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今日は前回のキーワード、宮中・女性というところから佐藤賢一/原作、紅林直/作画『かの名はポンパドール(1)』(集英社、2012年4月)を紹介していきたいと思います。原作者の佐藤健一氏と言えば西洋歴史モノの第一人者で、有名なところでは『傭兵ピエール』や最近の著者だと『小説 フランス革命』などを書かれている方です。作画の方の紅林直さんは、『嬢王』の作者です。この強力な組み合わせで挑んだ題材がポンパドール侯爵夫人なのです。ここで、ポンパドール侯爵夫人について歴史的な解釈を書いておきます。生没年は1721年12月29日 - 1764年4月15日。ルイ15世の公妾で、その立場を利用してフランスの政治に強く干渉し、七年戦争ではオーストリア・ロシアの二人の女帝と組んでプロイセンと対抗した人物であると、歴史辞典を紐解けばこう載っています。私個人的な感想を交えるなら、尊敬して敬愛しているプロイセンのフリードリッヒ大王を自決寸前まで追い詰めた「3枚のペチコート作戦」の立役者として、悪役としてのイメージがありました。ちなみに「3枚のペチコート作戦」とは、フランスのポンパドール侯爵夫人、オーストリアの女帝であるマリア・テレジア、そしてロシアの女帝・エリザヴェータの3人が反プロイセン同盟を結んでプロイセンを包囲したことによるものです。とくに、長年にわたって敵対関係にあったフランスとオーストリア(神聖ローマ帝国)の歴史的な和解は、外交革命と呼ばれるほど画期的なものでした。そのポンパドール侯爵夫人の生い立ちはと言いますと、漫画でも描かれていますがあまり良くはありませんでした。彼女は父がパリの銀行家フランソワ・ポワソンと食肉卸の娘である母ルイーズの子、ジャンヌ・アントワネット・ポワソンとして生まれます。ところが父親が不正取引で国庫の金を着服してドイツへ逃亡してしまいます。母親は直ちに夫と離縁してしまが、母親に悪評が立ち王室御用の銀行家、パリス兄弟のお手付きと噂されてしまします。しかしその逆境の中、平民という身分ながらブルジョワ階級の娘として貴族の子女以上の教育を受け、優秀な成績だったポンパドール侯爵夫人は、1741年に徴税請負人のシャルル=ギヨーム・ル・ノルマン・エティオール氏と結婚します。ちなみに結婚相手の伯父のトゥールネム氏が彼女の養父でした。さて、16歳で社交界にデビューしたポンパドール侯爵夫人は(当時のフランスの上流階級では、女性は結婚して初めて地位が持てる存在でした。)タンサン夫人やジョフラン夫人の超一流サロンに出入りするようになります。そして、ポンパドール侯爵夫人は美人で博(エスプリ)がある女性として、ヴォルテールやフォントネルら一流の文化人と知り合いサロンの華となります。1744年にはその美貌がルイ15世の目に留まり、彼女はポンパドゥール侯爵夫人の称号を与えられて夫と別居し、1745年9月14日正式に公妾として認められました。(この当時のフランスでは先にも書いたような状況であり、結婚とは政略と生殖が第一目的。そのため子どもさえ産んでしまえば、あとの女性は地位を得ながらにして自由になり好きに愛人を持てるようになるのです。裏を返せば、男は女が結婚していなけらばどんなに好きでも自分の愛人にならないという、おかしな風習だったのです。)ではここで、公妾について簡単に説明を。先にも書いた通り、当時の結婚は政略結婚が主流で、国王の結婚ともなれば外交の最大の駒でした。そして、王妃の第一の役目は国王の跡取りを産むことだけでした。という次第で、当時のフランスの宮廷には「王の公認の愛人」の役職があったのです。この制度、他の欧州諸国の中でも極めて異例な制度で、国王の褥の相手としてだけでなく、宮廷の儀式でも一定の役割が与えられ、文化人たちのパトロンとなり、娯楽を演出するなど、王妃をしのぐ権力を行使していました。「国王の公認の愛人」となる資格は、既婚女性で貴族の出であることでした。そして愛人の子は国王の後継者にしないという掟が存在しました。この制度は、お隣の英国王ヘンリー8世が妻と愛人の板挟みとなり暴挙(妻を次々に処刑し、ローマ教会から破門され、英国国教会を独立させる)を見たフランソワ8世が、ルイ15世の御世から200年あまり前に作った制度です。この作品は画力に定評のある紅林直さんを絵師に起用していて、ポンパドール侯爵夫人の世界、ヴェルサイユの宮廷内の陰謀やエロスが同系等作品のようにいかんなく発揮されています。小説からのフォーマットを変えてるぎこちなさが無い点は、『傭兵ピエール』でコミカライズに失敗した集英社が挽回を狙っているのかな~、と考えたりもします。また、当時の風俗や習慣、背景をイギリス王室やヨーロッパ絵画のその筋では有名な、神奈川大学の石井美樹子教授のコラムで補足している点も、評価が上がるポイントです。この漫画は、その美貌と才覚のみでその座をつかみ、権力を行使し時代をリードした実在の人物の物語です。後宮、ハーレム、大奥と、古来権力者の周りにはたくさんの女性が奉仕していました。キリスト教国(しかもカトリック!)にも国王の愛人がいるのは当たり前ですが、一夫一妻制のキリスト教において、本来日陰者という立場になるはずです。このようにあからさまで、そして政治、芸術、文化をリードするという女性、ポンパドール侯爵夫人という人物は欧州史的にも珍しい存在です。ルイ15世は、その政治的業績よりも、愛人を揃え、風紀を乱したことで歴史に名を刻んでいます(しかし、妃に対しては良い夫であって、問題は国王が並はずれた絶倫家で、妃がもたないから愛人を囲った、というのが事実らしいです)。ポンパドール侯爵夫人はその象徴的人物として見られてきました。しかし私は、佐藤賢一がポンパドール侯爵夫人を書くならその視点だけでは無いと予想します。後の革命左翼にマリー・アントワネットと共に悪女の烙印を押され続けたポンパドール侯爵夫人ですが、一方で革命の元となったルソーの友人でもあるのですから、彼女は。佐藤賢一が書き紅林直が描くポンパドール夫人。これから要チェックの作品ですよ。近世ヨーロッパに関心のある方は、ぜひ手に取ってみてください。
2012年10月17日
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さて、久方ぶりの更新は日向夏さんの『薬屋のひとりごと』(主婦の友社、2012年10月)を紹介していきたいと思います。このお話の舞台は、中世のとある東洋の大国です。主人公は花街で薬師をやっている少女・猫猫(マオマオ)。妓女たちを相手に、風邪から性病まで面倒を見て、薬の知識に長けている少女です。ところがある日、薬取りに森へ入ったときに人さらいにあい、後宮に売り飛ばされて下女として働くことになってしまいます。普通なら「人さらい~!」「ここから出して~!」と悲嘆に泣くのがたいていの女の子なのでしょうが、花街で育ち元々冷めた性格の猫猫は、日々ため息をつきながら下働きを淡々とこなします。そして、身を低くして目立たないように奉公の二年の期限が切れるのを待っていたのです。なぜそんな風に教養(薬の調合ができるのですから文字の読み書きもできるのです)を隠していたかと言いますと、給料の一部が人さらいに搾取されるシステムになっていて、当然位が上がると給料も上がるわけで「自分をさらった悪党に金なんかやるものか!」という思いがあったからなのです。 このように、目立たぬように後宮の最下層の身分の下女として日々を過ごしていた猫猫でしたがある日、後宮で世継ぎの宮たちが相次いで三人も亡くなり、残る二人の宮も命が危ないという話を耳にします。持ち前の好奇心と知識欲に突き動かされ、その原因を考える猫猫。最初はお決まりの毒殺かと思いましたが、亡くなった宮のうち二人は公主(ヒメ)でしたので毒殺の線は消えます。そこで、亡くなった宮がだんだん弱っていったこと、頭痛や腹痛、吐き気などの症状があることを仲間の下女から聞き出した猫猫は、確証を得るために理由を作って後宮の妃の部屋をのぞきに来ます。そこで見たのは、東宮(皇太子)の母親である梨花(リファ)妃と公主の母親である玉葉(ギョクヨウ)妃の二人が、医官を挟んで怒鳴りあう姿でした。そして、梨花妃の白い肌とおぼつかない身体を見た猫猫は原因を確信します。それは、女性の肌に塗る白粉(おしろい)でした。この小説の舞台の時代には、上等で肌をいちばん白く見せる白粉には水銀や鉛白が含まれていたのです。そうです、宮たちの死因は鉛中毒だったわけです(物語の後半にそのことが書かれています)。このことを、布きれに草の汁を使って「おしろいはどく、赤子にふれさすな」と書き、双方の妃の部屋の窓辺の木の枝に結んでおきました。しかし、梨花妃は忠告を聞かず東宮を失い、玉葉妃は白粉を塗って公主に授乳していた乳母に暇を出すことで、公主は助かります。こうして、後宮で生まれる赤坊の連続死をこっそり解決した猫猫でしたが彼女に思いもよらない運命が待っていたのです。それは、壬氏(ジンシ)という美貌で頭が切れる宦官に、猫猫が病気の原因を突き止めたのは自分だということがばれたことでした。ちょうど、公主の命の恩人となった猫猫は玉葉妃の侍女が少ないこともあり、妃の侍女に抜擢されます。しかしその役目は、毒見役・・・。普通の少女だったら裸足で逃げ出すところでしょうが、猫猫は知的欲求が薬と毒物に傾きすぎている世が世なら「狂科学者(マッドサイエンティスト)」と呼ばれるような娘だったのです。傷薬や化膿止めの効能を調べるため自傷行為を行い、毒を少しずつ飲み耐性をつけ、時には自分から毒蛇をかませる始末・・・。こんな一風変わった少女が宮中で起こる難事件を、薬学、毒物学の知識を駆使して解決していくというのがこのも語りのあらすじです。無愛想で人にも美形の壬氏にも関心を示さず、常に冷めているのに、毒を含んだ時の舌先の痺れに恍惚の表情を浮かべる猫猫・・・。そんな少女の活躍ぶりが予想以上に痛快な冒険小説でもファンタジーでも無い小説です。ですが、ちょっと気楽ににやにやしながら読むのにはお勧めな小説だと思います。 なにしろ単行本サイズで、定価が790円(税別)なのですから。そしてこのお話は、元はWEB小説だったそうですが、そうとは思えないほどの完成度の高い作品に仕上がっています。また、WEB小説の雰囲気を壊すような萌絵のような表紙や挿絵がなく、表紙に中華風の普通の絵で主要な登場人物を配することで、上手く小説の登場人物の容姿をさらりとあらわしているのは小気味良いと思います。ただちょっと猫猫が中世という時代設定万能すぎるかな、という点と、文章の中には、「低温やけど」のような現代用語が出てくるのが少し気になりましたが、そんなもの質の悪いライトノベルや携帯小説に比べたら全く気にならない程度のものです。物語も、最初から最後まで筋が一本ピンッと張られていて、そこから色々と面白いエピソードが派生してきて、面白いやら、あきれるやら、感心するやら、少しホロリとくる場面があって、最後まで読んでいて面白い作品でした。先にも書きましたが、本当に適度な軽さで読みやすくて面白い本です。軽いミステリーや中華モノが好きな人にはお勧めしたい一冊です。 追記・・・7月から更新が全くできなくて、すみませんでした。日展の作品作りに夏休みの学校図書館の蔵書点検を含む諸々の仕事、9月に入れば文化祭の古本市の準備等々、気力を使うことが多くて家でPCに向かうのはメールの確認ぐらいで、あとはベッドに倒れこむ、という生活でした。おまけに季節の変わり目なので、病気がひどくなって・・・。ただ10月に入り幾分落ち着き、読書週間も間近なので、これから細々と更新していきたいと思います。
2012年10月09日
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