買書とつんどくの日々

買書とつんどくの日々

2010年07月06日
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陛下は静かに尾をふった。「まったくほっとするわい」と王はいった。「たまにあの宮殿を抜け出すとな。実を申せば、皇室の犬の生活は退屈なものじゃ。すまんが」(とシルヴィーにむかって、低い声で少々はにかみながら、きまり悪げに)「すまんが、余が取ってこられるように、あの棒きれをちょいと投げてもらえんじゃろうか」
シルヴィーは驚きのあまり、一瞬何もできなかった。王が棒きれを追いかけるなんて、そんな突飛なことはありっこなかった。しかしブルーノのほうはその場に動じなかった。「よし、いいかい。取っておいで、わんわんちゃん!」と大喜びで叫ぶと、彼は棒きれを潅木の茂みのむこうへ放り投げた。つぎの瞬間、ドッグランドの君主は潅木を飛びこえ、棒きれを口にくわえると、そのまま全速力で子供たちのもとへ戻ってきた。ブルーノは一大決意でそれを受けとった。「ちんちん!」と彼がいうと、陛下はちんちんをした。「お手!」とシルヴィーが命令すると、陛下は前足を差し出した。ようするに、旅人たちをドッグランドの国境まで見送るという厳粛な儀式は、長々しいにぎやかな戯れごととなってしまったのだ。
「しかし務めは務めじゃ」ようやく犬王がいった。「わしも務めに戻らにゃならん。これ以上先へはいかれぬわい」と彼は、鎖で首にさげた犬時計を見ながらつけ加えた。「たとえ猫が出てきおっても」
(キャロル「シルヴィーとブルーノ」P172)

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Last updated  2010年07月06日 08時17分26秒
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