「先輩、その釣銭入れ、何ですか?」
新人が秋雄の手元を見ながら言った。
「これ?」
「そうです。普通のケースじゃないですよね」
「釣銭バッグ」
「そんなのあるんですね」
「タクシー用で売ってるよ」
新人が少し覗き込んだ。
「中、分かれてるんですね」
「コインを種類ごとに入れられる」
「なるほど。会計の時、探さなくて済む」
「そういうこと」
新人はバッグを眺めた。
「でもこれ、釣銭入れには見えませんね」
「そこがいいんだよ」
「車内に置いてあっても、普通のバッグみたいですね」
「車内になじむし、ぱっと見じゃ何が入ってるか分かりにくい」
新人は今度は外側のポケットを指した。
「このポケットも使ってるんですか?」
「使ってる」
「何に?」
「タクシーチケット」
「そこに入れるんですか?」
「受け取ったら、ひとまずここに差しておける」
「あ、それ便利ですね」
「毎日使う物って、こういうちょっとしたところが大事なんだよ」
新人はもう一度バッグを見た。
「これ、どこで買ったんです?」
「楽天にあるよ。アドレス送ったから」
新人がスマホを取り出した。
「あ、来た」
画面を開く。
「これですね」
「それ」
しばらくして。
「……買いました」
秋雄が新人を見た。
「早いな」
「こういう判断は早いんです」
「営業でもその判断力を使えよ」
「それはまた別の話です」
今回、先輩の道具箱から出てきたのはこちら。
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