらのやつか・諸兄の甥に当たる)と大伴家持も安積派として結束し、どちらを次の天皇にするかの争いが表面化した。

 この年、亡くなった基皇子の姉で二十一歳の阿倍内親王が皇太子として立てられた。しかし聖武天皇には広刀自との間に、十歳になる安積親王がいた。ただ一人の皇子であるから次期天皇の最有力候補と考えるのが自然である。貴族層は聖武天皇の方針や藤原氏に反感を抱いていた。その貴族層の考えを集約しようとしたのが橘諸兄であったのであろう。

 天平十五(743)年、橘諸兄は従一位左大臣に任じられた。その一方で安積親王は藤原房前の子・八束邸にて宴を開いている。この宴には、当時、内舎人であった大伴家持も出席し、そのときに詠んだ歌が万葉集に残されている。安積親王は十六歳、諸兄五十九歳、八束二十九歳、家持二十八歳頃かと思われる。

    久堅の 雨は降りしけ 思ふ子が 屋戸に今夜は
    明かして去かむ
(ひさかたの 雨よ降れ降れどんどん降ればよい。そしたら、私の大切に思っているあの子(安積親王)が帰れなくなってここに今夜はお泊りになるだろうから)
         (大伴家持・万葉集 06/1040)





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最終更新日  2012.07.10 06:51:57
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