サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2006.08.17
XML
カテゴリ: 映画
 古い話で恐縮ですが3年ほど前に、B.ピットの「トロイ」という映画がありました。彼の甲冑姿というのは、それまで見たことがなかったような気がするので、久しぶりに映画館へ足を運びました。うちの家内はB.ピットの熱狂的なファンで、私としては大サービスのつもりです。
 映画はCGも程々で、最近のCG画像氾濫のスペクタクルにちょっと食傷気味の私には、疲れない画面でした。アイデアも各所でいろいろ小気味が利いていてなかなか良し。「イーリアス」を多少読んでる人にはウンチクを傾けたくなる場面がいくつかあって、これもGood!
 しかし何となく欲求不満も残った映画ではありました。一言で云えば、ギリシア神話の持っている神話性を徹底して排除していることでした。 神話と歴史劇とは違う のです。そして歴史劇とするならば、実際のトロイの城砦はもっと小さかったはずだし、甲冑や衣装にももう少し古代ギリシャの匂いをつけてほしかったと思うのです。
 この匂いを色濃くまとった映画に、パゾリーニの「アポロンの地獄」「王女メディア」がありましたね。イタリア人ていうのは、何だかんだ云ってもイネとか麦などの農作物の香りを出すのがうまい。日本人の私としてはハリウッド製の無機質な映像よりも、こういう土着的な感じのほうに親近感を持ってしまうのですが。私の実家は田舎でしたので、農家の家など藁の匂いで満ち溢れていましたよ。

 20年以上前に、たまたまギリシアに行く機会があって、ミュケーナイやコリントスを周ったのですが、トロイの敵国連合(ギリシア方)の代表がアガメムノン率いるミュケーナイでした。ミュケーナイの城は城砦といっていい規模で、有名なライオンの門も高さ5メートル足らず、幅も戦車が1台通れる程度です。敷石に戦車の轍の溝が深く刻まれていました。
 エンタシスの柱廊が立ち並ぶイメージのギリシア文明をさかのぼる600年ほど前の遺構であり、アテネを中心とする古代ギリシア文明最盛期の紀元前6,7世紀においてもすでに大昔、神話的世界の出来事でした。それを詠い伝えた吟遊詩人のホメーロスも当時すでに100年以上前の人だったのです(現代の日本で換算すれば室町時代、応仁の乱の物語を、江戸時代末期の俳諧師によって語られたものを、今読んでいるようなものです)。
 それにしても今をさかのぼる3000年以上前の城砦の敷石に、戦車の轍の跡が削られて残っているのには、感動を超えて打ちのめされましたね。かつて神話上の英雄や神々が、この上を確かに戦車に乗って通り抜けただろうということが、私を打つのです。今となってはトロイ戦争が史実であったか、木馬はほんとに作ったのかなんてことはどうでもいいことであり、ひたすらに私たちの想像力を刺激してくれれば良いのです。

 私の興味があるのは、英雄叙事詩を詠うホメーロスはもちろん、100年後の野外劇場に集うアテネの市民たちも、詠われる神話に登場する神々の存在を信じていたということです。


 映画では、「イーリアス」のそうした神々と人間の交歓にはいっさい触れず、人間アキレウス、プリアモス(P.オトゥール)の苦悩を描きますが、神話的状況に慣れていた2600年前のアテネの人たちにとっては、アキレウスは海の精霊テティス(J.クリスティーがやってましたね)の子、つまり半神半人でなければならず、その苦悩と怒りは人間を超えた神がかりのものであったはずです。
 B.ピットのアキレウスはそのマッチョ姿も一驚でしたが、さすがに彼らしくキレたときの危ない感じ、へクトール(E.バナ)との決闘シーン、アンフォラ(大型の古代の壷)に描かれた黒絵の戦士のポーズをよく研究したなと感心しました。彼なら母からあらかじめ死ぬ運命であることを聞かされた、アキレウスの狂気をもっと出してもよかったのではないかとも思いましたが、映画はそのあたりハリウッドふうに分りやすくしてしまいましたね。
 とはいえトロイ戦争の定番である木馬の話、船の廃材で作ったというアイデアが斬新で、それまでのハリウッド製張りぼての木馬よりよほど古代の香りがしてましたね。

 ギリシア神話がおもしろいのは、そうした神々のちょっかいがあるにしても、全体の人間の運命はゼウスといえども動かしがたいという考え方で、せいぜい神たちは人間の所業に同情するか、怒りを与える程度の存在なのです。これは日本神話の神々のあり方とよく似ていて、多神教的感覚とはこういうことなのかなと思ったりしました。







お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2006.08.17 15:52:52
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Calendar

Archives

2026.06
2026.05
2026.04
2026.03
2026.02

Profile

TNサリエリ

TNサリエリ

Comments

TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

Favorite Blog

まだ登録されていません

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: