戦国ジジイ・りりのブログ

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2016年03月29日
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カテゴリ: 城(東北・関東)
 【化粧は、人類発生とともに始まったといわれるほど、長い歴史がある。】
  (『日本の化粧』ポーラ文化研究所より)

考えてみれば、古代エジプトなんかでも化粧した絵が描かれてるもんな。
化粧は単なる美の追求だけではなく、文化によって祭祀やさまざまな目的で発展していった。

同書によると、日本の化粧の始まりはやはり大陸の影響を受けているそうで、
遣唐使の廃止によって独自の国風文化が発展していったように、
化粧もまた外国文化流入の一時ストップによって日本独自の方法が発展していったらしい。
それだけではなく、どうも化粧の歴史は大きな歴史の流れと連動しているようで、
江戸期に入って世間が安定し町人の経済力が高まると、

また社会の身分制度が厳格に分けられるようになると化粧も身分・年齢や
既婚・未婚の別などが現れるようになったという。

陶智子氏によると、浮世絵の中でも化粧や身支度の最中の女性を描いた絵というのは
相当に多いらしく、江戸期には『都風俗化粧(けわい)伝』のような化粧マニュアル本も
出版されているくらいなので、江戸女性の化粧の情報に関するニーズは結構あったらしい。


『都風俗化粧伝』では巻之上のはじめに、

我が日本女性は他国にすぐれて貞操正しく美しいが、中でも都会、都会の中でも
  都の地には美人が多く化粧もうまいので、都女郎、都風俗などといってもてはやされる。
  いったい、同じ天地に生をうけて多少土地柄に違いはあっても、都会だけに美人が生まれて
  田舎にはブスが生まれるのだろうか?いんや~、そうじゃねえんだ。

  都会の婦人はその顔に合った化粧をし、スタイルに合った衣服をうまく着こなすから
  ブスも美人に見えるだけなのさ。一方、田舎の婦人はせっかく美人に生まれついても
  化粧がヘタで顔に全然合ってないし、どんなに金をかけて贅沢な衣裳で飾り立てても
  模様や色のセンスは悪いし、着方もイカンし、立ち居振る舞いもなってないので
  どんな美人もブスに見えてしまうんだ。田舎の婦人が1~2年でも都会に住んでごらんよ、
  田舎に帰れば垢ぬけた都会人だとみんながほめそやして縁談が降るように舞い込むわ、
  玉の輿に乗る人はいるわで世間が手の平を返したようになるもんさ。
  都へ出たからって低い鼻が高くなる訳じゃねえし、チビがノッポになる訳でもねえ。
  ただ化粧法と所作を変えるだけで低い鼻が高く見え、低い背が伸びたように見える
  だけなのさ。
  (江戸っ子バージョンで相当意訳)


とぶち上げている。
こういう、「美しい人はより美しく、そうでない人もそれなりに」というコンセプトで
素材の良しあしに関わらずよりよく見せる方法を色々と紹介しているんだけど、
前回紹介したような修正の方法だけではなく、基本的な美容のノウハウも満載。

果ては白髪を黒くする方法や髪が増える方法まで載っていて、
美容マニュアルと「家庭の医学」をセットにしたような内容になっている。

そうか、江戸時代にもワキガに悩む人がいたんだな、と
同じ悩みを持つわたくしはほほえましく読んでおりましたが、毛はえ薬の方はすごい。

口伝にいう。薬を付けるはへらにて付くべし。指にて付くべからず。もしあやまって
  指にて付くるときは、その指に毛を生ず。この油、外(ほか)の身に落つれば、
  落ちたる所に髪を生ず。大切にすべし。


ま、ホントにそんな驚異的な効能があるんだったら現代にハゲは存在しないし、
各種養毛剤も開発されてないし、カツラ業界は商売にならんから
ちょっとこれは消費者庁の行政指導が入る可能性大の誇大広告かな。
毛はえ薬はいくつか紹介されてるから、薄毛でお悩みの方は『都風俗化粧伝』をご覧ください。


ところで、佐山半七丸は巻之中の冒頭で、化粧をすることの意義についてこう語っている。

化粧(けわい)容儀(かたちつくり)することは愛敬を身に付け、徳を修めることの
  根源となるもので、不浄を清潔となし、礼を正しくするものなんだ。身が清ければ
  心もおのずから正しくなる。聖人も婦人の四徳を挙げてるが、中でも「徳」と「容」を
  並べて挙げている。「徳」とは身を修め、家をととのえることをいう。「容」とは
  容儀(かたちつくり)することをいい、容儀とは化粧し容儀(すがた)を正しくすることを
  いう。心と容儀とは元来一体のもので、化粧して容儀(かたちつくり)する時には
  心はおのずから清く、父母をはじめ夫や舅・姑にはよく仕え、年寄りを敬い子供や使用人には
  優しく、他人を敬う心はみな愛敬から出るものなのさ。

  だから朝早く起きて日々鏡に向かっては化粧し身だしなみを整え、心の鏡に向かっては
  悪い心やわがままを抑えて素直なよい心を映し出していることこそがまことの女の道を
  守り、化粧の真髄をゲットしたことになるんだ。
  いくら日々鏡に向かって化粧して外見だけは綺麗に整えたとしても、心の化粧が正しく
  なければガンコですぐにキレたり、悪態をついたり、他人を妬み他人の不幸を喜び
  善いことをそしったりとロクでもねえ心ばかりが湧き起こって、外見の美しさも
  なんにもならねえ。このことをよく覚えておいて、周りにも教えてやるんだな。
  化粧ってもんは、艶っぽくてもやさしく、風流にやわらかく作っておけば
  さぞや心も奥ゆかしく優れているのだろうと他人から思われて、玉の輿に乗ることも
  できるってもんさ。


ふむ、ツッコミを入れたくなる箇所がないでもないけど、
顔のいい悪いじゃなく、性格がこの顔を作り上げたなって顔の人、いるよね。
いくら美人でも、いかにも性格悪そうな表情してると確かに台無しだしな。

わたくしの場合、平日もラフなカッコで出勤してますが、
休日ともなるとさらにきったないカッコして顔すら洗わなかったりするけど
化粧して髪や洋服なんかも(それなりに)きちんとしてる日は
やっぱり気持ちがしゃんとするような気もするし。

のちの大奥のベースを作り上げたお福(春日局)は、

「化粧も髪結いも全部夜明け前に整え終えるようにしなさい。
女の寝顔は醜いものだから、朝寝して寝顔を他人に見られるなんてのは
女として最大の恥よ!!
これは奉公する者だけじゃなく、人妻の場合も同じだから
そう心得ておきなさい」


と諭したそうな。
その教えと関連するのかはわからないけど、今泉みねがこんなことを語っている。

 【なんでも御殿(江戸城大奥)では、火事というしらせがありますと、みんなそれぞれの
  つぼねにはいって中から鍵をかけ、身支度をととのえてからでございませんと、たとえ
  火が来ましても一歩もそこをのかないというのが御殿女中の身だしなみであったと
  きいております。】
  (『名ごりの夢』より。カッコ内はジジイが追加)

大奥は幾度か火事で炎上して、御殿女中からも火災の犠牲者が出ている。
まあ、みんながみんなホントに化粧のためにこもってるうちに火が回って
逃げ遅れたという訳でもないだろうけど、みねの話は御殿女中のプライドの高さ
(もしくは執念)をほうふつとさせるエピソードではある。

ともあれ、佐山半七丸も各項目で「身支度は朝早くに済ましておけ。みっともない
寝起きの姿を見せるな」とも言っているので、奥御殿でもパンピーの長屋でも、
夜明け前には多くの女性が鏡に向かって「かたちつくり」をしていたのだろう。


では、『都風俗化粧伝』を中心に大ざっぱに化粧の段取りを紹介しましょう。

まずは身体のお手入れ。

身だしなみのよしあしでその人の心ばえまでもわかるもんなんだから、よく気を配って
  手入れをすること。身だしなみが悪いと途端にレベルダウンして人から笑われちまうぜ。
  自分じゃよくできたと思っても、他人からはなってない部分がよくよく見えちまうもんだ。
  10のうち8・9まではよく作っても、たった1・2落としただけで、できてる部分まで
  悪いように言われちまうのさ。綺麗に紅白粉(おしろい)をしても、鼻毛が伸びてたり
  耳の毛がモサモサしてたり、耳垢が溜まってたり、歯クソが付いてたり、舌にコケが
  溜まって口が臭かったり、伸びた爪に垢が溜まって黒ずんでたりといったことが
  1つでもあれば、すぐに笑われちまう。他人のチェックってのは厳しいもんなんだぜ。
  ま、手入れするべきところは沢山あって一度に全部やろうとするのは大変だから、
  日頃から気を付けて手入れをしておくんだな。


てことで、鏡に向かったら鼻毛を抜いてかんざしを持ったついでに耳掃除をし、
朝はよく歯を磨けという。
当時の歯ブラシは房楊枝(ふさようじ)といって、木の小枝の先っぽを煮て鉄槌で叩いて砕き、
それを櫛で梳いて木の繊維を柔らかくしたものを使っていた。
男性用の房楊枝には灌木、女性用には柳がおもな素材だったという。
歯ブラシというよりは絵筆のような形状をしたもので、反対側の先っぽは鋭く削られて
舌のコケを取り除く「舌こき」として使えるようになっていた。

ただ、これだけじゃ歯カスが充分に落とせなかったのか、
爪楊枝も使って歯を綺麗にしろと言っているものの、あまり深く爪楊枝を使ったり
使いすぎたりすると歯を傷めるから気をつけろと半七丸はいう。
陶氏は

 【楊枝は奈良時代に仏教とともに伝来したといわれる。口を清潔にすることは仏教の戒律に
  みられる。神社に参拝するときにも禊ぎとして口を漱いだ。だから、神社仏閣の境内で
  房楊枝や歯磨き粉が売られることが多かった、というのである。やがて房楊枝の使用は
  僧侶から貴族へと伝わり、平安時代には庶民にも伝播したと考えられている。】
  (『江戸美人の化粧術』より)

という。
へえ、こんなとこにも仏教の影響があったのか。
「みそぎ」自体は仏教伝来以前からあったかもしれないけど、
口腔衛生分野とセットになって仏教の発展とともに整理・体系化されていったかもしれないよな。
たぶん、私達が意識しない日常生活の中にももっと沢山仏教の影響はあるだろうから、
仏教が日本にもたらした総合文化の幅の広さには驚かされます。

ちなみに、江戸期は入れ歯も普及していたようで、
はじめ入れ歯は仏師が片手間に作っていたものが、のちに専門の職人が生まれたというから
こちらも歯と仏教のつながりを物語るもののようです。

浮世絵に描かれている歯磨きや舌こきのシーンは、どれも水場で行うのではなく、
御台ちゃまがなさっていたように 室内で、水を入れた茶碗から口をすすぎ、
大きなたらいに吐き出すやり方をしている。
だから、奥女中も長局で部屋子に手伝わせながら毎朝口のお手入れをしたのだろう。



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最終更新日  2016年04月22日 09時02分44秒


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