買書とつんどくの日々

買書とつんどくの日々

2012年02月17日
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きのう、平松神社の境内のすぐ近くをながれる小川のほとりにひとむらの菖蒲を見つけ、根ごと掘りとって移し植えたのである。裏庭のすみにほかよりは低い湿地があり、真夏でも土は黒い。持ち帰った時刻に花はしおれてしまったが、いまあらためると再び生色をおびてみずみずしい紫色で目をたのしませる。
(野呂邦暢さん「諫早菖蒲日記」P18)

顔を洗うより早く裏庭の夾竹桃へ急ぐ。木かげに植えた菖蒲を見るのが朝の楽しみである。
槍の穂先に似た葉身が露にぬれてさ青に光る。一晩のうちにいちじるしく伸びている。掘りとって来たころとは見ちがえるばかりである。これは生粋の諫早菖蒲であると草木に通じている雄斎伯父はいわれた。
大村城の庭園で栽培されているのは江戸菖蒲だそうである。花びらが大きく一見はなやかであるが葉身に水がゆきわたらず、開いた花も一両日でしおれてしまう。伊勢菖蒲、肥後菖蒲、みな同じである。
ところがそれらの原種である諫早菖蒲は野性のまま手を加えられていないので、花びらは小さいかわりに葉身が大きく強く、少々の日でりにあってもしゃんとしている。花びらのいろどりはやや淡いが、江戸菖蒲のように一、二日でしおたれない。伯父上はそうおっしゃった。
「葉がまっすぐに突っ立っておる、そこがよかところたい」
私は一株の菖蒲が年をへて二株になり十株になり、この庭いっぱいをうずめつくすほどにふえる所を思いえがいた。梅雨晴れの空と同じ色をおびた青紫の花が開くのはさぞかし見ものであろう。
(野呂邦暢さん「諫早菖蒲日記」P34)


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Last updated  2012年02月17日 08時06分06秒
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