売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2025.10.30
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カテゴリ: ファッション
ニューヨークで取材活動をしていた頃、有名小売店幹部から販売員の処遇についてよく聞いた話、「優秀な販売員は役員並みかそれ以上の報酬」。固定給ではなく個々の売上に比例する歩合制だからという違いもありますが、販売職はプロであるという考えがあっての処遇。

帰国して東京ファッションデザイナー協議会の仕事を始めたとき、最初に疑問を感じたのが日米販売員の処遇の違いでした。日本では販売員があまりに冷遇されていないか、と。ブランド企業幹部が「新卒者を大量に雇っても4年も経てばほとんど辞めていくので人件費は上がらない」と発言していると聞いたときは腹が立ちました。

だからことあるごとに販売員の処遇改善を訴え続けました。世はデザイナー&キャラクターブランドの一大ブーム、当時ブランド企業の求人はそんなに難しくなかったからかほとんど耳を傾けてもらえませんでしたが。



いまもそうでしょうが、多くのアパレル企業はいわゆる総合職と販売職を分けて採用し、新卒の場合同じ大学や専門学校を卒業しても総合職は販売職より初任給が高めが当たり前。しかも販売現場ではキャリアアップの仕組みがなきに等しく、昇給にも大きな格差がありました。

国立大学や難関私立大学卒業予定者の中には「デスクワークは嫌い、できればずっと人と接する販売がしたい」と希望する学生さんがいます。「総合職にエントリーしませんか」と新卒予定者面接で勧めても「販売職で採用してください」と言う学生さんに出会ったことが何度もありました。

自分が経営者になったら総合職と販売職の格差を是正して新しい人事体系を作ってみたいと考えておりましたが、実際にその立場になってじっくり時間をかけ格差是正と処遇改善に努めました。

まず、販売現場の優秀な社員を総合職が担ってきた本社の中枢に異動させる。店頭と直結するマーチャンダイジング担当や販売促進担当は販売現場から抜擢。自分が退任するときには両部門のほとんどは販売職出身または総合職採用ながら店頭業務を長めに担当した社員が占めるようになりました。

改革したかったのはショップ人材の抜擢だけではなく、店頭業務そのものも。店長にマーチャンダイジングの基本と意図のある発注方法を教え、彼らに
「きみたちの仕事は自らが売ることではない。大事な業務は発注とスタッフのマネジメント、販売は若いスタッフに任せなさい」と言い続けました。

店長の個人売上がショップ全体の半分以上を占めた場合、店長を降りてもらって販売のプロとして別の役割を担ってもらうルールにし、販売のプロとして後進店長をサポートし定年まで頑張ってくれた模範的社員もいます。



ショップの状況を経営者が知ることは重要、売り場をよく回りました。ショップに着くと最初に一番若手スタッフに話しかけます。お客様がいらっしゃないと店長ら先輩スタッフも会話に加わります。ところが店長が話に加わると最初に声をかけた若手がいつの間にか身をひくケースがたまにありました。

チームワークが良くお客様不在ならばスタッフ全員が会話に参加してくれます。しかし店長が話に加わると若手が身をひく、これはチームワークの乱れのシグナル、若手が店長のマネジメントに疑問を感じている証拠です。

このあと本社人事が出動、ショップ全員からヒアリングをして状況確認するよう指示します。人事のヒアリングで問題点は明らかになり、必要であればスタッフを入れ替えます。人事部門が本社から離れたショップでの動向を把握してくれると店頭スタッフから信頼され、そうでないと不満が溜まって退職者は増えます。だから人事ヒアリングはとても重要です。

全国の店長を一堂に集めた研修でこんなことがありました。1年間成績優秀ショップの店長たちのパネル討論会、本社人事担当が進行役を務め、ステージに上がった店長たちから日頃の仕事ぶりを引き出します。このとき好調要因を質問された関西の百貨店内ショップ店長が、「特別なことは何もしてません。接客は主に三番手と四番手が、私とサブ(店長代理)はストックの整理や集合レジに走るなど後方の仕事をしてます」。

この店長のショップは1年のうち12ヶ月連続して月予算をクリア、しかも店長はまだ若くてキャリアはそう長くありません。その店長のコメントを聞きながら涙が出そうになり、秘書に現金を手渡して「いまから近所の旅行代理店に行って2人分の旅行券を買ってきてくれ」、店長に臨時社長賞を贈りました。



「定年まで頑張って欲しい」、よく販売員に言ったセリフです。「会社のお金でギャンブルしなさい」、大胆な発注も奨励しました。展示会で商品を見て、自分の店舗のお客様像を考え、自分が思いを持って発注した商品を毎月しっかり販売計画を立ててスタッフみんなで力を合わせて売り切る、個人売上競争はさせない、それを賞与の査定には一切使わない、これがわが方針でした。

そして口酸っぱく言い続けた言葉、「お客様の方を向いて仕事しようよ」。ものを売るのではなくお客様に買い物の楽しい時間を提供する、これが販売最前線の業務だと教えました。

世の中なんでもネットにスマホ、年々ネット通販の比率は上昇していますが、ファッション商品の販売の原点は店頭と私は信じています。販売現場もプロとして戦略的に仕事すべきであり、それができるプロの販売職を会社はちゃんと処遇すべき。プロ意識のある販売員は会社の宝物、一人でも多く定年まで業務を続けてもらえる会社がグッドカンパニーです。


(注)3枚の店頭写真はブログ内容と直接関係するものではありません。





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Last updated  2025.11.01 14:08:04
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