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第5運送…刃の命力「アンジェラちゃん、イレイズってヤツは強いのかい?」通路を突き進みながらゼノコードはアンジェラちゃんに聞いた。「イレイズ?大した男じゃありませんよ。グシャナに媚びへつらうド三一(さんぴん)です」「あそう」「現在アジト内にはグシャナや幹部はいないようです」アンジェラちゃんは周囲を見渡している。「さすがの私、アンジェラちゃんでもグシャナや幹部連が相手だと分が悪いです。出会わない事を祈りましょう。―そう言う貴方は強いのですか?ボス・ゼノコード」「吾輩?」ゼノコードは自身を指さした。「まあ戦闘は過去に齧った程度だけど」「そうですか。まあいないよりはマシですね」「おま、ひっどーい!」「ところで」アンジェラちゃんは振り向いて、ゼノコードの服装を上から下まで眺めた。「何?」「運送屋。ですか」「あ、そうそう。吾輩新人のキャリナーッス」ゼノコードは自慢気に胸を張った。「へっ、運送屋ならますます戦闘力には期待できませんね」「なんじゃい!!鼻で笑うな!!」そんな中、二人は広い空間に出た。「さっき盗賊に囲まれた場所か」「ここは盗賊共の宴会場です。連中は略奪した食料や酒をここで楽しみます」「そう言えば良い匂いがするね。食料の匂いか」ぐおおおおおおおお!!がるるるるあああああああああ!!「びいい!!」ゼノコードは縮み上がった。世にも恐ろしい怪物の咆哮。そんな感じの音が空間全体に響き渡ったのだ。「な、何スか!?まさか砂漠獣がここに潜んでいるのか!?ねえアンジェラちゃん!?ん?」アンジェラちゃんに向き直ると、アンジェラちゃんが背を丸め、腹を押さえて静かになっていた。「どったの」「いえ別に」アンジェラちゃんはスッと姿勢を戻し、歩き出ぐああああああああああああああ!!ばるうううおおおおおおおああああああ!!世にも恐ろしい怪物の咆哮的な音が、アンジェラちゃんから聞こえた。「よもや…キミの腹の虫かね、今の音」ゼノコードは顔を青くさせながら聞いた。「一週間も何も食べていないので。腹の虫MAXになってしまったようですね」アンジェラちゃんは冷静にそう答えた。「何だ腹の虫MAXて。聞いた事ねえよそんな言葉」「身体的には何の問題もありません。先を行きましょう」あああああああああああもおうおおおおおおおおおお!!なぁんつうううううくぁあああああああ!!「喋ったよね!?今、腹の虫MAXがハッキリ喋ったよね!?」「ああもう、五月蝿いですね」「いやいやお前程じゃねえから」「問題ないと言っているでしょうが」「うるせえから迷惑なんだっつの!!待ちな!!」ゼノコードは周囲を見渡し、鳥の丸焼きを見つけた。食べかけだがまだ肉がたっぷりと残っている。アンジェラちゃんはそれを見るなり口から涎が滝のように流れ出て来た。「これ食べなよ」ゼノコードが笑顔で言うも、アンジェラちゃんは涎を拭いながらそっぽを向いた。「…奴らの食べかけなんて、食べる気になりません」がぼらあああああああああああああああ!!ぎゅおおおおあああああああああああい!!まさかの地響きである。「うるせえええええ!!お前の腹は虫じゃねえよ!!ドラゴンだよ!!プライド捨ててとっとと食えーッ!!」・・・ゼノコードが唖然としながら見守るのは、アンジェラちゃんの凄まじい食べっぷりである。鳥の丸焼きを1分程度で骨だけにしたかと思えば、その辺に転がっていた腸詰め、大魚の燻製、果物にチーズを一気に口に詰め込み、更に樽に詰まった水に果実シロップを混ぜて一気に飲み干してしまった。「げぇっぷ。腹八分目にします」マジかコイツ。「ホントに腹にドラゴン住んでんじゃね?」「さて、宝物庫はあっちです」アンジェラちゃんは口の食べかすを袖で拭きながら歩き出す。ージャキッ!!彼女の目の前に無数の銃口が突き付けられた。「あら」「呑気に飯を食ってるとは間抜けだな」10数人の盗賊達がぞろぞろと通路から歩き出ていた。「!」「これだけの数で囲めばこっちのもんだ」「ちょ…」ゼノコードの背後にも盗賊達が並んでいる。「一対一で敵わないからすぐに数でねじ伏せようとする。芸のない連中は嫌いです」と、アンジェラちゃん。「黙れ!大体お前、どうして運送屋の肩を持つんだ化け物女!!」「大頭を狙うのに、そんな運送屋にまで頼るとは、とことん堕ちてやがるな!!」「そちらほど堕ちてはいないと自負しています。ボス・ゼノコードは私の名付け親です。彼は仲間を救いたがっている。だから助けます」アンジェラちゃんは盗賊達の罵声に物ともせずに切り返した。「ちょりーっす、名付け親っすー」ゼノコードが軽い調子でそう言った。「俺達をなめてるな!!」「もういい!!撃て!!」盗賊達は激怒し、機関銃の引き金に指をかけた。「丸腰相手に撃つなんて、とことん三下ですね」アンジェラちゃんは素早く足元の地面を蹴った。「叩きのめしてあげます」砂煙が巻き上がり、近くの盗賊達の視界を奪った。「うお!?」驚く盗賊の内一人の足を、アンジェラちゃんは思い切り蹴り、体勢を崩させた。膝をつく盗賊の顔面に勢いを付けて回し蹴りをお見舞いする。左右に立つ盗賊が銃口を向ける。アンジェラちゃんはその場から前方に宙返りをし、盗賊達の背後へ着地した。「え?!」「あっ!!」振り向こうとする盗賊二人の首根っこに、「でりゃ!!」両肘で思い切り肘打ちをした。盗賊二人がヘナヘナと崩れ落ちる。ゼノコードはそんな様子を見てポカンとしていた。「満腹になった私に勝てるとでも?」「うへえ~、強いなァあの子」ゼノコードは笑いながら、後ろから銃口を突き付けて来た盗賊にチラリを目線を向ける。素早く身を反らし、銃口を掴んで引き寄せる。「うわっ!!」「はい風・輸送!!」―ドンッ!!竜巻を盗賊の顔面に叩き込んだ。「ぎゃぶろろろろろ」盗賊は竜巻に吹き飛ばされ、回転しながら壁に叩き付けられた。「わっ!!」驚く盗賊達。アンジェラちゃんも背後で起こった風圧に振り返った。「だりゃりゃっ!!」ゼノコードは両手を左右に広げ、盗賊に向かって竜巻を放っている。「あれは…命力…それも“風”の…」アンジェラちゃんはゼノコードを見ながらつぶやいた。「やはり我々だけじゃ無理だ!!増援を呼べ!!イレイズ様を呼んで来い!!」盗賊の一人が慌てふためきながら仲間に叫んでいる。「合点だ!!」別の盗賊が通路へと走って行こうとする。「行かせませんよ」ソイツに向かってアンジェラちゃんは足元に転がる皿を蹴り飛ばした。「ぎゃああ!!」足に皿が命中し、盗賊はすっ転んだ。「増援を呼ばれては面倒です」「~♪やるねえ」ゼノコードが口笛を吹いた。同時に別の盗賊に竜巻を放ち、吹き飛ばす。「何で取り囲んでいるはずの俺達が追い詰められてんだ!!」盗賊達はゼノコードとアンジェラちゃんの暴れっぷりに翻弄されていた。「強いじゃないのキミィ」「伊達に鍛えてませんので」ゼノコードとアンジェラちゃんは背中を合わせ、身構える。「しかし、この宴会場はあちこちに繋がっています。このままですと奴らはすぐに集まって来てしまいます」「なるへそ、ほいじゃあ暴れるのはこの辺にして、どっかに身を隠そっか?」「逃げるのは美学に反しますが、賛成です」「ぷぷーっ!キミに美学なんてあったんだ~♪」ゼノコードが吹き出すと、「あっちゃあダメですかね」アンジェラちゃんが彼の顔を睨み付けた。「いえ、美学ってのはキミだけのものです」青ざめながらゼノコードは答えた。「ですよね」同時に二人は全速力で走り出した。「宝物庫は!?」「こっちです」しっかりと宝物庫への通路へ飛び込んだ。「逃げたぞ追え!!」「まずいぞ!!あっちは宝物庫だ!!」盗賊達が慌てて追いかけようとした。「はいはい宴会はこれにてお開きッスよー」ゼノコードは振り向きざまに、右拳を思い切り引き下げた。「風・輸送♪」通路から宴会場に向かって竜巻が放たれた。「ぎゃああああああああああ!!」天井が崩れ、通路は塞がってしまった。・・・「後先考えずに通路を塞いでどうするのですか」アンジェラちゃんは無表情のままそう言った。少し呆れている様子である。二人はアンジェラちゃんを先頭にして、通路を突き進んでいた。「出られなくなったら私達もおしまいですよ」「めんごめんご、じゃあ抜け道はもうないのかい?」ゼノコードが苦笑しながら聞く。「…あります。私はこのアジトを隅から隅まで把握しているので」「にひひひ!だったら問題ないっしょ!後先考えてたら人生面白くないよ?」ゼノコードの明るい言葉に、「人生に面白味など感じた事はありません」アンジェラちゃんは食い気味にそう返した。「…そっすか」しばらく沈黙が走った。「ねえ、ところでどうしてバラっちが宝物庫にいるってわかるのさ」ゼノコードが思い出したように聞いた。「私が牢獄を使っていたからです。他に厳重な扉のある部屋は宝物庫だけです。閉じ込めるのには最適です」「なるへそ。バラっち弱いからなあ、うってつけだわ」「私も聞きたい事があります」アンジェラちゃんが目線をゼノコードに向けた。「吾輩のプロフィールかい?趣味はスイーツ屋巡りで、特技はポップコーンを口で―」「殺しますよ」「あぁん冗談なのに」「貴方のその、命力です」アンジェラちゃんは立ち止まり、ゼノコードの胸板に指を当てた。「うひょひょくすぐったい」「風を操っていましたね」ーずぼ!!指先が胸板の中央というか体内にめり込んだ。「いぎゃあああああどんな指の力してんだあああああ!!」「貴方のそれは、風の命力ですね?」「はいそうです!!吾輩は風の命力を持ってます指抜けえええ!!」アンジェラちゃんは胸板から指を抜きながら、「風の命力を持っている人間は多くはありません。それに」ゼノコードの頭上に揺れる触角を見た。「そ…それに?」胸を押さえながらゼノコードが息を切らす。「それに…その頭―」その時―「ガルルルルルルルルァ!!」凄まじい咆哮が聞こえた。「ちょおま!!また腹の虫MAX!?」ゼノコードが仰天してアンジェラちゃんを見た。アンジェラちゃんは音のする方を睨み、「違います」そう言った。通路の向こうから、何かが走って来る。「忘れていました。盗賊共なんかよりも遥かに脅威な存在を」「な、何だあ!?」走って来たのは、大柄で毛むくじゃらな何かだった。頭部は異形で、巨大なシンバルを横にしたような形状で、びっしりと歯が剥き出しに生えそろっていた。「知り合い?随分とワイルドな人だね」ゼノコードが顔を引きつらせながらアンジェラちゃんに言った。「掃除屋ウルフです」アンジェラちゃんがそう言うと、目の前のソイツは口を開けた。「ちょおま!!」箱を開けるかのように90度、上顎は開いた。真っ赤な口と、触手のような舌が露出する。舌は無数にあり、当初それが舌なのかもわからなかった。口を開けた状態で、掃除屋ウルフはじりじりと歩み寄って来た。「そ、掃除屋ウルフって言うからには綺麗好きなのかな?見た目より良い子なのかも」後ずさりをしながらゼノコードが聞いた。「いえ、獲物を骨まで残さず噛み砕く様から、そう名付けられています。凶暴な砂漠獣です」「救いのある情報は無いかね!?」「調教すると『お手』程度は覚えます」「そりゃ救いがあるね!!」「ガルァア!!」掃除屋ウルフがアンジェラちゃんに飛びかかった。「うひゃあ!」ゼノコードが悲鳴を上げると、「五月蝿い!!」アンジェラちゃんは拳を握り締め、真下から天井に振り上げるように、掃除屋ウルフの下顎を殴り上げた。「うひゃあ!?」それを見てゼノコードはまた悲鳴を上げる。「貴方は息も臭い。誰に牙を剥いているのかわからないのですか」「ほんとスゲー腕力」ゼノコードが唖然としながらアンジェラちゃんを見つめる。掃除屋ウルフはそのまま意識を失ったかと思ったが、すぐに空中で姿勢を立て直し、アンジェラちゃんから数メートル離れて着地した。「さすが私が調教しただけありますね。生半可な攻撃では倒れません」「何つった!?調教!?」ゼノコードが驚く。「お前が調教したんかい!!」「勘違いしないでください。『お手』は教えていませんよ?」「そこじゃねえ!!」「標的を確実に素早く殺す方法を伝授しています」「余計な事すんなし!!」「ああ、そうですね、いずれは敵対するつもりでいたからこうなる事は目に見えていました。まさかの師弟対決、いや、主人とペットの悲しき対決というヤツでしょうか。泣けてきます」「言っとる場合か!!目ェカラカラだし!!」ゼノコードが叫ぶと、掃除屋ウルフが再び牙を剥いて飛びかかって来た。「アンジェラちゃん伏せて!!」ゼノコードは右拳を引き下げた。「だりゃあ!!」竜巻を放ち、掃除屋ウルフをぶっ飛ばした。だが、すぐに体勢を立て直す。「ちぇっ!やっぱこの空間じゃあ威力は半減しちゃうみたいだ!」「酸素が薄いからですか」アンジェラちゃんが言うと、ゼノコードは頷く。「吾輩は命力によって風を操れるけど、風を作り辛い環境が苦手でね」「ならば私がやりましょう。少し心が痛いですが」掃除屋ウルフが再び襲い掛かって来た。アンジェラちゃんは左拳を引き下げ、右手を掃除屋ウルフに向ける。筋肉が激しく隆起した。「え!?え!?」アンジェラちゃんの放つ殺気に気付き、ゼノコードは声を上げる。「そもそも主人様に襲い掛かるとは何事ですか」そう言ったかと思えば、アンジェラちゃんはものすごい勢いで拳を掃除屋ウルフの顔面に叩き込んだ。「ヘビーゴングハンマー」パァンと音を立てて吹き飛んだのは掃除屋ウルフの鋭い歯である。「心が痛いと言った人間のパンチかい」ゼノコードは呆れかえっている。「厳しく調教したというのに主人に歯向かうとは…残念です」痙攣しながら横たわる掃除屋ウルフを見下ろし、アンジェラちゃんは肩をすくめている。「恨んでたんじゃね」ボソッとゼノコード。「何か?」「いえ別に!!」・・・「掃除屋ウルフもやられたようです!!」盗賊が慌てた様子で走って来た。宝物庫の前で、イレイズは苛立った顔で立ちはだかっていた。「クソ…まさか運送屋が化け物女を味方に付けるとは…あんな凶暴なヤツが人に気を許す事自体奇跡だというのに」「ど、どうしますか?」盗賊が怯えた顔を浮かべていると、イレイズはその胸ぐらを掴んだ。「ひいっ!!」「どうするだと?俺がうろたえているように見えるか?」イレイズは盗賊を放り投げた。「俺はイレイズ。大頭グシャナ様一番の部下だ。証拠に、大頭は俺に魂技を託してくれたんだ」そう言いながら、イレイズは両手を広げた。「ううううおおおおお…」イレイズの胸元が光り出した。・・・「!!」ゼノコードが立ち止まる。「どうしたのです?」アンジェラちゃんが振り向いた。「シッ」ゼノコードは人差し指を立てながら、ジッと前方を見つめる。「魂技値(ソウルゲージ)を感じる…向こうに魂技使いがいるよ」魂技値とは、魂技を使う者が持つエネルギーである。魂技を使える者はこのエネルギーを敏感に察知できるのだ。「グシャナの部下でしょうか。幹部連の可能性が高いです」「イレイズは?」「イレイズは魂技を持っていません」アンジェラちゃんが険しい顔を浮かべ、通路の奥を見た時―通路の奥深くから何かが空を切る音がした。「!!」アンジェラちゃんもそれに気付いたが、「危ない!!」ゼノコードがアンジェラちゃんを背中から押し倒した。真上を無数の鋭い刃がかすめ、飛んで行った。―カカカカッ!と、音を立てて刃が壁に突き刺さった。「これは…!!」ゼノコードが顔を上げてその刃を見上げた。「破廉恥」アンジェラちゃんが思い切りゼノコードの顎に頭突きをした。「ぶうううう!!」ゼノコードの下顎が変形した。「気安く触らないでください」「不可抗力だろうが!?お前を守ってやったんだろうがいいい!!」ゼノコードは顎を押さえながら激怒していると、誰かが歩いて来るのに気付いた。「宝物庫に向かおうとしているのだろう?全てわかっている」通路から歩いて来たのは、イレイズだった。「化け物女から聞いてそこに向かっていたんだよな?御名答だ。そこに仲間を閉じ込めている」「イレイズ…ド三一の分際で偉そうな口を」アンジェラちゃんがそう言った時、その頬を刃がかすめた。「!?」後ろの壁に刃が突き刺さっている。「いけね!!大丈夫!?」ゼノコードが慌てている。「驚いただろ…これは、刃の命力。大頭が俺に託してくれた力だ」イレイズは右手を付き出した。手の平から光が漏れ、それが刃を作り出している。「託したぁん?」ゼノコードが不思議そうな声を上げた。「命力…」アンジェラちゃんも顔を上げる。「魂技を手に入れたのですか、イレイズ。いつの間に…」「よお化け物女。牢の外の空気は美味いだろ」イレイズは刃を指先で回転させている。「すぐに戻してやる。四肢を切り刻んでからな」「クッ…」アンジェラちゃんは歯を食いしばった。「どうした化け物女。俺の顔面を粉々にするんじゃねえのか?」イレイズはアンジェラちゃんを見下ろし、ニヤニヤと笑う。「今度からは舐めた口も聞かせないぞ。馬鹿力を持つお前でも、命力を持つ俺が相手なら手も足も出ねえな。っふふふふふ…」イレイズが不敵に笑い声を出していると、「アンタおバカさんですか?」ゼノコードがイレイズを指さした。「…何?」ピキッ、とイレイズの額に青筋が浮かんだ。「命力ってのは自分の魂の中に眠る力で、修行をしたり、何かのきっかけで開花するものなんだ。人からもらう力なんかじゃない。どういう理屈か知らないけど、本当にもらったって言う力なら、それは仮初の力だ。アンタの力じゃないっす」ゼノコードは立ち上がりながら淡々とそう語った。「それと、あまり女子を虐めちゃだめでしょうが。んな事しても上がるのは、小物感だけすよ」「どうやら何度殴られても懲りないようだな。お前は」「懲りないッスよ~?自分タフなんで」「…だったら切り刻む!!死ねえ!!」イレイズは刃をいくつも作り出し、ゼノコードに向かって投げつけて来た。「死ね死ねうるさいっすよ、ド三一(さんぴん)さん。アンタは教育上よくない」ゼノコードは素早くアンジェラちゃんの前に飛び出した。「だりゃあ!!」竜巻を放つ。竜巻は風圧を放ち、飛んできた刃を弾き飛ばした。「何っ!?」イレイズは驚いた。竜巻はイレイズに命中する寸前で、勢いが弱まり、消滅してしまった。イレイズは怯む事無く、即座に刃を生成し、投げつける。ゼノコードはそれを軽く身を反らして回避した。「やっぱダメか…閉鎖空間じゃあ本領が発揮できない」「そんなものか!?生意気ほざく割に大した事無ぇな!!」イレイズは笑いながら刃を次々に生成し、投げつけて来る。ゼノコードとアンジェラちゃんはそれを必死に回避し続ける。「どうします?私はアイツをぶちのめすのに一票ですが」アンジェラちゃんが冷静に聞いて来た。「ちょ、無駄な戦いは避けようよ。でも、通路の後方は塞がっている。だったらこの通路を突破するしかない…よし」ゼノコードはアンジェラちゃんに目線を向けた。「吾輩に捕まって!」「は?」「いいから早く!」アンジェラちゃんはゼノコードの背中を少し見つめ、抱きついた。「おふ」胸の感触にゼノコードは少し顔がにやけたが、「何をする気だぁ!!」イレイズが両手を合わせ、巨大な刃を生成した。「オラァ―」勢いを付けて投げつけようとした。「風脚輸送!!」両足から竜巻を放ち、その勢いに乗ってゼノコードは通路内を滑空した。「…―ア?」イレイズの目の前にゼノコードとアンジェラちゃんの顔があった。鈍い音と共にイレイズは空中で回転しながら吹っ飛ばされた。「竜巻が消える!!後はダッシュだ!!」「はい」通路内を転がりながら二人はすぐに体勢を直し、走り出す。「お…お…」顔を押さえながらイレイズは立ち上がり、ケースライドを開いた。「野郎共!!宝物庫に向かった侵入者と化け物女を捕まえろ!!捕まえた者にはキンカ1000枚だ!!」通信はアジト中に広がった。イレイズの大声は反響して、ゼノコード達にも聞こえていた。「キンカ1000枚!?吾輩達高いんだね!!」通路を走りながらゼノコードが叫ぶ中、「…」アンジェラちゃんは何かを考えていた。
2020.09.04
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ゼノコードが少女に出会う少し前―「ここにいろ」盗賊がバラエティを放り込んだのは、財宝が積まれた大きな部屋だった。宝物庫である。「あああ!」バラエティはキンカの山に背中から落下した。同時に扉が閉まり、鍵がかかる。「そこで財宝の匂いでも楽しんでろ」「ぎゃはははは」盗賊達が笑いながら歩いて行った。「…盗賊…」バラエティは頭を抱えた。「騙されてた…何も疑わずにあっしは…大馬鹿野郎ですぁ…!ゼノコード君…ごめんよ…ごめんよ…!!…逃げてつかぁさい…!!」・・・「宝物庫に入れて大丈夫なのですか?」イレイズの後ろを歩く盗賊が聞く。「グシャナ様の宝が奪われでもしたら…」「あの運送屋は魂技を持っていない。問題ない。警戒すべきなのはもう一人の方だ。アイツは風を操っていた。お前らでは太刀打ちできん」イレイズは冷静に答えた。「だが、警戒すべきヤツがもう一人いる。少し様子を見て来るから、お前らは警戒を怠るな」「はっ!」イレイズは通路の奥にある階段を降り、牢獄に着くと、その厳重そうな鉄格子に近づいた。「おい、生きてるか?生きてるよな。お前はタフだからな」鉄格子越しに見えるのは、鋭い目つきで睨む少女の顔だ。「もう1週間も何も喰ってないのに、しぶとい女だな。さすがは化け物だ」「グシャナに…大頭に会わせてください」少女はそれだけ言った。「❝今日❞なのでしょう?お願いです。会わせてください」「ダメだね。お前は従順なフリをして、大頭を殺そうとしていた事がわかったんだ。お前にはこの牢獄の中で餓死してもらう。短い人生だったな」イレイズは楽しそうに鉄格子に寄りかかり、少女を下卑た笑顔で見つめる。「その顔」少女は首を傾けた。「あ?」「その顔を…必ず粉々にしに行きますので。お忘れなく」「…」イレイズは苛立った顔を浮かべ、鉄格子を乱暴に蹴った。ガシャンと大きな音を立てる。「さっさとくたばりやがれ!!化け物女」それだけ吐き捨てると、イレイズは階段を早足で駆け上がっていった。少女は自身の両手を見上げた。両方の手に、鋼鉄でできた手枷が付けられており、それぞれが鎖で繋がっており、天井から吊るされている。鋼鉄と鎖でできているので、力では外せない。どうやってこの状況を打開するか。少女は絶望する事も無く、目を閉じて考え始めた。その時―階段を降りる足音が聞こえた。少女は目を開き、階段の方を見る。「ここは鉱山とは違うようだね」降りて来たのは白い髪に黒の前髪を持つ、オレンジ色のジャケットを着た青年であった。少女は彼の頭上で揺れる黄色い触角を見て、首を傾げた。「牢獄…バラっちはいるかな」青年はは松明を燭台から外し、鉄格子へと近づいてきた。牢の中にいる少女の存在に気付いたのか、「バラっち?」話しかけてきた。敵か味方かもわからないような青年に対し、少女が黙っていると、「そこにいるのかい?…誰?」青年は松明を掲げ、目を凝らした。ぶら下がっている少女を見るなり、青年は飛び上がった。「なっ…大丈夫!?」青年は慌てて周囲を見渡し、部屋の隅にあるテーブルへ駆け寄ると、「待ってて、今開ける!」鍵を持って鉄格子の扉に駆け寄った。鍵を開け、扉を開けると、青年は松明を持ってその少女に近づいた。鍵を開けてくれた。中に入って来た。この青年は馬鹿なのか。彼女が何なのか知らないのか。彼女は復讐の為に、この盗賊団のボスを殺す為に訓練を積んだ。女を捨ててまで力を磨いてきた人間兵器なのだ。ふしだらな真似をしようと牢の中に入って来た盗賊をボコボコにしてきたので、今では牢の中には誰も入りたがらなくなっていた。なのに、この青年は入って来た。命知らずだ。助けも要らない。こいつもぶちのめそう。少女はそう思っ「綺麗だ…」青年はそうつぶやいた。(…?)少女は一瞬何を言われたのかわからなかったが、青年を見下ろしながら一言。「五月蝿い」・・・そして今―第4運送…化け物女「ちょおま!!五月蝿いて!!」少女のその瞳はサファイアのように美しい青だが、光が無い。前髪も長いので顔がしっかりとは見えないが、それでも息を呑むほどの美少女だった。松明の光に反射し、黄緑色の髪が光る。頭部の右側には、黄色い髪留めがあり、それも宝石のような光沢を放っている。拘束されている両腕だけでもわかるが、その筋肉は鍛え上げられており、肉体そのものが洗練されているようだ。ゼノコードはいきなり暴言を吐かれた事に驚きつつも、「え、えーと、ここにヒョロヒョロで頼りなさそうな運送着姿のオッサンが来てませんでした?」と、顔を真っ赤にしながらそう聞いた。「…」少女はその質問に対し、少し考えた素振りを見せ、「そこに寝てください」そう答えた。その声も美しいと思ったが、同時に質問への答えになっていない事にも気付いた。「えーと…はい?」「二度も言わせる気ですか」少女はため息をついた。「私の足元に寝てください」「え…ど、どうして?」ゼノコードがポカンとしていると、その首に少女の逞しい美脚が思い切りのしかかった。「あぶるす!!」ゼノコードは少女の凄まじい脚力によって成す術も無く地べたに叩き付けられてしまった。うつ伏せに倒れたゼノコードの背中に、少女は両足を乗せた。「がぶぅぅぅ!!」想像以上に重たい。「そう、両手をずっと吊り上げられて正直疲れていたので、踏み台が欲しかったのです」ため息をつきながら少女はそう言った。「踏み台ぃ?初対面の人間に何さらしとんじゃこの娘はぁぁ…」地面に顔を押し付けながらゼノコードは呻いた。「ここには誰もいません。この牢獄には私しかいません」少女はゼノコードを踏みつけたままそう答えた。「いないの?じゃあバラっちはどこにあひぃぃぃぃ!!」ゼノコードは尻を少女にぐりぐりと踏みにじられている。「ここがいいのでしょう?」「ああもっとォ…―じゃねえよ!!何すんじゃボケェ!!」「失礼、踏みにじりたい衝動に駆られました」「『駆られました』じゃねえから!!そして何だそのサイコな衝動!!抑えろ!!ていうかもう立っていい!?」「嫌です。踏み台が無いと手が疲れます」少女は困った顔を浮かべている。「知るかァ―ッ!!」ゼノコードは激怒しながらそう叫んだ。そして、ハッとした。「キミ、どうしてこんなとこで吊られてるの?キミも盗賊の仲間でしょ?悪い事でもしたの?」ゼノコードの言葉に少女は眉間に皺を寄せた。ゼノコードの頭を思い切り踏みつける。「んが!!」「私を下賎な盗賊と同じにしないでください」「あがが…だ、だって盗賊と同じ服着てるから…」ゼノコードがそう言うと、少女はますます不機嫌な顔になったが、頭から足を離し、ゼノコードの背中から降りた。ゼノコードは逃げるように立ち上がった。「貴方には関係ありません」「え?ま、まあそれもそうだけどさ」「用はそれだけですか?ならば、出て行ってください」少女はゼノコードに背を向けた。「とっとと仲間を探しに行ったらどうです?」「えー、でも」ゼノコードがそう言いかけた時―少女が一瞬で目の前まで迫っていた。「うお!?」「早く出て行かないと息の根を止めますよ」―ガシャン!!と、鎖が伸び切った音がする。少女の逞しい両腕が後ろに突っ張っている。「こんな状態でも私にはできます。貴方を殺すぐらい、難しくありません」「あわわわわわ!!」ゼノコードは突然の事に驚き、尻もちをついた。「…!」少女は目を見開いた。目の前で座り込むゼノコードを見て、少女はうつむいた。「出て行ってください」そう言って、背を向けた。その背中はさっきより小さくなったように感じた。それを見てゼノコードは察した。「…ごめんごめん、いきなり迫って来たから驚いたんだよ。キミを怖がったわけじゃない」ゼノコードは立ち上がると、「さっきの事、言いたくないならいいよ。でもキミ、そんなに悪い事をする子には見えないんだよね」少女の後姿を上目遣いで見ながらそう言った。「何故そう思うのですか?ばかばかしい。私はこの一味から戦闘と、人の殺し方も学びました。犯罪も学びました。私は悪人です」「ふーん…」ゼノコードは頬を指で掻きながら少し考えこみ、「でもやっぱ悪者には見えないんだよなあ。ドエスだとは思ったけど」笑顔でそう言った。「貴方、変わり者ですね」少女は振り向いた。呆れている様子だ。「いやキミ程じゃ」「私に向かって『綺麗』と言ったり、怖がるどころか『悪人には見えない』と言い出す…何も知らない癖に。ほっといてください」そう言うと、少女は再び背を向けた。「じゃあ、お別れする前にせめて名前聞かせてよ。キミみたいな美人さん、名前を知っておきたいからね」ゼノコードが明るい口調でそう言った。「!!!!」少女の身体がこわばったように見えた。「…変な事聞いた?」ゼノコードは少女が急におとなしくなったので、驚きながら恐る恐る聞く。「ご、ごめん、キミ、地雷が多い子なんだね。吾輩何も考えずに色々言っちゃう癖があるもんだからつい―」「ありません」少女は答えた。「―へ?」「私には、名前がありません」少女は振り返った。これまで以上に、その表情には生気が無かった。「名前が無いって…」「名前を付けられる前に全てを奪われたからです」少女はゼノコードの言葉を遮るように話し出した。「私はかつて、故郷をこの盗賊の一味に襲撃されました。父も、母も、兄も、祖父も、祖母も、友達も、みんな、みんな死にました。グシャナに残酷な方法で殺されました。そして私一人が生き残りました。父が私に名前を付けてくれる直前の事です。一味は、私に素質を見抜いたと言ったかと思えば、私を盗賊として鍛え、犯罪を、戦いを、殺しを教えました。私は必死に学びました。しかしそれは、盗賊として役に立ちたい為ではありません。強くなって、この一味のボスを殺す為です。そしてそれが盗賊達に気付かれ、こうして制裁を受けているのです」少女はそれだけ喋り終えると、息を少し切らしながらうつむいた。「質問に答えましたよ。ハァ…ハァ…満足しましたか?」その目にうっすらと涙が浮かんでいるのを、ゼノコードは見逃さなかった。この少女は復讐の為に、一番いたくもない場所で長い間、ずっと耐え抜いて生きて来たのだ。「名前が無いのなら…この一味はキミを何て呼んでんの」「強すぎるから、化け物女と」少女は答えた。「もういいでしょう?私に構わないで、出て行ってください」その声にも、力が無くなっていた。「ああ、もういい」ゼノコードはそのまま牢から出ようと――しなかった。驚く少女に歩み寄ると、彼女の手錠に鍵を差し込み始めた。少女は目を見開いてゼノコードを見た。「何を…しているのですか」「何って、手錠を外そうとしてるんだけど」「…どうして」「キミを救いたいから」ゼノコードはそう言いながら、―ガチャ手錠を外した。少女は自由になった両手を握ったり開いたりした。「辛い事を喋らせて、本当にごめんなさい」ゼノコードは少女に向かって頭を深く下げた。「でも、吾輩をなめんなよ。過去を喋れば怖気づくと思ったんだろ。吾輩はますますキミに構いたくなった」「しかし、私は化け物みたいな身体で凶暴です」「にひひひ」ゼノコードは笑いながら少女に手を伸ばした。少女はゼノコードを殴ろうとはしなかった。「キミは吾輩がこれまで見た中で、一番綺麗な子だよ」ゼノコードは少女の頭に手を乗せて、優しく撫でた。綺麗だなんて言われ慣れていない。少女の顔は真っ赤になった。「盗賊にいるから幸せになれないんだ。それなら吾輩がキミをここから解き放ってやんよ」「解き放つ…?」少女がそう言うと、ゼノコードは少しだけ考えて、「アンジェラ」少女にそう言った。「アンジェラちゃん。キミの名前は、アンジェラちゃんだ」少女は呆然としていた。名前。彼女が手に入れたのは、彼女にとって、あって当たり前なはずの名前だった。「名前が無いからここから出られなかったんだ…だからキミは今日から、アンジェラちゃんだ。…嫌かな?」ゼノコードが苦笑する。その時―「騒がしいと思えば、ここにいたのか!!」盗賊が5人、階段を駆け下りて来た。「げげげ!!」ゼノコードがギョッとする。「すぐにイレイズ様を呼んで―…あ!!」盗賊の一人が少女に気付いた。「あの野郎、あの化け物女の手枷を外していやがる!!」「ヤバいぞ!!牢の扉を閉めろ!!」「ダメだ!!あの運送屋がカギを持っている!!」「うああああ!!化け物女が暴れ出すぞおおお!!」盗賊達は阿鼻叫喚の有様である。「アンタら…いい加減に」ゼノコードがムッとしながらそう言いかけた時、真横を少女が通り過ぎた。「うわあああ!!く、来るな化け物おお!!」盗賊達は機関銃を乱射した。少女は身を引くくし、弾丸の雨を回避しながら素早く走り出した。「化け物化け物と騒々しい」少女は、素早く盗賊達の真後ろに回り込んだ。「私の名前は…アンジェラちゃんです!!」「うっ!!」盗賊達が驚いて振り返る。「でりゃあッ!!」凄まじい勢いで回し蹴りをお見舞いし、盗賊達を5人まとめて蹴り飛ばした。「あんぎゃあああ!!」盗賊達は壁に激突した。上半身が壁にめり込み、下半身が壁から生えている状態になっている。「しゅげー」ゼノコードは目を丸くさせてそう言った。「愚かな。アンジェラちゃんと呼ばないからこうなったのです」壁で痙攣している盗賊達に向かってアンジェラちゃんは冷静にそう言い放った。「そりゃ仕方なくない?」と、ゼノコード。「貴方は?」少女は両手を払いながらゼノコードを見た。「え?」「貴方の名前は?」「あ、ボス・ゼノコード…ッス」「ボス…名前がボス…変わった名前ですね」「ほっとけい!」「ボス・ゼノコード。とりあえず感謝しておきましょう。貴方のおかげで私は名前を手に入れる事ができました」偉そう。ゼノコードは苦笑した。アンジェラちゃんはゼノコードに向かって歩み寄った。「お礼に、❝この、アンジェラちゃん❞が貴方の仲間を助ける手伝いをしましょう」「(名前気に入ってくれたみたい)ありがとう!!」「その鍵は持っておいてください。このアジトのマスターキーです」アンジェラちゃんは地面に転がっている機関銃を一丁拾い上げる。もう一丁拾ってゼノコードに差し出した。「いや、吾輩、銃は嫌いなんで」「あら、わかりました」アンジェラちゃんは階段を駆け上がりだした。「ボス・ゼノコード、❝この、アンジェラちゃん❞に付いて来て下さい。恐らく貴方の仲間は宝物庫にいるはずです」その言葉を聞いて、ゼノコードの表情は輝いた。「OK!!HERE!!WE!!G」「五月蝿い」「ちょおま」
2020.08.19
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第3運送…牢獄の少女中央街にある人気バー、ノンダークレイジー。キャリア帝国の中でも人気がある、大きな店だ。店主のグレイ爺さんの作る料理も、酒も、何もかも絶品だ。毎日、大勢の客達がこのバーで楽しく酒を飲み交わしている。そんなバーが待ち合わせ場所らしく、バラエティとゼノコードがキョロキョロしながら店内に入って来た。『ご予約ですか?』店員らしき男性が話しかける。するとバラエティがビシッと気を付けの姿勢を取ったのでゼノコードが仰天する。「あ、あの、11時に待ち合わせをさせていただいておるのですが、ぶ、ブレイズさんという方はおりやすでしょうかぃ?」バラエティが緊張しながらそう言うと、『ああ、御案内します。こちらへどうぞ』特に驚く素振りも見せず、店員は頭を下げて歩き出した。「どったのバラっち緊張して、まるで石じゃん」ゼノコードが不思議そうに聞く。「こ、こういう店に入るの初めてなんですぁ。酒が苦手なんで」「大丈夫すかぁ?もお」『ところで』店員がゼノコードを見た。「はい?吾輩?」ゼノコードがキョトンとしながら自身を指さすと、店員は頷いた。『お客様、中々面白そうですね』「はあ?」『それだけです。失礼致しました』「…!?」変な店員。そう思った。・・・「お待ちしてましたよ」案内された個室の中で、ブレイズという男が笑顔で出迎えて来た。無精ひげを生やした、背丈の高い男だ。肌は青白く、ガリガリに痩せこけている。外は暑いのだが、黒いコートを羽織っている。「は、はじめまして。キャリナーのバラエティ・ディーキンでございやす。で、こっちが新人キャリナーのゼノコードですぁ」「おなしゃーすっ!!」ゼノコードが元気よく挨拶すると、「こらっ!もっと丁寧に挨拶しなさい!!」バラエティが小声で注意する。「さ、さーせん」「まあ、座ってください」ブレイズが椅子に座ると、向かい側にバラエティとゼノコードが座る。「あ、あのぉ、どうしてあっしらのような小さなギルドに依頼を?」バラエティが恐る恐る聞くと、「中々危険な任務で、これを引き受けてくれるギルドが無かったからです。お二人が引き受けてくれると聞いて、私も一安心です」「はぁ…そうだったんですかぃ」「何をどこにお届けすればいいんすか?」ゼノコードが聞くと、ブレイズはテーブルに大きな木箱を置いた。「でか!!」ゼノコードが声を上げた。ゼノコードがまるまる入れるくらいの大きさである。「これだけの大きさ今までどこに置いてあったのよ!?」「これをガンマキャニオンにまで届けて欲しいのです」ブレイズは木箱を軽く叩きながら説明する。「…これは?」バラエティが木箱を見つめながら聞く。「炭鉱夫達への物資です。中には爆薬が入っています」ブレイズは淡々とそう答えた。「爆薬!?」ゼノコードが驚いて叫ぶと、「シッ!!」ブレイズが指を立てた。「ガンマキャニオンでは大勢の炭鉱夫達が宝石を採掘する為に日夜働いています。しかし、物資が足りず、作業もできずに途方に暮れているのです」ブレイズは悲しそうにうつむいた。「私の兄がその炭鉱で働いているのです。お願いします。これを届けて、兄を、仲間を救ってください!」「なるほど…そう言う事でしたか」バラエティは胸を強く叩いた。「あっしらにお任せください!!必ず物資をガンマキャニオンまで届けてみせますぁ!!」「ありがとうございます!!」ブレイズは頭を深く下げた。「おかげで皆助かる」ニィっと笑いながら。「…?」ゼノコードは眉間に皺を寄せた。・・・「ではよろしくお願いいたしますね」店の入り口で、ブレイズは笑顔で手を振った。「へ、へえ!!ご利用ありがとうございます!!」「任せて欲しいッス~」バラエティとゼノコードは慎重に木箱を持ち上げて、ゆっくりと歩いて行った。「…」ふと、後ろからさっきの店員が近づいて来た。褐色の肌を持ち、白い短髪で、サングラスをかけた長身の男だ。その表情は、満面の笑顔だった。「支払いを頼むよ」ブレイズはキンカを雑に店員に突き出した。『かしこまりました』丁寧で、穏やかな口調の店員は、キンカを受け取った。上機嫌な様子でブレイズは歩き去った。「どうしたのだねバイトくん」ヨボヨボの老人が店員の後ろに立った。彼がノンダークレイジーの店主、グレイ爺さんだ。「❝客に殺気を向ける❞など、君にしては珍しい」『いえ…』店員の男は笑顔を向けた。『何もございませんよ』血の匂いがしたなんて、言えるわけが無い。・・・「し、慎重に扱ってつかぁさい!?爆薬ですぁ!!」「わかってるって!!」キャリーギルドに木箱を持ち帰ったゼノコードとバラエティは、その木箱をギルド内のテーブルにゆっくりと置いた。「でだ…これをどうするか…」ゼノコードは木箱をしげしげと眺めながらバラエティに視線を送る。「下手に扱うと吾輩達もお陀仏だよ」「じゃあ、衝撃を与えないように、保護剤で包みますぁ」バラエティが取り出したのは、クッションと布、布紐である。「え?」ゼノコードがポカンとする中、彼は木箱にクッションと布をかぶせると、目にも止まらぬ速さで木箱を包み始めた。「おおお!?」ゼノコードは思わず声を上げた。ものの10秒程度で木箱は布に包まれてしまった。「へへへ」バラエティは鼻の下を指でこすりながら笑った。「すげえ!!今のなんスか!?」ゼノコードがバラエティに飛びつくと、「梱包術ですぁ。CARRIESの職員ならできなきゃいけない技術でございやす」木箱はしっかりと梱包されており、これなら少しの衝撃ぐらい防げそうだ。「すっげえ!バラっち!!さすがベテラン!!吾輩にもできるかなぁ!?」「できるかなじゃなくて、覚えないといけない技術ですぁ。まあ、ゆっくりと覚えていってつかぁさい」「…OK!!」・・・「吾輩が運転する!!」ガレージにてゼノコードが叫んでいる。「えぇ~…?」バラエティが積み荷を荷台に積みながら、困った顔を浮かべた。「【ロード】運転してみたい!!運転したい運転したい運転したい!!」その場で地団太を踏み始めた。「駄々こねちゃったよ!!ダメですぁ!お前さん全く運転できてなかったじゃない!」「いいじゃまいか!!頼むよバラっちぃ!」ゼノコードはバラエティに潤んだ瞳で迫った。「ひぃぃっ気持ち悪ぃ!!わ、わかりやした。じゃあ帝国の外に出るまで運転してつかぁさい」「やたーっ!!」ゼノコードは運転席に飛び乗ると、「んんと、キーをさしたらおもいきりおしこむんだっけ」指をくわえてブツブツつぶやき出した。「…ゼノコード君、替わって」「あはい」バラエティが運転席に座ると、素早くギアを動かし、エンジンを起動させた。「さあ、出発ですぁ!」「OK!!HERE!WE!GO!!」・・・最縁街の道路をしばらく走ると、下に向かうトンネルが見えた。「ガンマキャニオンは5番ゲートから行く事ができやす」【ロード】はトンネルをくぐった。更にしばらく走ると、道路に5の№が書かれているのが見える。いきなり光が広がった。トンネルを抜けたのだ。広がるのは広大な砂漠だ。黄金に輝く広い砂の海。過酷な世界だが、見渡す限りの砂漠は絶景である。「うはぁ~!!トラック越しに見える砂漠地帯はまた格別ッスね!!」ゼノコードの歓声にバラエティは微笑んだ。「しばらく道なりですぁ」「バラっち運転慣れてんスね」ゼノコードが言うと、バラエティは笑った。「はははは、ランティーゴがいた頃はドライバーやっておりやしたからね」「ドライバー…運転手って事っスか?」ゼノコードは首を傾げた。「ああ、チームの役割の一つですぁ。CARRIESのギルドでは、5人体制でチームを編成するのが基本なんですぁ。荷物の管理、運搬を行うキャリナー、専用車両の運転を行うドライバー、チームを守る用心棒、ソルジャー、専用車両の修理を担当するリペアラー、運送先までの経路を案内するナビゲーター…まあ、人がいないギルドではそれらを全て担わなきゃいけないんですがね」バラエティは右腕を見せた。見ると、二の腕に5つ、リングのようなものが付けられていた。各リングに、C、D、S、R、Nの文字が刻まれている。「ゼノコード君には運転の才能は無いから、C(CARRINER、キャリナー)のリングをあげやしょう」バラエティはCのリングを左手で外し、ゼノコードに手渡した。金色に光るリングだ。「ひ、ひどいじゃまいか!」「っはははははは!!」・・・2時間後―【ロード】は道路を走り続けていたが、バラエティの表情が急に険しくなった。「そろそろ砂漠獣が生息する地帯ですぁ。慎重に走りやす」【ロード】のスピードを落とし、エンジン音を極力落として走行する。「この辺りにはリザードマンが生息しておりやす。静かに運転していりゃあ気付かれにくいので、ゼノコード君も静かに…静かだなあ」隣を見ると、ゼノコードは全身に汗をにじませてプルプル震えていた。「へぇあ!?どったの!?」「お、おしっこ」ゼノコードは小さな声でそう言った。「はいい!?トイレは帝国を出る前に行っとけってあれほど言ったじゃないですかぃ!!」「まさかこんなに時間がかかるとは思ってなかったんスよ…漏れる!!」ゼノコードは足をバタバタさせながらドアの取っ手に手をかけた。「あああああ!!わかりやしたよ!!」【ロード】を停車させるとゼノコードは転がるように外に飛び出した。「ふいいいい…!!」道端でホッとした顔を浮かべるゼノコード。「はああ…」バラエティは顔に手を当ててため息をついた。「早く済ませてつかぁさい」「そう言われても、こればっかりは生理現象スから」「もう!」バラエティは落ち着きのない様子で辺りをキョロキョロ見回す。黄金の砂漠の海は、静かそのもの。道路は直線に伸び、そのど真ん中にある赤い車体は、日光に反射して光り輝いている。「良かった…近くにはいないようだ」バラエティは安堵のため息を漏らした。「ありゃりゃ、キミも立ちションスか?」ゼノコードの軽い声がしたので見ると、「どうぞどうぞ、お気になさらず隣を使っておくれよ」ゼノコードは2メートルはくだらない巨体に向かって明るく話しかけていた。茶色の鱗に覆われたそれは、人型だが人ではない。鋭い爪に、鋭い牙、赤く光る眼光。そして体躯程の長い尻尾。バラエティの顔が一瞬で真っ青になった。「キッショアアアアア!!」それは甲高い奇声を上げた。「『きっしょああ』?あのねキミ、いきなり人に向かってキショイとは何事スか」「リザードマンですぁああ!!」バラエティはトカゲ男に向かって何かを投げつけた。―パァン!!それは破裂音を響かせた。かんしゃく玉だ。「シャアアアアアア!!」リザードマンと呼ばれた怪物が驚いて飛びのいた。「うおあ!?」ゼノコードが驚いて振り返る。「ゼノコード!!早く車内に戻れ!!あれは凶暴な砂漠獣、リザードマンですぁ!!」「リザードマン!?あれが!?初めて見たッス!!」ゼノコードはファスナーを閉めながら慌てて助手席に戻った。「で、でもかんしゃく玉で怯む程度なら大した砂漠獣じゃないんじゃね?」「君は何もわかっちゃいない」バラエティが苛立ちながらアクセルを全開にした。「リザードマンは群れで行動するんですぁ!!」―ばああん!!何の音かわからなかった。だが、爆音に近いその音が、周囲の砂漠の砂が一斉に巻き上がった音だと気付くのには時間はかからなかった。「!?」バックミラーを見ると、さっきまで静かだった砂漠が、全て茶色になっているではないか。更にその茶色が、全て蠢いているのだ。「あれ全部リザードマン!?」真後ろは数え切れないほどのリザードマンでいっぱいだった。それらは車でも追い付かれるほどの素早さで追いかけて来ている。「速ーっ!!」ゼノコードが仰天して声を上げた。「バラっち!!バラっちもっとスピード上げて!!」「これで全速力ですぁ!!」リザードマンが一匹、また一匹と【ロード】に飛びついて来る感覚が、車の揺れでわかる。「荷台に乗り込まれた!!アイツらはああやって積み荷を盗んだり運転する者を襲うんですぁ!!」「やばいじゃまいか!積み荷が盗られちゃう!」ゼノコードはシートベルトを外した。それを見てバラエティはギョッとした。「何をするんですぁ!!」「運転は任せるよッ」ドアを開け、ゼノコードは車体の外に出た。ボディにしがみつきながら荷台へ移動すると、カバーの隙間からリザードマンが3匹、荷台の中に乗り込んで積み荷を触っているのが見えた。食べれる物か確かめているようだが、下手に衝撃を与えられたらまずい。カバーの隙間から潜り込み、ゼノコードは荷台の中に入った。「無賃乗車はいただけないね」ゼノコードが話しかけると、リザードマン達は一斉に赤い眼光を向け、牙を剥いて襲い掛かってきていた。「悪いけど出てっておくれよ。吾輩の初めての運送任務なんだ」そう言いながら、ゼノコードは右腕を引き下げて左手の指をリザードマン達に向けた。「風・輸送!!」衝撃音が3発響き、荷台からリザードマン3匹が吹っ飛ばされた。「何事ですぁ!?」「運転に集中して」ゼノコードは荷台で身構えながら後方を見つめる。リザードマンは一斉に【ロード】に飛びかかった。「風ええ…」ゼノコードは両腕を後方に引き下げた。「極卍(ごくまんじ)ぃッ!!」―ズドドドドドド…無数の竜巻が大きくうねりながら、雨のように荷台から放たれた。リザードマンの群れはそれに叩きのめされ、空中を舞い、砂漠へと舞い散っていった。「ふう」ゼノコードは荷台の中で、積み荷の横にどかっと座り込み、大きくため息をついた。リザードマンの群れはもう追ってきてはいなかった。敵う相手ではないと察知したのだろうか。「ゼノコード君、大丈夫ですかぃ?」バラエティの心配そうな声がする。「問題無いよ」ゼノコードは答えた。「バラっち、アンタの運転はとても心地がいい」そう言って、彼は笑みを浮かべた。・・・気付けば砂漠地帯から一変、ゴツゴツとした山岳地帯へと道は変わっていた。相変わらずギラギラと照り付ける太陽が、その岩山を照らしている。ガンマキャニオン。かつては宝石の鉱脈として栄えた山岳地帯である。【ロード】はしばらく山道を走っている。岩山を右に沿って走る道は狭く、左側を見ると険しい崖で、真下を見るだけで気が遠くなりそうだ。「うへえ…バラっちぃ、ほんとに大丈夫かい?」ゼノコードは荷台から運転席に話しかけた。「落ちたらシャレにならないよ?」「大丈夫、この道が一番安全ですぁ」バラエティは余裕たっぷりな声色でそう返した。「ならいいんだけどさ…」「うっ!!」突然急ブレーキがかかった。「うわああ!!」車体が大きく揺れ、ゼノコードは荷台から弾き飛ばされそうになった。「どうしたんだよ!?」「いやあ…ははは…道が崩れてますぁ」見ると、前方の山道が欠けたように崩れ落ちてしまっている。崩れている個所はおおよそ3メートル程か。これでは通れない。「ちょ、どうすんだよぉ」「仕方ない、後退しますぁ」「バックすんの?この一本道を!?だいぶ走ったよ!?」「だって仕方がないでしょうがよ」ゼノコードは荷台から顔を出し、周囲を見回した。「あっ」荷台から降り、どこかへと走って行った。かと思えば、「これを使おう」そう言って持ってきたのは分厚く長い木の板だ。かつて鉱山として栄えていたので、その時にでも使われていた資材であろう。「そりゃあいい、それを橋に使えば渡れそうですぁ」運転席の窓からそれを見たバラエティは、ホッとしながらそう言った。「さっそく【ロード】の前方に移動しやしょう。板を運べるスペースがありやせんから、壁を伝いやしょう。待ってて、今命綱を出すんで」ゴソゴソと助手席のグローブボックスからロープを取り出そうとするバラエティの前、【ロード】のフロント前に、ゼノコードが空中を飛びながら移動してきた。「!!!」ギョッとするバラエティをよそに、ゼノコードは欠けた山道の上に板を置いた。「これでいい?」助手席に乗り込みながらゼノコードは楽しそうに聞いた。「あ…」【ロード】は板を乗り越えて再び山道を走り出した。「すごいね、君の力。風を操るそれ」バラエティは慎重に運転しつつそう言った。「え?ああ、風の命力(グレット)の事?大した力じゃないよ」ゼノコードは照れくさそうに頭を掻いた。「力任せに風を両手と足から撃てる程度の力さ」「でも、空も飛べるし、砂漠獣も吹き飛ばせるほどの力じゃないか」バラエティは微笑んだ。「誇るべき力ですぁ」「何だか照れるね」ゼノコードは苦笑していたが、いきなり目を見開き、身を乗り出した。「んっ…?」「どうしやした?」「あれじゃまいか?鉱山の入口が見えるよ」見ると、道の先に、開けた場所があった。壁に大きな穴があり、入口は木製のものであった。「間違いない、あれが運送先ですぁ」「着いたねえ~!!」【ロード】は鉱山の入り口前で停車した。「そっち持ってつかぁさい、慎重にね」「OK!」バラエティとゼノコードは、荷台から木箱を慎重に下ろした。「で、これからどうすればいいの?」ゼノコードが聞く。「うーん…どうすりゃあいいんですかね、鉱山の入口で待ち合わせをしているんだが。人っ子一人いやしない」しばらく沈黙が続いた。ゼノコードは周囲を見回しながら、ふとバラエティに聞いた。「この任務ってそんなに難しかったのかな」「へ?」バラエティがゼノコードを見る。「確かにリザードマンの生息地を通り抜けるのは危険だったけど…ガンマキャニオンの山道を走るだけの簡単な仕事じゃまいか…他のギルドの連中は、その任務をどうして受けなかったんだろうね」「…!!」バラエティは確かにそうだと思った。すると―「お待ちしておりました」真後ろから声がしたので仰天した。「ひい!!」バラエティがゼノコードに飛びついた。振り返ると、背が高く、屈強な男が立っていた。屈強だが、肌の色はやけに青白く、頬もこけていた。黒髪もボサボサで肩まで伸ばしている。その顔も髑髏のような生気のない顔つきで、まるで亡霊のような男だった。「もしかして、アンタはブレイズさんの?」ゼノコードも恐る恐るそう聞くと、男は頷いた。「私はイレイズ。ブレイズは私の双子の弟です」「そうですか、双子かぁ、道理で似てると思った!」ゼノコードが楽し気に言う中、イレイズはチラリと木箱に視線を向け、笑みを浮かべた。「…では、奥で報酬のキンカをお渡しします」イレイズがそう言うと、入口から複数の男達が走り出て来た。黒い装束を着ている。「!?」ゼノコードはその服装を見て表情を険しくさせる。男達は一斉に木箱を抱え、軽々と鉱山の中へと運び始めた。「丁寧な御方じゃないですかぃ。大丈夫そうだよ」バラエティは安心した顔でゼノコードに言った。「さ、こちらへ」イレイズが鉱山の入口に向けて手を差し出した。・・・鉱山の中は一定の感覚でランプが天井にぶら下がっており、淡く内部を照らし出している。バラエティとゼノコードはイレイズに連れられ、長い通路を歩かされていた。通路はいくつも入り組んでおり、まるで迷路の様だった。「迷いそうだな」ゼノコードはそう言いながら、チラッと後ろを見た。二人の真後ろには屈強な黒装束の男が歩いている。「ど、どこまで奥深く行くんですかね?こ、こういうところって、地上に建物とかあるもんじゃないですかぃ?」バラエティが不安そうに周囲を見回しながらそう聞いた。「ありません。生憎、貧乏なもので」イレイズが即答する。「…」一同は薄暗い坑道を歩き続ける。「ゼノコード君どうしたんですかぃ?さっきから。ずっと黙ったまんまじゃないか。まだ何か気になるんですかぃ?」バラエティが前方を歩くゼノコードに声をかける。「…バラっち」ゼノコードが振り返る。「おかしいとは思わないかい?この鉱山の人達は、爆薬が無いから仕事ができなかったはずなんだろ?なのに…皆やけに元気そうじゃまいか」「…え?」「それに、鉱山にしては、随分と古そうだ。手入れも雑だし、何十年も使って無さそうだ」ゼノコードが小声で話す中、バラエティの顔色も曇り始めた。「何よりも、黒装束は鉱山で働くような人が着るもんじゃない」ゼノコードがそう言った時、開けた空間に一同は出た。「そこに置け」イレイズが言うと、男達は地べたに木箱を置いた。「運送屋の皆さん、ご苦労様でした」イレイズは懐からキンカの詰まった袋をバラエティに差し出した。「これが報酬のキンカです」「あ、ありがとうございやす」バラエティはキンカの袋を受け取りつつ、周囲を見回した。いつの間にか黒装束の男達が更に増えており、バラエティとゼノコードは取り囲まれていたのだ。「皆も感謝したいそうです」と、イレイズ。「いやー、喜んでもらえて光栄っす」ゼノコードが短くそう言うと、バラエティの腕を掴んだ。「行こうよバラっち」「へ、へえ。ご利用ありがとうございました!」男達の間をかき分けるように二人は歩き出した。全員が二人をジッと見つめている。「走れ!!」ゼノコードの声にバラエティも走った。鉱山の通路を夢中で走る。「ぜ、ゼノコード君、どういう事ですかぃ!?何で逃げるの!?」息を切らしながらバラエティが聞くと、「黒装束は盗賊が好んで着る服ッス!騙された!!ここは多分、盗賊共の根城だ!」ゼノコードも走りながらそう答えた。「と、盗賊の根城!?」「廃墟や廃れた鉱山は盗賊にとって恰好の隠れ家になるんだ!とにかく走って!!急いでここを出よう!」二人は夢中になって走り続けていた。その時―突然二人の身動きが取れなくなった。「ぐわあ!!」身動きが取れないまま、空中にぶら下がってしまった。「逃げられると思っていたのか?」イレイズが黒装束の男達を従えて歩いて来た。彼の持つランプに照らされたゼノコードとバラエティは、網にかかった魚のように、巨大な網に包まれていた。「これは…!!」ゼノコードは網を見て声を上げる。「すばしっこい奴らだ。罠を仕掛けておいてよかったよ」と、イレイズはニヤニヤ笑っている。「ひいいいいい!!」バラエティが悲鳴を上げる。「お前の予感通り、ここは盗賊のアジトだ。それも、グシャナ一味のな」イレイズはゼノコードに顔を近づける。「グシャグシャ…?」ゼノコードが顔をしかめると、「グシャナ一味!?」バラエティが叫んだ。「知らないんですかィ!?泣く子も殺し、国をも支配する恐怖の盗賊王、グシャナ!!彼の統率する盗賊団は一国の軍隊以上の勢力にも及ぶと言われていますぁ!!」「そう、そうだよ運送屋さん。俺達の大頭、グシャナ様はそれほどの御方だ」イレイズがそう言うと、周囲の黒装束の盗賊達も笑いだした。「で、俺はそのグシャナ様の一番の部下、イレイズだ。弟のブレイズはよく頑張って働いてくれたよ」「爆薬で何をする気なのさ?」ゼノコードが険しい顔で聞く。「皆で楽しく花火大会でもする気かい?」「爆薬?」イレイズは笑う。「お前ら馬鹿正直だな、本当に木箱の中を確かめていなかったのか?」盗賊達が木箱を運んできた。「見ろ」木箱の蓋を開けて見せる。「!?」中にあったのは、爆薬なんかじゃなかった。それは箱いっぱいに詰まった衝撃吸収材で、中央には一枚のデータディスクが入っていた。「爆薬じゃない!?そのディスクは何ですかぃ?!」バラエティが怯えながらそう言った。「盗賊無勢が手に入れたいデータなんて限られる。帝国の見取り図だよ」ゼノコードが答えて、バラエティがギョッとした。「そうだろ!?」ゼノコードが声を荒げた。「キャリア帝国に襲撃をかけるつもり!?」「そうそう、難攻不落と言われるキャリア帝国の設計図。地図、セキュリティコード。それだけじゃない、帝国にあるセキュリティの配置図、それらを全てまとめたデータディスク…ブレイズが全て集めてくれたよ」イレイズはデータディスクを手に取って笑う。バラエティの顔がみるみるうちに真っ青になっていく。「これさえあれば…グシャナ様は帝国を手にする事ができる…俺達は無敵だ…っふふふふふ…」「帝国の見取り図手に入れたくらいで帝国を手に入れられるわけないだろ」笑うイレイズに向かってゼノコードは冷めた顔でそう言い返した。「何だと!?」部下の盗賊達が声を上げる。「言わせておけ、負け犬の戯言だ」と、イレイズ。「それを言うなら負け犬の遠吠えだろ」ゼノコードが鼻で笑った。その時―鈍い音と共に、ゼノコードの腹部にイレイズの拳がめり込んだ。「うぐふぅ!」「ぜ、ゼノコード君!!」呻くゼノコードにバラエティが慌てて叫んだ。「戯言なんだよ。負け犬はそうやって余裕があるよう装いたいから戯言を叩くんだ」イレイズはディスクを見ながら笑い声を上げ、歩き出した。「処刑しろ」「はっ!」盗賊達が機関銃の銃口を二人に向けた。「ひいいいい!!や、やめてつかぁさい!!」「一つ聞かせてよ」ゼノコードが呻きながらイレイズに聞いた。「何で吾輩達を選んだんだい」「レベルの低そうなギルドを選びたかったからだ。あまりにも有名なギルドだと運送依頼を出した段階で帝国も怪しむし、この場に来た際に運送屋の警戒も強まる可能性があった」イレイズは即座に答える。「事実、こうやって間抜けに罠にかかってくれたじゃないか。お前達を選んで本当に良かったよ」「…」バラエティは悔しそうに目をギュっと閉じた。「それは勘違いッスよ」ゼノコードの胸元が光った。「何!?」盗賊達がたじろいだ。「吾輩達のレベルは低くない。バラっちは素晴らしい運送屋だ」すさまじい風圧が巻き起こった。「ぎゃあああああ!!」周囲の盗賊が吹き飛ばされる。「命力(グレット)!?アイツ魂技(ソウルアーツ)が使えたのか!?」イレイズが振り返る。「まずい、あの網はそんなに丈夫ではない。破られる前に処刑しろ!!」イレイズが叫ぶのと、網が竜巻に切り裂かれたのは同じタイミングだった。「よっと」ゼノコードは回転しながら地面に着地する。「さあ、反撃開始ッス」だが、「ひええええ」放り出されたバラエティがすぐさま盗賊に捕まっているのが見えた。「ちょ!!何捕まってんのさ!?」「撃てえ!!」盗賊達が銃弾を乱射してきた。「ちょおまあ!バラっち勘弁してよねええ!!」ゼノコードは両足から竜巻を放ちながら、通路を猛スピードで飛んで行った。「飛んだ!!速い…」盗賊の一人が驚く。「イレイズ様、コイツだけでも処刑しますか!?」バラエティに銃口を突き付けながら、別の盗賊が言った。「いや。まだ殺すな」イレイズはその銃身を手で押しのけた、「おい運送屋ァ!!仲間が殺されたくなかったら出て来い!!」そう叫びながら、ディスクを掲げた。「どの道これを返してほしいんだろ?だったらお前もここから出れないはずだよなァ。ふふふふふふ…お前らはどの道俺の手の平の上で踊らされてんだよ…」「踊る?じゃあ歌でも歌いましょうか?」物陰からゼノコードは皮肉を漏らした。「コイツを牢に閉じ込めておけ」盗賊に命令をしながらイレイズは奥へと歩いて行った。「仲間が現れたら俺を呼べ。ヤツは俺が仕留める」「わかりましたイレイズ様」「ひいい、ひ、引きずらないでぇええ…」バラエティの弱弱しい悲鳴が、鉱山の中に響き渡っていった。・・・「バラっち…」誰もいなくなった鉱山で、ゼノコードは立ち上がった。「あーあ…どうしっかな」ゼノコードは薄暗い通路を歩きながら、前後を警戒している。「バラっちはどこに連れていかれたんだろう」ふと、立ち止まって近くの物陰に身を潜めた。盗賊が3人歩いて来る。「…」このままではゼノコードのいる場所までやって来てしまう。ゼノコードは右手の平をそっと手前に向けた。そよ風が手の平からふわっと流れ出る。風は流れに乗って盗賊の一人の首筋に当たった。「ん?」盗賊が首を押さえて後ろを向いた。「どうした?」「いや…何かが通り過ぎたような気がして」「気のせいだろ。誰もいなかったぞ」盗賊達が話をしている隙に、ゼノコードは目の前を通過し、足音を立てずに通路を突き進んだ。「目印も何もない。これじゃあ迷えと言われてるようなもんだ」盗賊は至る所にいる。全員と戦ってもいいが、それではきりが無いだろう。それに―「バラっちが人質になってんだ。むやみに目立てないや」その時、イレイズが目の前の横穴から出て来るのが見えた。「!!」慌てて隠れると、イレイズはゼノコードがいる方向を少しだけ見たが、気付かず、すぐに向き直って歩いて行った。「イレイズが出て来た。もしかしたらあそこにバラっちがいるのかも…!!」ゼノコードはイレイズの出て来た横穴に入った。そこには階段があった。木でできた階段は、はるか下まで続いている。ゼノコードはその階段をゆっくりと降りていく。しばらく降り続けたところ、湿っぽく薄暗い空間に出た。「ここは鉱山とは違うようだね」そこには厳重な鉄格子があり、松明が弱弱しく辺りを照らしている。「牢獄…バラっちはいるかな」ゼノコードは松明を燭台から外し、鉄格子へと近づいた。何かがいる。「バラっち?」話しかけると、その何かがピクッと動くのが見えた。「そこにいるのかい?」「…」それは答えない。バラエティじゃない。「…誰?」ゼノコードは松明を掲げ、目を凝らした。牢獄の中に、少女がぶら下がっていた。「!?」少女は両腕を手錠で拘束され、天井から吊られていたのだ。「なっ…大丈夫!?」ゼノコードは慌てて周囲を見渡した。部屋の隅にあるテーブルに鍵があった。「待ってて、今開ける!」それを取って、鉄格子の扉に駆け寄った。鍵を開け、扉を開けると、ゼノコードは松明を持ってその少女に近づいた。少女は吊られた状態のまま、顔を上げてゼノコードを見ている。近づくにつれ、少女の姿が鮮明に確認できた。「…!!」そこにいたのは、美しい黄緑の長髪を持っている、黒装束を纏った少女だった。その肉体は洗練されており、芸術的な筋肉を持っている。その顔つきは無表情だが、息を呑むほど美しかった。「綺麗だ…」思わずゼノコードは声を漏らした。青い瞳を持つ少女は、そんなゼノコードに向かって、一言。「五月蝿い」
2020.08.14
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薄暗い洞窟。砂漠地帯に存在する荒野。ガンマキャニオン。その奥深くに、古びた廃坑があった。かつてはダイヤモンドが大量に発掘され、栄えていた鉱山であるが、今はその面影もない、ただの人工洞窟である。その洞窟に住み着くのは、コウモリやトカゲ、そして盗賊だ。この廃坑は盗賊達のアジトと化していた。廃坑の奥深くで盗賊達は酒を飲み、談笑していた。「この間、インストリア国の秘宝の情報が入ったってよ」「大頭(おおがしら)の耳に入ったのか?」「ああ、三頭(さんがしら)共々、次の狙いはインストリアだとよ」「そりゃあ大仕事だな!!」笑い声は反響し、洞窟の更に奥へと流れていく。地底奥深くに、湿っぽく、真っ暗な空間があった。その空間には大きな鉄格子がある。盗賊達が作った牢獄だ。中に、人がいる。その人間は、両腕を鎖の手錠で縛り付けられており、天井から吊り下げられていた。獄内の壁にくくりつけられた松明に照らされ、その人間がかろうじて少女である事はわかった。黄緑色の長い髪を揺らし、少女は目を開いた。「騒々しい」彼女はこの物語の主人公の一人である。名前は、まだ無い。第2運送…一枚の運送届・・・砂漠の向こうから顔を出す太陽、差し始める太陽光に照らされ、キャリアキャッスルが美しく輝いている。そんなキャリア帝国の最縁街にあるエターナル・キャリーギルドにて、ゼノコードはキャリナーになって初めての一日を迎えていた。そもそもキャリア帝国には、帝国街、中央街、最縁街といった三つの街がある。キャリアキャッスルを囲むようにできた帝国街。Jストが集中している中央街。そして、寂れた最縁街。中央へ行けば行くほど人々が多く賑わっていくのだ。だが、最縁街にも静かでのどかな雰囲気がある。これもこれでいいもんだ。「どうスか!?バラっち!」最縁街の広場にて、ゼノコードは自身の服装を見ながらウキウキとしていた。黒のアンダーアーマーにオレンジのジャケット。黒にオレンジのラインのズボン、グローブとブーツは白とオレンジを基調としている。腰にはCARRIESのロゴが刺繍されたエプロンを縛り付けている。これはCARRIES本社から支給される運送着である。「とても似合っておりやすよ」バラエティは嬉しそうにそう言った。だが、すぐに怪訝そうな顔に変わった。「…バラっち?あっしの事ですかぃ?」「バラエティだからバラっちッス」「…一応先輩なんですけど?」「吾輩は誰に対してもフレンドリーに接する事をモットーとしてる!それにバラっちは先輩だから敬意を込めて敬語を使ってるッス」「それ、敬語なんだ…」バラエティは苦笑した。「それにしてもいい国だね」ゼノコードは広場の手すりから身を乗り出し、帝国を見下ろした。美しいオレンジの屋根、見上げると巨大なキャリア・キャッスルが佇む。平和で、豊かな国だ。「そうでしょう?」バラエティが笑顔でゼノコードの横に立った。「あっしはこの国が大好きですぁ。自由と平和を愛し、無限の可能性に溢れるキャリア帝国が。ランティーゴが愛したように、あっしもこの国を愛していますぁ」「吾輩もそうなれるかな」ゼノコードがポツリとつぶやくと、その肩をバラエティは叩いた。「なれますぁ。ランティーゴを尊敬しているなら、尚更ですぁ」「そっか!」ゼノコードは笑顔で頷き、空を見上げた。あの青い空の下で、ランティーゴはまだどこかで生きているのだろうか。絶望しきっていたゼノコードに生きる道を広げてくれたランティーゴに、また会いたい。・・・エターナル・キャリーギルドにて―「さてゼノコード君、CARRIESのルールを説明いたしやしょう」バラエティはゼノコードとガレージに向かって歩きながら喋り始めた。「ルール?」「そう、CARRIESにはいくつかのルールがありやす。ルールを破ると罰金や謹慎、最悪の場合運送屋の免許をはく奪されてしまう事もありやす」「マジっすか!!」「ゼノコード君は新人ですからね、基本的なルールを説明いたしやしょう」バラエティは笑顔で人差し指を立てた。「まず一つ。運送屋は所属するギルドに届く運送依頼を受ける事。これは逆に言えば、他のギルドの運送依頼を受ける事は、そのギルドの仕事を奪う行為なので禁止だという事ですぁ」「つまり受けられる仕事はそのギルド内に届く依頼だけって事ッスか」「そうですぁ」バラエティは続いて二本指を立てる。「二つ。運送依頼は依頼先に運送物を届ける事で達成される。途中で運送物を無くす、破損させてしまうと報酬はもらえやせん」「うーん、そりゃそうだよね」「三つ」バラエティは微笑んだ。「お客様は神様だ。敬意を払う事。」「…!!」ゼノコードも笑みを浮かべた。「この三つのルールはランティーゴが作ったルールでもありやす。特に三つ目はCARRIESの理念でもあるんですよ」「そっか…!!」ゼノコードは目を輝かせている。「他にもルールは細かいものがいくつかあるんですが…それも追々説明いたしやしょう」「OK!!ところでバラっち!我がギルドエターナルの運送依頼はあるのかい!?」ゼノコードがそう問いかけるのと、バラエティがガレージのシャッターを開けるのは同時だった。「ちょおまあ!!」ゼノコードは歓声を上げた。ガレージ内にあったのは、真っ赤なボディのトラックであった。車体には4つの車輪があり、それに加えて車体の前部には車輪が一つ取り付けられている。5輪トラックだ。荷台には薄茶色の布製カバーがある。ボディはところどころ色が剥げており、錆も目立つが、何十年も走り続けたのであろう、力強い見た目をしていた。「すげえ!トラックじゃまいか!!レトロなデザインっすね!!」「エターナル・キャリーギルドが誇る運送専用車両、【ロード】ですぁ」バラエティが説明をする。「通常は前輪駆動式ですが、切り替えによって全ての車輪も駆動可能。荷台には最大で2.5トンまで積む事ができます。丈夫で馬力もあるので砂漠などの足場が不安定な場所でも難なく走行する事ができます」「なるほど!!これに乗って運送しに行くんスね!?」ゼノコードが楽しそうにバラエティに聞くと、その手に雑巾とバケツが渡された。「んっ?」「車体の掃除ですぁ!」バラエティは張り切りながらホースの水を【ロード】にかけ始めた。「もう2年間も走っておりやせんからねぇ!きっとコイツも喜んでおりやす!!」「ちょちょちょちょ!!」ゼノコードがバラエティに飛びついた。反動でホースの水がゼノコードの顔面に当たる。「ウォバシャア!!」「ありゃりゃ!!急にどうしたんですかぃ!?」バラエティは驚いて水を止める。「ぺっ!!ぺっ!!運送依頼は!?今日の仕事はトラック洗浄なの!?」ゼノコードが慌てていると、バラエティは苦い顔で横を向いた。目線の先、ギルドの庭にはオンボロな木製看板が立てられていた。「あのボロ板が何?」と、ゼノコード。「あれはキャリーボードと言って、運送依頼の書かれた用紙、運送届があれに貼られるので、そこから運送依頼を受けられるシステムなんですぁ」「ああなるほど!」ゼノコードは納得しながら、キャリーボードもといボロ板を見る。「まっさらじゃまいか」そう言った途端、トタンとボロ板は倒れた。「これが我がチームの現状。人気のないギルドには、運送依頼が全く来ないんですぁ」バラエティはゼノコードの肩を叩いて、ホースの水を出し始めた。・・・翌日―「くぁ~」ゼノコードは大欠伸をしながらガレージ内で身を起こす。【ロード】を洗浄したら疲れたのでそのまま寝てしまったらしい。見ると、【ロード】は朝日に照らされて光沢を放っていた。「…!!」ゼノコードは笑みを浮かべる。【ロード】は左側が運転席になっている。ドアを開け、意気揚々と運転席に乗り込むと、「うわぁ~♪」ハンドルやギア、メーターを見ながらウキウキとしている。「んん…」同じく横になっていたバラエティが顔を上げると、「んんと…キーをさしてまわしたら、つぎにハンドブレーキをかいじょして…」運転席でゼノコードが指をくわえてブツブツつぶやいている。「んんと、んんと」「…何やってんですかい」バラエティが運転席の窓を見上げながらそう聞いた。「走らせてみようかと思って!!」ゼノコードが嬉しそうにそう言った。そして、指をくわえてたどたどしくハンドルをさすりだした。「ゼノコード君、運転免許あるの?」「ある!!…よ…ペーパー…だけど」「一応言うけど、そこはキーを差すとこじゃなくてエアコンの送風口だよ」「ハッ!!」気まずい空気が流れる中、一人の少年が庭に入って来た。オレンジ色のキャップをかぶっており、肩には大きなバッグを背負っている。「ちょおま!!バラっち、不法侵入者っすよ!!」ゼノコードが血相を変えて叫ぶと、バラエティは笑った。「はっはっはっは!侵入者じゃありやせんよ、あの子はペーパーボーイと言って、他にも大勢おりやす。新聞配達のバイトみたいなもんですぁ。CARRIES本社に集められる運送届をああやって各ギルドのキャリーボードに貼っていくんですぁ」そう言って、「運送届だとおおおおおおおおおおおおおお!?」ゼノコードと同時に叫んだ。慌ててガレージから飛び出すと、ペーパーボーイの少年はギョッとしながらも庭に倒れているキャリーボードを起こして、一枚の運送届を貼り付けた。群がるようにゼノコードとバラエティがキャリーボードに駆け寄った。「ひいい!!」ペーパーボーイは逃げるように走り去ったが、目もくれずにバラエティは貼られた運送届を手に取った。「ばばばばバラっち」ゼノコードが息を呑みながら言うと、バラエティは泣きそうな顔を向けた。「間違いありやせん…う、う、運送届ですぁ…」数秒間の沈黙と、「いやっほぉ~!!」ゼノコードの歓声が上がり、上空まで飛び上がった。「に、2年ぶりですぁ…久々の仕事ですぁ~」バラエティは膝から座り込み、運送届を握り締めて泣きじゃくっている。「早速引き受けようよ!!初めての運送依頼!!吾輩頑張るよ!!」着地したゼノコードがそう言うと、バラエティは涙を拭いながら立ち上がった。「ああ!!」・・・「ご苦労さん」中央街の路地裏で、一人の男がペーパーボーイに袋を手渡した。袋の中には大量のキンカが入っている。「わあ…ありがとう!!」ペーパーボーイの少年は嬉しそうに走り去っていく。「なあに」無精ひげを生やした、身長の高い男は、静かに踵を返した。黒いコートを羽織っているが、その中から覗く胸板には、角の生えた真っ赤な髑髏の刺青が彫られていた。「全ては莫大なる富の為に」
2020.08.02
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視界いっぱいに広がるのは灼熱の炎。爆音、轟音、人々の悲鳴。砂と火薬と血の匂い。悪夢の様だ。ここは戦場だ。しゃくりあげながらその少年は、炎の地獄の中をトボトボと歩く。15歳くらいの、幼さが残る少年。彼の頭上には黄色い球体の揺れる触角があった。「大丈夫か?」声がした。見上げると、そこには背の高い褐色の男が立っていた。ボサボサの黒髪をなびかせている男は、オレンジ色のジャケットとズボンを着こなしていた。「君、戦争は怖いか?」男の問いに少年は頷いた。「そうか」男は少年の服を見た。「国家戦士か」少年は国家戦士の白い制服を着ていた。「国家戦士は楽しいか?」少年は首を振った。とても、辛そうだ。絶望しきった顔だった。「なら、吾輩の元に来なさい。一緒に運送業をしないか?」男は微笑んだ。「え…?」「仕事は楽しくなきゃな。吾輩は楽しいよ。この仕事は、吾輩の生きがいだ」「生きがい…?」「そうさ、それに吾輩には夢がある」男は少年に囁くように言った。「吾輩の夢は、世界中のお客様全員を笑顔にする事だ」そう言うと、男は膝をついて少年の目線に合わせた。「吾輩の名はランティーゴ。君は?」「吾輩は…」少年はつぶやいた。「吾輩は、ボス・ゼノコード」第1運送…ようこそCARRIESへ・・・それから3年の月日が経って―・・・環境破壊によって砂漠化した世界、広大な砂漠には進化を遂げて凶暴化した砂漠獣がはびこる。砂漠地帯では法は存在しない。国は一つ一つが城壁を作り、この無秩序な世界から身を守り、孤立しつつある。さて、そんな砂漠地帯のど真ん中にキャリア帝国はある。遠くから見ても目立つのは、中央に建つキャリアキャッスルである。鉛筆のような塔が何本もまとまったような形状をしており、その周囲を囲むように円形の城壁がいくつも建てられている。城壁の外側にはトンネルが無数に開いており、そこから道路が葉脈のように枝分かれして伸びている。ここからトラックなどの車両が走り出て世界中に走り出すのである。トンネルは帝国の出入り口でもある。可能性を信じる人々が砂漠の危険を生き抜いてまでここまで辿り着き、このトンネルをくぐるのだ。この帝国で成功を治め、富と名誉を築く人間は多く、いつしかキャリア帝国は“夢と可能性の国”とも呼ばれるようになったのだ。トンネルをくぐると、美しい街並みが見えて来た。帝国にはオレンジ色の屋根の家々が建ち並んでおり、それに入り混じって商店も多く存在する。食品、衣服、武具、玩具…色々な物がここで売られ、とても活気に溢れている。面白いのは、その街並みの見える国内は、中央のキャリアキャッスルに向かってすり鉢のように緩やかに斜めになっている事だ。中央へ向かえば向かうほど商店も多くなり、人々の賑わいも増していくので、人々は中央へと自然に向かっていく。この流れが非常に緩やかな事から、キャリア帝国の商店街をJC(ジェットコースターの略)ショッピングストリート、通称“Jスト”と人々は呼んでいる。さて、町の中には、オレンジ色の旗がたなびいている。旗には白の円形にCARRIESのロゴが描かれている。CARRIESの旗だ。あの旗がある場所には、CARRIESのギルド、キャリーギルドがある。何かものを届けたい、国を移動したいという人々が、このキャリーギルドへと訪れる。・・・「ここがキャリア帝国名物のJストかぁ」薄汚れたマントを羽織る青年、ボス・ゼノコードは、オレンジ色に輝く街並みを見下ろしながら、負けないぐらいに目を輝かせている。頭上で揺れる触角が日光に反射して光っている。「ランティーゴ…待たせてごめん!!吾輩は一流のキャリナーになって、お客様の希望になる!!」そう言って、ゼノコードはJストの坂道を走り出した。つまずいて、転びそうになる。「うおっ!?危ない!!」「ここで転んだら一気に転がり落ちちまうぞ!!」近くにいた人々が声を上げた。が―ゼノコードは消えていた。「え?」ぶわあっ!!と、凄まじい風圧が巻き起こる。「OK!!HERE!!WE!!GO!!」ゼノコードは両足から竜巻を噴射し、風圧に乗って飛んでいた。「待っててねランティーゴ!!目指すはエターナル・キャリーギルドォーッ!!」ゼノコードは楽しそうに叫びながら空を滑空していった。「…エターナル・キャリーギルド?」人々は、表情を曇らせた。・・・「迷った…」Jストのど真ん中でゼノコードは腕を組んでいる。「見てお母さん!!あのお兄ちゃん頭に風船付けてる!!」「しっ!!見ちゃ駄目!!」周囲の人々はゼノコードの頭上の触角を奇異の目で見ているが、ゼノコードは特に気にもしていない。「うーん…ランティーゴがいるぐらいだから、かなり賑わった場所にギルドはあると思うんだけどねえ」ふと、帝国中央にあるキャリアキャッスルを見た。「そっか!!キャリアキャッスルにはCARRIESの本社がある!!あそこで聞けばいいんじゃないか!!」喜び勇んでキャリアキャッスルへと走る。ゼノコードが走る度に、Jストの商店が風圧で大きく揺れる。「何なんだあの男…」人々は風圧に飛ばされないようにしながら、ゼノコードを見つめる。「ありゃあ命力(グレット)だよな?」「ああ。だが、あそこまで強烈な命力、初めて見たわい」・・・CARRIES本社は、キャリアキャッスルの真横に建てられている。伝説のキャリナーと呼ばれたランティーゴが、キャリア帝国皇帝の聖キャリーアンドリュー四世に認められ、キャリアキャッスルの近くに本社を起ち上げる事を許されたのだ。「ランティーゴのおかげでCARRIESはこんなにでかい会社になったんだ!!すごいなあ!!」ゼノコードは嬉しそうにCARRIES本社を見上げている。巨大な長方形のビルを、4つの四角形のビルが四方を支えているような形状だ。また見事なオレンジ色のビルである。てっぺんにはCARRIESのロゴがペイントされている。自動ドアをくぐり、清潔感溢れるロビーを歩き進むと、奥に円形のエントランスがある。そこに、青い髪を持つ美しい女性が座っている。眼鏡越しに透き通った青い瞳がある、知的な雰囲気を放つ美女だ。その女性はゼノコードを見るなり、彼の頭上の触角をギョッとしながら凝視した。その後、怪訝そうに眼鏡を整えながら、「何か御用でしょうか?」そう聞いた。「吾輩はCARRIESでキャリナーをやりたくてこの国にやってきました!!ボス・ゼノコードッス!!」元気の良い声に、女性はキョトンとしている。「吾輩は運送をやりたくて!!で!!このキャリア帝国に憧れているキャリナーがいて!!だから会いに来たんス!!一緒に仕事がしたくて!!本社にまで来れるなんて感激ッスよマジで!!にひひひひひ!!」「あの」女性はゼノコードの早口を、少しだけ語気を強めて制した。「ふぇ?」「…」女性はため息をつくと、チラリと右横に目線を向けた。「…?」ゼノコードも視線を向けると、カウンター型のデスクで何かの用紙に一心不乱に記入をしている人々が大勢いた。「入職したいのなら、あちらで入職希望届を記入してください。案内されたデスクに提出したら、結果に応じて筆記試験と軽い面接を受けていただきます。合否の結果は後日メールにて送らせていただきますので、ケースライドでも構いませんので入職希望用紙にスライドナンバーを記入してください」女性は淡々とした口調でそれだけ説明すると、ゼノコードの後ろを覗くように身体を傾けた。振り向くと、ゼノコードの後ろには大勢の人間が並んでいる。スーツを着ていたり、高価そうな衣服を着た人間ばかりだ。「質問は以上でしょうか?」女性がそう言うと、ゼノコードは笑顔で女性にこう言った。「キミ、名前は?」「は…」女性は驚いた顔を浮かべた。受付を淡々とこなすだけだった自分にとって、名を聞かれるなんて初めてだったからだ。「色々教えてくれてありがとう!!名前を教えて欲しいッス!!」「…ルーナティアです」「OK!覚えておきます!!」ゼノコードは元気よくそう言うと、「待たせてすいませんした!!」後ろに並ぶ人々に向かって深く頭を下げると、元気よくデスクの方へ走って行った。「変わった人」ルーナティアは戸惑いながら眼鏡を整える。「誰かに似てるわ…あ」思い出したようにルーナティアは声を漏らした。「ランティーゴさんに似てる。あの妙な元気さ、そっくりだわ」「あのぉ…」次に並んでいた客が話しかけてきたので、「あ、し、失礼いたしました」ルーナティアは慌てて微笑んだ。・・・入職希望届に目を通すのは、CARRIESの社長、ゲンスイ・ナメーバリアである。「コイツは歳を取り過ぎちゃってるね。不採用。次は…一流大学卒業の若手…インテリ上がりは体力がないからダメ。不採用。次は…ほぉ、元殺し屋?この人は戦い慣れしているっぽいな。はい書類審査通過」ペラペラと書類に目を通しながらゲンスイは独り言をつぶやいている。「ルーナティアちゃん、採用した連中の筆記試験と面接試験の準備を進めといてちょんまげ」ケースライドでゲンスイはルーナティアに指示を出した。【了解しました】「さて次は…んぅ?」ゲンスイの目が止まった。「ボス・ゼノコード…どこかで聞いた事があるねえ」ゲンスイは少しの間考え込み、「あ」思い出した。以前ランティーゴが気にかけていた若造の名前だ。「ルーナティア、彼を私の所へ通してちょ」【は…わかりました】・・・「ちょおま!?何でシャッチョさんの部屋に!?」ゼノコードはうろたえながらルーナティアにそう聞いた。「わかりません。私も知りたいくらいです。来て早々何かやらかしたのですか?」ルーナティアも困った顔を浮かべている。「知らないっすよお~」「しかし、社長が貴方と直接話をしたいそうなので、中へお入りください」「ええ…」ゼノコードは渋い顔で社長室のドアを見つめる。木目のドアには花々の彫刻は施されており、金属製のドアノブにはCARRIESのロゴが彫られている。恐る恐るドアノブに手を伸ばすと、スッとドアは真横にスライドした。「ちょ、まさかの自動ドア!?」「入り給へ」中から声がした。中に入ると、「ちょおま!!」ゼノコードは仰天した。社長室の高価そうなデスクと高価そうな椅子の前にいたのは、灰色のぬめぬめした皮膚を持った巨大な物体だった。その物体には長いナマズの髭みたいな触角が二本あり、ギザギザした口に、黄色く光る二つの目がある。それだけの特徴だが、インパクトは絶大である。「ナメクジの化け物!!」ゼノコードが思わずそう言うと、「なっ…無礼ですよ!!社長に向かって何という口の利き方!!」ルーナティアが慌てて叫んだ。「シャッチョさん!?コイツが!?あ、ご、ごめんなさい」「いいよ。言われ慣れてるから」ゲンスイはじゅるっと音を立てながら身をくねらせ、ゼノコードに顔を近づけた。「でも初対面の人に向かって化け物呼ばわりするだなんて礼儀知らずなのか、無限の胆力があるのか、ただの馬鹿なのか」「た、ただの馬鹿でいいッス(ナメクジは認めるんだ…)」ゼノコードは顔を引きつらせながら苦笑した。「私がCARRIESのシャッチョさん、ゲンスイ・ナメーバリアだ。一番偉いんで、よろしこ」「よ、よろしくお願いしまッス!!ボス・ゼノコードっす!!」ゼノコードは深く頭を下げると、触角も大きく揺れた。「なるほどこれが例の触角だね。珍しいねこれ。頭にくっついてるの?」ゲンスイはしげしげと触角を見ながら、思い切りそれを自身の触角で掴んで引っ張った。「あんぎゃあああああああああああ!!」ゼノコードは悲鳴を上げた。「なななな何するんスかああああ!!いってーなあ!!」「くっついているようだね。あっひょ、面白い」ゲンスイは触角を離しながら笑った。「チミ、それ何なの?」「癖っ毛みたいなもんスよ。吾輩にもよくわかんないんスよ。邪魔でしょうがないや」「癖っ毛!?邪魔なのですか!?」ルーナティアが困惑気味に言う。「どう見ても触角でしょうが。君面白いねえ」ゲンスイが笑いながら言うと、「シャッチョさんも触角あるじゃないスか」ゼノコードも笑いながらゲンスイの髭を指さしてそう返した。「ちょっと!!」ルーナティアが慌てふためいて叫ぶと、「ハッ!!すいません!!」ゼノコードが我に返って謝った。ゲンスイはウネウネと触角を動かしている。「こりゃ一本取られたね。でも私のこれこそ癖っ毛みたいなもんだから」「そ、そうなんスか!?(どう見ても触角じゃね!?)」ゼノコードは動揺を隠せない。「さて、ゼノギガス君と言ったね」「ぜ、ゼノコードっす」「君さ、何で我が社に入りたいと思ったわけ?」ゲンスイが身を乗り出してそう聞いた。「…」ゼノコードはうつむいて、グッと力を込めて顔を上げた。「ランティーゴと仕事がしたいんス」ランティーゴ。その名前を聞いた途端、ルーナティアは顔を曇らせた。「吾輩は、あの人に憧れたから、キャリナーをしたいと思ったんス」「…」ゲンスイは背もたれにもたれかかる。「ランティーゴは伝説のキャリナーなんスよね!?ここにいるんスか!?早く会いたいんスよ!!吾輩、吾輩…」「まあまあ」ゲンスイはゼノコードをなだめるように触角で軽く肩を叩いた。「いやいやいやいや!!何今の!!やっぱ触角っすよね!?癖っ毛で肩ポンされたよ!?見たでしょルーナティア―ちょおま!!何で見て見ぬふりしてるの!?暗黙の了解的なヤツなん!?」ゼノコードがルーナティアに向かって仰天する中、ゲンスイは書類を整理しながら話し出した。「彼が所属しているのはチーム・エターナルだ。確かエターナルのキャリーギルドは、Jストの外、最縁街にあったはずだ。っと、書類があった。よしルーナティア、ここまで案内してやりなさい」ゲンスイはルーナティアに書類を手渡した。「…わかりました」「え?え?」ゼノコードはキョロキョロとゲンスイとルーナティアを見る。「筆記試験は?面接は?」「必要無いよ」ゲンスイはニンマリ笑った。「筆記と面接は省略だ」「!!!!」ゼノコードの顔が太陽みたいに晴れやかになった。「ありがとうございます!!頑張ります!!」・・・社長室をゼノコードが去った後、「試験も何も必要ない」ゲンスイはため息をついた。「だけども、合格とも言ってはいない。現実を見て、絶望して辞めるならそれも人生。ランティーゴに憧れを抱いたならば尚更。ランティーゴ、お前は本当に罪な男だね…」入職希望届を見ながらゲンスイは椅子の背もたれに身を預けた。「どうせ辞める。だから採用印は押さないよ。悪いねゼノグロス君」・・・「へっくち!!」ゼノコードはくしゃみをした。「やめてください!」ルーナティアが嫌そうな顔で睨む。「車が汚れます!」「す、すいません」キャリア帝国ではジェットカーと言う、空中に浮遊する車両が多く走っている。これはキャリア帝国の地盤に特殊な磁気を放つ石が使用されており、その磁力を利用しているからだ。当然帝国の外では使用できない。ゼノコードはルーナティアの運転するジェットカーの助手席に座り、外を楽しそうに眺めている。「すげえなあ!ジェットカーなんて初めて乗ったッスよ!!」「そうですか」ルーナティアは冷めた顔で前を向いて運転をしている。「ランティーゴ、元気にしてるかなあ!にひひひひ!!楽しみッス!!」「…」ルーナティアは悲しそうな顔を浮かべた。「到着しました」「へ?ここ?」ジェットカーが停車する。ゼノコードはルーナティアを見つめた。「Jストを抜けて殺風景な広場に出ただけだけど?」「ここです」ゼノコードはジェットカーから降りた。そこには砂煙の立つ広場がある。奥の方に、プレハブでできた小屋みたいな建物が見えるくらいだ。目を細めながらゼノコードはルーナティアに向き直った。「やっぱここじゃなくない?」「ここです。あそこに見える建物が、エターナルのキャリーギルドです」「…」ゼノコードは指差された先にあるプレハブの小屋を見た。「いやいや、やっぱ違うって。大体、キャリーギルドならCARRIESの旗があるはずだろ?」「いやぁ、また旗が落ちちまいやしたぁ」痩せこけた中年の男がプレハブ小屋の屋根に上ってCARRIESの旗を縛り付けている。「これでよし!!立派なキャリーギルドですぁ!!」嬉しそうに笑う中年男性が、引きつった顔のゼノコードに気付いた。「あ…」目を丸くさせ、ワナワナと震え、屋根から落下した。「あ!!」ゼノコードが声を上げるのと、中年男性が駆け抜けてくるのは同じタイミングで会った。「客ですぁあああああああ!!」男は号泣していた。「ぎええええ!!」悲鳴を上げるゼノコードに飛びつくと、男は泣きながら何度も頭を下げた。「ありがとうございますぁあ!!まともなお客様なんて2年ぶりですぁあ!!」「いや、その、ちょっと待っ」「では失礼」ルーナティアがジェットカーを走らせてその場を去って行く。「ちょおまーっ!!どういう事なんスか!?ねえ?ここがエターナルのキャリーギルドなの!?ちょっとー!?置いてかないでー!!」「嬉しいなあ!!何を運びます?それともお客さんを運べばいいですかぃ?」中年男性はボサボサの赤茶色の髪を持ち、ひょろひょろの身体に白のTシャツにオレンジのズボンといった服装だった。腰にはCARRIESのロゴが刺繍されたエプロンがある。キャリナーの証でもある運送着のエプロンだ。キャリナーだこの人。ゼノコードはそう思った。「ちょ、ちょっと待って。吾輩は客じゃないッスよ」「へ?」男は固まった。そして、力なく手を離すと、うなだれた。「客じゃあないですかぃ…」ひどく落ち込んでいる様子だ。相当客が来ていなかったのだろう。「な、何かゴメンなさい」「じゃあ、何の御用ですかぃ?」不思議そうに男が聞く。「…実は、吾輩キャリナーになったばかりなんスよ」「は」男は再び驚いた顔を浮かべた。「で、チーム・エターナルで働きたいなあなんて思っ」ゼノコードがそう言い終えるぐらいのタイミングで、「後輩君て事ですかいぃっ!!」男が再びゼノコードに抱きついて来た。「あひい!!」「後輩なんて初めてですあ!!ようこそチーム・エターナルへ!!歓迎しますぜい!?」「やめろおお!!胸板にぐりぐりすなああ!!」ゼノコードはその男の頭を力づくで引き離した。「後輩が初めて!?アンタこのチームで一番新しいメンバーなわけ?」のけぞる男にゼノコードが問うと、「新しいも何も、あっしがチーム・エターナル唯一のキャリナーですぁ」彼はそう答えた。「はい!?」「あっしはバラエティ・ディーキン。チーム・エターナルの主力キャリナーですぁ」バラエティと名乗った男は、笑顔のままプレハブ小屋へと歩いて行く。「歓迎会を開きますぁ♪嬉しいなっ♪嬉しいなっと♪」「待ってよ!!アンタ以外キャリナーはいないの!?ら、ランティーゴは?吾輩はランティーゴがチーム・エターナルにいると思って来たのに―」それを聞いたバラエティは電流が走るが如く、足が止まった。「…?」戸惑うゼノコード。バラエティは急に静かになってしまった。「ば、バラエティさん?どったの?」「ランティーゴなら、いやせんよ」バラエティは静かに答えた。「いない?何で?」「知らないんですかぃ?」バラエティはそのままプレハブ小屋へと再び歩き出した。「あの人はあっしを、いや、この帝国の人々を裏切って、消えちまったんですぁ」「へ!?」「あの人は、キャリア帝国の恥さらしですぁ」・・・【伝説のキャリナー、キャリア帝国の資産を盗み、逃亡。国際指名手配されるも、未だに行方不明】信じられない文面の記事に、ゼノコードはただただうろたえるばかりだった。「嘘だろ…」彼はプレハブ小屋もとい、エターナルキャリーギルドのフロントでテーブル席に座って新聞を手渡されていた。「あっしだって信じられやせん」バラエティはお茶の注がれたカップを手渡した。「しかし…ランティーゴはキャリア帝国に夜中に入り、キンカや財宝を奪い、逃走した。現にカメラでもその姿が捕えられてんですぁ」新聞には確かに、うっすらとランティーゴの姿が写っている。「…このキャリーギルドは信頼を失い、かつていた仲間も消えて、また消えて…今ではあっしだけが残されてるってわけですぁ」バラエティはゼノコードの向かいに座った。「ランティーゴは、最低な男ですぁ。あっしぁ、ずっとあの人を信じてキャリナーやって来たってのに」バラエティは泣きそうな顔だ。歯を喰いしばってうつむいている。「…最低な男ッスか」ゼノコードは新聞をテーブルに放り投げた。「アンタはそれを信じたんスか?」「!?」バラエティはギョッとしてゼノコードを見た。「新聞記事一つだけで、今まで信じて来た男を見限ったんスか?仲間ってのはそんなもんなんスか?」「あ、アンタ、何が言いたいんですぁ!?」バラエティはゼノコードの胸ぐらを両手で掴んだ。「アンタにあっしらの気持ちがわかってたまるもんか!!」「わからないッスね」ゼノコードは即座に言い返した。バラエティは大きく震えた。「吾輩はこんな記事程度じゃあランティーゴへの尊敬の念は消えやしない。第一この人がそんな事するわけがない。…吾輩はあの人を信じる」「!!?」バラエティは仰天した。「だって、あの人が吾輩の魂に火を点けてくれたから」ゼノコードの瞳はまっすぐだった。ランティーゴの事を心から信じているようだ。「ま。こんなチンケなオッサンしかいないギルドに用はないや。吾輩はランティーゴを探しに旅に出るッス。お邪魔しました」ゼノコードはお茶をくいっと飲み干した。「美味い!!ご馳走様!!」そう言いながら彼はギルドの外に飛び出した。「…」バラエティは椅子から崩れ落ち、ヘナヘナと床に座り込んだ。・・・「何だこのガキ、気味悪い触角揺らしやがって」「ちょ」ゼノコードの目の前にはガラの悪そうな男達が大勢突っ立っていた。黒革のジャンパーに薔薇の刺繍がされた服装の男達だ。「どけよ!!」「あーれー」男の一人がゼノコードを押しのけると、ギルドの前で怒鳴りだした。「バラエティ!!まだキャリナーやってんのかよ!!」ギルドからすぐにバラエティが飛び出して来た。「ぼ、ボーン!!またお前さん達ですかぃ!!」「ぼーん?」ゼノコードが眉をひそめた。「ま、キャリナー続けるってなら、キンカを払ってもらおうか?」「き、キンカならこの間払ったばかりじゃないですかぃ…!!もうあっしは持っておりやせん!!」「へへへ、言い訳なんて聞きたくねえなあ。ここらは我ら髑髏薔薇団(ドクローズ)の縄張りなんだよ。こんな汚らしいボロ小屋建てやがって。邪魔なんだよ!!」ボーンと呼ばれた男は三人のリーダーなのか、一番体格がでかかった。「き、汚らしいだと!?ボロ小屋だと!?」バラエティは震えながら激怒した。「ここはあっしのキャリーギルドですぁ!!馬鹿にしないでつかぁさい!!」「ははー!!キャリーギルドだとよ!!」「こんなあばら家がか!?」「ぎゃははははは!!」ドクローズの男達は笑いだした。「仕事もねえくせにキャリナー名乗ってんじゃねえよ。お前みたいなヤツを、クズって言うんだよ」ボーンはバラエティを指さしながらそう言った。「ランティーゴに裏切られた惨めな負け犬だもんな!!」「違いねえ!!」男達の嘲笑を浴びながら、バラエティは唇を噛みしめている。「大体CARRIESなんてただの運び屋だろ!?客にヘコへコ媚び売ってりゃあいい商売の癖に、でかい顔しやがって!!守銭奴集団なんだよお前らなんざ!!」「…」ゼノコードは眉間に皺を寄せて男達を睨んでいる。「さっきから何だテメェ」ボーンがゼノコードに気付く。「え?ああいや別に」「俺達はバラエティに用があるんだよ。触角引っこ抜くぞ!?失せろ!!」「ちょ、やめて!!お好きにどうぞ!!」ゼノコードは触角を押さえて逃げるように歩き出した。「バラエティ、ランティーゴに裏切られてキャリナーだって辞めてえんだろ?だったらここから出て行けよ。お前はこの国の邪魔だ。裏切りランティーゴの仲間って言う汚名は、一生ついて回るだろうがよ!!ぎゃはははははははは!!」男達の侮辱を聞きながらゼノコードが早足で歩き去ろうとした時だった。「あっしだって信じたいんですぁ!!」バラエティが震えた声で言った。「!?」ゼノコードは立ち止まった。「ああ!?」ボーンが怒気のこもった声を上げた。「あっしだって…信じたい…あんな新聞記事だけで、ランティーゴを疑うわけがないでしょうがよ!!」彼は目から涙を流しながら叫んでいた。「それに、クズだと?負け犬だと!?違う…あっしは誇り高きCARRIESのキャリナーですぁ!!ランティーゴの仲間ってのは汚名じゃあない!!あっしはあの人の仲間である事を誇りに思ってますぁ…それを侮辱するヤツは絶対に許しやせん!!」激怒するバラエティを、ボーンは殴り飛ばした。「うげえ!!」「クズが生意気な口を叩くな!!やっちまえ!!」ドクローズ達は倒れたバラエティを蹴り付け始めた。「ひい、ひいい、ひいい!!」頭を押さえながらバラエティは悲鳴を上げている。「この野郎!!」「黙らせてやる!!」滅茶苦茶に蹴られながら、バラエティは必死に耐えている。「おい、あのボロ小屋をぶち壊せ」ボーンが指示を出すと、男達が数名、ギルドへ歩き出した。「やめろお!!」バラエティが這いながらその男達を追いかけだした。「何をされようとも…あっしはキャリナーですぁ!!ランティーゴの残したこのギルドを命を懸けてでも守り抜きますぁ!!」「何をわけのわかんねえこと言ってんだ!!」ボーンがバラエティの顔めがけて足を振り上げた。「ひっ!!」バラエティが頭を抱えた時だ。ボーンの足を、ゼノコードが思い切り蹴り飛ばした。「あんぎゃあああ!!」ボーンは足を押さえてのたうち回った。「へ?」「何スかオッサン、ランティーゴの事をやっぱ信じてたんじゃないスか」ゼノコードは笑いながらバラエティを見下ろした。「見直しましたよバラエティさん。ランティーゴは仲間にも恵まれているね。こんなヒョロヒョロな身を挺してでも、ギルドを守ろうとするような人、そういない」「あ、アンタ…」バラエティは震えながらゼノコードを見つめた。「吾輩にも、ギルドを守らせてください」「テメェ…何しやがるぁあああ!!」ドクローズ達が一斉にゼノコードに飛びかかった。「危ない!!」バラエティが叫んだ時だ。男達が凄まじい竜巻によって空に舞い上がった。「ぎゃあああああ!」「ふええ!?」バラエティは仰天した。「アンタらほんとに乱暴だねぇ、一人に対して大人数で何やってんだい」ゼノコードは右拳を真上に向けていた。「何だあああ!?」ボーンの手下が震えながら叫ぶと、「あれは命力(グレット)だ!!」ボーンが青ざめながら叫んだ。「命力(グレット)!?」「生きる者誰しもに宿ると言われる魂技(ソウルアーツ)の一つだ!!」普段は眠っているだけだが、修行する事で引き出す事ができる。炎や水を放ったり、剣を作り出したり、獣に変身したりできる、魔法のような力。それが命力、グレットだ。世界ではこのような命力などの異能の力を魂技(ソウルアーツ)と呼び、それを扱える者を魂技使い(ソウルユーザー)と呼ぶ。「馬鹿っぽいのによく知ってるじゃないスか。そ、これは風の命力」ゼノコードはそう言った。彼の胸元には黄緑色に光る円形の物体があった。あれは魂技値(ソウルゲージ)。魂技使いの生命力が具現化されたものだ。魂技使いにとって魂技値は体力の残量であり、己の実力の高さの表示でもある。「ああ?!」「風の命力(グレット)。吾輩は、風を操れる。風に乗って飛ぶこともできれば、竜巻を手から放つ事ができる。こんな風にね」そう言いながら、ゼノコードは右拳を背中まで引き下げると、左手の人差し指を男達に向けた。照準を合わせているのだ。ゼノコードの魂技値が光り輝く。「風・輸送」ドン!!まるで砲弾を発射したかのような轟音。かと思えば、ゼノコードの振り下ろした右拳から竜巻が猛スピードで発射された。竜巻は黄緑色の光を纏い、ドクローズ達を巻き込んで吹っ飛ばした。ドクローズ達がポカンとした顔でゼノコードを見つめていると、「え?もうおしまい?」ゼノコードがキョトンとしながらそう聞いた。すると、ボーンが顔を真っ赤にして激怒した。「アイツらをぶちのめせええええ!!」ドクローズ達がナイフ片手に走って来た。「バラエティさん、何かに掴まってて」ゼノコードはそう言いながら、両手を左右に広げ、両足を軸にその場で回転を始めた。「何をする気だ!?」「言ったっしょ?吾輩は風を操る」風圧が巻き起こり、ゼノコードを中心に巨大な竜巻が生まれる。「ひえええっ!!すごい!!」近くの岩にしがみつきながら、バラエティが思わず叫んだ。「風・搬送!!」「ぎええええええ――――ッ!!」ドクローズはほとんどがその竜巻に巻き込まれ、四方八方へと落下していく。「残るはアンタだけッスね」ゼノコードが指さした先にはボーンが立っていた。「うっ!!」ボーンはビクッと震えたが、「うおおおおお!!」近くに落ちていた大きな棒を振り上げて襲い掛かった。迫りくるポーンを前に、ゼノコードの目つきが変わった。目の周りが黒く染まり、鋭くなったのだ。「一つ言いたい事があるんだけど」めりっ!!「うぎょっ」ボーンの顔面に竜巻がめり込んだ。「ランティーゴを侮辱したッスね?それにCARRIESが守銭奴集団だって?」ゼノコードは両腕を大きく後ろに引き下げた。「…!?」ボーンは目を見開いた。ゼノコードの触角が、黄色の球体から大きく形を変えていく。「あ、あれは…何ですかぃ!?」左右に広がったそれは、黄緑色に光り輝く竜の翼だった。ゼノコードの頭部の後ろで、翼が大きく羽ばたいているのだ。「言葉に気を付けな。アンタらは吾輩を怒らせた」風・極卍(ごくまんじ)!!ゼノコードが両拳を目にも止まらぬ速さで振ると、竜巻が無数に放たれた。それらは全てボーンの全身へと正確に叩き込まれた。「だりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ…!!」「びええええええええ!!」ボーンの絶叫が竜巻の轟音にかき消される。「だりゃあぁ―――ッ!!」とどめの一撃が、ボーンの腹部にめり込み、彼は後方へと吹き飛んでいく。「ぎゃああああ!!…あ」倒れた先は、Jストの急な坂だ。「あ゛ああぁぁぁぁぁ――――――ッ!!」ボーンは急な坂を、あちこちに激突しながら猛スピードで転がり落ちていった。「運送完了」ゼノコードがそう言うと、「まだやります?」「うわあああ!!」残りのドクローズ達が悲鳴を上げて逃げ去って行った。しゅるるるる…頭部の翼は音を立てて収縮していき、黄色の球体へと戻っていた。「立てます?」「あ、ああ」バラエティの手を持って立たせると、ゼノコードは笑った。「このギルド、新人を募集してます?」「…仲間になってくれるんですかぃ?」バラエティは目を潤ませながら聞いた。「んふー、仕方ないッスねえ~!頼りないキャリナーしかいないギルドじゃあ後先短いスからね!」「…うう」落ち込むバラエティを横目で見ると、ゼノコードは空を見上げた。「吾輩はランティーゴに会いたい。それには、キャリナーとして腕を上げて、あの人と同じくらいに伝説のキャリナーになればいいんだ!」「伝説のキャリナー…」バラエティがそうつぶやくと、ゼノコードは笑顔でこう言った。「世界中のお客様を全員笑顔にできるキャリナー、それが伝説のキャリナーだろ!?」ランティーゴと同じ事を言っている。「それにさっきくれたお茶、美味しかったから。また煎れてくれるよね?」「…へえ…へえ!!」バラエティは泣きながら何度も頷いた。「ちょ、おま!何で泣くんだよ気持ち悪ぃなあ!!」「へ、へへ、早速お茶を淹れますぁ!!」そう言いながら、バラエティは近くに生えていた雑草を引き抜き始めた。「美味しいお茶ができるんですぜ!」「うん!!ごめん!!要らない!!」・・・CARRIES本社にて―「あのボス・ゼノコードという人、チーム・エターナルのキャリナーになったそうです…!!」驚いた顔のルーナティアがゲンスイに報告をすると、「あっそ」ゲンスイは短く答えた。「…意外じゃないんですか?」「意外だよ?ランティーゴはいないし、あんなオンボロギルドに入るなんてどうかしてる。だが―」ゲンスイはゼノコードの入職希望届を見下ろした。「この世界には珍しい、生きた目をしている男だった。コイツ、どんな場所でも生きていけるんじゃない?どんな活躍をするのか見るのも、オモロそう」「お、オモロそうって…」戸惑うルーナティアをよそに、「ふふふっ」笑いながら、ゲンスイは採用印を押した。「ようこそCARRIESへ」生き残ってみ給へ。若造。
2020.05.09
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Pleasure in the job puts perfection in the work.―働く喜びが仕事を完璧なものにする。―アリストテレス―“僕達”が生きている世界。この世界と、“彼ら”が生きている世界は違うかもしれない。でも、一つだけ同じ事がある。“彼ら”の世界には人がいる。命がある。夢がある。つながりがある。働く喜びがある。…目の前に広がるのは広大な砂漠だ。風によって形を変える砂漠の砂は、ギラギラと照り付ける太陽光に照らされ、純金のような光を放っている。辺りの景色は広い空の青と、その砂漠の黄金の2色のみで構成されている。その景色は、うっすらと揺らいで見えた。無理もない。砂漠での気温は最大でも60℃も超える。生身の人間が歩きでもすれば、ステーキが出来上がる。さて、この広大な砂漠を単身で歩く物好きな人間がいた。その男は、ボロボロになったオレンジ色のマントを全身にまとい、黄色いゴーグルを通して辺りを見回していた。マントにはフードが付いており、頭を大きく隠している。足元からは、薄汚れた白いブーツが覗いていた。「おま…全然見えない…」男は左手首を顔に近づけてそう言った。左手にはオレンジ色のグローブがはめられており、手首には黒い腕時計のようなものがあった。円形のパーツがホログラムのように大きく広がり、その画面に地図のような映像がうっすらと映る。これはケースライド。この世界での通信機器である。『磁場が不安定の為、ナビゲート不能です』画面に表示された文字を読むと、男はため息をついた。「まいっか!時間はいくらでもあるもんね!」男は口元をマントで隠しながらそう言った。「おまいら、準備はOK?」ケースライド越しに、彼は誰か…いや、彼らに向かってそう言った。【OKボス、エンジンふかして待っています】淡々とした女性の声。【こっちもOKだ、ボス。しくじンじゃねーぞ】勝気そうな女性の声。【ははは、私もOKです。楽しみですなあボス】穏やかそうな男性の声。【座標もOKだ。今のところ、陸路は安全だ】不愛想な男性の声。【…そっちが安全かは知らねえがな。用心しろ。ボス】そう言われたマントの男はニヤッと笑った。「OK…Here we go!!」掛け声と共に、風圧が巻き起こり、男は消えた。彼の名はゼノコード。今日も夢の為に生きている。…砂漠地帯は、この世界の半分を覆う、広大な砂漠である。水はおろか、草木一つ見当たらない。太陽の光に照らされ、広大な砂の海は黄金に光り輝く。まさに死の輝きである。世界の人々は生き延びる為に、国の周りに大きな城壁を作った。強烈な日光を遮断する為、資源の枯渇を防ぐため、そして、進化した生物から身を守る為、である。そんな過酷な環境下で生物は、巨大化し、凶暴になった。そいつらは生きるために、今日も狡猾に弱者を狩る。砂漠獣と人は呼ぶ。そんな国外を無防備で出歩くなど、自殺行為である。城壁で国を覆った人々は、今や孤立しつつあった。だが、その砂漠地帯を走り抜ける者達がいた。無限運送会社CARRIESの運送屋、通称キャリナーである。前述した通り孤立しつつある国々は、どうにか国同士で通信、荷物の運送、そして移動をする手段を考えていた。その中で一人の人間が一つの提案をした。「危険で広大な砂漠を走れる韋駄天のような屈強な人間、そんな連中が集まり、運送会社を作ればいいじゃないか。荷物、手紙、人、どんなものでもいい。国同士の繋がりを、我々が守ろうじゃないか」彼の名はランティーゴ。後にCARRIESを起ち上げる伝説のキャリナーである。最初は小さな運送会社だったCARRIESは、瞬く間に業績を伸ばし、今や世界中に存在する大企業となった。彼らは運送用のトラックを愛用し、不安定な砂漠を猛スピードで走り抜け、世界中にありとあらゆるものを無事に届けるのだ。…さて―静寂に包まれている砂漠地帯だが、轟音が響いて来たかと思えば、直線状に砂煙が巻き上がっている。大型のバギーが一台、砂漠を突っ走っている。砂ばかりの砂漠でも走れるように改造を施したルーフ付きの八人乗りバギーだ。運転席、助手席、その後ろに三人が座れる座席、後ろにも同じ大きさの座席がある。黒いボディに、車体と同じぐらいに巨大なタイヤが四つ。当然の如く四輪駆動である。まるで滑るように、尚且つ正確な動きで砂漠を走り抜ける。運転席には顎髭を生やした黒人の男、助手席には金髪のモヒカンの男。後ろの座席にスキンヘッドの男と、バンダナを頭に巻いた男。そして、その間に挟まれるように一人の少女が乗っている。四人の男達は緑の迷彩色の軍服に薄茶色のマントを羽織り、機関銃で武装をしている。少女は、クリーム色のマントに民族衣装のような色とりどりの衣服を着ている。褐色の肌に黒髪を持つ美しい少女だ。だが、うつむいて震えている。酷く怯えていた。「おい飛ばせよ…確かここってレーダーによると―」「わかってる!!急かすな!!」顎髭が少し焦りながらそう言うと、「おりょ?」目の前に急にオレンジマントの男が出現した。「!?」―どがん!!鈍い音がしたかと思えば、宙をオレンジの物体が舞っていく。「んぎゃあああああああ」オレンジマントの男が砂漠へと落下した。バギーに乗り込む一同は唖然としていた。「な、何だアイツ」バンダナがつぶやくと、「ひ、轢いちまった」顎髭の男がブレーキペダルを踏んだままワナワナと震えている。「構わん、ここは砂漠だぞ。法の届かない世界だ。ほっとけ」「何をボケっとしてんだ。早く車を出せ!」男達が口々に言う中、褐色の少女はガタガタと震えながら砂漠を転がるオレンジマントをジッと見つめていた。「あのー!!」突然、オレンジマントの男がむくっと起き上がった。「ちょっとお願いがあるんすけど!!」「ぎゃああああああああああ!!」バギーの男達が悲鳴を上げた。「吾輩も乗せてもらえませんかねえ!実は仲間とはぐれちゃって~!」オレンジマントの男は笑顔でバギーに駆け寄った。「いやいやいやいや!!い、今バギーに轢かれたんだぞ!?何で普通に起き上がれるんだよ!!」スキンヘッドが動揺しながらそう聞くと、「吾輩丈夫なんで」と、オレンジマントの男は笑顔で答えた。「じょ、丈夫って…時速80キロは出していたんだが…」と、顎髭の男。「―で、乗せてもらえないすかね?」オレンジマントの男は首を傾げながら困った顔を浮かべている。「頼んますよ、砂漠地帯での孤立は死んだも同じでしょ」「ど、どうする?」顎髭の男がうろたえながら仲間に聞く。「仕方がない…ここで仕留めてもいいが…」モヒカンの男は少女に少し目線を向けた。「コイツに騒がれたら面倒だ。乗せろ」…一番後部の座席に、オレンジマントの男は笑顔で座った。「俺はディズナス、このキャラバンのリーダーだ」モヒカンの男は、バックミラー越しにその男を見ながらそう名乗った。「ああご丁寧にどうも♪恐れ入ります」軽い調子で続ける男に、ディズナス一行は顔をしかめた。「で、アンタ名前は?」ディズナスはオレンジマントの男にそう聞いた。「吾輩?」彼は嬉しそうにフードを脱いだ。「吾輩はボス・ゼノコードと申します。よろしくどうぞ!」軍服の男達が一斉に目を丸くした。褐色の少女も振り向いて、驚いた顔を浮かべる。ゼノコードと名乗った彼は、白い髪に黒い前髪を持った、中性的な顔つきの青年だった。黄色の瞳を持つ大きい目には、周りに黒い縁取りがある。両目の目元には青い三角の入れ墨が彫られている。それだけならどこにでもいそうな男なのだが、驚くのはその頭上でふわふわと揺れる黄色い触覚であった。黄色いボールのような球体が、黒い線で頭部に繋がっているのだ。「あ、アンタ、何なんだその頭」バンダナが驚きながらゼノコードの触覚を指さした。「これ?前髪だけが黒いんすよね~、コンプレックスなんすよ」と、ゼノコード。「違う違う!前髪じゃねえ!!その頭にぶら下がってる黄色いのだよ!!」「ああこれ?くせっ毛みたいなもんすよ。邪魔で邪魔で」(くせっ毛!?)そんな次元か。と、男達が顔を引きつらせている。「まあまあ、気にしないでください」「いや無理だよ」そんな中、褐色の少女はゼノコードの触覚をジッと見つめている。珍しさや、好奇の目などではない。どこかで見た事があるのだ。ゼノコードは少女の目線に気付いた。少女はビクッと震え、目線を逸らした。「お嬢さん、名前は?」ゼノコードがそう聞くと、褐色の少女は震えながらゼノコードを上目で見た。「にひひ」ゼノコードは無邪気に笑っている。「…アマリア」少女はか細い声でそれだけ答えた。うまく声が出せないのか、耳を澄ませないと聞こえない程に小さい声であった。「喋るな!!」スキンヘッドが怒鳴り、アマリアはビクッと震えた。だがそれを聞いて、「ちょ、自己紹介ぐらいいいじゃないすか」ゼノコードはムッとしながら言うと、アマリアに微笑んだ。「いい名前ですね!生まれはどこですか?」「この子は俺達の身内だ。アンタに関係ないだろ」バンダナの男が低い声でゼノコードにそう言いながら睨みを利かせている。「身内」ゼノコードは両手を手前に広げながら、背もたれに身を預けた。「確かに吾輩には関係ないすね」笑いながら手を振りゼノコードはそう言った。「でも、身内にしては似てない気が」ゼノコードの言葉にディズナス達がピクリと震えた。ゼノコードはその様子を見て静かに目を細める。「お、大きなお世話だ」スキンヘッドが即座に返す。「いやいやガチで。肌の色も違うし、服装も、言葉の訛りも、仕草とかにも違いがある。身内にしては…文化レベルで違う気がするんすけど」ゼノコードは笑顔でそれだけ続けた。「まあ皆さんが言う通り吾輩には関係ないんすけどね!」男達は顔を見合わせると、眉間に皺を寄せ、黙り込んだ。(何だコイツ…無駄に観察しやがって…)「どこまで乗せていけばいいんだ?俺達と目的地が違うなら、途中で下ろすからな」顎髭の男が渋い顔で聞くと、「キャリア帝国っす!」ゼノコードは答えた。「キャリア帝国…」ディズナスがそうつぶやきながらため息をついた。「無限の可能性を秘めた大帝国…そこの出身かい」「いや、職場がそこにあるんすよ」「職場…そう言えば…アンタの職業聞いてなかったな…まさか、国家戦士か?」ディズナスが聞くと、周囲の仲間もゼノコードを睨み付けた。妙な緊張感が走る。「…」ディズナスの問いに、ゼノコードは笑顔だったが少しだけ顔を強張らせた。国家戦士とは、規律を守る国家機関の兵士である。国が孤立しつつあるこの世界で、唯一正当な正義を掲げている存在、犯罪者の敵で、弱き者の味方だ。「違いますよー」ゼノコードはすぐに笑顔を作り、そう言った。「何でそんなことを?」「いや、国家戦士なら…ちょっと都合が良くなくてな」座席の背もたれ越しに、見えない場所で機関銃を構える男達。「そすか」ゼノコードは笑った。目だけが笑っていない。「どうしたんだよ」「いやあ、あの人達は吾輩も好きじゃなくて」「…お宅にも事情がありそうだな」ディズナスが言う。「こっちにも事情があるんだ。お互いに、あまり詮索しないでいこうじゃないか。ミスターゼノコード」「うぃす」ゼノコードは背もたれに寄りかかった。「それにコイツはあまり上手に口がきけないんだ。無理に喋らせないでくれ。かわいそうだろ」ディズナスが言うと、アマリアは悲しそうにうつむいた。「え」ゼノコードがアマリアを見つめると、「生まれてこの方まともに喋ったことが無いんだとよ。変な奴さ」スキンヘッドが呆れながら言う。「ふうん…さっきの声は綺麗だったっすけどね」その時―けたたましいブザーが鳴り響いた。「!?」バギーが急ブレーキによって大きく揺れて止まった。「ちょおまあああぁ!!」ゼノコードが前方へと座席を乗り越え、アマリアの目の前に逆さまに落下した。「ひっ!!」アマリアは短く悲鳴を上げ、慌てて口を押さえた。「大丈夫すよ」ゼノコードはアマリアの耳元で、他の人間に聞こえないように囁いた。「っ…?」「何だ!?」男達が慌てている。「コイツシートベルトしてなかったのか!?ふざけやがって!!」ゼノコードにも罵声が浴びせられる。「だってベルトの場所わかんなくて~」「座席の隙間!!」「え?あホントだ。わかりにくいっすよこんなの!!ウチの社用車より古いんじゃないの!?」「うるさい!!」ディズナスが後部座席の連中に叫び、「どうした?!」顎髭の男に聞くと、「まずい…ここはサンドラゴンの生息地だった…バギーの振動音に反応したんだ」顎髭の男は息を呑みながら目線だけを辺りに動かしている。運転席には円形のレーダーらしき画面がある。画面全体に【DANGER】の文字が表示されている。これは、砂漠獣が接近すると反応するレーダーである。「サンドラゴン…」ゼノコードがむくっと起き上がる。「あーらら…」その顔はあきれ返っている。「何やってんすか…砂漠獣の生息地ぐらい回避して進みなさいよ」呆れながらゼノコードは運転手にそう言った。「このキャラバンのナビは相当レベルが低いみたいっすね」「う、うるさい!!このルートが一番手っ取り早かったんだ!!」顎髭の男がうろたえながら叫ぶと同時に、―ぐおおおおおおおおおおおおおおん!!この世のものとは思えないような咆哮が上がった。「…」男達が真っ青な顔になる。バギーの真後ろの砂漠が、大きく盛り上がった。砂漠の山から、岩のような茶色の物体が覗く。砂が滝のように流れる中、巨大な爬虫類の頭が丸見えになった。大きな口に、短い手足と小さくギョロつく黄色い目。ごつごつとした鱗は日光に反射して光る。頭部から背中にかけて鋭く長いトサカが生える。サンドラゴン。砂漠地帯の環境に適応して進化を遂げた砂漠獣だ。「は…あ…あ…」アマリアがガタガタ震え、「…!!!」男達が恐怖に顔を引きつらせた。「提案があるんすけど」と、ゼノコード。「逃げましょ」ゼノコードの言葉と同時にバギーが急発進した。すさまじい咆哮を上げながら、サンドラゴンは短い手足を動かしながら砂漠に乗り上げ、バギーを追いかけ始めた。短い手足であるにも関わらず、その速度は全速力のバギーにも追いつく域である。サンドラゴンは大きく口を開けた。一同は仰天した。真っ黒だ。サンドラゴンの口の中はまるで底なしの穴であった。鋭い剣のような歯が、口の中にびっしりと生えそろっている。「おっま!!あの歯で獲物の肉や骨を削るんすね!!すっご!!」と、ゼノコード。「悠長に説明すんなーっ!!」顎髭の男が泣きそうな顔で怒鳴った。「飲み込まれる!!」サンドラゴンの口がバギーを飲み込もうとしたその時だ。「きゃああああああああああああああああああ」アマリアが悲鳴を上げた。その声は常人とは思えない程の大きさで、バギーの窓ガラスにひびが入った。「…!!?」ゼノコードは耳を押さえながらアマリアを見た。アマリアは硬直してプルプル震えながらも、口と目をいっぱいにまで開き、叫んでいた。声は音波となり、サンドラゴンの口の中で反響する。「ギャアアアアアアン」サンドラゴンが悲鳴のような叫び声を上げる。動きが鈍くなった隙をつき、バギーは一目散に逃げ出した。「大丈夫か!?」ディズナスが叫ぶと、後部座席の二人の男も頷いた。彼らは耳を塞いでいた。だが、運転席から返事がない。そっちに顔を向けると、「…」顎髭の男は白目を剥いて失神していた。「やべえ、声を直に聞いちまってる」バギーは大きく蛇行を始めた。「クソッ!!」慌ててディズナスがハンドルを取る。「こいつをどかせ!!早く!!まだサンドラゴンから離れてねえんだ!!」顎髭の男が後ろの席に引きずられ、ディズナスが運転席に座る。パニックになる車内で、ゼノコードはアマリアを見つめた。アマリアは真っ青な顔で口を押さえ、ガタガタと震えていた。バギーはしばらく全速力で走り抜け、「も、もういいだろ、スピード落とせ」バンダナからそう言われ、バギーの速度が落ちた。助手席にバンダナが乗り込み、二列目にアマリアとスキンヘッドの男。そして一番後ろの席に顎髭の男とゼノコードが乗り込んだ。顎髭の男は横になっていた。「鼓膜が破れてるだけっすね。応急処置しときますよ」ゼノコードが手慣れた手つきで包帯を使い、両耳の止血を行っている。何気なく懐を探ると、小さなバッジが入っている。ハゲワシの紋章が刻まれた金属製のバッジだ。(これは…)「なあアンタ…ありがとな」ディズナスが運転をしながらそう言うと、ゼノコードはチラリと男達の方を見ながら、「いやいや。助け合いこそ砂漠では必要っすから」と、言った。「ところで、ここからおよそ100キロ程向こうに、砂族という一族が暮らす国があるんすよ」処置をしながらゼノコードはそう言うと、明らかに男達の顔色が変わった。ディズナスが隣に座るバンダナに目線を送っている。「そこに暮らす砂族は、砂漠獣から身を隠すために、声を使わずに、手話・筆談・身振り手振りでのコミュニケーションを常に行っているらしいっすよ。だから、慣れない声を上げると、常人だと鼓膜が破れるぐらいの大音量になるんだそうで」「何が言いたいんだ?」ディズナスが落ち着いた声色で言う。「いやね、そこの娘さんが1人、何者かに誘拐されたんですって。混沌としたこの砂漠地帯では、何が起きるかわかりませんね。で、そこのアマリアちゃんは随分と砂族の特徴が」―ダダダダダダダダ!!銃声が轟き、ゼノコードのすぐ目の前、アマリアのすぐ真横の背もたれに風穴が開いた。バンダナの男が機関銃を乱射したのだ。アマリアが電流が走ったかのように震えあがったが、その口をスキンヘッドの男が無理やり塞いだ。「コイツ、俺達の正体に感づきやがった」スキンヘッドが、背もたれから身を乗り出し、後部座席に横たわるゼノコードの襟首を掴んだ。「やれやれ、嗅ぎ回らなきゃ何もしなかったってのによ」スキンヘッドが羽織るマントがめくれ、ハゲワシのバッジが光っている。「…やっぱね、ハゲワシのバッジは奴隷商の証だ」ゼノコードは呻きながら笑みを浮かべている。「うげ!まだ生きてやがる。急所を外したか」助手席に座るバンダナが驚いた。「ああそうだよ、俺達は奴隷商だ。砂漠地帯の国から女子供を誘拐して、高く売りさばくのが生業だ」ディズナスは不敵に笑いながらそう言った。「で、この砂族の一人であるアマリアちゃんを売りに行くわけだよ」スキンヘッドがニヤニヤ笑いながら言うと、「そりゃダメですってえ…」ゼノコードは苦笑しながらアマリアに手を伸ばす。「ふっ、銃弾喰らった男に何ができる」と、ディズナス。「こんな奇麗な声の子を売っちゃあだめですって…」「だから売れるんだよ。コイツの声は兵器になる」「やめっ…」アマリアが声を震わせたが、ゼノコードを持ち上げたスキンヘッドは、そのまま彼をバギーの外へ放り投げた。「運が良ければ砂漠獣にすぐに喰ってもらえるかもな!!苦しまずに済むぜ!!っははははははは!!」スキンヘッドの男は笑いながら座席に座った。「アイツ何だったんだろうな」バンダナが言うが、「さあな、さっき違うとは言っていたが、大方、誘拐犯を追う国家戦士だろ」スキンヘッドの男が笑いながらそう返す。「奴隷商に返り討ちにされるようじゃ、大したヤツじゃねえだろうがな!!」「違いない!!ははははははは!!」スキンヘッドの男と、バンダナの男の笑い声が響く中、「私のせいだ…私の…」アマリアはボロボロと涙をこぼし、ぶるぶると震えていた。「ふふふ、それにしても上玉を手に入れる事が出来たな。二ゼル様もお喜びになる」ディズナスがアマリアをバックミラー越しに見ながらそう言うと、周囲の仲間も笑いながら頷いた。「奴隷市場ではお前のような美しい娘は高く売れる。ましてや砂族。戦争で役に立つだろう。光栄に思いな」ディズナスがそう言っても、少女は何も答えない。彼女の行きつく未来は、奴隷だ。…「いててて…乱暴なんだからもお」砂漠に横たわるゼノコードは、左手首のケースライドを開く。「おまいら、おなしゃす」…岩山と岩山の間にできた自然の道を、ディズナス達のバギーが猛スピードで走り抜ける。「もうすぐ集合場所だ。二ゼル様は太っ腹な御方。大量のキンカが手に入るぞ」ディズナスがそう言うと、バンダナの男とスキンヘッドの男が歓声を上げた。「ん?」ふと、バギーの走る道の向こう側に、一台の赤いトラックが停まっている。四つのタイヤに、前部の下の中央にタイヤが一つ付いている。布製のカバー付きの荷台があり、赤い塗装もところどころ剥げ落ちた、ボロボロのトラックだ。左右を岩山で挟んでいるうえに、トラックが車線上に真横の向きで停まっているので、これでは突き抜けられない。「何だ?」ディズナスはブレーキを踏み、バギーは減速し、トラックの前で停車した。「…チッ」ディズナスは舌打ちをすると、助手席のバンダナに指でクイッと指示を出した。バンダナは機関銃を持って助手席から外に降りる。「とんでもないヤツだ。こんな狭い場所にトラック停めやがって」トラックに歩み寄ると、バンダナは運転席のドアをノックした。「おい!おい!!中にいるのか!?トラックどかせ!お?!」更に強くノックをすると、運転席のドアが勢いよく外に開いた。「おぶるッ」バンダナが後ろに吹っ飛んだ。ディズナスが眉間に皺を寄せた。降りて来たのは、女性だった。黄緑色の髪を持つ、美しい女性だ。白にオレンジのラインの入ったブーツ、黒のアンダーウェアを着ている。その肉体は鍛え抜かれており、美術品のように美しい筋肉だ。瞳は青いが、光のない、暗い目をしている。髪型は左半分だけ肩まで伸ばし、右半分は少し短めにしている。そんな女性が、地面に倒れているバンダナを見下ろしている。「ノックは一度で結構です」女性はそう言って、バンダナの頭をバンダナごと思い切り踏みつけた。「あんぎゃ!!」「ボディが凹んだらどうするのです、まあ凹んではいませんが。でも私の繊細な心は傷つきました。弁償してください」ぐりぐりと踏みにじる。「いでででででで!!やめて頭蓋が凹む!!」バンダナは機関銃を構え、銃口を女性に向けた。「あら」女性は両手を上げた。バンダナは立ち上がりながら笑う。「へ、へへへ、俺達をなめるな―よ゛ッ!?」その銃口を女性は素早く掴むと、勢いよく引っ張り、バンダナを引き寄せる。女性がバンダナの顔面に肘打ちをすると、バンダナはのけぞった。「な、何だあの女…おい!お前も行け!」ディズナスがスキンヘッドに指示を出すと、スキンヘッドも機関銃を構えてバギーから降りる。「お前は俺の隣に居ろ」アマリアを後ろの座席から引っ張り、無理やり助手席へと座らせる。「逃がさないからな、俺達のキンカの為にもな」「…!!」アマリアは顔を引きつらせている。それを見て、女性は少しだけ目つきを鋭くさせた。バンダナの胸ぐらを掴んで彼を何度も殴りつける。「おい!!トラックをどかせろ!!そうすれば俺達は何もしねえよ!!」スキンヘッドが慌てた口調で女性に駆け寄った。「どかしませんよ」女性は答えた。「なにィ!?」「どかさない理由があります。私“達”には」そう言って、女性はディズナスの隣に座るアマリアを指さした。「その娘を渡してください。その娘に用があるのです。奴隷市で売るつもりなのでしょう?」「…お前、何でそれを!!」ディズナスは顔をこわばらせた。「その女を始末しろ!!」スキンヘッドが機関銃を構えた。「死ね!!」「!」女性が目つきを鋭くさせた時だった。ーガチャッ!!銃弾は発射されなかった。「へっ!?」見ると、機関銃の銃身に黒い刃のナイフが深く突き刺さっていた。「ひいいいいい!!」スキンヘッドの男が機関銃を地面に落として悲鳴を上げる。「…」女性は眉間にしわを寄せ、後方のトラックの荷台に視線を向けた。『大丈夫ですか?アンジェラちゃん』荷台のカバーの隙間から、黒い袖の腕が突き出ていた。白い手袋をしている。その手がゆっくりと荷台の中へと戻っていく。『危なかったですねえ、今のタイミングじゃあ銃撃されておりましたよ』トラックの荷台から降りてきたのは、黒いテールコートを着こなした、執事のような気品を放つ褐色肌の男だった。髪は側頭部が黒くその上は白のオールバックで、茶色のサングラスをかけている。その顔は穏やかな笑顔だったが、なんというか、まるで固められたような笑顔だった。すらりと背の高いその男は、ニコニコ微笑みながらアンジェラと呼ばれたその女性に向かって歩いていく。「ブラック、余計な事しないでください。銃弾くらい防げます。あのハゲ頭さんも痛めつけるのですから」『おやおや、良かれと思いましたのに、あんまりじゃないですか』ブラック。と呼ばれた男は残念そうに肩をすくめた。「ふん」アンジェラは散々殴りつけたバンダナを、パニック状態のスキンヘッドに投げつけた。「うわっ!!」のけぞるスキンヘッドに向かってアンジェラは突進をした。岩山の壁にスキンヘッドが背中から激突する。「ヘビーゴング」右手をスキンヘッドに向け、左拳を大きく後ろに引き下げる。「ひっ」スキンヘッドが悲鳴を上げると同時に、「ハンマー」―ドンッ!!鈍い音と共に、女性の左拳がスキンヘッドの腹部に大きくめり込んだ。背後の岩山の壁に大きな亀裂が入った。『お見事』と、ブラック。「がふふぇあっ…」スキンヘッドの男は血の混じった泡を吹いて、へなへなと崩れ落ちた。バンダナの男の上に覆いかぶさるようにうつ伏せに倒れる。女性はそれをうっとりした顔で見下ろすと、キッとディズナスに視線を向けた。「…!!」ディズナスはバック走行でバギーを走らせ、滑るようにバギーの向きを変えると、全速力で走らせた。「あら」『おやおや、逃げ足の速いこと』砂煙が立ち込める中、「げほげほ…」その中から、一人の女性が歩いてきた。ボサボサの黒髪を持つ女性だ。吊り上がった目に金色に光る瞳、分厚い唇を持つ美女だ。豊満な胸を持ち、白い袖なしのシャツを着ている。大きく露出した胸の谷間を隠すように(隠しきれていないが)オレンジのネクタイをぶら下げている。下半身には右足の裾がない黒ズボンを穿いている。両手足には黒いグローブと黒いブーツを着けているが、どちらにも何重にもまかれた白いバンドのようなものが付けられている。だが、何よりも特徴的なのは、尻から伸びた黒い尻尾と、耳の辺りで動く黒い猫耳だ。「けっ!!なンつー乱暴な運転だ。バギーの事を欠片も大切にしちゃあいねえ」猫耳の女性は女性らしさの欠片もない男のような喋り方で悪態をついた。『クロネコ。大丈夫ですか?』「ったりめーよ!!」「ちゃんとやったんでしょうね。エロネコ」「エロネコじゃねえ!!クロ↑ネコ↓!!オメェらが遊んでいるうちに俺はやる事をしっかりやってンだぞ」クロネコやら、エロネコやらと呼ばれた女性は、その右手に握られたチューブのようなものを二人に見せつけた。「かぁーっ、役に立つ姐さんだニャー、俺ってば」「あはいはい。後はバギーの向かった場所ですね。どうですか?リクリク」アンジェラが荷台のほうを見ると、荷台のカバーがめくられた。「”あはいはい”…!?軽くあしらいやがってこのドエスゴリラ…!!」『まあまあ』「当然だ。マップでバギーの進行方向は手に取るようにわかる。ベタな進行過ぎて反吐が出るぜ」そこには一人の男が座っていた。「それとアンジェラ。気安くリクリクと言うな。俺はリクヤだ」襟に白いファーの付いた黒コートを着た、リクヤと名乗ったその男は、左目を隠すように茶色の短髪頭全体に黒バンドの眼帯を着けていた。ちょうど左目の隠れる場所には白い布が当てられ、そこには誠の文字が刺繍されている。彼の右目は鋭く、目の下にはクマができている。タバコをふかしており、彼がカバーを開いた瞬間から煙の臭いが漂ってきた。「自分からリクリクってあだ名公認したくせに」クロネコが呆れながら言うと、リクヤはギロリと睨むが、静かに右手首に付けられたケースライドを開いた。「聞いてるかボス。テメェの現在地から北東方向だ。取り逃がしたら斬り殺すぞ」【お、OK…いちいち物騒なんだよチミは…】…「クソクソクソ…絶対にこの娘は渡さないぞ」ディズナスは血走った目で前方を睨んだままアクセルを踏みしめる。「俺はキンカを手に入れるんだ。そして…そして…」すると、突然バギーが減速を始めた。「!?」驚いてメーターを見ると、燃料が無くなっているではないか。バギーはとうとう停車してしまった。「ば、馬鹿な、さっきまで満タンだったのに…」「ウチのリペアラーがちょっと細工したんすよ」ギョッとして前方を見ると、「さすが姐さん、いい仕事してくれるねえ」ゼノコードがニヤニヤしながら歩いて来るではないか。アマリアが目を丸くさせて驚いている。「お、お前…撃たれたはずじゃ」ディズナスが言うと、「じゃーん」マントを開くと、オレンジ色のジャケットの中に、黒いアンダーアーマーが見えた。「防弾…それで防いだのか!?」「防げてねえし!ちょっと痛かったんすよ!?」ゼノコードが怒っている中、アマリアは深く安堵のため息をついた。「で…この手のタイプのバギーは燃料タンクをつなぐチューブが露出してるんですよ。古い型だから。で、それを引っこ抜けば、簡単に燃料を外に漏らす事ができるんだと。ほんと、優秀な人っすよ姐さんは」ハッとして外を見ると、後部にある燃料タンクのチューブが抜け、穴が空いているではないか。「い、いつの間に!?さっきの連中も仲間か!?」「ええ、吾輩の仲間っすよ。お宅も、逃がさないっすよ。絶対に」「野郎…!!」ディズナスはバギーから降り、アマリアを引きずり出して機関銃の銃口を彼女のこめかみに押し付けた。「俺はコイツを売ってキンカを手に入れるんだ!!邪魔をするんじゃない!!」「それだと、その子は笑って生きていけないじゃないですか。だからさせない。絶対にさせませんよ」ゼノコードは真剣な顔つきでそう言った。「お前に何の義理がある!赤の他人だろ!?」「いいえ」ゼノコードはマントを脱いだ。その腰には、黒いエプロンが風になびいている。白い円に、オレンジ色でこう書かれていた。“CARRIES”と。「CARRIES…!!?お前、キャリナーか!?」「そ。吾輩はキャリナーだ。その子の両親から頼まれたんすよ。アマリアちゃんを取り戻し、無事に家まで送り届けて欲しいと。運送依頼を受けたからには、その子は立派なお客様っすよ…」ゼノコードはアマリアを見つめた。「だから…『大丈夫』…一緒におうちに帰りましょう♪」「…!!…う…うん!!」アマリアの目から涙があふれ出た。「助けて…助けてええ!!」必死に口を震わせてそう叫んだ。「黙ってろ!!…ふざけるなお前!!奴隷商の邪魔をするのがキャリナーの仕事か!!」「キャリナーの仕事はお客様から頼まれた、人や物など何でも…無事に目的地に届ける事。それを阻害するものがあるってなら…邪魔も仕方ないっすよね」「…!!!」ディズナスは機関銃の銃口を更に強く押し付けた。「それ以上近づくと、このガキの頭を吹き飛ばすぞ!!」「やめなよ、そんな事する気ないくせに」ゼノコードは諭すようにそう言った。「う、うるさい…!!俺は…俺は…!!!」ディズナスはアマリアを見た。アマリアは泣きじゃくりながらディズナスを見上げた。怯え切ったその目に、ディズナスの顔が映っている。「う、う、うお、うおおおおおお!!」ディズナスは顔を歪めて大声を上げた。アマリアを放り捨てると、機関銃の銃口をゼノコードに向けた。「アマリアちゃん伏せて」ゼノコードはアマリアが伏せたのを確認するや否や、素早く右拳を後ろに下げ、左手の人差し指をディズナスに向けた。―ズダダダダ!!乱射された弾丸を、身を反らして避けながらゼノコードは目を細めた。「風・輸送」―ドンッ!!右拳を振り下ろすと同時に、黄緑色に光る何かが螺旋を描きながら直線状に飛んでいく。それは周囲の砂をまき散らす、竜巻であった。竜巻の先端には、拳が形を成していた。「!?」ディズナスがギョッとするよりも早く、その拳は彼の顔面へとめり込んでいた。「ぐぇあああ」アマリアは横へと倒れ、ディズナスは後方へ吹き飛び、バギーのフロントガラスへ突っ込んだ。ガラスが粉々になり、ディズナスは顔面に拳の跡を作って失神していた。「ふう」ゼノコードはため息をついた。すると、アマリアがゼノコードに抱きついて来た。「ふぇえええええ」アマリアは声を上げて泣いていた。「もう大丈夫っすよ」ゼノコードが彼女の頭を撫でている。ふと、晴れやかな顔で彼はこう言った。「キミ、普通に喋れてるじゃないすか!」アマリアはハッとして口を押さえた。「喋りなよ!キミも、砂族の皆も!!声を使う事って、とてもいい事っすよ!」ゼノコードはそう言って満面の笑みを浮かべた。―どがしゃん!と、音がして、バギーを押しのけて赤いトラックが走って来た。「ボス、客は無事でs」女性が運転席から降りて来ながら、ゼノコードにアマリアが抱きついているのを見て形相が険しくなった。「おいコラ何をしているのですか、このロリコン」「え?ちょおまああああ!!ち、違う!!違うよアンジェラちゃん!!吾輩はキミ一筋じゃなろふ!!」ゼノコードの顔面にアンジェラと呼ばれた女性の膝がめり込んだ。アマリアが真っ青な顔でゼノコードを見下ろした。『おやおや』「にゃはははは!」「フン」荷台からはブラック、クロネコ、リクヤが顔を出している。「ボス、引き上げましょう」何食わぬ顔でアンジェラは続けた。「こいつらの取引先がそろそろ異変に気付いて来るはずです」「引き上げたいけど起き上がれないんですけど」血まみれになりながらゼノコードが呻く。「抱っこしてアンジェラちゃん」「アマリアと言いましたね、助手席に座ってください」「無視すかアンジェラちゃん」アンジェラはアマリアの手を取ってトラックの助手席へと座らせた。続いてバギーの中にいる顎髭の男とディズナスを引きずり出した。「お願いします」『かしこまりました』ブラックが二人を抱え入れると、荷台の中にはスキンヘッドの男とバンダナの男も寝かされていた。「狭え」リクヤが短く漏らす。「男くせーむかつく」クロネコも不満そうだ。「アマリアちゃんの隣がいいにゃー」「彼女の隣は私です。それに、アンタみたいな色目ネコにお客様を任せられません」「ンだとコラ!!」『まあまあ』アンジェラちゃんは荷台から運転席に早足で向かう。「ボス。早く起きないと置いて行きますよ」と、バタンと運転席のドアが閉まる。「待ってよアンジェラちゃん今起きるからってちょおまあああああ!!ほんとに置いて行くなおまええええええ!!!」走り去るトラックをゼノコードはダッシュで追いかけた。その時―トラックの真下の砂が大きく盛り上がりだした。「?」アンジェラちゃんがハンドルを握り締めながら真下を見る。アマリアも震えあがった。サンドラゴンだ。トラックはサンドラゴンの頭上に乗っかってしまったのだ。大きな頭を持ち上げ、サンドラゴンは周囲を見回す。「あらら」ゼノコードがサンドラゴンを見上げていると、向こうがこちらに気付いたようだ。「ぐおおおおおん!!」大きく口を開けると、トラックが滑って下に落ちそうになる。「おっ、さっき暴れてたヤツだぜ」クロネコが声を上げる。「強烈だにゃー」『はっはっはっは』ブラックは落ちそうになっているディズナス達をまとめて抱え込んでいる。起き上がったサンドラゴンの頭上から真下まで、おおよそ30メートルはある。そこから落下したらひとたまりも無い。こんなとんでもない状況を喜ぶ男が一人。「ああん、ベタじゃねえ、いいな」「うるせぇリクリク!!」「アンタも五月蠅いエロネコ。アマリア、捕まっていてください」アンジェラちゃんはアマリアに言うと、アクセルを全開にした。「後、アンタらも気を付けて」「ついでみてぇに言うな!!」滑り落ちそうだったトラックが蛇行しながらサンドラゴンの頭上へと戻る。「何をしているのですかボス、この砂漠獣を仕留めてください。このままでは身動きが取れません」と、アンジェラはサンドラゴンの頭上から声を上げる。「お前が置いて行くからこうなったんだろうがああああ!!何かとするからジッとしてろ!!!」「OKボス」「ぐおおおおおおん!!」サンドラゴンは奇声を上げながらゼノコードに襲い掛かった。鋭い爪の生えた前足を振り下ろす。「うわっと!!」ゼノコードは真横へと飛んだ。地響きと共に前足が砂漠にめり込む。「ぐおおん!!」鋭い爪が真横に振られる。ゼノコードはそれを宙返りをしながら回避した。「ぐおおおおおおん!!」サンドラゴンは上半身まで起こすと、鋭い爪の前足両方を使って、猛スピードで何度も斬りかかった。砂煙が舞い上がる。「うおおお!!」爪を回避しながらゼノコードは声を上げた。「うひょー、あっぶね~、サンドラゴンは砂漠獣の中でも危険度は高い、まともに戦っても長引くだけだよ」「何を遊んでいるのですか、早く何とかしてください」と、サンドラゴンの頭上からアンジェラの声。「うるへええええええ!!素っ頓狂な状況下の癖に偉そうな口聞くなああああ!!」ゼノコードがそう叫ぶと同時に、サンドラゴンが大きく身体を回転させる。サンドラゴンの巨大な尻尾がゼノコードに当たった。「うごっ」そのままゼノコードは吹っ飛び、岩山の壁へとめり込んだ。「ゼノコード!!」アマリアが悲鳴を上げる。「ぐおおおおおん!!」サンドラゴンが壁にめり込んだゼノコードに向かって突進していく。「きゃああああああああああああ」アマリアが絶叫した。彼女の声は音波となって周囲に響き渡る。「ぐあ――」サンドラゴンが呻いた。「んんっ!!」アンジェラも両耳を押さえて苦痛に顔を歪ませた。荷台の三人も耳をふさいでいる。「うぉっ、これが砂族の声かっ!!」と、クロネコ。「うう…」壁にめり込んだゼノコードがうっすらと目を開けた。―ズドォォォン!!サンドラゴンが岩山に激突した。「今です」アンジェラはアクセルを踏みしめ、サンドラゴンの頭上から岩山に飛んだ。「キャリートラック、『多脚(マルチレッグ)』起動」―ガコン!音がして、トラックの前輪と後輪が外れる。まるで動物の足のように伸び、それらは岩肌にしがみついて上るように岩山の上へと移動した。「はぁっ、はぁっ」アマリアは荒い呼吸をしながら震えている。「また出ちゃった…私の声のせいで…ごめんなさい…ごめんなさい…」「…」アンジェラはアマリアを見つめていたが、トラックから降りて岩山の下を見下ろした。「ゼノコード…!!」アマリアも後を追って見下ろす。「どうしよう…ゼノコードが…!!」と、アンジェラの手を掴んで引っ張る。「大丈夫です」アンジェラは涼しげな顔で言った。「彼は丈夫ですから」その時、岩山から拳が飛び出した。「ぐへえええ!!げほっ!!えほっ!!」ゼノコードが咳き込みながら岩山を上って来る。「ゼノコード!!」アマリアが嬉しそうな顔を浮かべた。「あ、アンジェラちゃん助けて…」落ちそうになりながらゼノコードが言う。「頑張ってくださいボス、応援してます」「応援じゃねえだろ手を差し伸べるとかしろおおお――――ッ!!」何とか自力で這いあがったゼノコードは、アマリアを見た。「ありがとう」ゼノコードは笑った。「…え?」アマリアがキョトンとすると、「キミのあの声が無かったら、サンドラゴンの突進の勢いが弱まらなかった。おかげで回避する隙ができたんすよ。おかげで助かったっす。だから…ありがとう!」「…!!」アマリアは驚きの顔を浮かべていた。「キミ、自分の声で人を傷つけるのが怖いと思ってたんでしょ。それを、人を守る力だと思えばいいんじゃないすか?自分の力と向き合ってみると、案外いいとこ見つかるかもしれないっすよ」「…私の声が…人を守る…?」アマリアは自分の口元を押さえながら、うつむいた。「来ますよ」アンジェラがそう言った。「ぐおおおおおおおおん!!」サンドラゴンが大口開けて岩山を上って来るではないか。「逆上している。ボス、早く仕留めろ」リクヤが険しい顔で言った。「でないと俺が仕留めちまうぞ」「いいよ吾輩が何とかするから…」ゼノコードは右拳を後ろに引き下げる。左手の人差し指をサンドラゴンへと向けた。「さっきも使ってた…あれって…」「魂技」アンジェラが言った。「え?」「魂技(ソウルアーツ)。生命ある者に潜在する力、命力(グレット)。神聖なる神の力、神技。異形なる悪魔の力、魔紋。この三つを総称した力が、魂技です。あなた方砂族も、声に関する魔紋を代々受け継いでいるのでしょう」アンジェラはアマリアを見ながらそう言って、ゼノコードを見た。「彼…ボスは、風の命力(グレット)を持つ、魂技使い(ソウルユーザー)なのです」ゼノコードが右拳に力を込めると同時に、彼の頭上で揺れる黄色い触覚が、大きく変化を遂げた。「ああっ!!」アマリアが驚いて声を上げた。球体だったそれは、左右に広がり、翼のような形状に変化した。鳥ではなく、まるで、竜のような力強い大きな翼だ。「思い出した…お父さんが教えてくれた…伝承の通りだ…」アマリアは驚きながらそう言った。「伝承?」「風を操り、天空の覇者とも呼ばれる伝説の一族…白龍族。彼らは力を発揮する時、頭部に竜を宿すと言われている…伝承だけだと思ってたのに…まさか、ゼノコードって白龍族…!?」「へえ、それは大層ですね」アンジェラは冷めた顔でゼノコードを見た。「むぁた広がった!!邪魔だなあもう!!」ゼノコードは広がった触覚を邪魔そうに後ろに押しのける。「邪魔なの!?」と、アマリア。「白龍族にしては品格に欠けます」「にゃはは、違ぇねえ」「全くだ」『酷いですよ皆さん。アレでも我々のボスなのですから。顔を立てて差し上げませんと』「好き勝手言ってくれるねおまいらは!!」ゼノコードは怒りながらも、飛び上がった。「ああっ」彼の両足から黄緑色に光る竜巻が放出された。両足の竜巻によって彼は浮遊しているではないか。「こっちこっち!!」ゼノコードが宙を舞うと、サンドラゴンはそれを追って岩山から飛び降りる。地響きによってアマリアが倒れそうになるが、アンジェラが支えてくれた。「ま、実力だけならば私も認めますがね。ギリですが」と、アンジェラはアマリアを抱きかかえてトラックへと歩みを進める。「OK…」空中で右拳を引き下げ、左手の指をサンドラゴンに向ける。サンドラゴンが口を開けて突進をしてきた。「HERE WE GO!!」―ドンッ!!さっきよりも巨大な竜巻が、サンドラゴンの口の中に叩き込まれた。体内の竜巻が背中の皮膚に大きくめり込み、拳の形が盛り上がった。「……!!!!」サンドラゴンは白目を剥き、ゼノコードに激突する前に勢いを失い、そのままゼノコードの真下をくぐり地面を滑っていった。「運送完了!」ゼノコードはそう言うと、ニンマリ笑った。『いつもながら見事ですねえ』「あのナヨナヨしてる性格さえなきゃあにゃあ」ブラックとクロネコは楽しそうに会話をする。「フン、手間取りやがって」と、リクヤ。「ご苦労様でした」と、アンジェラちゃんは彼に聞こえないようにそう言った。…「ありがとう…ありがとう…」アマリアの両親が、泣きながら何度も頭を下げている。その声はとてもか細かった。周囲には大勢の人々が、アマリアを取り囲みながら嬉しそうに笑っていた。「娘を送り届けましたよ、キンカをください」アンジェラが手を差し出しながら両親に迫る。「アンジェラちゃん!!がめついねえ!!」と、ゼノコードが慌ててアンジェラを押さえる。「ぶひゃー!!」クロネコはそれを見て腹を抱えて笑っている。「こちらがキンカです」父親がキンカの入った袋を差し出すと、「毎度ありがとうございます!!」ゼノコードは深く頭を下げて受け取った。「しっかり数えてくださいよ。少ない場合もありますからね」「アンジェラちゃんお願いだから黙れ」「お父さん、あのね」アマリアが父親に駆け寄った。「どうしたアマリア」「…あのね…もっといっぱい…声を上げて喋ろうよ!!」「…え!?」どよめく人々を前に、アマリアは目を輝かせながら話し始めた。『ボス、いい働きをしましたねえ』ブラックはゼノコードに囁いた。『あの子の背中を押したのは貴方ですよ』「いやいや、前に進んだのはあの子だよ」ゼノコードはウィンクをして答えた。「ま、砂族もこれで他の国とも交流できるようになるンじゃねーの?」クロネコが頭の後ろで腕を組んで言う。「なあ?リクリク」「知るか。あいつ等の頑張り次第だろ」「にゃは、それもそうか」「ベタなことをしたら殺すがな」「それはやめろ」クロネコがリクヤを諫めるとブラックは楽しげに笑った。「はいはいおまいら、無駄口はそこまで」ゼノコードが手を叩きながら、アマリア達の方を向いた。「…ご利用ありがとうございました!!」ゼノコードは深く頭を下げた。後ろの四人も同じように頭を下げた。トラックに乗り込み、走り出す彼らに、アマリアは叫んだ。「ありがとう!!運送屋さん!!」…「…」ディズナスは、仲間の三人と共に縛り上げられ、トラックの荷台へと乗せられていた。「俺達をどうする気だ」ディズナスが言うと、「その辺のガソリンスタンドで下ろしますよ」助手席でゼノコードがポップコーンを食べながら答えた。「!?」驚いたのはディズナス達だけではない。「ああン!?」『ほお』「チッ」クロネコ、ブラック、リクヤも助手席の方を見て声を上げ、「…はあ?」アンジェラがゼノコードを睨み付ける。「ボス、寝言は死んでから言ってください」「死んだら寝言は言えないでしょうがよ」「おいおいおいおい!!」覗き窓越しにクロネコも詰め寄った。「こいつ等は奴隷商人だぞ。犯罪者!!国家戦士に引き渡したら報酬キンカがたんまりもらえンだぞ!!」そう言いながらが後ろを指さすと、ディズナス達は顔を引きつらせる。「あ。てかここにいるし。国家戦士」と、クロネコはリクヤを指さす。「ひいいい!?」スキンヘッドの男が悲鳴を上げた。「黙れ、今は違う」リクヤは短くそう答えた。「でも~、結果的にアマリアちゃんを売ってないわけだし、今回は何もしてないんだからいいっしょ」「そう言う問題じゃあないでしょうが」アンジェラはゼノコードの耳を掴んで引っ張った。「いででででででで!!耳を引っ張るな千切れるうううううう!!」『リクリク。ボスがあんな事言ってますが、いいのですか?』ブラックが楽しそうにリクヤに聞く。「気に入らんが…俺の今の仕事は、国家戦士の業務ではない。あいつもそこを逆手に取っているのだろう。腹が立つ」「い…いいと思ってるのか?」ディズナスが震えながら言う。「俺達をのさばらせといていいと思ってるのか!?また同じ事を繰り返すだけだぞ!!キンカが欲しいからやっているんだからな!!」「あ、はい」と、ゼノコード。「まあするかしないかはお宅らの自由っすけどね」そう言いながらゼノコードはポップコーンを頬張った。「でも、人が嫌がる事やってキンカ稼ぐなんて、変態っすね。どうせキンカ稼ぐなら楽しい事すればいいのに」「…何?」「そもそもキンカ稼いで何がしたいんすか?お宅らは」ディズナスは茫然とした。何なんだこいつは!!「うおおおおい!!貧乏人なンだぞ俺達ゃ!!せっかくキンカ稼げると思ったのによおおおお!!」覗き窓の格子から手を伸ばしてクロネコはゼノコードの首を絞める。「うびいいいいいいい!!首絞めないでえええええ!!アンジェラちゃん助けてえ!!何で嬉しそうに見つめるだけなの」…砂漠地帯の中に、キャリナー達がトラックの燃料補給をするためのガソリンスタンドがある。砂漠獣が近づかないように特殊な音波発生装置が周囲に取り付けられている。そこに、ディズナス達は下ろされた。ゼノコードが施設の説明をしている。「水はあるから、死ぬ危険はないっすよ。後は自分達で何とか生き延びてくださいね。あ、後これ名刺。運送依頼がありましたら是非こちらまで!ご利用お待ちしてまーす!」「置いて行きますよ」トラックが猛スピードで発進する。「ちょおまああああああああああ!!置いて行きながら置いて行くと言うなあああああああああああああああああ!!」ダッシュで走り去る彼らを見て、「変な奴だったな」顎髭がぼそりとつぶやいた。「馬鹿な奴らだ。俺達を見逃すなんてな」「全くだ!はははは!!」と、バンダナとスキンヘッドは笑いながら話している。「…」ディズナスは懐からロケットペンダントを取り出した。開くと、そこには笑顔の女性と幼い男の子の写真があった。「ちくしょう…キンカを稼いだら…息子が学校に行けるんだよ。もっと美味いもの食べさせてあげられるんだよ…」ディズナスは肩を震わしながらそう言った。「あ?」バンダナが振り向くと、ディズナスは目を袖でこすりながら、「奴隷商は今日限りで廃業だ!!何か別の方法でキンカを稼ぐぞ!!」そう叫び、踵を返して歩き出した。三人の仲間は仰天して顔を見合わせたが、すぐにディズナスを追いかけ始めた。「どうしたんだよディズナス!!何考えてんだ!!?おーい!!」…「ちぇー、せっかく小遣いもらえると思ったのによお」と、クロネコ。『おやおやまだ言っているのですか?ウチのボスが決めたことなのですから仕方がないでしょう』「でもよぉ」「いいかクロネコ。国家戦士の俺から言わせてもらうがな。国家機関はそんな下心のある野郎にキンカは払いたくねえだろうよ」リクヤはタバコをふかしながらそう吐き捨てた。「後テメェは禁欲もしろ。目障りだ」「ンだと!?」『まあまあ』「五月蠅い」と、運転席からアンジェラちゃん。「彼ら、改心しますかね」アンジェラちゃんは横目でゼノコードに聞いた。「さあね~」ゼノコードは笑った。「でも、仕事はやっぱり楽しくなくっちゃ♪そうだろ?」「そうですね。貴方の言う通りです。ボス」「なあなあリクリクが苛めンだぜえ?オメェら姐さんを慰めてくれよ!」「ベタな物言いを抜かしてんじゃねえ!!ぶった斬るぞゴルァ!!」『二人とも落ち着いて、やれやれ参りましたなあ。はっはっはっは』「おまいら黙れw」広大な砂漠地帯を、一台の薄汚れた赤いトラックが走り抜ける。お客様に、夢と希望と運送物を届ける為に、彼らは今日も仕事をする。無印CARRIES
2020.03.31
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はじめまして。楽天さんで新しくブログを始める事にしたシロクマです。前のブログでは色々と小説を連載していましたが、ここでも色々くだらない小説やイラストでも乗せて行こうかなと思ってます。また、映画も趣味で観たりしますので、感想とかも気分次第で書くかもしれません。とりあえずマイペースにやっていきますので、よろしくお願いします。
2019.09.25
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