「ったく、船出が二日後の夕方なんて、急いでると言うのに・・とんだロスタイムだ。仕方な
い、今夜はベベド-ルで飲み明かすか?・・いや、それとも女でもはべらかすかな?」
ヴェルジェが明日、ハリケーンが来る事をダンに告げたので急遽、
船出が二日後になり、船に乗る予定だった男達は、
足止めを余儀なくされたのだ。
港から逆方向に馬に股がり進む、体格のよい艶(あで)やかなマラカイト・グリ-ンの
ローブを羽織った男が、連れの男に愚痴った。
愚痴った男はまだ若々しい顔立ちを髯(ひげ)で覆わせている。
連れの男は左目を黒い皮の眼帯で覆い、
長く伸ばした髪を後頭部で束ね、萌木色のローブを羽織っていた。
その男は無言で愚痴る男のあとを追うように馬を歩ませた。
するとマラカイト・グリ-ンのローブの男がふいに馬の歩みを止めた。
「おっ!!見ろよ!今までで一番極上。ラッキ~!」
文句を言っていた男の目に止まったのは、ベベド-ルの店先で、

三人の酔っ払いに絡まれている女性の姿だ。
男は意気揚々と馬から下り、連れの男の方を見た。
「おい、何、ボ-ッとしてんだ?・・困ってるレディは助けなきゃ!だろ?」
男に急かされ、萌木色のローブの男も無言のまま馬から下りた。
「なぁ、いいだろ?俺らと一緒にいいことしようよ~~」
「手をお離し下さい。私は人を探しているんです」
冷静さを装い、落ち着いた口調で言ったのはたヴェルジェだ。
「何いってんだ?あんたもそのつもりでここに来てんだろ?
相場の倍、否、あんたになら三倍払うって。な?いいだろ」
娼婦と間違えられたヴェルジェは装っていた冷静さを欠き、
露骨にムッとし、頬を紅潮させた。
「違います。だから人を探しているんです!」
ヴェルジェの言葉を無視し、一人の男が酒臭い息を、
彼女に吹きかけながら顔を近づけたので慌てて顔を背けた。
ヴェルジェは『も~~・・許せない!何の刑に処する?』と、
頭の中でいくつかの対処法を思い巡らせた。
が、その直後、酔っ払い男の赤ら顔は、酔いが瞬時に吹き飛び、そして青ざめた。
「今直ぐその汚ない手を離しな!」
そう決めセリフを言ったのは、マラカイト・グリ-ンのローブを羽織った男だ。
今にも切りさかんばかりに、彼のダガ-が酔っ払いの頸動脈に食込んでいた。
仲間の酔っ払い二人が加勢しようとした時、
萌木色のローブを羽織った男が目にも止まらぬ速さで二人を投げ飛ばした。
そしてダガ-を突きつけられた酔っ払いもマラカイト・グリ-ンのローブの
男に弧を描くように叩き飛ばされ、三人は捨て台詞を言う事すらできないまま、
人集りの向こうへと不恰好に逃げて行くはめになった。
ヴェルジェは早まる鼓動に片手を胸にあて、
助けてくれた男の顔を見た。
口髭を生やせ、額には太いサ-クッレトを嵌めている。
男の顔は暗くてあまり人相は判らないが悪い人でないのを肌で感じた。
「・・ありがとうございました」
ヴェルジェは男の目を見ながら礼を言った。
「で、探してるって、俺みたいな救世主?それともどこかの王子様?」
男はさっきの酔っ払いに持たれ、赤くなったヴェルジェの手を、
自分の両手で擦りながら、くったくのない笑顔で言った。
「いえ、十歳の・・男の子です。その子とはぐれてしまい、知人にベベド-ルの店の名を聞いていたので・・・
もしかしたらここにいるかと思い、立ち入ったのですが・・先程の人達に連れ出されてしまって・・」
「子供一人でこの店ってのもどうかと思うけど、レディ1人でってのはかなり無謀だと思うぞ。
娼婦と間違われてもそりゃ仕方ないさ。この店はこの港付近で一番大きな酒場で、
唯一オ-ルナイトの店だ。いろんな奴が集まる場所だからな」
男はヴェルジェを安心させるように彼女の頬を撫でながら言った。
「そうみたいですね」
ヴェルジェはそう言いながら、慣れ慣れしい仕種をする男の手から自分の手を引いた。
「あら?・・俺、人相悪い?この髭がやっぱいけてないか?」
男は自分の顎に手をやるとその髭を撫でた。
「いえ」
ヴェルジェは微かな苦笑いをして見せた。
「俺、レックス・レオン・レイ。何で呼んでくれてもいいが、美人にはレックスって呼んで
もらいたいな。ああ、それからこいつはシュヴァ-リエ・クローサー」
後ろにいる男を指さした。
ヴェルジェは後ろの男を見た。
その男も暗くてあまり判らなかったが片方しか見えない瞳が蒼いのは判った。
「ありがとうございました」
ヴェルジェの言葉に、シュヴァ-リエは無表情なまま軽く会釈した。
無愛想な仕種に、ヴェルジェは思わず目を反らせてしまった。
何故か、その男の顔は凝視できなかった。無表情さに、ギョッとする。
まぁ、それでもこの二人が相当腕が達ちそうだと言うのは、
男に面識のないヴェルジェとて、先ほどの行いと
ローブに隠された体付きで充分伺えた。
「私はヴェルジェ・ファタリ-タと申します」
ヴェルジェはわざとかしこまってみせた。
「ふぅ~ん。宿命の聖母か・・通りで魅かれるはずだ。胸がこう締め付けられる様な・・
だが敬語は良くないな。気軽にタメで話してくれ」
レックスの命令口調も笑顔と共に言われると、
そう嫌な気もしなかった。
「貴方の名も、王に値する名ばかりね」
ヴェルジェの言葉使いに、レックスはよしよしと頷き、ニッと笑い、
「あぁ、親が兎に角、大袈裟好きで」
と、大袈裟なジェスチャーつきで言った。
それから二人は心よく、ア-ロンを探すのを手伝うと言った。
尤もシュヴァ-リエは無言のままだったが。
「あの・・最初にこれだけは言っておきますが、馴れ馴れしくするのは、困ります・・」
ヴェルジェはレックスにそれだけは伝えたかった。
「はい。はい。了解!」
レックスはまた、大袈裟に敬礼のポーズをとりながら言った。
『カオス4』へ・・・・To be continued
このお話は私が作成したものなので、勝手に他へ流したり、使用するのは絶対止めてね。
★初めから読むなら1 朱鷺色の章 1
Prologue
の扉へどうぞ★
連載小説『カオス』に登場するLOVELYTOYの… October 8, 2006
『カオス46』 9琥珀の章(葛藤)2 September 9, 2006
『カオス45』 9琥珀の章(葛藤)1 September 9, 2006
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