読書地図

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2008年01月03日
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カテゴリ: 読書
「フランスを旅行される人は、本当にどこへ行ってもという言い方が通るほどに、Saint Martin 聖マルタンの名を冠した教会にぶつかる筈である。そうして言うまでもなく、その他数百にものぼる筈の聖人、聖女の名における教会があり、それらのうちの少しは格式が高いとされるものには、必ずや何かの遺品、遺骸がある。 
 それらは四世紀、五世紀頃から始まっていたもので、たとえばこの巡礼の通る道筋の一つであるスペイン北部の大都市の一つオビエドには、次のようなものがある、あるいは、あることになっている。
 キリストの首を包んだ手ぬぐい(聖骸布)、イバラの冠の八つの部分、最後の晩餐のパン切れ、聖処女の乳汁、髪の毛、ユダがキリストを売ったときの30デニエの古銭の一部、キリストの足を拭いたマリア・マグダレナの髪、モーゼが紅海の水を分けたときの棒の木切れ、聖ペテロのわらじの片っぽ、等々。……
 たいへんなコレクションである。
 異教徒としての私は要するにそういうがらくたの詰まった宝物室なるものを見せられ、茫然として、人間の為す、あるいは仕出かす業の振幅、あるいは芸の細かさに感服をしているだけなのである。しかも誰もそれを笑いとばすわけには行かないであろう。そこに籠められている執念の深さを思えば」


 堀田善衛『スペイン断章』(集英社文庫版)の下巻の(ないしは岩波新書の『情熱の行方』の)最初の方に書かれた文章です。僕が以前、「うさんくさいもの」について書いたことは、多分、ここに引用したことに集約されてしまっているでしょう。殆ど滑稽なまでに見えてしまう闇雲な情熱。12月から1月にかけて、ジェームズ・ロリンズ『マギの聖骨』とフリア・ナバロ『聖骸布血盟』という、まさに「聖遺骸」を扱ったキリスト教歴史ミステリを読んでいたのですが、当初期待していたのは、まさに、こうした歴史に裏づけられたヨーロッパの途方もない情熱の姿を垣間見ることでした。




 上巻まで読み終えた後、下巻が回ってこないため(図書館から借りてました)、それまでの間の埋め草に、買い置いていた『聖骸布血盟』をスタート。スペイン人作家の書いたものなら、派手好きなアメリカ人とはひと味違うものを書いてくれるのではないかと思ったのですが、これまた話にならないお粗末さ。文章はスカスカ。歴史記述と現代の冒険の記述が並行して進んで行くというスタイルもひどく単調でご都合主義的。そして次から次へと出て来る「セレブ」な人たちにも鼻白んでしまう。ここでも「うさんくささ」は影も形もない。というかひどく世俗的な権威で飾り立てられている。カバーに書いてある「衝撃の結末」というのも、どこを捜しても見つからず。何というか、もさーっとした小説でした。何でも映画化が予定されているそうですが、どうなんでしょうねえ。

 『聖骸布血盟』が読み終わった頃に、ようやく下巻がやってきた『マギの聖骨』は、殆ど義務で再会。最初の方は、まだ物語が動いて行くので何とか読めたのですが、話が進めば進むほど人物描写がどんどん薄くなっていって、展開も単調になってくる。アクションシーンが上手いのはまあ分かりますが、それ以外の謎の部分は重さが全然無い。うーん、この人アクションシーン以外の語彙が極端に貧弱なのですね。そしてクライマックスはもう目を覆いたくなる程の安っぽさ。作者は獣医ということなのですが、文系の物事の探究の仕方というものが果してわかっているんだろうか。というか、歴史とか哲学とかに対する物凄いコンプレックスを感じてしまい、それが安っぽい記述につながっていると思えて仕方ないのですが、それはうがちすぎかなあ。でもそう考えると、次から次へと繰り出される科学的な知識の数々も、やっぱり権威付けにしか見えず。そうした知識が全て「事実に基づいている」のが自慢らしいですが、正直言って、事実に基づいていようといまいと、面白ければ何でもいいんですけどね・・・。

どちらも、こういう類いの小説が殆ど全てそうであるように、イタリアを中心にしてヨーロッパをあちこち移動します。ついでに『マギの聖骨』の原題はMap of Bones。実際に地図が謎解きに大きな役割を果たします。でもその移動というか地図的想像力は少しも魅力的ではないのです。簡単にあちこち飛び回っちゃうからか、それとも行く所がみな観光名所ばかりだからなのか。読み終えた後はつくづく疲弊しました。いや、読むのが悪いのは分かっています。なので、これが終ったら読もうと思っていた、リチャード・ベン・サピア『キリストの遺骸』は自粛して、大人しく堀江敏幸でも読んでいようと思うのでした。次回は悪口じゃない書評を書きたいものです。

追記:なお冒頭に引用した堀田善衛は、「あの」カタリ派を扱った小説を書いています。これはとてもとてもオススメ。


追追記(1月8日):その後、ジェフリー・ディーヴァーの『コフィン・ダンサー』を読んだのですが、このリンカーン・ライムのシリーズも、超人的にプロフェッショナルな人がざくざく出て来て、知ってても知らなくても人生には大した違いがないような「科学的」トリビアが満載という点では、『マギの聖骨』と一緒ですね(もちろんディーヴァーは『マギの聖骨』と違って少なくとも楽しめますが)。アメリカでベストセラーになる小説って、そういうもんなのかなあ、と思ってみたり。





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最終更新日  2008年01月15日 14時01分07秒
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