濫読屋雑記

濫読屋雑記

2006年02月21日
XML
テーマ: 本日の1冊(3761)
先日「 今年は、ヴィクトリア朝だ~!「煙突少年」のお話 」という題で書いた リーオン・ガーフィールド 著、 斉藤健一 訳『 テムズ川は見ていた 』(徳間書店、2002年)に関するお話の第2弾です。先に取り上げたのが主人公、孤児院から引き取られ煙突掃除の仕事をしている少年 バーナクル について、彼の境遇と煙突少年(チムニー・ボーイ)に関して思うところをゴソゴソッと調べて書いてみました。

テムズ川は見ていた 』の内容ですが、過酷な煙突掃除をしていた主人公、 バーナクル はある日、掃除していた煙突から落ちてしまったのです。めったに足を滑らせたことがないのに…、と思う間もなく当然、親方に怒鳴られおまけに部屋にいた大人たちにも怒られてしまう バーナクル バーナクル が滑り落ちた部屋では偶然イギリス政府上層部による国家を欺く陰謀が話し合われていたのです。その密談を盗み聞いてしまった上にそれと知らずに陰謀を暴く鍵を握るワシの紋章がついたロケットとついでに銀のスプーンまで盗んでしまったので、さあ大変!陰謀の黒幕たちと、そうとは知らずに利用されているだけの クリーカー警部率いる秘密警察 の執拗な追跡を受けることになってしまいます。

ということで、今日はこの クリーカー警部 を話の中心に据えて、 ヴィクトリア朝時代の警察制度について 内藤弘著『 スコットランド・ヤード物語 』(晶文社、1996年、表紙画像無し) 語っていきたいと思います

ヴィクトリア朝時代の警察制度について語る前に、イギリスの警察制度について少し解説しましょう。じつは、イギリスに近代警察が出来たのは1829年のことでした。それまで、イギリス国内の治安は『 オリバー・ツイスト(上) 』の オリバー がスリに失敗した場面で登場する「 ヒュー・アンド・クライ 」というシステムに依存していました。 この制度、何のことはなく犯罪者を発見した人が「泥棒~!」と叫びたてて付近の住民総出で息の続く限りその犯罪者を追跡して捕縛するという、原始的なものでした 17世紀に入ると治安判事が堕落して金で犯罪者の刑罰を軽くしたりするなどの汚職に走り 、ついで 住民の義務であった「ヒュー・アンド・クライ」や警吏の免除の証書が売り買いされ (この制度に参加しないと罰金が科せられたのですが、捕り物の度に棍棒片手に仕事をほっぽり出していては商売あがったりなので、当局が犯罪者確保の際に出す特免状がオークションに出されたのです)ついには、 犯罪者たちが一種のギルド的なものまで組織して盗品売買や治安判事への贈賄を行うという事態となってしまいました

そんなこんなで、18世紀にはイギリスの治安は乱れに乱れあきれ返るほどの状況になってしまったのですが、そこは歴史のお約束、正義感溢れる 治安判事ヘンリー・フィールディング が犯罪者撲滅を目指してロンドンのボウ・ストリート(彼は、現在のロンドンの一部、ウェストミンスター市の治安判事でした)に巡察官事務所を設置して市民有志の警察隊を組織し、泥棒退治に励んだのです。また、フィールディングはイギリス最初の治安白書を発表したり、強盗の手配書を新聞に掲載したりするなど、革新的といえる手法を用いて治安回復に邁進し、政府と市民から高い評価を受けました。こうした活動に影響を受けて、ロンドン周辺では別個に警察組織が創設されたいったのですが…、やがてそれらの活動は市民からの批判に曝されるようになります。

フランス にあります。この当時、 フランスではイギリスよりはるかに整った警察制度が確立していました パリではルイ14世の時代、1700年代に警察長官が設置され以降、長官の下に48人の警視が配置されて国王直属の警察が編成され、今日に至るパリ警視庁の礎が築かれました 地方では1500年代初頭に「元帥長官部隊」という憲兵隊が地方領主によるばらつきのある警備体制を改めるために、純粋の憲兵(軍隊内での警察活動)としての任務のほか地方、主要街道や農村部における治安維持やパリや地方都市の警察の応援部隊としての任務などを担う事になり、この制度も今日のフランス国家憲兵隊にそっくりそのまま受け継がれています

では、そのような完成度の高い制度がなぜイギリス国民から嫌悪されたかといいますと、答えは フランス革命後 恐怖政治 」(1793~94年)にあります。 かの有名なロベスピエール率いる過激急進主義者集まり、ジャコバン派が公安委員会を牛耳って断頭台 (ギロチンのこと) で貴族やら反体制派の人間の首を切り落としていたのですが、その手先となってセッセと働いていたのがこの警察と元帥隊だったのです (以上、鹿島茂著『 職業別パリ風俗 』白水社、1999年)。この辺の状況は1月にNHKBS2で深夜放送していた海外ドラマ『 紅はこべ 』に詳しく描かれているので、再放送されたりDVDが出た時にご覧になってみると良いと思います。

そして イギリス国民が警察を嫌った理由のもう1つが、税金が増えるという簡単にして明快な理由があったからです 。なんでも、ロンドンに 首都圏警察 スコットランド・ヤード )が設立された時、地域の治安対策や前回救貧院で説明したような社会福祉目的のために使われる 教区税が1.5倍に跳ね上がったのですから… 。これでは、反対するわけです。

それでも、 産業革命が始まり首都ロンドンには人が集まりオマケにフランス革命とナポレオン戦争の余波でヨーロッパ各地から亡命者やら得体の知れない人間がワンサカやって来るわで、首都の治安は悪化の一途をたどります 。オマケに産業革命で生まれた労働者階級や農民たちがナポレオン戦争後の不況(どの国も戦争をした後は、勝っても負けても大抵は不景気となります)による騒擾がイギリス全土に不安感を与えていました。この一例が「 ピータールの虐殺 」です。1819年、マンチェスターの聖ピーター広場で行われていた議会改革運動支援のために集会に当局がフランス革命と同じの民衆運動の脅威を感じて過剰反応を示し、地方地主たちが組織していた民兵隊、ヨーマンリーの騎兵隊を動員(この組織も現在、国防義勇軍という形で英国陸軍の一部として残っています)、広場に突入させて弾圧を行い多数の死傷者を出すという惨事を引き起こしました。これも、市民有志の自警団と軍隊しかないために起こった事件でした。この間に警察組織があれば、多少なりとも結果は異なったでしょうに。

そのような社会情勢に痺れを切らしたのが、ワーテルローの英雄(先に書いた「ピータールの虐殺」はこのワーテルロー、英語読みだとウォータールをもじったものです) ウェリントン公爵 が組閣した内閣で内務大臣を務めていた サー・ロバート・ピール です。彼はヨーロッパ最大の犯罪都市ロンドンの改善を目指して1829年、首都圏警察法案を議会に提出します。彼は、既存の夜警制度や教区ごとの警備組織、それに大小の自警団を全廃して、それに代わる中央集権型の警察組織を編成することにありました。

そして、法案が議会を通ったので晴れて首都圏警察が組織されたのですが、まず、 世論の反対を押し切って創った警察なので制服を着せるかどうかでひと悶着があり 、結局 陸軍 を連想させない(暴動鎮圧のために動員された 兵士は真っ赤な軍服を着ていました 市民と同じ格好を 、ということで出来上がった制服は何と、 人が上に乗ってもつぶれない頑丈なシルクハットに金色のボタンが8個並んだ青色の燕尾服というケッタイな格好になってしまったのです

そこで、最初の話に戻るのですが 1829年9月29日イギリス首都圏警察が活動を開始した初日、警察官たちは喧々諤々の討論の末決まった制服を着込んで街に出たのですが… 。その結果は、 市民をはじめするロンドン中の人間から罵声を浴びせられ投石を受け、挙句の果てに袋叩きあったのです 。このような状況が以後、半世紀も続く事となるのです。

という感じで、また長々と書き連ねてしまいヴィクトリア朝までたどり着けなったので、続きはまた次回に、という事になります。それでは!

テムズ川は見ていた 職業別パリ風俗





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2006年02月22日 01時46分35秒コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

お気に入りブログ

sour grapesさん
ま、てきとうに Me162さん
怪鳥の【ちょ~『鈍… 白い怪鳥さん
とりあえず練習用の… バルディッシュさん
brog katu6448さん

コメント新着

背番号のないエース0829 @ 第二次世界大戦 映画〈ジョジョ・ラビット〉に、上記の内…
gordon@ nQdZmuLyMEEktLLsj KbT59H http://www.QS3PE5ZGdxC9IoVKTAPT2…
sammy@ LWuYJEqkFyjeGuJ 7VxFoY http://www.QS3PE5ZGdxC9IoVKTAPT2…
名無し@ Re:上話菜穂子さんの作品が、アニメ化されるので(07/10) タイトルが上話菜穂子さんになってますよ。
nhPSm3 nnrqsdt@ nhPSm3 <a href="http://nnrqsdtryito.com/">nnrqsdtryito</a>, [url=http://obzunpo nhPSm3 &lt;a href=&quot;http://nnrqsdt…

バックナンバー

2026年08月
2026年07月
2026年06月
2026年05月
2026年04月

カレンダー

キーワードサーチ

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: