濫読屋雑記

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2006年02月22日
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テーマ: 本日の1冊(3761)
今日も、 リーオン・ガーフィールド 著、 斉藤健一 訳『 テムズ川は見ていた 』(徳間書店、2002年)に登場する脇役、 クリーカー警部 を話の中心に据えて、 ヴィクトリア朝時代の警察制度について機能に引き続き 内藤弘 著『 スコットランド・ヤード物語 』(晶文社、1996年、表紙画像無し) 語っていきたいと思います

1829年、内務大臣 サー・ロバート・ピール フランスの革命政府のように市民を弾圧するために警察組織を作ったのだと思い込んでいました 。そんな状況のもと、 市民やマスコミが鵜の目鷹の目で警察を監視していたのですから、当局が現役の警察官を使って 秘密警察 」なるものを作れるわけがありません。第一、 市民から目の敵にされていたピールですら諜報組織を容認する事を否定し、スコットランド・ヤード自体も制服警官による防犯活動を理想として、私服警官の刑事活動に出来るかぎりの制限をくわえていたのです フェアプレー精神を重んじるイギリス人にとっては、人を欺く卑劣な行為と受け取られたのでしょう

そんな事を言ってもやはり警察活動には私服警官の活用は必要です 。『 スコットランド・ヤード物語 』では、 創設期の警察官は教養が低かったので上層部の期待するほどの防犯効果が得られず、結局私服を着込んで市民の中に紛れ込んで情報を仕入れることになってしまったそうです 。でも、そんな刑事活動に警察に批判的なマスコミが黙っているはずも無く…。1833年、労働団体の活動を内定していたポペイ巡査部長の正体に気が付いた組合員ジョン・ファージングが、違法集会解散のために駆けつけた警官隊との衝突で警察官を刺殺したとして逮捕(後、証拠不十分で保釈)された腹いせにこのポペイ巡査部長のスパイ活動を暴露するという「 ポペイ事件 」が起こりました。 さあ、日頃から警察に批判的な市民の怒りは大爆発!マスコミもここぞとばかりに煽り立て (この辺は、今日のマスコミと警察の活動に相通じるところがあります)、 ロンドンの金融・経済の中心地、シティの大商人たちは警察維持税の支払い拒否の声明書を議会下院に提出、ロンドン市長もその中に名を連ねるという異常事態になりました 。そんな訳で、政府は警察に対して刑事活動の中止を命令、哀れ、職務に忠実だった優秀な警察官(副署長だったそうです)ポペイ巡査部長は解雇されてしまいました(この件も…以下略)。

そんな事件にもめげずスコットランド・ヤード1842年に発生した2件のヴィクトリア女王狙撃事件などの重要事件に対応すべく、同年ヤード刑事部を設置、ついで1846年には管区随時刑事任命制を採用して、私服警官の刑事活動を本格化させていきます 。これらの部署に配置されたのは「活動的で教養のある」警察官で、 シャーロック・ホームズ に登場する レストレイド警部 たちのように大抵は単独捜査を行っていました(NHKの海外ドラマ『 シャーロック・ホームズの冒険 』では大抵、レストレイド警部や他の私服刑事は1人、若しくは制服警官1・2名だけで登場します。では、普段普通の警察官、下っ端の巡査は何をしていたかと言いますと、テクテクと街中をパトロールしたり、街頭で立ち番をしていたのです。彼らは、「ビート」と呼ばれるパトロール担当区を勤務時間中、ひたすら巡回していました。ほか、巡査は夜盗の警戒や犯人逮捕、交通整理に売春婦の取締〈ヴィクトリア朝時代は、貞淑なイメージとは裏腹に売春婦の時代でもありました〉や下宿や木賃宿への巡回、火事への対応などを行い、挙句には街頭の掃除〈巡査の朝一番の仕事が歩道に捨てられているオレンジの皮を拾い集める事だったそうです〉までやらされていたそうです。ほかにも面白い話があるので、興味のある人は『 スコットランド・ヤード物語 』読んでみて下さい)。

フランス警察の刑事機構を参考に再建されて 、今日でも海外ニュースで時々耳にする「 犯罪捜査部 」通称C・I・Dとなるのです。では、そんな刑事たちはどのような捜査手段を用いていたかと言いますと、お粗末そのものでした。本を読んで驚いたのが、スコットランド・ヤードに警察科学研究所が設置されたのが1934年!19世紀には科学的捜査を行うための機材が無かったというのです。大体、指紋確認法が試験的に採用されたのが1895年というのですから、 これではホームズの持っている鋭い観察力と科学の知識、下宿にある機材を利用すれば、レストレード警部たちを出し抜けるはずです 。では、刑事たちはどのような手法で犯罪情報を収集していたかというと、市民からの情報提供、別名「タレこみ」です。勿論、警察も独自に情報収集をしていましたが(日本の警察の検挙率が高かったのも実は…)。

このような状況だったので、『 テムズ川は見ていた 』に出てくる クリーカー警部率いる秘密警察 という設定にはやはり多少無理があると思います 本文を読んでいるとこの秘密警察、国内外のテロリストの摘発と排除や防諜活動を中心に行動していたようなのですが 、たしかに『 スコットランド・ヤード物語 』でも、1880年代にアイルランド独立を目指すシン・フェイン党が起こした爆弾テロ(ヴィクトリア朝時代から続いているのです!)に対処すべく「特別アイリッシュ捜査班」なるものを設置したとありますが、 これも臨時に置かれたものでテロが沈静化すると普通の捜査班に戻っています 本文中にあるような、警察内部に極秘におかれた「秘密警察」はフィクションだったのでしょう 。ただ、警察を監督する内務省やホワイトホール(海軍省)、ホース・ガーズ(近衛騎兵連隊司令部、陸軍最高司令官の司令部でもあります)そして外務省などは、別個に様々な情報活動を行っていたと思います(この辺りも、 シャーロック・ホームズ にチラチラと出てきますね。とくにホームズの兄、外務省の官吏である マイクロフト・ホームズ なんかはその周辺の人間ではないでしょうか?)

最後に、 イギリスの警察官の武器の所持について 市民の反感を浴びながらの警察設立だったので当然、一般警察官の武器の所持にも注文が付きました 。首都圏警察創設時の警察官の装備は、警棒と「ラトル」と呼ばれる木製の呼子(これは棒の先に回転する板が付いていて、これを回して音を出します。後、ホームズが活躍中の1880年にホイッスルに変更されました)に手錠と夜間パトロール用のランプだけでした。ただ、騎馬警察官にはサーベルと拳銃が、治安の悪い地区を巡回する警察官にはサーベルが、警部と警視は指揮棒と拳銃を携帯していました。ちなみに刑事には制服警官より短い警棒が関与されていました。『 テムズ川は見ていた 』でも、酒場で主人公 バーナクル の行方を問い質すただす際、 クリーカー警部 は上着から警棒を取り出しテーブルを引っ叩いて脅しています。ただこのような行為に関して、 警察は武器の所持と使用は市民への配慮からかなり厳しく、警棒は目に付かないようにズボンの後ろのポケットに入れて上着で隠し、身の危険が迫っているとき意外は使用を禁止し、警棒を使用した場合は報告書を書かねばなりませんでした 。警棒を上着の上から締めるベルトに吊るせる様になったのが1864年のことだそうです。ちなみにこの年、ドラマや映画でお馴染みの詰襟型の軍服使用の「ニュールック」と呼ばれる制服が採用・更新された年でもあります。今でもお馴染みのロンドンの警察官が被っているヘルメットも、この時採用されたものです。

といことで『 今年は、ヴィクトリア朝だ~!「警察」のお話 』を書きましたがここで、 ふと思いついたことがあります 。この クリーカー警部 の登場するくだりを読んでいると、何だか良く似た人間がいたな~、と頭の中に名前がモヤモヤ~と浮かんできたのです。で、それは誰かといいますと『 レ・ミゼラブル(全4冊セット) 』で主人公 ジャン・ヴァルジャン を追い回す冷血な ジャベール 刑事に良く似ているな~、と『 職業別パリ風俗 』を読んでいて気が付きました。 どちらも職務に忠実で冷酷な人間、そして真実を悟った時取った行動も良く似ています (ジャベールはセーヌ河に入水自殺しますが、クリーカーはテムズ河で…)。 こんな、類似点があるなんて、なんだか面白いですね!





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最終更新日  2006年02月23日 04時24分13秒コメント(0) | コメントを書く


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