Tarsha's Trace

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2008.02.03
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カテゴリ: study


昨年10月末に一時帰国した折、papa と、江戸東京博物館で開催された「文豪・夏目漱石」展を見に行った。平日にもかかわらず、館内は老若男女の来館者であふれ、大変に混んでいたことを思い出す・・・。そして、漱石の若き日の猛勉強と留学中の苦闘に、大変な勇気をもらったことも。

その折に買った、江藤淳『決定版 夏目漱石』(新潮文庫、2006年)を今日、初めてきちんと手にして読んだ。

す、すごい・・・。質も量も半端ではない・・・。

日本文学の質の弱さも、その原因も、「 」厳しく書いてある。その中で、最近わたしが感じていたことを代弁している一節があった。 


異国の哲学の一部を(つまりキリスト教から人道主義を)切り取って、残りを棄ててしまうようなことは出来ない。そんなことをすればかならずさんたんたる結果になる。
(V・H・ヴィリエルモ「日本の魅力」)



異文化の中で生み出された思想や理論を、
それらを生み出した「土壌」に対する理解なしに受け入れ、自国で展開しようとしても、真に生かすことはできないのだ。
と同時にこれは、それらを移植しようとする場の文化への理解なしに展開しようとしても、うまくいかないということだ。


ズイホウビニと同じだ・・・






でも、岩波講座の『文学理論』(2004年)には、まさにこの手の弊害が嘆かれていた。

「生かじりの理論を振り回すだけで、せっかく手に入れかけた理論装置を役にたたない紋切り型にしてしまっている「理論好き」の革新派もすでにたくさん出てきている」(沼野、7)

ここにもきっと、同じような論理が働いているんじゃないだろうか。
つまり、自国の文学に対する深い理解も、自分が使おうとしている欧米発の理論が生み出された文化的・歴史的背景への理解も足りないゆえに、こういう「紋切り型批評の大量生産」が行われるんじゃないだろうか・・・。

理論は、作品分析において、出発点ではあっても、到達点ではないと思う。

でも、このような傾向や姿勢―西欧から輸入された思想や理論を、無批判に受け入れ、紋切り型に当てはめようとする―は、すでに明治期の文明開化以来、見られる。そこにおこるずれを、江藤氏はこのように述べている。

近代的な意匠と前近代的な周囲の現実との間に生ずる炎症は、ぼくらの日常生活のあらゆる場面にひろがって、皮膚を焼こうとしているが、多くの「芸術」の信者にとっては、このコッケイなずれは自覚されていないかのように見えるので、彼らの身体は近代以前の泥沼を泳ぎながら頭は極めて抽象的な「芸術」の幻影を追っている。(江藤、31)


:うぅ・・・痛い・・・





ともあれ、江藤氏の質量ともに半端ない評論に目を通し、自分には一体何ができるのか・・・と落ち込んだ。もう一つ、少しげんなりしたことは・・・

批評や評論って、こっんなに細かく、一人の作家の人生を調べ上げていく「実証主義的作家研究」も必要とされるのか?ということだ。


漱石の書簡や日記、それが書かれた日付、そういったものと作品との関連性・・・ 

うぅ・・・ターシャはそういうのはやりたくない・・・ そういうのも、作品の理解に十分役立つことは、江藤氏の手腕によってよく分かったけれど。


比較文学、少なくとも私が経験しているそれには、そのような実証主義的研究はない。



以前、私の尊敬する先生に「比較文学とは一体何でしょうか」と尋ねたところ、

:The study of literature and its relation to almost everything.

といわれていた。

その行き着く先は、どちらかといえば、文化研究の方に近いといえる。けれど基礎はいつも、文学作品だ。それは結局、「言葉」それ自体への配慮を怠らず、また、作品が言葉による一つの構造物であることを忘れないことと言える。







謙虚にならなければいけない・・・。自分の論で、すべてが論じ尽くせるなんて、夢にも思っちゃいけない・・・。絶対的な限界がある。ましてや、一個の論文で、幾人もの作家を同時に扱うのだから。


切実に、願わずにはいられない・・・


あぁ、どうか、どうか、私の論文が、少しでも、ほんのわずかでも、文学への、文学研究への貢献となり得ますように・・・






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最終更新日  2008.02.04 00:43:09
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