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Feb 26, 2015
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   (病魔に侵された信玄)

「内藤修理、そのように心配せずとも良い」

 信玄が濃い髭跡を見せ、苦笑いを浮かべた。

「先年、上杉、北条、徳川が同盟を結びましたが、北条氏康殿は中風との

噂がございます。高坂殿の申されるよう、上杉も北条も出ては参りますまい」

 西上野郡代の内藤修理亮が気をとり直し、再度、賛意を示した。

 信玄が珍しく瞑目して思案に耽っている。

 信玄も三国同盟の件は承知しているし、越後勢が越中で苦戦している事も

知っている。仕掛けた者は信玄自身である。

「御屋形、我が武田家は今がもっとも充実した時期と存じまする。まずは、

徳川家康の力を削ぐために、徳川領内を混乱させる必要ありと勘考致します」

 馬場美濃守が戦場焼けした声で出陣を促した。

「判った。余は信長の真意が分からずに迷っておった」

 信玄が一通の書状を取り出し、四人の前に広げた。

「これが信長の書状にございますか?」  

 馬場美濃守が、しげしげと書状を眺めている。

「奴め、恥も外聞もなく余に擦り寄って来る。そこに疑念が生じておった」

「何が書かれておりまする?」  

 かわって内藤修理亮が興味を示した。

「甲斐の漆が欲しいと申して参った」

「信長の領内にも漆は採れましょうに、漆が欲しいとの願いにございますか」  

 信廉が呆れ顔をした。

「織田の版図は我が武田領内を凌駕するほとじゃ。書状の真の意味はなんじゃ。

甲州漆は品質が優れておるので、三千樽ほど注文したいと申しておる」 

「三千樽も」  

 四人が息を飲み込み書状に視線を移し、驚き顔で信玄を仰ぎみた。

「余は送ってやる積りじゃ」

 信玄が四人の顔色を見つめながら断言した。

「余は信長の真意が読めた。暫くは我が武田家とは事を起こさぬ方針とみた」

 信玄が語り巨眼を細めた。  

「我が武田家を恐れての事にございますか?」

「そうじゃ。信廉、今の織田家を良く見ろ、四方に敵を受けておる。信長の魂胆

は徳川を見殺しとしても、包囲網を突破する考えじゃ。それまでの時間稼ぎじゃ」

「成程、信長にしては悠長な考えと思いましたが、的を得ておりまするな」

 高坂弾正が端正な顔を緩めた。

「併し徳川家康という男は稀有の武将にございますな」

 馬場美濃守と高坂弾正が感心の面持ちをしている。

「律儀者(りちぎもの)としては当代一じゃな」  

 信玄が苦い笑いを浮かべた。

「岡崎衆とは恐ろしい、結束が固く家康を頂点として一丸となっております。

 家康が斃れても徳川家は存続致しますな」  

 高坂弾正がぼそっと呟いた。

「余も羨ましく思う」  

 信玄が乾いた笑い声をあげ、四人の重臣に視線をうつした。

「新年にあたり存念を申し述べる。田植えが終り次第に徳川領に討って出る。

家康の心胆を震いあがらせる、浅井朝倉、石山本願寺との連携を強め、信長

包囲網を強固にいたす。それに松永久秀を篭絡いたす積りじゃ」  

「なんと梟雄で聞こえる松永久秀を」

「美濃守、松永久秀は信長が油断いたすと反逆を企てるほどの男じゃ」

 信玄の言葉に誰も異議を唱える者はいなかった、既に信玄は軍神に等しい

読みをもっていた。  

「信廉っ」  

「はっー」  

 逍遥軒が兄の信玄を仰ぎみた。

「そちは年内中に水軍を完成させよ。土屋貞綱と計って織田水軍に負けぬ水軍

を作るのじゃ」  

「畏まりました」  

 弟の信廉が低頭し畏まった。

「美濃守、そちは原隼人に命じ、上洛に必要な物資とその確保を万全といたせ」

 信玄の言葉に四人の背筋に戦慄が奔りぬけた、とうとう上洛を決意なされた。

 信玄の許を辞し、四人は黙々と長廊下を歩んでいる。

 それぞれの脳裡に信濃攻略、それに続く川中島の苦しい合戦の日々が過った。 

 一人となった信玄は自室に戻った。部屋には囲炉裏がきられて炭火が赤々と

燃えている。そこに小さな土瓶を乗せ、薄い羽織を身に纏った。

 部屋は春のように温かい、異臭の香りが入り混じった匂いが充満する部屋で

彼は時折、蓋をあけ中を慎重にかき混ぜている、信玄が軽い咳払いをした。

 信玄が懐紙で口を拭った、微かに紅色が懐紙に付着している。

 彼は痰を吐き出し、仔細に眺めた。  

「矢張り進んでおるか」

 独り言を呟き懐紙を囲炉裏に放った、瞬く間に懐紙が灰となった。

 信玄は病んでいたのだ。数年前に喀血し秘かに自分で薬湯を調合し飲み続け

てきたのだ。何としても京に武田家の二流の御旗を立てる、それまでは生き永ら

える。そう心に決め、長く孤独な闘病生活を送ってきたのだ。

 数十年前に三国同盟を結んだ三人のうち、今川義元は討死し北条氏康は中風

で倒れ、残った自分は労咳を患っている。

「皮肉なものよな」  

 またや自虐的な独り言が口をついて出た。

 信玄にとり病魔と闘う日々は、合戦よりも辛いことであった。

 彼は強靭な精神力で、誰にも悟られずに今日まで過ごしてきた。

 なんとしても生きながらえ上洛を果たす。

 そんな自分が妄執に囚われた生き物のようで堪らない想いがする。

 だが遣り遂げねば成らないのだ。父、信虎と親子で謀った事とは謂え、

父を国主の座から引きおろし、甲斐から放逐し、駿河の今川家に預ける

とは、いくら上洛する為の方便であったとしても許されるものではない。

 最近になって信玄はそう考えるように成った。 


 未だ父は京に隠れ住み、余が上洛して来ることを夢見て待っているのだ。

 その信虎は八十に手の届く年齢となっていたが、将軍、義昭の命で甲賀郡

に派遣され、反信長勢力の六角勢とともに近江攻撃を企図していた。

 傍らに控えるお弓が感心するほど元気を保っていた。


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Last updated  Feb 26, 2015 05:04:55 PM
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