「先輩」
「何?」
「この連載、5話目だけ読めばいいんじゃないですか?」
秋雄が新人を見た。
「なんで?」
「だって、最後にだいたい答えが出るじゃないですか」
「まあ、出ることもあるな」
「だったら最初から5話目を読めば早いですよね」
「いいんじゃない?」
新人が少し驚いた。
「いいんですか?」
「読む順番なんて、俺が決めることじゃないだろ」
「ですよね」
「5話目だけ読んで分かるなら、それでいいよ」
新人は少し得意そうな顔をした。
「やっぱりそうですよね」
「うん」
秋雄は頷いた。
「で、明日それ使える?」
新人の顔が止まった。
「……え?」
「読んだ答え。明日、自分で使える?」
「それは……」
「今日と同じ条件なら使えるかもしれないな」
「はい」
「でも、時間が違ったら?」
「変わるかもしれません」
「曜日が違ったら?」
「それも」
「天気が違ったら?」
「……変わりますね」
「じゃあ、どうする?」
新人は黙った。
秋雄が笑った。
「答えを先に知るのが悪いって言ってるんじゃないよ」
「はい」
「俺だって、分からない漢字があったら読み方だけ教えてほしいし」
「僕もです」
「パソコンの操作が分からなかったら?」
「やり方だけ早く教えてほしいです」
「だろ?」
「はい」
「答えだけで済むこともあるんだよ」
新人は少し考えた。
「でも、この仕事は違う?」
「違うことが多いかな」
「なんでです?」
「同じ場面が、あんまりないから」
「なるほど」
「昨日うまくいったことが、今日もうまくいくとは限らない」
「はい」
「俺がうまくいったことを、お前がそのままやってうまくいくとも限らない」
新人が秋雄を見た。
「じゃあ、先輩の話を聞いても意味ないじゃないですか」
「そうなる?」
「だって、同じようにやってもダメかもしれないんでしょ?」
「同じことをするために聞くならな」
「じゃあ、何を聞くんです?」
秋雄は少し考えた。
「なんで、そうしたのか」
新人が黙った。
「どこへ行ったかじゃなくて、なんでそこへ行ったのか」
「はい」
「待ったか、動いたかじゃなくて、なんでそう決めたのか」
「はい」
「それなら条件が変わっても、自分で考える材料にはなるだろ?」
新人は頷いた。
「なるほど」
「だから5話目だけ読んで、そこまで分かるなら」
「分かるなら?」
「俺は何も言わないよ」
新人が苦笑した。
「なんか言い方がずるいなあ」
「そう?」
「最初から読めって言われた方が、まだ素直に読めますよ」
「じゃあ、最初から読め」
「急に言うんですか」
二人で笑った。
答えだけ知りたい時はある。
読み方の分からない漢字。
パソコンの計算式。
スマートフォンの操作。
そんな時まで、
最初から全部勉強し直す必要はない。
でも、
判断の仕方まで知りたいなら、
最後に出てきた答えだけでは足りないことがある。
何を見たのか。
何を考えたのか。
どこで迷ったのか。
なぜ、その答えになったのか。
たぶん、
持って帰ってほしいのは、
そちらの方だ。
だから、
5話目から読んでも構わない。
ただし。
途中に何か落ちていても、
こちらは拾って届けませんので。
番外編 おわり
第16章 お客様に道を聞くのは、プロ失格… 2026年09月25日
第16章 お客様に道を聞くのは、プロ失格… 2026年09月24日
第16章 お客様に道を聞くのは、プロ失格… 2026年09月23日