三人がベベド-ルの酒場に入ると、酒の匂いと煙草の煙、
雑音に掻き消されない程賑やかな酒歌で溢れていた。
踊り場では艶やかな衣装を纏った踊り子がギターの演奏に合わせ、
タンブでリズムを叩きながら縦横無尽に舞っている。
ヴェルジェ達がアーロンの事を何人かに聞いてみると、それらしき子供が夕暮れ時、
うろついていたことが判ったが、それ以上のことは判らなかった。
ヴェルジェが途方にくれた顔をしていると、先程レックスが話かけた女の定員がやってきた。
「ガキの事、知ってるって言う人がいたよ。けどね、ただじゃ言えないよ」
女は品定めの目をしんがら、順に三人を見た。
「なんだ?・・金か?」レックスが平然と聞いた。
「そうねぇ~。お兄さんの身体ってのはどうかしら?」
女は誘惑するようにレックスにふくよかな胸の谷間を覗かせるた。
そして彼の顎髯を撫でまわしながら首元に手を回し、ヴェルジェの方をチラッと挑発的な目で見た。何とも嫌な気分だ。
ヴェルジェはあからさまにムッとした顔を見せた。
「まことに残念だが急いでるんでねェ」
レックスは女の手を慣れた手つきでそっと離した。
「そう・・残念だわ。じゃぁ、お兄さんの額のサ-クレットか・・・そうね、その女のローブで手をうとうか?」
女はまたヴェルジェを横目で見た。
「ではこれを・・」
ヴェルジェはすかさず羽織っていたローブを外し、女に差し出した。
「まぁ仕方ないねぇ。一番がお兄さんの身体で、二番がサ-クレット、これは三番目だったんだけどぉ・・」
そんな嫌みを言いながらヴェルジェの手からそれを受け取った。
そしてまたレックスの首に手を回し彼の耳元で内緒話をすると、レックスの頬にチュッと音をたててキスをし、踵を反すと、腰に手をやりながらお尻をふりふり接客に戻った。
その女定員にヴェルジェが不貞腐れた表情をした。
「その顔、ジェラシ-?光栄だな。俺はああいうの興味ないから安心してくれ」
レックスが手を左右に振りながら言った。
「違います・・まったくもう!あのローブが三番目だなんて許せないわ。とっても大切な物だったのに!!」
「最初からそれが目当てだったんだよ。ヴェルジェのローブ、ここいらでは珍しい綺麗な色だったからな」
レックスの言葉に、まんまと女の思惑とおり、大切なローブを差し出してしまった事を知り、さらにムッとした。
その表情にレックスがケラケラと笑った。ヴェルジェはキッとレックスを睨んでかえすと、悔しさを誤魔化すように
「で、情報はなんて?」
と、気を取り直すかのように聞いた。
「あぁ、入り口の隅で飲んでる祖父さんが、夕方からずっといたらしいから聞けば判るってさ」
レックスの言葉にヴェルジェは一人でさっさと老人の方に向かった。
「おい、待てよ」
レックスが後を追おうとすると、シュヴァ-リエがレックスの肩を持ち、ハンカチを彼の頬に突き出した。
その時、レックスは初めて自分の頬に真赤な口紅のキスマ-クがついていたことを知った
『早く言えよ』とシュヴァ-リエに言いながら、慌てて拭いとると、老人に話しかけるヴェルジェの方に急いで駆け寄った。
「おお、知っとるぞい。その小僧なら二人連れの男とここを出てったぞい。なんでも男らは仲間を知っとると言っとたかな?」
老人の言葉に、ベルジェの表情が強ばった。
「仲間?・・アーロン・・あの・・その子は・・・その・・帽子を脱いだんですか?」
少し小声で言った。老人がヴェルジェの不安げな顔を見る。
「・・いんや、そいつらとちょうどそこで小僧がぶつかってな。その拍子に小僧の帽子が落ちたんじゃよ。
それだからそう・・わしも見たぞい。・・・長生きするもんだでな・・・驚いたぞい・・まったく・・」
老人は自分の頭を触った。
「・・そう・・ですか」
俯き不安げな表情をするヴェルジェに、老人は話を続けた。
「んでな~、その窓から見える方に行きよった。あ~・・わしが思うに、北じゃなぁ」
ヴェルジェは老人に丁寧に礼を言うと酒場を後にした。
「・・・・仲間なんて・・いるはずないのに」
ヴェルジェの独言にレックスは首を傾げた。
「仲間って?・・小僧の頭がどうかしたのか?」
ヴェルジェは少し溜めらい考えた。
「何でも言ってくれ。力になるから」
レックスの言葉に、躊躇しながらも話始めた。
「彼は・・・クレセント一族の末裔なの・・」
「クレセント一族?って・・あの?・・まじなのか?本当にいるのか?」
レックスはとても驚いた表情をした。
「いやな予感がする・・あの子を早く探さないと・・・」
老人の言った北方向に歩き始めたヴェルジェは、身を竦め寒さに震えた。
レックスはすかさず自分のマラカイト・グリ-ンのローブを羽織らせた。
それをヴェルジェは申し訳なさそうにためらった。
「同じのがまだあるんだ。ペア見たいで俺は嬉しいね」
レックスはご機嫌顔で、自分の馬の荷からもう一枚ローブを出した。
旧世紀の人々は恐ろしい文明社会を作っていた。
サイボ-グ等は勿論の事、遺伝子を組み替え、神の領域を遙かに超え、架空の産物を生み出した。
人の姿に至っては強豪な戦士達、彼らは製作者の都合のいい様にマスターの支持にしか反応せず、命令も受けない頭脳に調整された。
他は人魚や妖精、吸血鬼や狼男等、動物に至ってはユニコ-ンやケンタウロス、フェニックス、その他、数多くの種類を産みだし、人としての人権も与えられず見世物のように扱われ、その多くは研究材料として使われた。
そのような一族をジェネティカ族と言うが、それぞれの能力的なものは然程無かった。
生出した人間が力を持たせるのを恐れたからだろう。ヴェルジェが連れているシュシュも、
実はその時の産物で、リス、兎、ハムスタ-、犬、それに狐の可愛い部分ばかりを取り合わせて産まれたミニチュア愛玩動物だ。
ハムスタ-の血が入っていたせいなのか、今は野性化し、自然と繁殖してこの星では今でも、そう珍しくもないペットだった。
しかしそのジェネティカ族の一族として生出された鬼人、クレセント一族は偶然にもそのシンボルで頭上にある三日月形の角から、破壊力のある電撃を発すことが出来た。
それがジェネティカ一族の逆襲となり、魔の研究所を破壊したと言うが、その場から逃げのびた一族は僅かに過ぎないだろう。
そして旧世紀の人々がこの星を捨て、宇宙に出るまで一族は息を潜めた。
ディ-オの怒りの大地震から逃げ延びた一族はそのまた一部で、あれから千年余りの月日が流れている。
今存在するジェネティカ一族は、殆どがその末裔にあたる為、悪徳な者にはかなり希少価値が高い存在なのだ。
現在のカオス・ティエ-ラの人々にとっては、それこそまことの伝説の存在になっていた。
「ごめんなさい。付き合わせてしまって・・」
北へと進むヴェルジェは、ずっと付き合ってくれているレックスに申し訳なさそうに言った。
独りきりでも乗り切れるよう、いろんな事をルイから学んだと言うのに、何故か心細く、
『独りで大丈夫です』とは言えなかったのだ。
「いいよ。まったく気にしないでくれ!俺は楽しんでるから」
レックスは安心させるような微笑と共に、馬上から手を伸ばし、
ペガーズに跨るヴェルジェの頭を撫でた。
馴れ馴れしいのは嫌と、最初に言ったヴェルジェの言葉など、もう記憶に留めていな
いようだ。
それにしてもそうとう女性の扱いに手慣れているのだろうが、
ヴェルジェはその手慣れた仕種に、戸惑いを隠せなかった。
幼馴染のリュクスでさえ、手を繋いだこともないというのに。
馴れ馴れしさというより、まったく手馴れているのだ。
賑わいから外れたところの宿屋に、呼び込み店員がいたので、聞いてみるとア-ロンらしき子供を見たと言う。
「ああ、ぐったり倒れこんだまま馬に乗せてったからさ、落ちやしないかと思って見てたんだよ。人相の良くない二人連れだったからねぇ。
この先はずっと一本道で山越えの道だから家なんて数少ない筈だし、あの様子じゃそう遠くには行けないだろうよ」
レックスは宿屋の店員にペガ-ズを預けさせると、ヴェルジェを自分の馬に乗せ、
彼女を包みこむように自分も馬に股がり、不安がるヴェルジェをなだめるように引き寄せた。
ヴェルジェが『馴れ馴れしくしないで!って、言ってるじゃない!』と、言おうとした時、
ヴェルジェのローブの胸元からシュシュが顔を覗かせ、レックスの指をガブリと噛みつくという挨拶をした。
「とんだナイトがいたもんだ」
「シュシュって言うの。男の子よ。私の仲いい友達なの。気をつけてね。この子のナイトは抜群だから・・」
「ふぅ~ん、宜しくな、シュシュ」
レックスのその言葉に、シュシュはプイッとそっぽ向いた。
それでもヴェルジェは、強引なレックスの行為に戸惑いながらも、不安な想いが紛れるのは事実だった。
言われた通り一本道を進むと、馬小屋にそれらしき馬を止めた小さな荒れた小屋があった。
皆は手前で馬を降りると、抜き足でそっと小屋の窓を覗いて見た。
すると二人の男が酒をあおりながら食事をしていた。
目を凝らすと、飲食物で散らかったテ-ブルの上にア-ロンの尖り帽子が置いてあるのが判った。
が、ア-ロンの姿はなかった。ヴェルジェ達はいったんその場を離れた。
『カオス5』へ・・・・To be continued
このお話は私が作成したものなので、勝手に他へ流したり、使用するのは絶対止めてね。
★初めから読むなら1 朱鷺色の章 1
Prologue
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連載小説『カオス』に登場するLOVELYTOYの… October 8, 2006
『カオス46』 9琥珀の章(葛藤)2 September 9, 2006
『カオス45』 9琥珀の章(葛藤)1 September 9, 2006
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