眠れない夜のおつまみ

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2005/11/20
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カテゴリ: 小説
俺は、周囲の無言のプレッシャーに押し通されそうだった。
会社での視線、担当からコンスタントにかかってくる電話、そして道行く見知らぬ人の視線までも俺に何か言っているようで狂いそうな気持ちだった。
不眠が続き、体調は最悪だ。
こんなに打たれ弱い男だったのか?
自答自問する。
あぁ、そうかもしれない。
ユリコは何も言わずに、遠くから見守っていてくれた。
安らぐ場があって良かった。
そんな日々が続いて、ある日突然また頭に激痛が走った。

眠れずにリビングで深夜番組を一人で見ていたのだ。
息も出来ないくらいに激しい痛みが頭を駆け巡る。
声も出ない。
苦しんでいるのに、「助けてくれ!」とも叫べないのか。
きっと死ぬ時はこんな感じなんだろうか。
そして俺は気絶してしまったようだった。
目が覚めて時計を見ると2時間経過していた。
2時だ。
TVはいつの間にか切れており画面は黒く光っていた。
あぁ、また何か予感がする。
降って来る。

予感は的中した。
文字がパソコンの画面から飛び出てくる。
また、これが小説になるのか。
拾わなくては。
俺は必死でキーボートを叩いた。

なんで俺はこんなことしているのだろう?
小説になるからだ。
拾わなければ。
拾えば小説になる。
1冊目は飛ぶように売れ続けている。
その作業は、やはり朝まで続いた。
5時間休みなしでキーボードを叩き続けた。
その速さは、俺ではないくらいに打つのが速かった。
そして最後の読点が飛び出すと、もう次は何も飛び出てこなくなった。
あぁ・・・終わった。
もう8時だ。
でも、こんな状態では出勤など無理だ。
眠りたい。
深い深い海の底で静かに眠りたい。
ユリコが起きてきた。
俺を見るなり、ぎょっとして
「あなた、大丈夫?」
と駆け寄ってきた。
「ね、眠い。」
そう言うと俺は鼾を書いて寝始めたらしい。
目が覚めるとユリコはノートパソコンをじっと見つめていた。
「会社へは連絡してお休み頂いておいたわ。あなた、また前みたいに書いたのね。」
「面白いか?」
俺はまだ眠い目をこすりながら聞いた。
「ええ。読んでいると、すごく切なくて哀しくて、でも心が温かくなるわ。」
ユリコは読むのが速い。
一通り読み終わると俺の顔を見つめて
「あなた、私、3年前の事思い出したの。」
と思いつめたように言った。
「3年前。まだ結婚して無かったよな、俺達。」
「そう。私が行きたいって、占いの館に行ったの覚えてない?」
俺は少し考えて
「あったっけ?」
と言うと
「あの時ね、あの占い師こう言ったのよ。”3年後あなたに転機が来ます。少したりともこぼさずに受け止めるようにしてください。それは、天から降ってきます。”って。」
俺は、その言葉を思い出した。
そうだ、あの占い師にそんな事言われた。
丁度、3年経ったのだ。
天から降ってくるもの、それは文字だった。
そういう事なのか。
この事だったのか。
謎が解けたような気持ちになった。
「これって転機なのかしら・・・。」
不安げな顔をしてユリコが言うと電話が鳴った。
出版社の担当からだった。
何と言うタイミングの良さ。
盗撮でもされているのかと思ってしまう。
2ヶ月に1回の割合で、この現象は「きている」。
じゃ、次はまた2ヵ月後なのか?
そう思うと、何だか俺は、自分に起きているこの出来事が面白くなってきた。

2ヵ月後、と言う俺の予想は外れていた。
1週間後、職場であの強烈な頭痛が起きて早退した。
病院で処方された鎮痛剤を飲んで何とか家に辿り着くとリビングのソファーにユリコに支えられながらも倒れ込んだ。
また来るのか?
そう思いながら記憶が飛んだ。
3時間後、目が覚めた。
テーブルにはノートパソコンが置いてあった。
ユリコが準備したのだろう。
俺は、またとり憑かれたようにキーボードを叩き始めた。
6時間続いて12時間眠る。
たびたびこのような事が起きるようになって会社を辞めざる得なくなった。
会社側も、俺の本が次々と店頭に並んで、何故かどれもベストセラーになっているので、あっさりと俺の退職願は認められた。
大して会社からも必要とされていなかった、だけなのかもしれない。
そう思うと背筋が寒かった。
作家とはこんな生活をしているのだろうか。
最近は頭痛は起こらず、深夜2時から3時の間に予感がするのだ。
その予感は何とも表現できない感覚で、俺の第六感で感じる、と言う感じだ。
この数ヶ月の間に20冊もの本が出版され、どれも話題となり売れ続けている。
俺は、一度も自分の書いたとされている本を読んだ事が無い。
おかしな話だ、と思うだろうが本当の話だ。
ただ、飛んでくる文字を拾えば小説になって金になる。
この時俺は愉快で仕方なかった。


                       <つづく>

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Last updated  2005/11/21 01:33:37 AM
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