買書とつんどくの日々

買書とつんどくの日々

2012年11月11日
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一恵は小さく咳払いをした。
「夢札という技術が登場して、みんなの集団的な無意識が変化してきたのではないか。それがこれまでとは異なる形の集団幻想を生み出すようになったのではないか、という話です」
(中略)
「夢札がない時代には?」
鎌田が口を挟む。
「夢は個人のものでした。大昔から、誰もが見ているし、存在は知られていたけれど、誰もが自分の夢しか知らない。人のものは見られない。みんな言葉で説明するしかなかったし、それを聞いて他人の夢を想像するしかなかった」
「でも、それが見られるようになった」
一恵が頷く。
(中略)
「夢札の場合、見えないものが見えるようになってしまった。夢って存在するんだ、みんなの意識に共通点があるんだと納得して、それが常識になってしまうと、それ以外の見えないものも存在して不思議ではないと考えるようになるんじゃないでしょうか」
「それって――他の見えないはずのものも、無意識のうちに視覚化しようとしているってことかしら?」
遥が尋ねると、一恵は大きく頷いた。
(中略)
「いったい何を視覚化しようとしているんだろうね?」
加藤が呟いた。
「それは分かりませんけど、夢札が登場して、夢が目で見られるという共通認識が出来た世代の子供たちですから、世代交代した彼らにそういう現象が起るというのは、なんとなく感覚的に納得できるような気がするんです」
みんなが黙り込んだ。あらゆるものが可視化された世界。それが言ったいどいうものなのか、それぞれが想像しているのだろう。
考えてみれば、人類はすべてを可視化することで進化してきた。宇宙の彼方の星も、ウイルスも、うんと大きなものもうんと小さなものも、目で見ることに果てしない労力を傾けてきたのだ。そして、今度はとうとう夢を可視化した。言葉や絵でしか語られてこなかった「見えないはずのもの」を目で見ることに成功したのだ。いったんこの領域に手を付けてしまったら、人は他の見えないものも見えるはずだと思い、見ることを躊躇しなくなるに違いない。
(恩田陸さん「夢違」P205)


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Last updated  2012年11月11日 19時13分09秒
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