せび邸

せび邸

2004.10.17
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テーマ: お勧めの本(7899)
原題”When Gravity Fails”


一部で熱狂的に支持されているらしいエフィンジャーのブーダイーン3部作の1作目です。
私もなにげに支持してます。
題名にある<重力>は物理的な力のことではないらしく、個人の人格やモラルを維持する力、社会秩序を維持する力の比喩として用いられているとのことです。
たしかにこの作品の世界には、現代の私たちを支配している<重力>の減衰が、さまざまな形で見てとれます。

タイトルの原題は、ボブ・ディランの「親指トムのブルース」という曲の一節からとられてます。作品の巻頭に置かれたふたつの引用は、この歌詞の一節とチャンドラー「簡単な殺人法」です。歌詞はこの作品の物語の世界をほのめかすために。チャンドラーは主人公の属性の由来をあきらかにするために置かれています。
「簡単な殺人法」は、本格推理小説を実名をあげて批判したチャンドラー自身によるハードボイルド宣言として有名らしいのです。そしてまさにチャンドラーの世界から抜け出てきたようなこの小説の主人公の名は、マリード・オードラーン。ヨーロッパ人の血が4分の1混じったアラブ人です。約200年後の世界を描いたこの作品で、フィリップ・マーローはイスラム人として転生しているようです。
西暦2200年頃の世界では共産主義も民主主義も消え去り、無数の小国家が乱立しているという設定です。作品の舞台となるブーダイーン街区は、うっかり迷い込むと生きてでられないような街です。現代の規範ではかると実に退廃的で危険な、このムスリムの街が、作品の魅力のひとつになっています。



作品中頻繁に繰り返される儀礼的なムスリムどうしの挨拶のやりとり、おそらくあえて直訳チックに訳されたイスラムの慣用句などが、アラビアンナイトな雰囲気をかもしだして素敵でした。






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Last updated  2004.10.18 11:29:14
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Comments

セビセビ @ Re[1]:元気です(06/17) blue rose2792さん あそことはまた別のあ…
blue rose2792 @ Re:元気です(06/17) それはなによりでした。 ほっといたしま…
セビセビ @ Re:やっぱり!?(01/22) せしるんさん おぉ。。 だいたひかる…
せしるん @ やっぱり!? 私も鳥居みゆきを見たとき、戸川純を思い…
セビセビ @ Re[1]:とあるプチ・オタの見たいもの探し(01/18) sally-1020さん ご無沙汰っす^^ 絶望…
sally-1020 @ Re:とあるプチ・オタの見たいもの探し(01/18) ご無沙汰しております。 先日は有難うご…

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