サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2016.07.01
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カテゴリ: クラシック
個人的営為


 話を戻します。肝心なことは武満徹とか、あるいはこれは音楽ではないけれど、イチローとか村上春樹などは、初めから世界を意識したというのではもちろんなくて、自身のごく「個人的な営為」が、結果的に世界を背負うようになったということなのでしょう。日本の音楽界や文学には、妙に「世界」を意識した作品が時に登場することがあり、またプロ野球選手やJリーガーでも手軽に「世界」を口にする人がいますが、そういう仕方で「世界」に関わろうとした作物は、残念ながらいかにも干からびた印象が残る。
 その理由は明らかで、彼らが思い描く「世界」というのは、じつは実体も何もない、はなはだ抽象化された概念に過ぎないのです(政治家にも、そういう仕方で「世界」を語るのが、好きでたまらない人がいますね)。「世界を背負う」とは、シチ面倒臭い「今そこにある、具体的な現実」に「我が身一つ」で、しかと向き合うことに他ならない。

 上の三人に共通していて、さらに驚嘆すべきことは、自身の「個人的営為」に対する、恐るべきこだわりでしょう。というか、ほとんどそれ以外関心が無いと言っていいのではないか?
 これは前にも言ったかもしれないけど、イチローはかなり微妙な判定でも、まず顔色一つ変えないでしょう。判定は審判という「他者」が勝手にやることで、まるで自分は関係ないと言っているかのようです。彼の関心事は来たボールに対して、自分のバットがどう反応したか、そしてその時の身体の状態であって、後は関係ない(自分の手を離れている)。彼がメジャー公式戦最初に対戦したピッチャーが、A・アスレチックスのT・ハドソンだったのは象徴的でした。「彼のボールは絶対高めに来ない。何だか『このボール、どう思う?』と、バッターに相談するような球を投げてくる」。イチローが待ち望んでいたのは、まさしくそれまで見たこともないボール、そしてそれにアジャストしようとする「自身に対する異様な関心」だけであったでしょう。
 村上春樹もまたご存知のとおり、どこまでも自身の「井戸を深掘り」していくタイプです。

 これほど周囲が(ノーベル賞だの野球殿堂だのと)騒がしくなっても、彼らのそうしたスタンスはビクともしない。その動力はどこから生み出されているのだろうと考えると、結局「自分のそうした在りようが、心底好き」というところに落ち着くのではないか?この場合の「好き」とは、それこそ、仮にそれで「命を落としても構わない」ほど、「好き」ということでしょう。漱石は文学を天職と意識したとたんに、公職を投げ捨てて寿命を大幅に縮めながら、立て続けに作品を産み出しましたね。
 これらは自身が「どう評価されるか(売れるか)」といった、「対価主義」的なスタンスとは対極にあるものです。というか、そもそも彼らはそうした「計量不可能」な世界を、あえて選んでいるようにさえ見える。我々はとてもじゃないが、そうしたマネは出来ないし、その価値がどのようなものであるかさえ、ほとんど想像不可能ですが、であるにも拘らず、そうしたTalentが現にこの世に存在し、我々に価値ある「贈り物」を残してくれることを知っている。

 じつは、そうした本当に価値ある「贈り物」というのは、送り手より受け手のほうの構えによって、届いたり届かなかったり(現に目の前に届いているのに、見落としたり)することがあるということでしょう。我々の想像を絶する「個人的営為」によって生み出された「贈り物」というのは、おおむね異様な形相で私たちの前に、場合によっては威嚇的に立ち現れることがある。何しろ真の創造物とは、送り手自身も含めて「今初めて、そこに見た」ものだからです。だから村上もイチローも、自分が生み出したものの「理由」を解説することはしません(というか、原理的に出来ない仕掛けになっている)。


 残念ながら「対価主義」万能で、ずいぶん豊かになった今どきより、はるかに貧しかった漱石の時代のほうが(あるいは近代主義に染まっていない江戸時代以前のほうが)、「異物」に対する広闊な「構え」を一般世間は保持していたように思える。奇人変人をバカにしつつも、一方で「貴種(かもしれない)」という一種の「畏敬」を払いこそすれ、今どきのようにそれらを「排除」し、万事を「平準化」するということはしなかったのです。





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Last updated  2016.07.01 17:49:35
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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