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2007年11月29日
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カテゴリ: 読書


11月11日だったかの朝日新聞の読書欄に、エドワード・ラジンスキー『アレクサンドル二世暗殺』の書評が載っていました。何でも19~20世紀のロシアを扱った四部作の最後の作品だそうで、かなり高い評価。ちょうどヨーロッパ関係の歴史書を探してもいたし、19~20世紀のロシアという歴史的に非常に興味深い時期についても知りたいことは沢山あったので、ひとまず四部作の中で最もとっつきやすそうな、『真説ラスプーチン』から読むことにしました。

書評では、ラジンスキーの文章の「読みやすさ」を強調していました。他の作品は知りませんが、少なくともこの本は確かに非常に読みやすい。それは何故なのか。まず、いちいち謎を提示してはそれを解決していくという手法が1つあるでしょう。ラジンスキーは、自分がこれからどんな謎を解こうとしているのかをいちいち書いてくれるので、読者はその後の文章から何を読みとればいいのかが非常にクリアになるのです。ついでに言うと、謎の「解決」を余りにきっちり書こうとするので、どうしても推測が交じってしまい、それが多すぎるというのがラジンスキーに対する一番の批判になっているそうですが、まあ基本的には誤解を招くような書き方はしていないのでよいのではないかと思います。あと、このこととも少し関連するのですが、背景説明的な記述が最小限に抑えられている、ということもあるでしょう。例えば最初の方に、ラスプーチンの出生について簡単な記述があるのですが、そこで彼の出身地であるポクロエスコフ村については、殆ど説明がなされない。たいがいの伝記であれば、村の規模くらいは書くでしょうし、もっと詳しいものになれば当時のロシアにおける農村の状態一般についても記述するでしょう。しかしそうしたものは一切無し。基本的に万事がこの調子で進みます。

それが悪いと言っている訳ではないです。結果としてラジンスキーは、社会的な文脈よりも個人的な人間関係を中心にラスプーチンを描き、「謎」もたいがい人間関係によって説明する訳ですがそれはあくまでスタイルの問題。それに、ラスプーチン関係の本は沢山出ているので、そうした情報はそれらの中に十分書いてあると思っているのかもしれないし、もしかするとラジンスキーがほぼ同時代を扱って書いている『皇帝ニコライ処刑』に書いてあるのかもしれません。また(あとがきで訳者の沼野さんがしているように)そこに書かれていることを自分でより広い文脈の中に埋めこむという楽しみもあるのでしょう(残念ながら僕にはその知識がないですが)。ただ一方で、この本だけだと、ラスプーチン、皇帝夫妻、貴族たち、そして一部の国会議員や聖職者等々の「偉い人」の手によってのみ歴史が動いているという印象を与えてしまうのも確かです。さらには、人間関係の幅がどうしても限られてしまうため、次第に同じ事の繰り返しになってくるという問題もあります。正直、ラスプーチン暗殺までの数年を扱った下巻は、終盤の暗殺場面の記述以外は少々だれました。人間関係の構図自体は殆ど変化せず、ただ新しい人物が繰り返し現われては消えていくばかり。せっかく第一次世界大戦とロマノフ朝の危機という、世界史的な背景があるのだから、それをもっと利用すれば良いのになあ・・・とやっぱり思ってしまったのでした。

ちなみに同時代的な文脈と言えば、『アレクサンドル二世暗殺』では、ドストエフスキーについてそれなりのページが割かれているそうですが、この『ラスプーチン』にもドストエフスキーへの言及が幾つかあります(他にもレーニンとかトルストイとか有名人への言及が時折挟まっているのはちょっと嬉しい)。実のところラジンスキーを読もうと思った理由の1つは、ドストエフスキー読解の手助けになるかなと期待してのことでした。もちろん古典新訳文庫の『カラマーゾフ』を読むことを意識しつつ(まだ買ってもいませんけどね)。でも、全く助けにならないとまでは言いませんが、少なくともこの本は期待したほどではなかった。それはもちろん以上のような理由、そしてそもそも時代が違うという僕のミスによるものです。時代的なことを言うと、むしろレーニンなんかを読むのに役立つのかもしれません。って今どきレーニンもないかもしれないけど(あ、でも古典新訳文庫のシリーズからレーニンも出てたっけ)。ドストエフスキー読解に向けては、改めて19世紀ロシアについての良い本を探さなくてはいけないですね。何かいいの無いかな。


カラマーゾフの兄弟(1)





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最終更新日  2007年11月29日 22時19分42秒 コメントを書く
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