シロクマの実家

シロクマの実家

2020.05.09
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カテゴリ: 無印CARRIES
​​​​視界いっぱいに広がるのは灼熱の炎。
爆音、轟音、人々の悲鳴。
砂と火薬と血の匂い。

悪夢の様だ。
ここは戦場だ。

しゃくりあげながらその少年は、炎の地獄の中をトボトボと歩く。
15歳くらいの、幼さが残る少年。
彼の頭上には黄色い球体の揺れる触角があった。

「大丈夫か?」

ボサボサの黒髪をなびかせている男は、オレンジ色のジャケットとズボンを着こなしていた。

「君、戦争は怖いか?」
男の問いに少年は頷いた。

「そうか」
男は少年の服を見た。

「国家戦士か」
少年は国家戦士の白い制服を着ていた。

「国家戦士は楽しいか?」
少年は首を振った。
とても、辛そうだ。
絶望しきった顔だった。


男は微笑んだ。

「え…?」
「仕事は楽しくなきゃな。吾輩は楽しいよ。この仕事は、吾輩の生きがいだ」
「生きがい…?」
「そうさ、それに吾輩には夢がある」


「吾輩の夢は、世界中のお客様全員を笑顔にする事だ」
そう言うと、男は膝をついて少年の目線に合わせた。

「吾輩の名はランティーゴ。君は?」
「吾輩は…」
少年はつぶやいた。

「吾輩は、ボス・ゼノコード」

​​​​第1運送…ようこそCARRIESへ​​​

・・・

それから3年の月日が経って―

・・・

環境破壊によって砂漠化した世界、広大な砂漠には進化を遂げて凶暴化した砂漠獣がはびこる。
砂漠地帯では法は存在しない。
国は一つ一つが城壁を作り、この無秩序な世界から身を守り、孤立しつつある。
さて、そんな砂漠地帯のど真ん中にキャリア帝国はある。

遠くから見ても目立つのは、中央に建つキャリアキャッスルである。
鉛筆のような塔が何本もまとまったような形状をしており、その周囲を囲むように円形の城壁がいくつも建てられている。
城壁の外側にはトンネルが無数に開いており、そこから道路が葉脈のように枝分かれして伸びている。
ここからトラックなどの車両が走り出て世界中に走り出すのである。
トンネルは帝国の出入り口でもある。可能性を信じる人々が砂漠の危険を生き抜いてまでここまで辿り着き、このトンネルをくぐるのだ。
この帝国で成功を治め、富と名誉を築く人間は多く、

いつしかキャリア帝国は“夢と可能性の国”とも呼ばれるようになったのだ。

トンネルをくぐると、美しい街並みが見えて来た。
帝国にはオレンジ色の屋根の家々が建ち並んでおり、それに入り混じって商店も多く存在する。
食品、衣服、武具、玩具…色々な物がここで売られ、とても活気に溢れている。
面白いのは、その街並みの見える国内は、中央のキャリアキャッスルに向かってすり鉢のように緩やかに斜めになっている事だ。
中央へ向かえば向かうほど商店も多くなり、人々の賑わいも増していくので、人々は中央へと自然に向かっていく。
この流れが非常に緩やかな事から、キャリア帝国の商店街をJC(ジェットコースターの略)ショッピングストリート、通称“Jスト”と人々は呼んでいる。

さて、町の中には、オレンジ色の旗がたなびいている。
旗には白の円形にCARRIESのロゴが描かれている。CARRIESの旗だ。
あの旗がある場所には、CARRIESのギルド、キャリーギルドがある。
何かものを届けたい、国を移動したいという人々が、このキャリーギルドへと訪れる。

・・・

「ここがキャリア帝国名物のJストかぁ」
薄汚れたマントを羽織る青年、ボス・ゼノコードは、オレンジ色に輝く街並みを見下ろしながら、負けないぐらいに目を輝かせている。
頭上で揺れる触角が日光に反射して光っている。

「ランティーゴ…待たせてごめん!!吾輩は一流のキャリナーになって、お客様の希望になる!!」
そう言って、ゼノコードはJストの坂道を走り出した。
つまずいて、転びそうになる。

「うおっ!?危ない!!」
「ここで転んだら一気に転がり落ちちまうぞ!!」
近くにいた人々が声を上げた。
が―ゼノコードは消えていた。

「え?」
ぶわあっ!!と、
凄まじい風圧が巻き起こる。

「OK!!HERE!!WE!!GO!!」
ゼノコードは両足から竜巻を噴射し、風圧に乗って飛んでいた。

「待っててねランティーゴ!!目指すはエターナル・キャリーギルドォーッ!!」
ゼノコードは楽しそうに叫びながら空を滑空していった。

「…エターナル・キャリーギルド?」
人々は、表情を曇らせた。

・・・

「迷った…」
Jストのど真ん中でゼノコードは腕を組んでいる。

「見てお母さん!!あのお兄ちゃん頭に風船付けてる!!」
「しっ!!見ちゃ駄目!!」
周囲の人々はゼノコードの頭上の触角を奇異の目で見ているが、ゼノコードは特に気にもしていない。

「うーん…ランティーゴがいるぐらいだから、かなり賑わった場所にギルドはあると思うんだけどねえ」
ふと、帝国中央にあるキャリアキャッスルを見た。

「そっか!!キャリアキャッスルにはCARRIESの本社がある!!あそこで聞けばいいんじゃないか!!」
喜び勇んでキャリアキャッスルへと走る。
ゼノコードが走る度に、Jストの商店が風圧で大きく揺れる。

「何なんだあの男…」
人々は風圧に飛ばされないようにしながら、ゼノコードを見つめる。

「ありゃあ 命力(グレット) だよな?」
「ああ。だが、あそこまで強烈な命力、初めて見たわい」

・・・

CARRIES本社は、キャリアキャッスルの真横に建てられている。
伝説のキャリナーと呼ばれたランティーゴが、キャリア帝国皇帝の聖キャリーアンドリュー四世に認められ、キャリアキャッスルの近くに本社を起ち上げる事を許されたのだ。

「ランティーゴのおかげでCARRIESはこんなにでかい会社になったんだ!!すごいなあ!!」
ゼノコードは嬉しそうにCARRIES本社を見上げている。
巨大な長方形のビルを、4つの四角形のビルが四方を支えているような形状だ。
また見事なオレンジ色のビルである。てっぺんにはCARRIESのロゴがペイントされている。

自動ドアをくぐり、清潔感溢れるロビーを歩き進むと、奥に円形のエントランスがある。
そこに、青い髪を持つ美しい女性が座っている。
眼鏡越しに透き通った青い瞳がある、知的な雰囲気を放つ美女だ。
その女性はゼノコードを見るなり、彼の頭上の触角をギョッとしながら凝視した。
その後、怪訝そうに眼鏡を整えながら、

「何か御用でしょうか?」
そう聞いた。

「吾輩はCARRIESでキャリナーをやりたくてこの国にやってきました!!ボス・ゼノコードッス!!」
元気の良い声に、女性はキョトンとしている。

「吾輩は運送をやりたくて!!で!!このキャリア帝国に憧れているキャリナーがいて!!だから会いに来たんス!!一緒に仕事がしたくて!!本社にまで来れるなんて感激ッスよマジで!!にひひひひひ!!」
「あの」
女性はゼノコードの早口を、少しだけ語気を強めて制した。

「ふぇ?」
「…」
女性はため息をつくと、チラリと右横に目線を向けた。

「…?」
ゼノコードも視線を向けると、カウンター型のデスクで何かの用紙に一心不乱に記入をしている人々が大勢いた。

「入職したいのなら、あちらで入職希望届を記入してください。案内されたデスクに提出したら、結果に応じて筆記試験と軽い面接を受けていただきます。合否の結果は後日メールにて送らせていただきますので、ケースライドでも構いませんので入職希望用紙にスライドナンバーを記入してください」
女性は淡々とした口調でそれだけ説明すると、ゼノコードの後ろを覗くように身体を傾けた。
振り向くと、ゼノコードの後ろには大勢の人間が並んでいる。
スーツを着ていたり、高価そうな衣服を着た人間ばかりだ。

「質問は以上でしょうか?」
女性がそう言うと、ゼノコードは笑顔で女性にこう言った。

「キミ、名前は?」
「は…」
女性は驚いた顔を浮かべた。
受付を淡々とこなすだけだった自分にとって、名を聞かれるなんて初めてだったからだ。

「色々教えてくれてありがとう!!名前を教えて欲しいッス!!」
「…ルーナティアです」
「OK!覚えておきます!!」
ゼノコードは元気よくそう言うと、

「待たせてすいませんした!!」
後ろに並ぶ人々に向かって深く頭を下げると、元気よくデスクの方へ走って行った。

「変わった人」
ルーナティアは戸惑いながら眼鏡を整える。

「誰かに似てるわ…あ」
思い出したようにルーナティアは声を漏らした。

「ランティーゴさんに似てる。あの妙な元気さ、そっくりだわ」
「あのぉ…」
次に並んでいた客が話しかけてきたので、

「あ、し、失礼いたしました」
ルーナティアは慌てて微笑んだ。

・・・

入職希望届に目を通すのは、CARRIESの社長、ゲンスイ・ナメーバリアである。

「コイツは歳を取り過ぎちゃってるね。不採用。次は…一流大学卒業の若手…インテリ上がりは体力がないからダメ。不採用。次は…ほぉ、元殺し屋?この人は戦い慣れしているっぽいな。はい書類審査通過」
ペラペラと書類に目を通しながらゲンスイは独り言をつぶやいている。

「ルーナティアちゃん、採用した連中の筆記試験と面接試験の準備を進めといてちょんまげ」
ケースライドでゲンスイはルーナティアに指示を出した。

【了解しました】
「さて次は…んぅ?」
ゲンスイの目が止まった。

「ボス・ゼノコード…どこかで聞いた事があるねえ」
ゲンスイは少しの間考え込み、

「あ」
思い出した。
以前ランティーゴが気にかけていた若造の名前だ。

「ルーナティア、彼を私の所へ通してちょ」
【は…わかりました】

・・・

「ちょおま!?何でシャッチョさんの部屋に!?」
ゼノコードはうろたえながらルーナティアにそう聞いた。

「わかりません。私も知りたいくらいです。来て早々何かやらかしたのですか?」
ルーナティアも困った顔を浮かべている。

「知らないっすよお~」
「しかし、社長が貴方と直接話をしたいそうなので、中へお入りください」
「ええ…」
ゼノコードは渋い顔で社長室のドアを見つめる。
木目のドアには花々の彫刻は施されており、金属製のドアノブにはCARRIESのロゴが彫られている。
恐る恐るドアノブに手を伸ばすと、スッとドアは真横にスライドした。

「ちょ、まさかの自動ドア!?」
「入り給へ」
中から声がした。中に入ると、

「ちょおま!!」
ゼノコードは仰天した。
社長室の高価そうなデスクと高価そうな椅子の前にいたのは、灰色のぬめぬめした皮膚を持った巨大な物体だった。
その物体には長いナマズの髭みたいな触角が二本あり、ギザギザした口に、黄色く光る二つの目がある。
それだけの特徴だが、インパクトは絶大である。

「ナメクジの化け物!!」
ゼノコードが思わずそう言うと、

「なっ…無礼ですよ!!社長に向かって何という口の利き方!!」
ルーナティアが慌てて叫んだ。

「シャッチョさん!?コイツが!?あ、ご、ごめんなさい」
「いいよ。言われ慣れてるから」
ゲンスイはじゅるっと音を立てながら身をくねらせ、ゼノコードに顔を近づけた。

「でも初対面の人に向かって化け物呼ばわりするだなんて礼儀知らずなのか、無限の胆力があるのか、ただの馬鹿なのか」
「た、ただの馬鹿でいいッス(ナメクジは認めるんだ…)」
ゼノコードは顔を引きつらせながら苦笑した。

「私がCARRIESのシャッチョさん、ゲンスイ・ナメーバリアだ。一番偉いんで、よろしこ」
「よ、よろしくお願いしまッス!!ボス・ゼノコードっす!!」
ゼノコードは深く頭を下げると、触角も大きく揺れた。

「なるほどこれが例の触角だね。珍しいねこれ。頭にくっついてるの?」
ゲンスイはしげしげと触角を見ながら、思い切りそれを自身の触角で掴んで引っ張った。

「あんぎゃあああああああああああ!!」
ゼノコードは悲鳴を上げた。

「なななな何するんスかああああ!!いってーなあ!!」
「くっついているようだね。あっひょ、面白い」
ゲンスイは触角を離しながら笑った。

「チミ、それ何なの?」
「癖っ毛みたいなもんスよ。吾輩にもよくわかんないんスよ。邪魔でしょうがないや」
「癖っ毛!?邪魔なのですか!?」
ルーナティアが困惑気味に言う。

「どう見ても触角でしょうが。君面白いねえ」
ゲンスイが笑いながら言うと、

「シャッチョさんも触角あるじゃないスか」
ゼノコードも笑いながらゲンスイの髭を指さしてそう返した。

「ちょっと!!」
ルーナティアが慌てふためいて叫ぶと、

「ハッ!!すいません!!」
ゼノコードが我に返って謝った。
ゲンスイはウネウネと触角を動かしている。

「こりゃ一本取られたね。でも私のこれこそ癖っ毛みたいなもんだから」
「そ、そうなんスか!?(どう見ても触角じゃね!?)」
ゼノコードは動揺を隠せない。

「さて、 ゼノギガス君 と言ったね」
「ぜ、ゼノコードっす」
「君さ、何で我が社に入りたいと思ったわけ?」
ゲンスイが身を乗り出してそう聞いた。

「…」
ゼノコードはうつむいて、グッと力を込めて顔を上げた。

「ランティーゴと仕事がしたいんス」
ランティーゴ。その名前を聞いた途端、ルーナティアは顔を曇らせた。

「吾輩は、あの人に憧れたから、キャリナーをしたいと思ったんス」
「…」
ゲンスイは背もたれにもたれかかる。

「ランティーゴは伝説のキャリナーなんスよね!?ここにいるんスか!?早く会いたいんスよ!!吾輩、吾輩…」
「まあまあ」
ゲンスイはゼノコードをなだめるように触角で軽く肩を叩いた。

「いやいやいやいや!!何今の!!やっぱ触角っすよね!?癖っ毛で肩ポンされたよ!?見たでしょルーナティア― ちょおま!!何で見て見ぬふりしてるの!?暗黙の了解的なヤツなん!?」
ゼノコードがルーナティアに向かって仰天する中、ゲンスイは書類を整理しながら話し出した。

「彼が所属しているのはチーム・エターナルだ。確かエターナルのキャリーギルドは、Jストの外、最縁街にあったはずだ。っと、書類があった。よしルーナティア、ここまで案内してやりなさい」
ゲンスイはルーナティアに書類を手渡した。

「…わかりました」
「え?え?」
ゼノコードはキョロキョロとゲンスイとルーナティアを見る。

「筆記試験は?面接は?」
「必要無いよ」
ゲンスイはニンマリ笑った。

「筆記と面接は省略だ」
「!!!!」
ゼノコードの顔が太陽みたいに晴れやかになった。

「ありがとうございます!!頑張ります!!」

・・・

社長室をゼノコードが去った後、

「試験も何も必要ない」
ゲンスイはため息をついた。

「だけども、合格とも言ってはいない。現実を見て、絶望して辞めるならそれも人生。ランティーゴに憧れを抱いたならば尚更。ランティーゴ、お前は本当に罪な男だね…」
入職希望届を見ながらゲンスイは椅子の背もたれに身を預けた。

「どうせ辞める。だから採用印は押さないよ。悪いねゼノグロス君」

・・・

「へっくち!!」
ゼノコードはくしゃみをした。

「やめてください!」
ルーナティアが嫌そうな顔で睨む。

「車が汚れます!」
「す、すいません」
キャリア帝国ではジェットカーと言う、空中に浮遊する車両が多く走っている。
これはキャリア帝国の地盤に特殊な磁気を放つ石が使用されており、その磁力を利用しているからだ。
当然帝国の外では使用できない。
ゼノコードはルーナティアの運転するジェットカーの助手席に座り、外を楽しそうに眺めている。

「すげえなあ!ジェットカーなんて初めて乗ったッスよ!!」
「そうですか」
ルーナティアは冷めた顔で前を向いて運転をしている。

「ランティーゴ、元気にしてるかなあ!にひひひひ!!楽しみッス!!」
「…」
ルーナティアは悲しそうな顔を浮かべた。

「到着しました」
「へ?ここ?」
ジェットカーが停車する。
ゼノコードはルーナティアを見つめた。

「Jストを抜けて殺風景な広場に出ただけだけど?」
「ここです」
ゼノコードはジェットカーから降りた。
そこには砂煙の立つ広場がある。
奥の方に、プレハブでできた小屋みたいな建物が見えるくらいだ。
目を細めながらゼノコードはルーナティアに向き直った。

「やっぱここじゃなくない?」
「ここです。あそこに見える建物が、エターナルのキャリーギルドです」
「…」
ゼノコードは指差された先にあるプレハブの小屋を見た。

「いやいや、やっぱ違うって。大体、キャリーギルドならCARRIESの旗があるはずだろ?」
「いやぁ、また旗が落ちちまいやしたぁ」
痩せこけた中年の男がプレハブ小屋の屋根に上ってCARRIESの旗を縛り付けている。

「これでよし!!立派なキャリーギルドですぁ!!」
嬉しそうに笑う中年男性が、引きつった顔のゼノコードに気付いた。

「あ…」
目を丸くさせ、ワナワナと震え、屋根から落下した。

「あ!!」
ゼノコードが声を上げるのと、中年男性が駆け抜けてくるのは同じタイミングで会った。

「客ですぁあああああああ!!」
男は号泣していた。

「ぎええええ!!」
悲鳴を上げるゼノコードに飛びつくと、男は泣きながら何度も頭を下げた。

「ありがとうございますぁあ!!まともなお客様なんて2年ぶりですぁあ!!」
「いや、その、ちょっと待っ」
「では失礼」
ルーナティアがジェットカーを走らせてその場を去って行く。

「ちょおまーっ!!どういう事なんスか!?ねえ?ここがエターナルのキャリーギルドなの!?ちょっとー!?置いてかないでー!!」
「嬉しいなあ!!何を運びます?それともお客さんを運べばいいですかぃ?」
中年男性はボサボサの赤茶色の髪を持ち、ひょろひょろの身体に白のTシャツにオレンジのズボンといった服装だった。
腰にはCARRIESのロゴが刺繍されたエプロンがある。
キャリナーの証でもある運送着のエプロンだ。

キャリナーだこの人。ゼノコードはそう思った。

「ちょ、ちょっと待って。吾輩は客じゃないッスよ」
「へ?」
男は固まった。そして、力なく手を離すと、うなだれた。

「客じゃあないですかぃ…」
ひどく落ち込んでいる様子だ。
相当客が来ていなかったのだろう。

「な、何かゴメンなさい」
「じゃあ、何の御用ですかぃ?」
不思議そうに男が聞く。

「…実は、吾輩キャリナーになったばかりなんスよ」
「は」
男は再び驚いた顔を浮かべた。

「で、チーム・エターナルで働きたいなあなんて思っ」
ゼノコードがそう言い終えるぐらいのタイミングで、

「後輩君て事ですかいぃっ!!」
男が再びゼノコードに抱きついて来た。

「あひい!!」
「後輩なんて初めてですあ!!ようこそチーム・エターナルへ!!歓迎しますぜい!?」
「やめろおお!!胸板にぐりぐりすなああ!!」
ゼノコードはその男の頭を力づくで引き離した。

「後輩が初めて!?アンタこのチームで一番新しいメンバーなわけ?」
のけぞる男にゼノコードが問うと、

「新しいも何も、あっしがチーム・エターナル唯一のキャリナーですぁ」
彼はそう答えた。

「はい!?」
「あっしはバラエティ・ディーキン。チーム・エターナルの主力キャリナーですぁ」
バラエティと名乗った男は、笑顔のままプレハブ小屋へと歩いて行く。

「歓迎会を開きますぁ♪嬉しいなっ♪嬉しいなっと♪」
「待ってよ!!アンタ以外キャリナーはいないの!?ら、ランティーゴは?吾輩はランティーゴがチーム・エターナルにいると思って来たのに―」
それを聞いたバラエティは電流が走るが如く、足が止まった。

「…?」
戸惑うゼノコード。バラエティは急に静かになってしまった。

「ば、バラエティさん?どったの?」
「ランティーゴなら、いやせんよ」
バラエティは静かに答えた。

「いない?何で?」
「知らないんですかぃ?」
バラエティはそのままプレハブ小屋へと再び歩き出した。

「あの人はあっしを、いや、この帝国の人々を裏切って、消えちまったんですぁ」
「へ!?」
「あの人は、キャリア帝国の恥さらしですぁ」

・・・

【伝説のキャリナー、キャリア帝国の資産を盗み、逃亡。国際指名手配されるも、未だに行方不明】
信じられない文面の記事に、ゼノコードはただただうろたえるばかりだった。

「嘘だろ…」
彼はプレハブ小屋もとい、エターナルキャリーギルドのフロントでテーブル席に座って新聞を手渡されていた。

「あっしだって信じられやせん」
バラエティはお茶の注がれたカップを手渡した。

「しかし…ランティーゴはキャリア帝国に夜中に入り、キンカや財宝を奪い、逃走した。現にカメラでもその姿が捕えられてんですぁ」
新聞には確かに、うっすらとランティーゴの姿が写っている。

「…このキャリーギルドは信頼を失い、かつていた仲間も消えて、また消えて…今ではあっしだけが残されてるってわけですぁ」
バラエティはゼノコードの向かいに座った。

「ランティーゴは、最低な男ですぁ。あっしぁ、ずっとあの人を信じてキャリナーやって来たってのに」
バラエティは泣きそうな顔だ。歯を喰いしばってうつむいている。

「…最低な男ッスか」
ゼノコードは新聞をテーブルに放り投げた。

「アンタはそれを信じたんスか?」
「!?」
バラエティはギョッとしてゼノコードを見た。

「新聞記事一つだけで、今まで信じて来た男を見限ったんスか?仲間ってのはそんなもんなんスか?」
「あ、アンタ、何が言いたいんですぁ!?」
バラエティはゼノコードの胸ぐらを両手で掴んだ。

「アンタにあっしらの気持ちがわかってたまるもんか!!」
「わからないッスね」
ゼノコードは即座に言い返した。
バラエティは大きく震えた。

「吾輩はこんな記事程度じゃあランティーゴへの尊敬の念は消えやしない。第一この人がそんな事するわけがない。…吾輩はあの人を信じる」
「!!?」
バラエティは仰天した。

「だって、あの人が吾輩の魂に火を点けてくれたから」
ゼノコードの瞳はまっすぐだった。
ランティーゴの事を心から信じているようだ。

「ま。こんなチンケなオッサンしかいないギルドに用はないや。吾輩はランティーゴを探しに旅に出るッス。お邪魔しました」
ゼノコードはお茶をくいっと飲み干した。

「美味い!!ご馳走様!!」
そう言いながら彼はギルドの外に飛び出した。

「…」
バラエティは椅子から崩れ落ち、ヘナヘナと床に座り込んだ。

・・・

「何だこのガキ、気味悪い触角揺らしやがって」
「ちょ」
ゼノコードの目の前にはガラの悪そうな男達が大勢突っ立っていた。
黒革のジャンパーに薔薇の刺繍がされた服装の男達だ。

「どけよ!!」
「あーれー」
男の一人がゼノコードを押しのけると、ギルドの前で怒鳴りだした。

「バラエティ!!まだキャリナーやってんのかよ!!」
ギルドからすぐにバラエティが飛び出して来た。

「ぼ、ボーン!!またお前さん達ですかぃ!!」
「ぼーん?」
ゼノコードが眉をひそめた。

「ま、キャリナー続けるってなら、キンカを払ってもらおうか?」
「き、キンカならこの間払ったばかりじゃないですかぃ…!!もうあっしは持っておりやせん!!」
「へへへ、言い訳なんて聞きたくねえなあ。ここらは我ら髑髏薔薇団(ドクローズ)の縄張りなんだよ。こんな汚らしいボロ小屋建てやがって。邪魔なんだよ!!」
ボーンと呼ばれた男は三人のリーダーなのか、一番体格がでかかった。

「き、汚らしいだと!?ボロ小屋だと!?」
バラエティは震えながら激怒した。

「ここはあっしのキャリーギルドですぁ!!馬鹿にしないでつかぁさい!!」
「ははー!!キャリーギルドだとよ!!」
「こんなあばら家がか!?」
「ぎゃははははは!!」
ドクローズの男達は笑いだした。

「仕事もねえくせにキャリナー名乗ってんじゃねえよ。お前みたいなヤツを、クズって言うんだよ」
ボーンはバラエティを指さしながらそう言った。

「ランティーゴに裏切られた惨めな負け犬だもんな!!」
「違いねえ!!」
男達の嘲笑を浴びながら、バラエティは唇を噛みしめている。

「大体CARRIESなんてただの運び屋だろ!?客にヘコへコ媚び売ってりゃあいい商売の癖に、でかい顔しやがって!!守銭奴集団なんだよお前らなんざ!!」
「…」
ゼノコードは眉間に皺を寄せて男達を睨んでいる。

「さっきから何だテメェ」
ボーンがゼノコードに気付く。

「え?ああいや別に」
「俺達はバラエティに用があるんだよ。触角引っこ抜くぞ!?失せろ!!」
「ちょ、やめて!!お好きにどうぞ!!」
ゼノコードは触角を押さえて逃げるように歩き出した。

「バラエティ、ランティーゴに裏切られてキャリナーだって辞めてえんだろ?だったらここから出て行けよ。お前はこの国の邪魔だ。裏切りランティーゴの仲間って言う汚名は、一生ついて回るだろうがよ!!ぎゃはははははははは!!」
男達の侮辱を聞きながらゼノコードが早足で歩き去ろうとした時だった。

「あっしだって信じたいんですぁ!!」
バラエティが震えた声で言った。

「!?」
ゼノコードは立ち止まった。

「ああ!?」
ボーンが怒気のこもった声を上げた。

「あっしだって…信じたい…あんな新聞記事だけで、ランティーゴを疑うわけがないでしょうがよ!!」
彼は目から涙を流しながら叫んでいた。

「それに、クズだと?負け犬だと!?違う…あっしは誇り高きCARRIESのキャリナーですぁ!!ランティーゴの仲間ってのは汚名じゃあない!!あっしはあの人の仲間である事を誇りに思ってますぁ…それを侮辱するヤツは絶対に許しやせん!!」
激怒するバラエティを、ボーンは殴り飛ばした。

「うげえ!!」
「クズが生意気な口を叩くな!!やっちまえ!!」
ドクローズ達は倒れたバラエティを蹴り付け始めた。

「ひい、ひいい、ひいい!!」
頭を押さえながらバラエティは悲鳴を上げている。

「この野郎!!」
「黙らせてやる!!」
滅茶苦茶に蹴られながら、バラエティは必死に耐えている。

「おい、あのボロ小屋をぶち壊せ」
ボーンが指示を出すと、男達が数名、ギルドへ歩き出した。

「やめろお!!」
バラエティが這いながらその男達を追いかけだした。

「何をされようとも…あっしはキャリナーですぁ!!ランティーゴの残したこのギルドを命を懸けてでも守り抜きますぁ!!」
「何をわけのわかんねえこと言ってんだ!!」
ボーンがバラエティの顔めがけて足を振り上げた。

「ひっ!!」
バラエティが頭を抱えた時だ。
ボーンの足を、ゼノコードが思い切り蹴り飛ばした。

「あんぎゃあああ!!」
ボーンは足を押さえてのたうち回った。

「へ?」
「何スかオッサン、ランティーゴの事をやっぱ信じてたんじゃないスか」
ゼノコードは笑いながらバラエティを見下ろした。

「見直しましたよバラエティさん。ランティーゴは仲間にも恵まれているね。こんなヒョロヒョロな身を挺してでも、ギルドを守ろうとするような人、そういない」
「あ、アンタ…」
バラエティは震えながらゼノコードを見つめた。

「吾輩にも、ギルドを守らせてください」
「テメェ…何しやがるぁあああ!!」
ドクローズ達が一斉にゼノコードに飛びかかった。

「危ない!!」
バラエティが叫んだ時だ。
男達が凄まじい竜巻によって空に舞い上がった。

「ぎゃあああああ!」
「ふええ!?」
バラエティは仰天した。

「アンタらほんとに乱暴だねぇ、一人に対して大人数で何やってんだい」
ゼノコードは右拳を真上に向けていた。

「何だあああ!?」
ボーンの手下が震えながら叫ぶと、

「あれは命力(グレット)だ!!」
ボーンが青ざめながら叫んだ。

「命力(グレット)!?」
「生きる者誰しもに宿ると言われる魂技(ソウルアーツ)の一つだ!!」
普段は眠っているだけだが、修行する事で引き出す事ができる。

炎や水を放ったり、

剣を作り出したり、

獣に変身したりできる、

魔法のような力。

それが命力、グレットだ。

世界ではこのような命力などの異能の力を魂技(ソウルアーツ)と呼び、それを扱える者を魂技使い(ソウルユーザー)と呼ぶ。

「馬鹿っぽいのによく知ってるじゃないスか。そ、これは風の命力」
ゼノコードはそう言った。彼の胸元には黄緑色に光る円形の物体があった。
あれは魂技値(ソウルゲージ)。魂技使いの生命力が具現化されたものだ。
魂技使いにとって魂技値は体力の残量であり、己の実力の高さの表示でもある。

「ああ?!」
「風の命力(グレット)。吾輩は、風を操れる。風に乗って飛ぶこともできれば、竜巻を手から放つ事ができる。こんな風にね」
そう言いながら、ゼノコードは右拳を背中まで引き下げると、左手の人差し指を男達に向けた。
照準を合わせているのだ。ゼノコードの魂技値が光り輝く。

「風・輸送」
ドン!!まるで砲弾を発射したかのような轟音。
かと思えば、ゼノコードの振り下ろした右拳から竜巻が猛スピードで発射された。
竜巻は黄緑色の光を纏い、ドクローズ達を巻き込んで吹っ飛ばした。
ドクローズ達がポカンとした顔でゼノコードを見つめていると、

「え?もうおしまい?」
ゼノコードがキョトンとしながらそう聞いた。すると、ボーンが顔を真っ赤にして激怒した。

「アイツらをぶちのめせええええ!!」
ドクローズ達がナイフ片手に走って来た。

「バラエティさん、何かに掴まってて」
ゼノコードはそう言いながら、両手を左右に広げ、両足を軸にその場で回転を始めた。

「何をする気だ!?」
「言ったっしょ?吾輩は風を操る」
風圧が巻き起こり、ゼノコードを中心に巨大な竜巻が生まれる。

「ひえええっ!!すごい!!」
近くの岩にしがみつきながら、バラエティが思わず叫んだ。

「風・搬送!!」
「ぎええええええ――――ッ!!」
ドクローズはほとんどがその竜巻に巻き込まれ、四方八方へと落下していく。

「残るはアンタだけッスね」
ゼノコードが指さした先にはボーンが立っていた。

「うっ!!」
ボーンはビクッと震えたが、

「うおおおおお!!」
近くに落ちていた大きな棒を振り上げて襲い掛かった。
迫りくるポーンを前に、ゼノコードの目つきが変わった。
目の周りが黒く染まり、鋭くなったのだ。

「一つ言いたい事があるんだけど」
めりっ!!

「うぎょっ」
ボーンの顔面に竜巻がめり込んだ。

「ランティーゴを侮辱したッスね?それにCARRIESが守銭奴集団だって?」
ゼノコードは両腕を大きく後ろに引き下げた。

「…!?」
ボーンは目を見開いた。
ゼノコードの触角が、黄色の球体から大きく形を変えていく。

「あ、あれは…何ですかぃ!?」
左右に広がったそれは、黄緑色に光り輝く竜の翼だった。
ゼノコードの頭部の後ろで、翼が大きく羽ばたいているのだ。
「言葉に気を付けな。アンタらは吾輩を怒らせた」
風・極卍(ごくまんじ)!!
ゼノコードが両拳を目にも止まらぬ速さで振ると、竜巻が無数に放たれた。
それらは全てボーンの全身へと正確に叩き込まれた。

「だりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ…!!」
「びええええええええ!!」
ボーンの絶叫が竜巻の轟音にかき消される。

「だりゃあぁ―――ッ!!」
とどめの一撃が、ボーンの腹部にめり込み、彼は後方へと吹き飛んでいく。

「ぎゃああああ!!…あ」
倒れた先は、Jストの急な坂だ。

「あ゛ああぁぁぁぁぁ――――――ッ!!」
ボーンは急な坂を、あちこちに激突しながら猛スピードで転がり落ちていった。

「運送完了」
ゼノコードがそう言うと、

「まだやります?」
「うわあああ!!」
残りのドクローズ達が悲鳴を上げて逃げ去って行った。
しゅるるるる…頭部の翼は音を立てて収縮していき、黄色の球体へと戻っていた。

「立てます?」
「あ、ああ」
バラエティの手を持って立たせると、ゼノコードは笑った。

「このギルド、新人を募集してます?」
「…仲間になってくれるんですかぃ?」
バラエティは目を潤ませながら聞いた。

「んふー、仕方ないッスねえ~!頼りないキャリナーしかいないギルドじゃあ後先短いスからね!」
「…うう」
落ち込むバラエティを横目で見ると、ゼノコードは空を見上げた。

「吾輩はランティーゴに会いたい。それには、キャリナーとして腕を上げて、あの人と同じくらいに伝説のキャリナーになればいいんだ!」
「伝説のキャリナー…」
バラエティがそうつぶやくと、ゼノコードは笑顔でこう言った。

「世界中のお客様を全員笑顔にできるキャリナー、それが伝説のキャリナーだろ!?」
ランティーゴと同じ事を言っている。

「それにさっきくれたお茶、美味しかったから。また煎れてくれるよね?」
「…へえ…へえ!!」
バラエティは泣きながら何度も頷いた。

「ちょ、おま!何で泣くんだよ気持ち悪ぃなあ!!」
「へ、へへ、早速お茶を淹れますぁ!!」
そう言いながら、バラエティは近くに生えていた雑草を引き抜き始めた。

「美味しいお茶ができるんですぜ!」
「うん!!ごめん!!要らない!!」
・・・

CARRIES本社にて―

「あのボス・ゼノコードという人、チーム・エターナルのキャリナーになったそうです…!!」
驚いた顔のルーナティアがゲンスイに報告をすると、

「あっそ」
ゲンスイは短く答えた。

「…意外じゃないんですか?」
「意外だよ?ランティーゴはいないし、あんなオンボロギルドに入るなんてどうかしてる。だが―」
ゲンスイはゼノコードの入職希望届を見下ろした。

「この世界には珍しい、生きた目をしている男だった。コイツ、どんな場所でも生きていけるんじゃない?どんな活躍をするのか見るのも、オモロそう」
「お、オモロそうって…」
戸惑うルーナティアをよそに、

「ふふふっ」
笑いながら、ゲンスイは採用印を押した。


「ようこそCARRIESへ」

生き残ってみ給へ。若造。​​​ ​​





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Last updated  2026.05.21 18:21:48
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