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2008年02月01日
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カテゴリ: 読書
 先日、イギリスミステリ作家のスティーヴン・ブースが書いた『死と踊る乙女』という作品を読みました。前作『黒い犬』に続くシリーズ第二弾なのですが、人間描写もより繊細になっているし、会話も洒落てきたし、格段にレベルアップしていてビックリ。前作と合わせて、ヨークシャーの風景がますますくっきりしてきたのも嬉しいところです。ただ、今回書きたいのはそのことではありません。


 このブログでは、過去1、2回ほど、ミステリ評論家の書く「解説」なるものにケチをつけたことがありますが、今回読んだ『死と踊る乙女』の巻末についた関口苑生さんの解説が、なかなか面白かったのです。内容をごくごく簡単にまとめると、吉田茂元首相がかつて、愛読書を尋ねられて『銭形平次』と答えたことに関して、英国通の吉田茂はイギリス的な風俗小説に当たるものとして『銭形平次』を挙げたのだという中村真一郎の説明を紹介し、その上で、生活や人間を丁寧に描写するイギリスミステリは、『トム・ジョーンズ』やジェーン・オースティンなどのイギリス風俗小説の伝統に連なっているのに対して、アメリカや日本のミステリは謎と論理に特化していってしまった・・・・というものです。

 それほど数をこなしている訳ではないですが、僕がこれまで読んできたミステリを振り返る限り、この「解説」はとっても腑に落ちますし(もちろん例外はありますよ)、以前 「ミステリの風景」 で書いたことも要するにそういうことなのだと思います。ついでに言えば、僕がアメリカや日本のミステリに比べてイギリスのミステリを好む理由もわかった気がしました。何というか、僕は謎解きを楽しむというよりは、「場」か「風土」とかそういうものを知りたくてミステリを読んでいるんだろうなあと。その「解説」によれば、吉田茂は『銭形平次』には江戸の市民生活が描かれているのに、最近の小説はいくら読んでも生活が浮かび上がってこないと言ったらしいですが、そのことはおそらくイギリスの現代文学にもあてはまってしまう。最近の流行りである、理知的で論理的で、しばしば「ポストモダン」などと称される小説は、それはそれで読めば面白いし、遠ざけている訳ではないのですが、現代のイギリスの生活とか人々の感情とかいったものはどうも見えにくい。そこに不満を感じてしまうと、どうしてもミステリに向かってしまうのですね。

 もちろん、そうした風俗小説の伝統を受け継いでいるのはミステリに限るわけではなく、デイヴィッド・ロッジなどがそうした要素を取り入れているのはもちろんのこと、『トレインスポッティング』に代表されるアーヴィン・ウェルシュの作品などはとても見事な風俗小説だと思います(『トレインスポッティング』は映画も悪くないけど、小説はさらにずっと面白いです!!)。それから読んでいないのですが、ニック・ホーンビーなんかもその系列に入るのかもしれませんね(あと『ブリジット・ジョーンズ』も?)。そうそう、どちらかといえば「ポストモダン」な小説を書いているグレアム・スウィフトが、1つとっても風俗小説的な佳作『最後の注文』を書いているというのも、そう考えるとなかなか興味深いです(まあ、『ウォーターランド』にも風俗小説的な要素はもちろん入っているのでしょうけど・・・)。


 ちなみに我が家には、以前新古書店で見つけ、イギリスの小説であるという理由だけで(そして全部100円だったので)買ってきた、いかにも読みやすそうなイギリスの現代小説が何冊か転がっています。一応名前を挙げておきますと、ニッキ・フレンチ『メモリー・ゲーム』、J・J・コノリー『レイヤー・ケーキ』(また映画の原作。この映画も結構面白かった)、フィル・アンドリュース『オウン・ゴール』、それからセリーナ・マッケシー『テンプ』。『テンプ』以外は、ミステリないしはスリラーという体裁を取っているようですが、さてこれらは優れた風俗小説であってくれるのでしょうか。いつになるかわかりませんが、読んだら(そして面白かったら)またここで報告できればと思います。


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最終更新日  2008年02月01日 18時19分58秒
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