買書とつんどくの日々

買書とつんどくの日々

2010年01月29日
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いわゆる大山祇命(おおやまつみのみこと)の附会が企てられた以前、山神の信仰にはすでに若干の混乱があった。木樵・猟人がおのおのその道によって拝んだほかに、野を耕す村人等は、春は山の神里に下って田の神となり、秋過ぎて再び山に還りたもうと信じて、農作の前後に二度の祭を営むようになった。伊賀地方の鉤曳(かぎひき)の神事を始めとし、神を誘い下す珍しい慣習は多いのであるが、九州一帯ではこれに対して山ワロ・河ワロの俗伝が行われている。中国以東の川童が淵池ごとに孤居するに反して、九州でミズシンまたはガアラッパと称する者は、常に群れをなして住んでいた。そうして冬に近づく時それがことごとく水の畔を去って、山に還って山童となると考えられ、夏はまた低地に降りくること、山の神田の神の出入と同じであった。紀州熊野の山中においてカシャンボと称する霊物も、ほぼこれに類する習性を認められている。寂寥たる樹林の底に働く人々が、わが心と描き出す幻の影にも、やはり父祖伝来の約束があり、土地に根をさした歴史があって、万人おのずから相似たる遭遇をする故に、かりに境を出るとたちまち笑われるほどのはかない実験でもなお信仰を支持するの力があった。ましていわんやその間には今も一貫して、日本共通の古くからの法則が、まだいくらも残っていたのである。
(柳田国男さん「山の人生」(「遠野物語」岩波文庫版)P197)

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Last updated  2010年01月29日 21時10分33秒
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