『先輩、そのルートで合ってますか?』

『先輩、そのルートで合ってますか?』

2026年08月10日
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「先輩、今日はダメでした」

営業所に戻ってきた新人が、日報を見ながらため息をついた。

秋雄は自分の片付けをしながら聞いた。

「いくらだった?」

新人が今日の売上を答える。

「なるほど」

「やっぱりダメですよね」

 
 
「いや。まだ分からん」

 
 
「え?」

秋雄は新人の日報を指さした。

「何件乗せた?」

「件数ですか?」

「そう」

新人は日報を上から数え始めた。

「一、二、三……」

「先輩、売上聞いたじゃないですか」

「聞いたよ」

「じゃあ、だいたい分かるでしょう?」

 
 
秋雄は首を振った。

「売上だけじゃ、その日の営業が良かったか悪かったか分からないんだよ」

 
 
「でも、給料は売上で決まりますよね?」

「決まる」

「だったら売上が低ければ、ダメな日じゃないですか」

「会社から見ればな」

新人が少し困った顔をした。

「自分から見たら違うんですか?」

「違う」

 
 
秋雄は新人の日報をもう一度見た。

「売上が低くても、悪くない営業をした日はある」

「逆に売上が高くても、あんまり参考にならない日もある」

 
 
「売上が高いのに?」

「たまたま長いのを一本引いたとか」

「ああ……」

「配車が一日中つながって、配車係に使われるまま走ってたら売上ができたとか」

「それ、いい日じゃないんですか?」

「いい日だよ。売上的にはな」

「じゃあ、何がダメなんです?」

「ダメとは言ってない」

秋雄は笑った。

 
 
「明日も同じことができるかって話だよ」

 
 
新人が黙った。

「たまたま引いた長い仕事を、明日も引く方法なんてないだろ?」

「……ないですね」

「配車だって、明日も同じだけ入るとは限らない」

「はい」

「だから日報を見る時は、売上の数字だけ見て一喜一憂しない」

秋雄は日報の一か所を指でなぞった。

「どこで乗せて、どこで降ろしたか」

その次を指した。

「降ろしてから、次のお客さんまで何をしてたか」

さらにその次。

「それがどうつながって、一日の売上になったか」

新人も日報をのぞき込んだ。

「そんなところまで見るんですか?」

「見る」

 
 
「日報は売上表じゃないからな」

 
 
「じゃあ、何なんです?」

秋雄は答えず、新人に日報を返した。

「まず自分で見てみろ」

「何をです?」

「今日、お前がどうやって仕事してたのか」

 
 
新人はもう一度、自分の日報を開いた。

さっきまで一番下の売上金額しか見ていなかった紙に、乗車時刻と降車時刻が並んでいる。

 
 
同じ一日の記録なのに、少し違って見えた。

 
 
明日10:00に更新



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最終更新日  2026年08月13日 14時28分19秒
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