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2026/10/05
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 私たちが普段何気なく口にしている食品の中には、「商品を発明した会社」だけではなく、その商品を大量に、安定して、同じ品質で作るための「機械」をつくった会社の存在がある。

そのことを象徴する二つの物語がある。

一つは、即席ラーメンの世界。
もう一つは、和菓子の世界である。

即席ラーメンの歴史を語るとき、まず名前が挙がるのは日清食品の創業者・安藤百福氏だろう。1958年、「チキンラーメン」を世に送り出した安藤は、「家庭で簡単に食べられるラーメン」という新しい食文化を生み出した。

しかし、発明された食品が、そのまま巨大な産業になるわけではない。

一日に何万食、何十万食という単位で生産するためには、麺をつくり、蒸し、揚げ、冷却し、包装する工程を機械によって安定させなければならない。

そこに登場するのが、群馬県藤岡市の「冨士製作所」である。

冨士製作所は1946年、櫻澤製作所として創業。1963年には即席麺ライン用のコンベヤ式フライヤーを開発し、翌1964年に株式会社冨士製作所を設立した。その後、製麺、蒸し、揚げ、冷却、充填など、即席麺製造に必要な工程を次々と自動化していった。現在では即席麺製造プラントで世界シェア約50%を誇る企業へと成長している。

つまり、安藤百福が「即席ラーメンという商品」を発明したとすれば、冨士製作所は、その商品を「産業として大量に生産するための技術」を築いた会社の一つなのである。

そして、実はこれと非常によく似た物語が、和菓子の世界にも存在する。

舞台は福島県郡山市。
江戸時代から続く老舗、薄皮饅頭・柏屋である。

柏屋の薄皮饅頭は、嘉永5年(1852年)に誕生した。薄い皮の中にたっぷりの餡を包むという特徴を持ち、長い年月にわたって職人の手仕事によって作られてきた。

ところが戦後、人気が高まるにつれて、一つひとつ手で包むだけでは増え続ける需要に追いつくことが難しくなった。

ここで登場するのが、宇都宮の機械メーカー、レオン自動機である。

レオン自動機の創業者・林虎彦氏は、もともと和菓子職人だった。饅頭の餡を生地で包む「包あん」という作業が、職人にとって大きな負担になっていることを知り、「これを機械でできないか」と考えた。

しかし、餡を包むという仕事は、単純な機械動作ではない。

餡の硬さ、皮の粘り、弾力、温度、厚さ――素材の性質を理解しながら、職人の手の動きを機械で再現しなければならない。

林氏は「レオロジー(流動学)」を研究し、10年以上にわたる試行錯誤の末、1961年に世界初の自動包あん機を完成させた。1963年には宇都宮でレオン自動機を設立し、包あん機の販売を開始した。

そして、この技術を柏屋の薄皮饅頭に結びつけたのが、柏屋4代目の本名善兵衛氏だった。

本名善兵衛氏は、薄皮饅頭をもっと多くの人に届けたいという思いから、自動包あん機の開発に取り組んだ。柏屋自身も「4代目がレオン自動機の創業者・林虎彦氏と共同開発した」と伝えている。

ところが、ここには一つ重要な逸話がある。

機械が完成したからといって、すぐに量産を始めたわけではなかった。

柏屋にとって大切だったのは、「機械で作れるか」ではなく、「手作りよりおいしい薄皮饅頭を作れるか」だったからだ。

世界初の機械であっても、味が落ちるなら意味がない。

試作を何度も繰り返し、ようやく「これならお客様に出せる」と認められた。

ここに、二つの物語に共通する本質がある。

機械化とは、人間の仕事を機械に置き換えることだけではない。

人間が長年積み重ねてきた技術や感覚を、どうすれば機械という新しい形に移し替えられるのか。その挑戦なのである。

日清食品と冨士製作所の場合、安藤百福氏の「新しい食品」を、製造設備が大量生産という産業へ押し広げた。

柏屋とレオン自動機の場合は、職人が手で守ってきた「包む技術」を、機械という形に置き換えながら、伝統の味を未来へつないだ。

この二つを並べてみると、日本の食品産業が発展してきた理由が見えてくる。

表舞台に立つのは、いつも食品メーカーや商品、そして創業者である。

しかし、その舞台裏には必ず「機械をつくる人」がいる。

新しい食品を考える人。
その食品を大量に作る方法を考える人。
職人の技を機械に置き換える人。
そして、その機械を使ってさらにおいしいものを作ろうとする人。

食品メーカーと機械メーカー。

この二つが出会ったとき、「一つの商品」は「一つの産業」へと変わっていく。

チキンラーメンが日本の食卓を変え、薄皮饅頭が全国へ広がった背景には、そんな「表には見えないものづくり」の力があった。

考えてみれば、これは食品だけの話ではない。

日本のものづくりは、発明する人だけで成り立っているのではない。

「こんなものを作りたい」という夢を、「実際に作れるもの」に変える機械屋がいる。

冨士製作所とレオン自動機。

一方は即席麺を、もう一方は饅頭を。

扱った食品は違っても、両社が果たした役割には共通点がある。

それは、食品の「おいしさ」を、機械によって大量生産できる「技術」へ変えたこと。

そして、その技術があったからこそ、一人の発明家、一軒の老舗菓子店の夢が、より多くの人々の食卓へ届くものになったのである。

食品産業の歴史を振り返るとき、私たちはつい「何を発明したか」に目を向ける。

しかし、本当に面白いのは、その発明を「どうやって世の中に広げたのか」という物語なのかもしれない。

その答えの一つが、食品メーカーの隣で黙々と機械をつくり続けた、名もなき技術者たちの仕事なのである。


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最終更新日  2026/10/05 12:00:09 AM コメントを書く


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