シロクマの実家

シロクマの実家

2020.08.19
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カテゴリ: 無印CARRIES
​ゼノコードが少女に出会う少し前―

「ここにいろ」
盗賊がバラエティを放り込んだのは、財宝が積まれた大きな部屋だった。宝物庫である。

「あああ!」
バラエティはキンカの山に背中から落下した。
同時に扉が閉まり、鍵がかかる。

「そこで財宝の匂いでも楽しんでろ」
「ぎゃはははは」
盗賊達が笑いながら歩いて行った。


バラエティは頭を抱えた。

「騙されてた…何も疑わずにあっしは…大馬鹿野郎ですぁ…!ゼノコード君…ごめんよ…ごめんよ…!!…逃げてつかぁさい…!!」

・・・

「宝物庫に入れて大丈夫なのですか?」
イレイズの後ろを歩く盗賊が聞く。

「グシャナ様の宝が奪われでもしたら…」
「あの運送屋は魂技を持っていない。問題ない。警戒すべきなのはもう一人の方だ。アイツは風を操っていた。お前らでは太刀打ちできん」
イレイズは冷静に答えた。

「だが、警戒すべきヤツがもう一人いる。少し様子を見て来るから、お前らは警戒を怠るな」
「はっ!」
イレイズは通路の奥にある階段を降り、牢獄に着くと、その厳重そうな鉄格子に近づいた。


鉄格子越しに見えるのは、鋭い目つきで睨む少女の顔だ。

「もう1週間も何も喰ってないのに、しぶとい女だな。さすがは化け物だ」
「グシャナに…大頭に会わせてください」
少女はそれだけ言った。

「❝今日❞なのでしょう?お願いです。会わせてください」

イレイズは楽しそうに鉄格子に寄りかかり、少女を下卑た笑顔で見つめる。

「その顔」
少女は首を傾けた。

「あ?」
「その顔を…必ず粉々にしに行きますので。お忘れなく」
「…」
イレイズは苛立った顔を浮かべ、鉄格子を乱暴に蹴った。
ガシャンと大きな音を立てる。

「さっさとくたばりやがれ!!化け物女」
それだけ吐き捨てると、イレイズは階段を早足で駆け上がっていった。
少女は自身の両手を見上げた。
両方の手に、鋼鉄でできた手枷が付けられており、それぞれが鎖で繋がっており、天井から吊るされている。
鋼鉄と鎖でできているので、力では外せない。
どうやってこの状況を打開するか。
少女は絶望する事も無く、目を閉じて考え始めた。

その時―
階段を降りる足音が聞こえた。
少女は目を開き、階段の方を見る。

「ここは鉱山とは違うようだね」
降りて来たのは白い髪に黒の前髪を持つ、オレンジ色のジャケットを着た青年であった。
少女は彼の頭上で揺れる黄色い触角を見て、首を傾げた。

「牢獄…バラっちはいるかな」
青年はは松明を燭台から外し、鉄格子へと近づいてきた。
牢の中にいる少女の存在に気付いたのか、

「バラっち?」
話しかけてきた。
敵か味方かもわからないような青年に対し、少女が黙っていると、

「そこにいるのかい?…誰?」
青年は松明を掲げ、目を凝らした。
ぶら下がっている少女を見るなり、青年は飛び上がった。

「なっ…大丈夫!?」
青年は慌てて周囲を見渡し、部屋の隅にあるテーブルへ駆け寄ると、

「待ってて、今開ける!」
鍵を持って鉄格子の扉に駆け寄った。
鍵を開け、扉を開けると、青年は松明を持ってその少女に近づいた。
鍵を開けてくれた。中に入って来た。
この青年は馬鹿なのか。彼女が何なのか知らないのか。
彼女は復讐の為に、この盗賊団のボスを殺す為に訓練を積んだ。
女を捨ててまで力を磨いてきた人間兵器なのだ。
ふしだらな真似をしようと牢の中に入って来た盗賊をボコボコにしてきたので、今では牢の中には誰も入りたがらなくなっていた。
なのに、この青年は入って来た。
命知らずだ。助けも要らない。こいつもぶちのめそう。

少女はそう思っ

「綺麗だ…」
青年はそうつぶやいた。

(…?)
少女は一瞬何を言われたのかわからなかったが、青年を見下ろしながら一言。

「五月蝿い」​​

・・・

そして今―

第4運送…化け物女

「ちょおま!!五月蝿いて!!」
少女のその瞳はサファイアのように美しい青だが、光が無い。
前髪も長いので顔がしっかりとは見えないが、それでも息を呑むほどの美少女だった。
松明の光に反射し、黄緑色の髪が光る。頭部の右側には、黄色い髪留めがあり、それも宝石のような光沢を放っている。
拘束されている両腕だけでもわかるが、その筋肉は鍛え上げられており、肉体そのものが洗練されているようだ。
ゼノコードはいきなり暴言を吐かれた事に驚きつつも、

「え、えーと、ここにヒョロヒョロで頼りなさそうな運送着姿のオッサンが来てませんでした?」
と、顔を真っ赤にしながらそう聞いた。

「…」
少女はその質問に対し、少し考えた素振りを見せ、

「そこに寝てください」
そう答えた。その声も美しいと思ったが、同時に質問への答えになっていない事にも気付いた。

「えーと…はい?」
「二度も言わせる気ですか」
少女はため息をついた。

「私の足元に寝てください」
「え…ど、どうして?」
ゼノコードがポカンとしていると、その首に少女の逞しい美脚が思い切りのしかかった。

「あぶるす!!」
ゼノコードは少女の凄まじい脚力によって成す術も無く地べたに叩き付けられてしまった。
うつ伏せに倒れたゼノコードの背中に、少女は両足を乗せた。

「がぶぅぅぅ!!」
想像以上に重たい。

「そう、両手をずっと吊り上げられて正直疲れていたので、踏み台が欲しかったのです」
ため息をつきながら少女はそう言った。

「踏み台ぃ?初対面の人間に何さらしとんじゃこの娘はぁぁ…」
地面に顔を押し付けながらゼノコードは呻いた。

「ここには誰もいません。この牢獄には私しかいません」
少女はゼノコードを踏みつけたままそう答えた。

「いないの?じゃあバラっちはどこにあひぃぃぃぃ!!」
ゼノコードは尻を少女にぐりぐりと踏みにじられている。

「ここがいいのでしょう?」
「ああもっとォ…―じゃねえよ!!何すんじゃボケェ!!」
「失礼、踏みにじりたい衝動に駆られました」
「『駆られました』じゃねえから!!そして何だそのサイコな衝動!!抑えろ!!ていうかもう立っていい!?」
「嫌です。踏み台が無いと手が疲れます」
少女は困った顔を浮かべている。

「知るかァ―ッ!!」
ゼノコードは激怒しながらそう叫んだ。
そして、ハッとした。

「キミ、どうしてこんなとこで吊られてるの?キミも盗賊の仲間でしょ?悪い事でもしたの?」
ゼノコードの言葉に少女は眉間に皺を寄せた。
ゼノコードの頭を思い切り踏みつける。

「んが!!」
「私を下賎な盗賊と同じにしないでください」
「あがが…だ、だって盗賊と同じ服着てるから…」
ゼノコードがそう言うと、少女はますます不機嫌な顔になったが、頭から足を離し、ゼノコードの背中から降りた。
ゼノコードは逃げるように立ち上がった。

「貴方には関係ありません」
「え?ま、まあそれもそうだけどさ」
「用はそれだけですか?ならば、出て行ってください」
少女はゼノコードに背を向けた。

「とっとと仲間を探しに行ったらどうです?」
「えー、でも」
ゼノコードがそう言いかけた時―
少女が一瞬で目の前まで迫っていた。

「うお!?」
「早く出て行かないと息の根を止めますよ」
―ガシャン!!
と、鎖が伸び切った音がする。
少女の逞しい両腕が後ろに突っ張っている。

「こんな状態でも私にはできます。貴方を殺すぐらい、難しくありません」
「あわわわわわ!!」
ゼノコードは突然の事に驚き、尻もちをついた。

「…!」
少女は目を見開いた。目の前で座り込むゼノコードを見て、少女はうつむいた。

「出て行ってください」
そう言って、背を向けた。
その背中はさっきより小さくなったように感じた。
それを見てゼノコードは察した。

「…ごめんごめん、いきなり迫って来たから驚いたんだよ。キミを怖がったわけじゃない」
ゼノコードは立ち上がると、

「さっきの事、言いたくないならいいよ。でもキミ、そんなに悪い事をする子には見えないんだよね」
少女の後姿を上目遣いで見ながらそう言った。

「何故そう思うのですか?ばかばかしい。私はこの一味から戦闘と、人の殺し方も学びました。犯罪も学びました。私は悪人です」
「ふーん…」
ゼノコードは頬を指で掻きながら少し考えこみ、

「でもやっぱ悪者には見えないんだよなあ。ドエスだとは思ったけど」
笑顔でそう言った。

「貴方、変わり者ですね」
少女は振り向いた。
呆れている様子だ。

「いやキミ程じゃ」
「私に向かって『綺麗』と言ったり、怖がるどころか『悪人には見えない』と言い出す…何も知らない癖に。ほっといてください」
そう言うと、少女は再び背を向けた。

「じゃあ、お別れする前にせめて名前聞かせてよ。キミみたいな美人さん、名前を知っておきたいからね」
ゼノコードが明るい口調でそう言った。

「!!!!」
少女の身体がこわばったように見えた。

「…変な事聞いた?」
ゼノコードは少女が急におとなしくなったので、驚きながら恐る恐る聞く。

「ご、ごめん、キミ、地雷が多い子なんだね。吾輩何も考えずに色々言っちゃう癖があるもんだからつい―」
「ありません」
少女は答えた。

「―へ?」
「私には、名前がありません」
少女は振り返った。
これまで以上に、その表情には生気が無かった。

「名前が無いって…」
「名前を付けられる前に全てを奪われたからです」
少女はゼノコードの言葉を遮るように話し出した。

「私はかつて、故郷をこの盗賊の一味に襲撃されました。父も、母も、兄も、祖父も、祖母も、友達も、みんな、みんな死にました。グシャナに残酷な方法で殺されました。そして私一人が生き残りました。父が私に名前を付けてくれる直前の事です。一味は、私に素質を見抜いたと言ったかと思えば、私を盗賊として鍛え、犯罪を、戦いを、殺しを教えました。私は必死に学びました。しかしそれは、盗賊として役に立ちたい為ではありません。強くなって、この一味のボスを殺す為です。そしてそれが盗賊達に気付かれ、こうして制裁を受けているのです」
少女はそれだけ喋り終えると、息を少し切らしながらうつむいた。

「質問に答えましたよ。ハァ…ハァ…満足しましたか?」
その目にうっすらと涙が浮かんでいるのを、ゼノコードは見逃さなかった。
この少女は復讐の為に、一番いたくもない場所で長い間、ずっと耐え抜いて生きて来たのだ。

「名前が無いのなら…この一味はキミを何て呼んでんの」
「強すぎるから、化け物女と」
少女は答えた。

「もういいでしょう?私に構わないで、出て行ってください」
その声にも、力が無くなっていた。

「ああ、もういい」
ゼノコードはそのまま牢から出ようと―

―しなかった。

驚く少女に歩み寄ると、彼女の手錠に鍵を差し込み始めた。
少女は目を見開いてゼノコードを見た。

「何を…しているのですか」
「何って、手錠を外そうとしてるんだけど」
「…どうして」
「キミを救いたいから」
ゼノコードはそう言いながら、
―ガチャ
手錠を外した。
少女は自由になった両手を握ったり開いたりした。

「辛い事を喋らせて、本当にごめんなさい」
ゼノコードは少女に向かって頭を深く下げた。

「でも、吾輩をなめんなよ。過去を喋れば怖気づくと思ったんだろ。吾輩はますますキミに構いたくなった」
「しかし、私は化け物みたいな身体で凶暴です」
「にひひひ」
ゼノコードは笑いながら少女に手を伸ばした。
少女はゼノコードを殴ろうとはしなかった。

「キミは吾輩がこれまで見た中で、一番綺麗な子だよ」
ゼノコードは少女の頭に手を乗せて、優しく撫でた。
綺麗だなんて言われ慣れていない。
少女の顔は真っ赤になった。

「盗賊にいるから幸せになれないんだ。それなら吾輩がキミをここから解き放ってやんよ」
「解き放つ…?」
少女がそう言うと、ゼノコードは少しだけ考えて、

「アンジェラ」
少女にそう言った。

「アンジェラちゃん。キミの名前は、アンジェラちゃんだ」
少女は呆然としていた。

名前。

彼女が手に入れたのは、彼女にとって、あって当たり前なはずの名前だった。

「名前が無いからここから出られなかったんだ…だからキミは今日から、アンジェラちゃんだ。…嫌かな?」
ゼノコードが苦笑する。

その時―

「騒がしいと思えば、ここにいたのか!!」
盗賊が5人、階段を駆け下りて来た。

「げげげ!!」
ゼノコードがギョッとする。

「すぐにイレイズ様を呼んで―…あ!!」
盗賊の一人が少女に気付いた。

「あの野郎、あの化け物女の手枷を外していやがる!!」
「ヤバいぞ!!牢の扉を閉めろ!!」
「ダメだ!!あの運送屋がカギを持っている!!」
「うああああ!!化け物女が暴れ出すぞおおお!!」
盗賊達は阿鼻叫喚の有様である。

「アンタら…いい加減に」
ゼノコードがムッとしながらそう言いかけた時、真横を少女が通り過ぎた。

「うわあああ!!く、来るな化け物おお!!」
盗賊達は機関銃を乱射した。
少女は身を引くくし、弾丸の雨を回避しながら素早く走り出した。

「化け物化け物と騒々しい」
少女は、素早く盗賊達の真後ろに回り込んだ。

「私の名前は…アンジェラちゃんです!!」
「うっ!!」
盗賊達が驚いて振り返る。

「でりゃあッ!!」
凄まじい勢いで回し蹴りをお見舞いし、盗賊達を5人まとめて蹴り飛ばした。

「あんぎゃあああ!!」
盗賊達は壁に激突した。
上半身が壁にめり込み、下半身が壁から生えている状態になっている。

「しゅげー」
ゼノコードは目を丸くさせてそう言った。

「愚かな。アンジェラちゃんと呼ばないからこうなったのです」
壁で痙攣している盗賊達に向かってアンジェラちゃんは冷静にそう言い放った。

「そりゃ仕方なくない?」
と、ゼノコード。

「貴方は?」
少女は両手を払いながらゼノコードを見た。

「え?」
「貴方の名前は?」
「あ、ボス・ゼノコード…ッス」
「ボス…名前がボス…変わった名前ですね」
「ほっとけい!」
「ボス・ゼノコード。とりあえず感謝しておきましょう。貴方のおかげで私は名前を手に入れる事ができました」
偉そう。ゼノコードは苦笑した。
アンジェラちゃんはゼノコードに向かって歩み寄った。

「お礼に、❝この、アンジェラちゃん❞が貴方の仲間を助ける手伝いをしましょう」
「(名前気に入ってくれたみたい)ありがとう!!」
「その鍵は持っておいてください。このアジトのマスターキーです」
アンジェラちゃんは地面に転がっている機関銃を一丁拾い上げる。
もう一丁拾ってゼノコードに差し出した。

「いや、吾輩、銃は嫌いなんで」
「あら、わかりました」
アンジェラちゃんは階段を駆け上がりだした。

「ボス・ゼノコード、❝この、アンジェラちゃん❞に付いて来て下さい。恐らく貴方の仲間は宝物庫にいるはずです」
その言葉を聞いて、ゼノコードの表情は輝いた。

「OK!!HERE!!WE!!G」

「ちょおま」





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Last updated  2026.02.09 21:45:09
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