買書とつんどくの日々

買書とつんどくの日々

2012年01月08日
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「僕はなんでもありません」
そう答えた瞬間、鮎太朗は自分の身代わりからようやく開放されたと思った。しかしかんじんの自分本体が、今こそ出番だというのにすぐに駆けつけてきてくれない。
(中略)
いくら一人きりで家に閉じこもってみても、海辺の街へ逃げたとしても、自分本体は迎えにこないし追いかけてきてもくれない。だったら今ここで待機している自分はなんなのか?あそこに書かれているように、「おとうと」でしかないのか、それとも・・・・・でもそうだ、自分が自分自身だけであったときなんて、今まで一度もなかった。自分は常に誰かの弟であり息子であり彼氏だったではないか・・・・・。生きている限り、自分にそれ以外のありようは許されていないようにも感じた。約束なのか、呪いなのか、はっきりしないけれども、とにかくそれは定められていることなのだった。
(中略)
つまるところ反復なのだ。誰かに救われたのならば、その瞬間から次の救い手を探さなくてはいけないのだ。こうして呪いは繰りかえされる。そうなれば結局、命ある限り永遠に、その連鎖を止める決定的な誰かを探さなくてはいけないことになるのだろう、・・・・・。
(中略)
そうだ、全部の呪いがとけたところで、自分はいったい何になりたいと願っているんだろう・・・・・。
鮎太朗は、その答えをすでに知っている気がした。そしてそれが、長く待ちわびたわりには、ろくなものではないこともなんとなく知っていた。
(青山七恵さん「わたしの彼氏」P375)


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Last updated  2012年01月08日 16時56分00秒
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