「先輩、今日はダメでした」
営業所に戻ってきた新人が、日報を見ながらため息をついた。
秋雄は自分の片付けをしながら聞いた。
「いくらだった?」
新人が今日の売上を答える。
「なるほど」
「やっぱりダメですよね」
「いや。まだ分からん」
「え?」
秋雄は新人の日報を指さした。
「何件乗せた?」
「件数ですか?」
「そう」
新人は日報を上から数え始めた。
「一、二、三……」
「先輩、売上聞いたじゃないですか」
「聞いたよ」
「じゃあ、だいたい分かるでしょう?」
秋雄は首を振った。
「売上だけじゃ、その日の営業が良かったか悪かったか分からないんだよ」
「でも、給料は売上で決まりますよね?」
「決まる」
「だったら売上が低ければ、ダメな日じゃないですか」
「会社から見ればな」
新人が少し困った顔をした。
「自分から見たら違うんですか?」
「違う」
秋雄は新人の日報をもう一度見た。
「売上が低くても、悪くない営業をした日はある」
「逆に売上が高くても、あんまり参考にならない日もある」
「売上が高いのに?」
「たまたま長いのを一本引いたとか」
「ああ……」
「配車が一日中つながって、配車係に使われるまま走ってたら売上ができたとか」
「それ、いい日じゃないんですか?」
「いい日だよ。売上的にはな」
「じゃあ、何がダメなんです?」
「ダメとは言ってない」
秋雄は笑った。
「明日も同じことができるかって話だよ」
新人が黙った。
「たまたま引いた長い仕事を、明日も引く方法なんてないだろ?」
「……ないですね」
「配車だって、明日も同じだけ入るとは限らない」
「はい」
「だから日報を見る時は、売上の数字だけ見て一喜一憂しない」
秋雄は日報の一か所を指でなぞった。
「どこで乗せて、どこで降ろしたか」
その次を指した。
「降ろしてから、次のお客さんまで何をしてたか」
さらにその次。
「それがどうつながって、一日の売上になったか」
新人も日報をのぞき込んだ。
「そんなところまで見るんですか?」
「見る」
「日報は売上表じゃないからな」
「じゃあ、何なんです?」
秋雄は答えず、新人に日報を返した。
「まず自分で見てみろ」
「何をです?」
「今日、お前がどうやって仕事してたのか」
新人はもう一度、自分の日報を開いた。
さっきまで一番下の売上金額しか見ていなかった紙に、乗車時刻と降車時刻が並んでいる。
同じ一日の記録なのに、少し違って見えた。
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