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2008年01月22日
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カテゴリ: 読書
2年程前に、英文学者の冨山太佳夫さんが『笑う大英帝国』という本を出しました。これは、イギリス人がいかに冗談が好きかというのを、だいたい18世紀くらいまで遡って跡づけたものです。冨山さんの文章自体は「笑う」とまではいかなかったものの、そこで紹介されている幾つかの「ネタ」は確かに相当おかしい。

 イギリス人(厳密にはイングランド人ですが)が独特のユーモア感覚を持っているというのは、現代でももちろんそのままです。いや、どの国にもどの地域にもどの集団にも独自のユーモア感覚というのはあるのですが、イギリス人の場合、何と言うか「笑い」に対する物凄いオブセッションすら感じてしまうのですね。冗談を言わない奴は馬鹿だ、とでも言わんばかりの。『前代未聞のイングランド』という、邦題にはあまりセンスが感じられませんが、中身は確かに面白い本の中で、著者のジェレミー・パクスマンは「ユーモアのセンスをもっていることを、これほど高く評価する国がほかにあるだろか?」と書いています。


 例えばこのブログでも何度かとり上げているイギリスのミステリも、ちょっとした「笑い」は満載です。ラヴゼイのダイヤモンド警部シリーズも、会話でかなり笑いを取っているし、ウィングフィールドのフロスト警部シリーズに至っては、「ちょっとした」なんてものではなく、僕が今まで読んだ中で多分一番「笑えた」本ではないかと思うくらい。別にミステリに限らずとも、デイヴィッド・ロッジのような、かなり洒落たユーモア小説を書く人もいます(それから僕は読んだことが無いのですが、冨山さんの紹介を読む限り、スパイク・ミリガンという作家のおかしさは相当です)し、ロッジともおそらく知り合いの文芸評論家テリー・イーグルトンの真面目な研究書も、とにかく冗談で一杯です。そもそも、ジェーン・オースティンとかディケンズとか、日本では「文豪」とされているような人たちの小説だって、冗談ばっかなのです。時代が離れているということ、それから翻訳の問題で、どうしても「笑える」とまではなかなかいかないのですが、例えば中野康司さんの訳するオースティンは相当「笑え」ます(ちなみに同じく中野康司さんの訳している『大学のドンたち』『手のひらの肖像画』もとてもおかしい。彼の翻訳書を読んでいると「笑い」を翻訳できるって凄いことだとつくづく思います)。映画にしても、会話は相当練ってあります(話自体が単純なので見くびられがちな『ブラス!』なんかも、会話は相当笑えますよ)。 さらにさらに一昨年のニュースになりますが、イギリスの高等法院で行われた『ダヴィンチ・コード』の盗作疑惑を巡る裁判の判決文の中に、暗号を忍ばせたなんてこともありました 。何もそこまで・・・と思いますが、イギリス人はそのくらいしないとむしろ落ち着かないのです、きっと。


 さて、イギリス人の好むユーモアというのは、多分大雑把に分けると2種類あって、1つはモンティ・パイソンのような、とにかくベタでスラップスティックな笑い。もう1つは、かなりひねった、しばしば自虐的で陰鬱とも言えるような冗談。先のパクスマンによれば「昔からよく言われるとおり、『イングランド人はもともと陰気に生まれついているから、景気づけにスコッチをダブルで飲む』ので、自分の国が不幸な宿命を背負っていると思うと、かえって安らぎを覚えるのだ」とのこと。イギリスは雨ばかり降っているという定番ジョークはその中に入るでしょう。そしてどちらにも共通しているのは、とにかく真面目くさった顔で下らないことを言うということでしょうか。冗談を言われた方も、それとわかっても笑わない。やはり無表情に気の利いた答えを返さなくてはいけません。モンティ・パイソンも、役者たちがニコリともしないのが、またおかしさをかもし出しているような気がします。BBCがエイプリル・フールに「嘘のニュース」を流すというのは有名ですが、それもまたおそろしく馬鹿げたことを皆で真面目な顔でやっているという・・・・歴史的な名作として語り継がれている「スパゲッティの収穫」なんか本当に傑作です(「スイスのとある村では、今年もスパゲッティが豊作で・・・」というナレーションが流れる中、木から何十本もぶらさがったスパゲッティを、女性たちが収穫し、乾燥させている映像が流れる。文末の画像はその一部)

 で、そんな伝統の中に、かの有名なジェローム・K・ジェロームの『ボートの三人男―犬は勘定に入れません』があります。これは、上述したような2種類のユーモアをどちらも上手く取り入れた佳作で、丸谷才一の翻訳もとても良く、多少古めかしい感はあるものの、今でも結構「笑える」小説です。アメリカのSF作家コニー・ウィリスが、この本を下敷きにして『犬は勘定に入れません』という、素敵なタイムトラベル物(そんなに「笑え」ませんが)を書いたのもご存知の通り。きっと今でもファンが多いんだろうなあと思っていたら、実はピーター・ラヴゼイもこの本を下敷きにしたミステリを書いていることを発見しました(ただし原書が出たのは1976年ですが)↓



 この本が、もうそれこそ爆笑につぐ爆笑、であれば話にうまくオチが着いたのですが、残念ながらミステリとしてもユーモア小説としても中途半端な感じ。クスリとさせられるようなところはあるのですが、ダイヤモンド警部のような辛辣さもあまり見られず残念でした。ただ元祖の『ボートの三人男』にしても、ウィリスやラヴゼイのものにしても、とにかくのーんびりしていて気持ちのいい本であることは間違いないので、良かったら三冊まとめて読んでみて下さい。

追記:さて、イギリスのユーモア小説といえば、それこそP・G・ウッドハウスを挙げるべきなのですが、実はまだ一冊も読んでいません。それなのにイギリス人のユーモアについて語ってしまうとはお恥ずかしい限り。様々な紹介から想像する限り、ジーヴス執事というのは、それこそ表情一つ変えずに陰気で辛辣な冗談を言う人の典型のようなのですが・・・・。はい、なるべく早く読みます。

(リンク先を訂正しました。すみません、ブログの操作に慣れていないもので・・・)

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最終更新日  2008年01月22日 23時37分48秒
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