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カテゴリ: 虚  第一章
「・・・・・・・?」
控えめな音の気づき、窓の外に目を向ける。
空は晴れているのに、雨が街をしとどに濡らしていた。
少しだけ先程より湿った風に髪が乱れる。
「・・・・ん・・・。」
(・・気持ちがいいな。)
雨に濡れた風は、咬を起こした風のように暴力的ではなく、優しく、温かだ。頬は冷え切っていったが、夢の熱を孕んだ身には心地良かった。
そこまで考え、思わず眉を寄せる。あの夢は骨を軋ませるのだ。目覚めれば、何かに触れたくてしょうがない衝動を持て余し、指が熱を孕むのに、その触れるべきものすら見つけられない。
(そうして息すらつけなくなる。)

「・・・何がッ、言いたい・・・・ッ。」
知らず、下唇を噛み切った。
苦い血の味が口内に広がる。
其れさえも夢が与えた傷のようで、叫びだしたい焦燥に駆られた。
夢があまりにもリアルで、抱きしめてくる腕から己のすべてが奪われそうで・・・・。
(俺が、願うからだろうか・・・?)
ふと思う、そして同時に脳裏に古い日本家屋の庭が浮かび上がる。大きな桜の木が花を誇り、見事なまでに散らせている。
その根元に、一人の女性が横たわっていた。月光を宿したように白い肌がまるでその精のように見えた。一つ異常なのは、その白い肌に花のように紅が散っていること。子供心に思ったことは、桜が淡く紅を宿しているのはその土に埋まっている死体の血を吸い上げているからだという話は本当だったのだ、ということ。そこから先は意識が飛んでしまった。
最後に覚えているのは自分の絶望したような弱弱しい声。
「お母、さん・・・?」
意識を手放し、冷たい地面に抱かれる前・・・・・、ひどく悲しそうな母の声を聞いた気がした。

其れでも自分は、優しい母の声にほっとし、為す術もなく意識を手放し眠ったのだ。
(自分はあの時失った温もりを求めているのだろうか?)
未だに欲しい、と願っているのだろうか?そんな夢のような、愚かしいことを・・・。だからあんな夢を見るのか?何でもいいからあの腕の温もりに救いを求めているのか?
あんなひたむきに自分を抱きしめてくれる腕は他にはない。
生半可な優しさなど、俺は要らない。

だから近寄るものは全て退けてきたのだ。
けれど疵付いていないわけはなかった。
疵はいつまでも鈍く痛む。
本当は誰より縋るものが欲しいのだ、一番自分が判っていた。
けれど強烈に其の感情を焼き殺してきた。
己以外の何かに縋るなど、咬は許せなかった。
其の矛盾を、夢はいつも生々しく眼前に突きつけてくる。
己の一番弱く浅ましい心を夢は曝け出す。
だから朝はこんなにも苦しい。
<許さない。>
だから母のことなど思い出すのだ。
<いらないッ、縋るものなど・・・・ッ!>
血を吐く思いで祈る。
けれど、夢の痕はいつまでも鈍く痛む。咬を攻めるように。






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最終更新日  2006年10月27日 16時10分57秒
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