眠れない夜のおつまみ

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2006/03/02
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カテゴリ: 小説
俺の横にはかおるが横たわっている。
病気の事を告白してからも、かおるは俺の側から離れなかった。
時々、夢なんじゃないかと思ったりする。
けれど、こうして今日も会いに来てくれた事は夢じゃない。

病気の事を告白してから1ヶ月が経とうとしている。
不思議と症状はあれ以来出ずに治まっている。
そう言えば、結婚したり、恋人が出来たり精神的に安定している時は、症状が出なかったり、出ても軽かったりすると言う記事をどこかで読んだことがある。
そういうことなのだろうか?

かおるを見つめて思った。

彼女は今日夜勤明けなのだ。
会うなり、そのままフリータイムでホテルに入ってしまった訳である。
「今何時?」
かおるはまだ眠そうな顔で聞いた。
「1時だよ。」
それを聞くなり、かおるはまた再び枕に顔を埋めた。
「もうちょっと寝る。」
暫くすると、寝息がまた聞こえてきた。
俺はそんなかおるを微笑ましく思い、髪をしばらくなでていた。
こんなデートのパターンが多いのだが、かおるは満足しているのだろうかといつも不安に思ってしまう。
もっと、いろいろな所に遊びに行きたいのではないのだろうか?

口にはしないが、かおるは明らかに俺に合わせてくれている事が、俺には分かる。
こうなる事は分かっていた。
ずっと、引け目に感じる事が嫌だった。だから、どこにも納まらずに眠れない夜を彷徨っていたのだと思う。
かおるには甘えられる。
けれど、こんな風に続いたら負担になるのではないだろうか?

そんな事を思わずにはいられなくなる。
やはり、あの時もう会わずに別れた方のが良かったと思う日が来るのだろうか・・・。
俺の内心は喜びと戸惑いがミックスされて実は不安定に揺れている事を何となく察知していた。
でも、今はかおると一緒にいたいと言う気持ちが全てのマイナス思考を打ち消していた。

それから2時間後、かおるは目を覚まし、俺達は普通の恋人達のように抱き合った。


シャワーを浴びて、身なりを整えホテルから出ると、もう日が暮れそうになっていた。
車に乗ってエンジンをかけながら
「腹減ってない?」
とかおるに聞く。
俺の病気の事を気にしてか、食事の話はかおるからは一切してこないからだ。
きっと空腹に違いない。
「うん。ちょっと空いてる。」
とかおるは照れくさそうに言った。

俺はそういった些細な事を何も聞かなかった。
食事の話を何故しないのか、こんなデートでも何故不満を言わないのか、こんな俺に何故会いにくるのか・・・
お互いに同じ気持ちなのだろう、と思いたいし、正直な話聞くのが怖かった。
ただ、今は一緒にいられればそれでいい。
その言葉でまた小さな不安を打ち消していった。


その後も俺の休みに合わせてかおるは会いに来てくれた。
休みの前の夜から、俺は待ち遠しくて電話をかけては長電話をした。
ところが、日に日に恋愛による安定感と不安定な気持ちは大きく反比例して行った。
嬉しいと思えば思うほど、その後に一人で地の底に落ちるくらいの勢いで落ち込んだりした。

そんなある日、栄でデート中、ブライダルショップのビルに視線を向けているかおるに気が付いた。
6階建ての小さなビルであるが、ウエディングのもの全てが揃うようになっており、2階にはウエディングドレスがディスプレイされている。
その為、この通りを通る年頃の女性は視線が上向きになるのだ。
かおるもそうだった。
25歳だし、結婚を考えてもおかしくないよな。
俺には、その時現実を叩きつけられた気がしたのだ。
そこから、調子がおかしくなった。
適当なところでカフェに入った。
「かおるさ、結婚、したいの?」
唐突な質問に「えっ?!」とびっくりしたようだった。
言葉も出ないようだったので続けて言った。
「さっき、ビルのウエディングドレス見てただろ?だから聞いてみただけ。びっくりした?」
と言うとかおるはコクンと頷いた。
その後かおるは何か言いたそうな顔をして黙り込んでしまった。
駐車場までのろのろと黙ったまま俺達は歩いて運転して数分たって言葉が上手く言えない俺は言った。
「結婚とか、選ぶ権利があるのはかおるだから。」
俺はそんな事を言っておきながら、かおるの顔を見れなかった。
かおるは終始何か言いたげだったが、何も言わず別れ際顔を歪めた笑顔で去って行った。

そんな姿を見て、俺はあんな事を言ったのを後悔した。
でも、もう取り返しが付かない。
汗臭い青春ドラマか昼メロのように、今から追いかけて行ってかおるにプロポーズする事なんて出来ないのだ。

そうなのだ。
かおるとは結婚できない。
この先、俺の方のが必ず先に衰えるだろう。
遅かれ早かれ、誰かに面倒をかける事になると思っている。
それを思うと彼女の人生を犠牲にしてまで、一緒になる事を考えると辛いのだ。
そこまで、彼女を奪えないと、かおるがウエディングドレスに視線を向けていた時に悟ってしまった。
もっと別の男と一緒になった方のが彼女の幸せのためだと思ってしまった。

この病気を持った人間全てが結婚できないわけではない。
俺は青春時代をこの病気と過ごした。
その時に多くのものを失ったのだと思う。
その一つに結婚も含まれていたのだと思う。

情けないが、相手に強く望まれない限り俺にとって結婚はありえない事だと思っていた。

俺は自分自身の思考回路と病気が憎くて車の中で一人泣いた。



                              <つづく>



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Last updated  2006/03/03 03:41:51 AM
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