バベルの図書館-或る物書きの狂恋夢

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 前夜の大雨が嘘のような秋晴れ、昨日10月7日は三連休の初日ということもあれば、大安ということもあって、なんだか目出たいムード。
 いや、ある企業さんの全社行事の取材にうかがったものですから。こちらも非常に目出たいワケですが、実はこの日は、18時から祖父の米寿のお祝いパーティ。もう、取材終わったら、タクシーと快速使って、速攻駆けつけですよ。
 集まった会場は、夜景も美しい千葉某所、レストラン。私が駆けつけたときには、すでに一族は大集合。久しぶりの顔も見えます。カナダからは叔母が、ニュージャージーからは叔父夫婦も駆けつけています。
 すでに会は始まっていましたが、私の到着で再び乾杯に。父が祖父にお礼を一言、そして乾杯の音頭。続いて、弟夫婦が88本のバラの花束を手渡します。その間、私はあわてて、テーブルの下で寄せ書きに一筆。間に合った!!
 花束贈呈の後は、この寄せ書きを従兄弟がプレゼント。その他、祖父の子、つまり母、叔母、叔父たちからは、地デジ対応の液晶テレビ、我々孫組からはDVDレコーダーのプレゼントがあったことを、今回のパーティの企画者の一人であるである母から報告が。
 そしてひとしきり写真撮影があった後、祖父から挨拶が。通訳として戦争に従軍し、二度と生きて日本の地を踏むことはできまいと覚悟した祖父。でも、やっぱりせめて最後に、美しい日本の山野を眺めて死にたい。そう思ったそうです。とは言え、撤退/帰国の船の空席はわずかで、躯の弱い友人に最後の一席を譲った祖父は、これで日本への帰国はかなわないなと覚悟したそうです。ところが、この譲られた方がマラリアで急死したため、奇跡的に繰り上がりで祖父は帰国の船へ乗船。九死に一生を得て、美しいはずの日本に帰ってきたわけです。
 しかし戦争直後の日本は焼け野原。その中で、誰をも恨むことなく、運命に唾をはくでもなく、ただ沈黙を守り、こつこつと成長期の日本を支え、家族を愛し、殖やし、そして勤め人として70歳まで現役でした。その後は、もともと風流人であったはずの祖父は、仏像彫刻、俳句にいそしみ、88歳を迎えたのです。
 その祖父曰く、「いろんなことがあり、まさかこの年齢まで生きることができるとは思わなかった。しかし、そうした中でも、前を向いて、今日まで生きてこられたエネルギーは、妻の内助の功と、子供達の孝行、そして孫たちとのコミュニケーションに支えられたからです。日野原重明先生は、若さの秘訣は“歩くこと”と“若い人とのコミュニケーション”と言っています。これからも、家族の皆からエネルギーをもらって、元気に長生きしたいと思っています」と。戦争という、想像を絶する経験をした人がいう「まさかこの年齢まで生きることができるとは思わなかった」という言葉には、量り知れない重みと叡智が詰まっていると思います。
 戦争で青春を奪われても倦むことなく、家族を愛し、何より、人の悪口を言わず、何かのせいにせず、言い訳をしない“ツイードジャケットの似合う祖父”は、子供の頃からの私の憧れ。私にとって、父が、言わば上司や先輩、メンターのような男であるとするならば、祖父は文字通りアイドルでした。今もそうです。

 いったん自宅に戻った私から祖父へは、別に贈り物を用意していました。人間国宝である徳田八十吉先生よりいただいたいっぷく碗の贈呈です。先般、取材させていただいた折、徳田先生の作品の色使いにすっかり魅了された私。我慢出来ずに壷も買ってしまったくらい。
 その後、「原稿気に入りました」とお礼に、徳田先生から送られてきたのがこのいっぷく碗だったのです。それで、私はそのまたお礼状に、「このいっぷく碗は、私がさせていただいた取材を喜んでいた祖父に献じる一杯のお茶のために、まず使わせていただきます」と約束したのです。そのときから、せっかく先生より戴いたものだけれど、自分が大切な人のために使おうと心に決めていたのです。その“惜しげのなさ”こそ、私なりの風流の真骨頂、そしてこの心意気を、きっと徳田先生も理解して下さるのではないか、と思ったのです。
 木箱を開けた祖父。そして周りに集まる家族。「この色素敵!!」と叔母。突然のプレゼントに驚く両親。「こんなものを…とんでもない」と祖母。祖父は…???いつもの笑顔で、「ありがとう」。それ以上はいらないのです。長年その背を追い続けてきた祖父ですから、表情を見るだけで私には彼の感動が分かるのです。それが、一番近くにいた私の特権。そして祖父との関係が作り上げた、暗黙のコミュニケーション。おじいちゃん、米寿、おめでとう!!(了)





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Last updated  2006/11/02 04:05:36 PM
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こんばんは~~☆)  
愛の姫.  さん


>何より、人の悪口を言わず、何かのせいにせず、言い>訳をしない“ツイードジャケットの似合う祖父”

ステキなおじいさまですね♪
読んでて、なんともいえない「あたたかさ」と「知」を感じました。

t-kieroさんは、おじいさまにとって、きっと自慢のお孫さんなんでしょうね!!!

おじいさまの米寿 心よりおめでとうございます!!(*^^



(2006/10/09 01:03:48 AM)

祝・米寿  
non_0228  さん
今晩和(礼)
kieroさんのお宅はご家族を大切に思う気持ちで溢れていますね(^^)自分の家族を他と比較するのはちょっとおかしな話ですが、私個人的には(長い間末っ子だったせいか)あまり親戚・祖父母と触れ合う機会がほとんど無かったのでとてもほんわかした気持ちでお話読ませて頂きました(礼)
「仮に」自分がどなたかと結婚をして、新しく家族が出来たら、是非ともめでたいことを一緒にお祝いしたいなぁなんて思っていますが…遠い遠い将来のことでしょう。でもいつか…!!w

夢ばかり膨らむ一方です。


米寿、おめでとうございます。これからもお祖父様のお体大切になさって下さいね(^^) (2006/10/09 09:04:43 PM)

おじい様米寿おめでとうございます。  
julia さん
88歳までお元気で子供たち、孫たちに愛されて祝福されるおじい様はお幸せですね。tkieroさんの文章を読んでいると家族の仲の良さ、何にも一丸となって・・という感じがします。そしてtkieoさんがおじい様を敬愛し、ツイードジャケット姿に憧れ・・tkieroさんにとっても大事な八十吉さんのいっぷく碗をプレゼントされて幸せなおじい様だな・・と思いました。口であらわせないほど感激されたことと思います。88歳まで元気で人に迷惑をかけない人生なんて憧れです。きっとおばあ様が健康管理などよくされたからお元気なんですね。私も見習って夫とともに米寿といわないまでも喜寿くらいまでは元気に頑張りたいと思います。tkieroさんは文章がお上手なので自分もその場にいたように心が温かくなりました。これからもおじい様・おばあ様を大事にしてあげてくださいね。 (2006/10/09 11:35:10 PM)

Re:こんばんは~~☆)(10/08)  
t-kiero  さん
愛の姫.さん
>>戦争で青春を奪われても倦むことなく、家族を愛し、
>>何より、人の悪口を言わず、何かのせいにせず、言い>訳をしない“ツイードジャケットの似合う祖父”

>ステキなおじいさまですね♪
>読んでて、なんともいえない「あたたかさ」と「知」を感じました。

>t-kieroさんは、おじいさまにとって、きっと自慢のお孫さんなんでしょうね!!!

>おじいさまの米寿 心よりおめでとうございます!!(*^^
-----
 お礼遅くなりました。素敵なコメントありがとうございます。私が自慢の孫かどうかは分かりませんが、少なくとも祖父は私の自慢です。 (2006/10/11 03:34:20 PM)

Re:祝・米寿(10/08)  
t-kiero  さん
non_0228さん
>今晩和(礼)
>kieroさんのお宅はご家族を大切に思う気持ちで溢れていますね(^^)自分の家族を他と比較するのはちょっとおかしな話ですが、私個人的には(長い間末っ子だったせいか)あまり親戚・祖父母と触れ合う機会がほとんど無かったのでとてもほんわかした気持ちでお話読ませて頂きました(礼)
>「仮に」自分がどなたかと結婚をして、新しく家族が出来たら、是非ともめでたいことを一緒にお祝いしたいなぁなんて思っていますが…遠い遠い将来のことでしょう。でもいつか…!!w

>夢ばかり膨らむ一方です。


>米寿、おめでとうございます。これからもお祖父様のお体大切になさって下さいね(^^)
-----
 母方の祖父母が戦争で家族を失ったことや、父が旧家の三男坊だったこともあり、本当に親しく付き合える家族が少ないこともあって、いま在る家族の結束はかなり堅いです。ほとんどゴッド・ファーザーの世界ですよ(笑)。
 お祝いのメッセージ、ありがとうございました!! (2006/10/11 03:39:30 PM)

Re:おじい様米寿おめでとうございます。(10/08)  
t-kiero  さん
juliaさん
>88歳までお元気で子供たち、孫たちに愛されて祝福されるおじい様はお幸せですね。tkieroさんの文章を読んでいると家族の仲の良さ、何にも一丸となって・・という感じがします。そしてtkieoさんがおじい様を敬愛し、ツイードジャケット姿に憧れ・・tkieroさんにとっても大事な八十吉さんのいっぷく碗をプレゼントされて幸せなおじい様だな・・と思いました。口であらわせないほど感激されたことと思います。88歳まで元気で人に迷惑をかけない人生なんて憧れです。きっとおばあ様が健康管理などよくされたからお元気なんですね。私も見習って夫とともに米寿といわないまでも喜寿くらいまでは元気に頑張りたいと思います。tkieroさんは文章がお上手なので自分もその場にいたように心が温かくなりました。これからもおじい様・おばあ様を大事にしてあげてくださいね。
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 「その場にいたように心が温かくなりました」。メッセージありがとうございます。あのお祝いの場の雰囲気が伝わったのですね。まさに、祖父の米寿は祖母の内助の功あっての金星です。高齢者の孤死が多い殺伐とした現代にあっては、やはり夫婦仲が良いことが、幸福な長生きの秘訣なのかもしれませんね。 (2006/10/11 03:42:18 PM)

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