買書とつんどくの日々

買書とつんどくの日々

2012年08月31日
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しかし、大友の母は、伊賀の国からきた采女でしかない。これまでの習わしからいえば、そんな列をわきまえないことは許されないはずだった。中臣鎌足がいたならば、父をうまくなだめてくれただろうが、そのころにはもう死んでいた。
大友が大王となれば、十市は大后となる。十市の母の額田は、大后の母となり、我は額田に頭を垂れる身となってしまう。耐えられないことだった。
去年の神無月、夫が病に臥す父の御床に呼びだされ、大王の位を奨められた。夫は、これは罠だと考えて断ったという。高御坐に就く素振りを見せれば、痛くもない腹を探られ、討たれかねないと考えたのは、あたりまえのことだ。これまで父は、大王の座を脅かす者を、そうして殺しつづけてきたのだから。
夫はすぐに頭を剃り、沙門の姿となって、鎧兜、太刀や弓矢を大王の倉に納めて、刃を交えるつもりのないところを見せた。そうして、妻たちや幼い子たちを引き連れ、近江宮を出た。しかし、吉野にお供することを許されたのは、大妃である我と我が子、草壁、そして遊び手として同い歳の忍壁だけだった。
(坂東真砂子さん「朱鳥の陵」P112)


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Last updated  2012年08月31日 08時05分22秒
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