戦国ジジイ・りりのブログ

戦国ジジイ・りりのブログ

2015年05月06日
XML
カテゴリ: 旅日記(近畿)
前回の続き。

  「どうしてそのように隠れていなさる?」

  と日本の天狗が聞くと、

 「い、今そこを通っていったのはどなたかな?」

  と永寿が言うので、

 「あれは余慶といってな、すぐれた験者と評判の高い奴じゃ。
   山の千寿院から修法のために内裏へ向かっていったのだろう。
   尊い僧だからお主がどのように恥をかかせてくれるのか楽しみにしておったに、
   見逃すとは惜しいことをされましたな」


 「いや、それなんだがな・・・
   一目見てあれがそなたの言った者だろうと嬉しくなって飛び出そうとしたところ、
   僧の姿は見えず手輿の上には炎が高く燃え上がっておった。
   うかつにそばに寄れば火に焼かれるのは明白なので、こやつは見逃してやろうと
   そっと隠れたのでござるよ」


 「ハア!?
   はるか震旦から飛んできて、あれしきの奴も引き転がせないとは情けない。
   まあ、済んだことは仕方ない。次の奴は必ずやっつけて下されよ」

 と日本の天狗はあざ笑った。

 「いや、お主の言う通りじゃ。
   よし、今度こそは見ていて下されよ」

 と永寿が前のように卒塔婆の脇に座ったので、日本の天狗もヤブに戻った。
  するとまた声がして誰か下りてくるので見てみると、飯室の尋禅僧正で
  その100mほど前を縮れ髪の童子が杖を手に腰をかがめて人払いしながら歩いてくる。

  「さて、どうするか」

 と永寿を見てみると、先払いの童子に杖で打ちすえられながら追い立てられて
  永寿は頭をかかえて逃げまどっていた。
  結局、永寿は尋禅の輿に近づくこともできず、永寿を追い払った一行は行ってしまった。
  日本の天狗はまた永寿を探し出して、余慶の時のように罵倒した。

  「そ、そんなひどいこと言わなくっても・・・
   あの童子の面構えがとても近寄れないものだったので、頭をぶち割られる前に
   逃げようと思ったのだ。
   ワシは震旦からここまで片時の間に飛べるという素早さだが、あの童子の
   すばしっこさはワシより勝ってそうだったので、争っても無駄だと思って・・・」

  「ざまあないなあ、もう。
   もう一度だけチャンスをやろう。今度こそ頼みますぞ。
   せっかくこの国に来たのに、なす術もなく帰ったのでは震旦の恥になりますぞ」

 と繰り返し念を押してから、日本の天狗はまたヤブに隠れた。
  すると、今度は下から上がってくる一行があり、まず先に赤い袈裟を着けた先払いの僧、
  次に僧衣を入れる箱を持った若い僧、そしてそれに続く輿に乗っていたのは天台座主、
  横川の慈恵大僧正だった。その左右には髪を結った童子が2、30人歩いている。
  永寿はと見ると、またいない。


  「アイツ、また隠れやがったのか!」

 と日本の天狗が思っていると、童子の1人が

  「こーゆー場所にはくだらん者がひそんでいて、悪さをしようとすることが
  あるんだよなあ。おいみんな、その辺に散らばって周囲をあさりながら行こうぜ」

  と言ったので、元気いっぱいの童子たちが手に木のムチを持ちながら
  道の両側に散らばってきた。見つかっては大変と日本の天狗が谷の下の方へ降りて
  注意深くヤブの中に隠れていると、南の谷の方から


 「あっ、見~っけ
   おーいみんな、ここにアヤシイ奴がいるぞ~!!」


 という声が聞こえ、ほかの童子も走り寄って騒いでいる声が聞こえた。

 「アイツ、つかまっちゃったか・・・
   ヤバイなあ」


 と思っても、日本の天狗も恐かったのでそのままヤブの中に突っ伏していた。
  ヤブの隙間から恐る恐る永寿の方を見ると、10人ばかりの童子が老法師を
  殴るわ蹴るわでめちゃめちゃに暴れている。


  「ひいいぃぃぃ~~~!
   たっ、助けて~~!
   誰かぁぁぁ~~~!!」


 「オイコラ坊主!
   お前は一体どこの誰だ!
   何でこんなとこに隠れていた!
   白状しろよ、この老いぼれ!!」


 と童子がさんざんに殴って責めたので、永寿はついに白状した。

 「わ、私は震旦から来た天狗ですうう~。
   ここをお通りになる方を拝見しようとここにいたところ、最初にお通りになった
   余慶律師というお方は火界の呪を終始誦しておられたので、輿の上に火が上がり、
   どうすることもできずに逃げてしまいました。

   次の飯室の僧正は不動の真言を誦しておられたので、制多伽童子(せいたかどうじ:
   不動明王の侍者で八大童子の1人)が鉄の杖を持って僧正につき従っており、
   ゆえにこの方にも手向かいできず逃げました。

   この座主様は前のお二方のように霊験あらたかな真言も誦しておられず、
   ただ(摩訶)止観の法文を念じておられただけのようなので恐ろしさも感じずに
   近寄っていきましたところ、こうして捕らえられてしまったのでございます。」


 これを聞いた童子たちは

 「結局、大したこともできなかったようだな。
   もう許してやるか。おい、二度と来るなよ!」

 と言ってそれぞれの童子が老法師の腰を踏みつけていったので、老法師の腰の骨は
  折れてしまい、一行が去った後も1人腰の痛みにうめき続けていた。
  日本の天狗はこっそり這い出してきて、

 「どうだった?
   うまくやれましたかの?」


  と聞いた。

 「黙らっしゃい!
   わ、ワシはお主を頼りにしてここまで来たのに、あんな生き仏のような方達だと
   ちゃんと教えても下さらず、助けを求めても来てもくれないなんて
   ひどいじゃありませんか~~!!
   あげくには腰を折られて、もう痛いのなんの・・・
   めそめそめそ・・・」


 「いや、ごもっとも。
   でもあなたは大国の天狗なので、こんな小国の人など簡単にやっつけるだろうと思って
   お教えしたのですよ。
   なのにこうして腰を折ってしまわれるとは、ほんにお気の毒な・・・」


 と言って北山に連れていき、湯治で腰を治させてから震旦へ送り帰した。(後略)


こんな感じの話ですが、『今昔物語集』には天狗の話多いんだよなあ。
当時の人には天狗は見えていたのかもしれない。

余慶さんと禅師の君のケースはわかりやすいけど、

『摩訶止観』を念じてたって言われてもなあ・・・

ま、説話集には実在の人物も多く出てくるので、登場人物がどういう人かわかると
こんなフィクションちっくな話でも素直に楽しめます。


ところで、天狗のことを何の気なしに検索していたところ、
びっくりするものを見つけました。
それは『太平記』の中の一説。

雲景という羽黒の山伏が全国行脚していて京に寄った際、1人の山伏に出会って
「いいところがあるよん」とある寺に連れて行かれると、
そこには金の鳶がお誕生席にいて、その周囲にいるのも立派な方たちばかり。
これはどういう集まりなのかと雲景が山伏に聞くと、なんと金色の鳶は祟徳院で
集まった魔の棟梁たちと共に天下を乱す会議の最中だという。

この会議の話自体はだいぶ前から知っていました。
が、驚いたのはそのメンバー。
鎮西八郎為朝、淳仁天皇、井上皇后、後醍醐院。
淳仁天皇と井上皇后は最澄の歴バナに出てきたからわかるよね。
他の2人も政争の敗者で、主催者の祟徳院は不幸な出生から保元の乱へ到り、
日本一の大怨霊となった方・・・あ、これも最澄のところで少し書いたな。

つまり「怨霊サミット」とも言うべき集まりだったのですが、参加者は他にもいる。
それが玄ボウ、真済、寛朝、慈慧、頼豪、仁海、尊雲という高僧たち。

慈慧って慈慧って慈慧って
良源さんじゃん!!!


いや、こんな会議に出席してたなんて・・・違う、
出席したことになってるなんてびっくらこいたどころじゃないッスよ~!!

この高僧の中には、まあここに名前を挙げられるのもわかるよなって方も
いるにはいますが、なぜこの人が?って方もいる。
良源さんももちろん「なぜ?」の中の1人。

祟徳院は死の少し前に烈火のごとく怒って朝廷を呪い、生きながらにして
天狗となったという伝承のある方で、天狗は鳶の姿をしているとされることもあるので
ここでは金の鳶になってると思われるけど、じゃあ天狗主宰の会議のメンバーなら
良源さんは天狗になったのか?

そこでちょっと『天狗のイメージ生成について-十二世紀後半までを中心に-』(伊藤信博)
という論文を読んでみたところ、天狗というのは中国発祥のもののけで
もとは流星、または彗星が尾をひく様子を指していたんだそうな。
それが朝鮮にも渡り、日本にも入って舒明天皇9年(637)に流星が現われた際に
僧侶が「あれは流星じゃなくて天狗だ」と言ったという記録が
日本での文献上の天狗の初見なのかな。

日食や彗星などは不吉なものと見られていたから天狗もそういうイメージだったのが、
次第に護法神のような存在として捉えられるようにもなるが、不浄や邪悪といった面が
強調されるにつれ仏敵な存在とされ、仏法に排除されるようになる。

智羅永寿の話なんかはその頃にできたものかもしれない。
ほかの『今昔物語集』に出てくる天狗たちも、僧にしてやられるというパターンが多いし。
しかし、その後も天狗の概念はどんどん進化していく。 



にほんブログ村





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2015年05月06日 22時48分10秒


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

キーワードサーチ

▼キーワード検索

プロフィール

りりじい

りりじい

カレンダー

コメント新着

王島将春@ Re:浅草&寛永寺法要編(8) 東国の成熟(01/08) はじめまして。福井市在住の王島将春(お…
よー子@ 墓参り2014(2) 慈眼寺~芥川龍之介と小林平八郎の墓(08/02) 前略 初めてお便りします。 質問ですが、…
伊藤友己@ Re:上野第三編(12) 寛永寺105/清水観音堂~越智松平の灯篭(06/20) 越智松平家が気になって詳しく拝見しまし…

サイド自由欄

よみがえる江戸城 [ 平井聖 ] 価格:2916円(税込、送料無料)






PVアクセスランキング にほんブログ村

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: