spring another season (単行本) [ 恩田 陸 ]
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HALはいかにもおかしそうな顔であたしをじっと見た。
「あのね、ヴァネッサは未来の大スターなんだよ?現在、大スターへの道、絶賛驀進中。
で、今、物語の序盤なわけだ。ヒロインの前に立ちふさがるバレエ団の中のイジワルな先輩たちなんて、
あまりにも陳腐な、お約束のモブキャラじゃん。凄い新人来た、
脅威だ、今にも抜かれそうだ、ってビクビクして、そんなしょぼいイジメをするなんて、
わざわざ私たち脇役です、って宣伝してるようなものじゃん」
HALはゲラゲラ笑った。
「言ってやんなよ、私を主役と認めてくれてありがとう、引き立て役どうもありがとう、
おかげであたしはぐんぐん成長しちゃうし、主役の自覚が芽生えましたわって」
「あ、そうそう。俺の先生がね、俺がこっちに留学する時に言ってたんだ。
向こうでけなあんたが誉められたらあたしたちのお陰だし、あんたが貶されたらあんたのせいだからねって」
あたしはぼかんとした。
「すごいこと言う先生だわね」
マリア先生はそんなことは言わない。あたしが貶されたら、自分の責任だと思うだうう。
「でも、そういうことだと思うんだ」
HALは真顔になった。
「俺たちがここに居られるのは、一〇〇パーセント先生のお陰。
先生が一からバレエを教えてくれて、俺たちのいいところを伸ばしてくれたから、今ここに居られる。
だけど、踊ってるのは俺たちなんだから、
先生が注意してくれたところを直せなかったり、直さなかったりするのは、俺たちのせい。そうだろ?」
あたしはハッとした。
もしかして――もしかしてあたしは、
本当は心の底では、彼らに認められないのは先生のせいだと思っていたのではないだろうか?
「だから、ヴァネッサが貶されたんだとすれば、先生じゃなくて、ヴァネッサのせい。
先生は関係ないから、気にすることないよ」
「何よ、それ。慰めになってるのかなってないのか、よく分からないわ」
「別に慰めたつもりはないよ。
俺、できてないところは俺のせいだと思ってるもん。
自分で気付いて、自分で直すしかない。もう、プロなんだもの」
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