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カテゴリ: 映画の話
先週の三連休に夫と帰省した時は、実家の両親と過ごすだけでなく、友人と会う約束が重なり、連日かなりの慌しさでした。

横浜から原宿へ向かう途中、乗り換え駅の渋谷で時間が出来たので、映画でも見よう…ということになりました。
こういう時に、iモードのエリア探索というのはなかなか便利なもので、駅のそばの映画館で時間がちょうどいいもの、という条件で探した結果、ユーロスペースで上映中のこの作品を選んだという訳です。

この映画は、村上春樹さんの「レキシントンの幽霊」という本に収められている短編、「トニー滝谷」が原作。まず、この奇妙なタイトルにひかれました。(一瞬、“トニー谷”ではないざんすか?と思ってしまった私ですが、若い子たちには通じないかな…)

「トニー滝谷の名前は、本当にトニー滝谷だった」
そう、イッセー尾形さんが演じる主人公の中年男の名前が、そのまま題名になっていて、彼の半生を淡々と、静かなタッチで見せていく映画です。
トニー滝谷という男は、幼少の頃から、ほとんど宿命的に “一人で生きること” を余儀なくされて人生を送っているのですが、本人はそれで寂しさを感じる訳でもなく、むしろ、人と深く関わることにどこか違和感を感じる方で、一人でいるのが自分にとっては一番心地良い…と思いながら、イラストレーターとして何不自由なく日々を送っています。

そんな彼の前に、ある日イラストを受け取るために、A子という美しい女性が現れました。「服を着るために生まれてきたような人」とトニーが形容する彼女を演じているのが、宮沢りえさんです。


その思いは彼女に通じましたが、幸せな日々にやがて思わぬ事態が・・・

主演の二人は、トニーとA子のほかにも、それぞれ「トニーの父」と、物語の後半で登場する女性「B子」を二役で演じています。ほとんど二人芝居のような映画でした。

私も夫も、村上春樹さんの著作はそんなにたくさん読んでいる訳ではなくて、「レキシントンの幽霊」も恥ずかしながら未読なのですが、孤独な存在でありながらも他者と共生しなければ生きられない、人間のやっかいな本質を、寓話風に描き出した深みのある物語だなぁと思いました。
市川準監督の映画は好きで、かなりの作品を見ているのですが、吉本ばななさんの「TUGUMI」の映画化をされた時、原作の空気感が映画の中に息づいていて、すごくいいなぁ~と感激して以来のファンです。
そんな訳で、この映画も、原作を読んでから見た人がどんな風に感じたのか、興味があるところです。

坂本龍一さんの静謐感に満ちたピアノの音楽、さりげないトーンで原作を朗読する西島秀俊さんのナレーション、時々現われる、空を映したカットの息をのむ美しさ、そしてイッセーさん以下俳優陣のナチュラルな演技…どれも、私たちの好みにあうテイストで大満足でした。
そして特筆するべきは、やっぱり「女優・宮沢りえ」の素晴らしさです。
A子が一番最初に画面に現れたときのカットは、“現実にこんな女性が目の前に現れたら、誰だって恋するだろう”と思わせるほどの美しさでした。また、ヘアメイクや衣装の助けもあるとはいえ、全くキャラクターの異なるA子とB子の演じ分けもお見事だったと思います。

相変わらず、抱きしめたらポキリと折れてしまいそうなくらい、か細い身体が心配だけれど、「りえちゃん」の女優としての近年の飛躍を見ていると、一度の辛い出来事や挫折で、人生は終わりになったりしないんだなぁ…ということを改めて感じさせられます。

それにしても、久しぶりに行ったミニシアター「ユーロスペース」が、立ち見も出るほどの大盛況だったのには驚きました。その日の思いつきでこういう良い映画に巡り合えるのは、都市生活の醍醐味だなぁ~…と、うらやましくなりました。

「トニー滝谷」 公式ホームページ


【これもおすすめ・市川準監督作品】
竜馬の妻とその夫と愛人(DVD) 竜馬の妻とその夫と愛人(DVD)
※三谷幸喜さんの原作を、鈴木京香・木梨憲武・江口洋介・中井貴一といった芸達者な面々で、しみじみ可笑しくてホロリとくる佳作に仕上げています。とくに、憲さんの細やかな演技は必見。今、夫と司馬遼太郎の「竜馬が行く」を読んでいますが、この映画のおかげで、妻・おりょうさんの脳内イメージはすっかり鈴木京香です。
※このほか、「東京夜曲」「大阪物語」といった作品も、大人のせつなさを描いて強い余韻を残す映画でした。





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最終更新日  2005.02.18 19:57:52
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