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カテゴリ: 虚  第一章
夢を見る・・・。
「・・う・・・っ。」
春のまだ少し冷たい風が弛緩した身体を嬲って通り過ぎていく。
陽光がゆるく窓から射すのを、咬(ゼン)はシーツの上に身体を横たわせたまま見上げた。
(・・・またか・・。)
毎晩、毎晩同じ夢を見る。内容はあまり覚えていなかったのだが、近頃は少しずつ見たものを思い出すことができるようになっていた。
それがまるで脳に無理に入り込んできているように感じて気に入らない。
夢がはっきりした意志を持って、咬に挑んでいるような気がするのだ。
余人を己の中に入れる場所など咬の内にはない。

けれど其の夢はまるで内臓を抉る勢いで日々侵入するのだ。
怒りを通り越して血さえ湧きそうだった。
しかも其の夢はふざけたことに、咬に向けているのではないのだ。
夢の中で咬は、金の瞳を持つ男だった。
野生の獣のような、孤独で誇り高い男だ。
何にも縛られず、自由で激しい、王者のように傲慢で美しい瞳を持った男。
其の男の姿で、咬はいつも闇の中に立っている。
寒くて、全身がひどく痛くて、咬は夢の中で震えるのだ。
けれど誇り高い其の男らしく、咬の唇は言葉を抱かず沈黙を持ってそれに応ずる。
吐息さえ寒さに凍てついているのに、咬は(男は)、一人前を見据え、立ち続ける。気の遠くなるほどの後、咬は幻覚を見るのだ。
顔は分からない。

そして其の瞬間温かい熱に抱かれる。
愕きゆえか、怯えゆえか、自分でも判らない心の痛みに、けれど咬は自分への誓いゆえに振り返ることができない。
そして其の温かい熱は、こちらの焦燥を呼んだように、人の腕へと姿を変える。
其れを見、咬は屈辱に身体が熱くなるのを自覚し、其の手に抗おうと手を伸ばすが、其れは許されなかった。
手は拒まれ、ますます強く抱かれる。

同時に、殺してやりたい、と。
一瞬でも其の温もりに己を崩されたことが腹立たしく、全身の血流が音を立てて一気にめぐり、怒りに律動する。
このすべてを与えている人物を、夢の中の咬は知っていた。と、背後から言葉が与えられる。
<・・・・・・・・・。>
小声の早口は聞き取りづらく、よく分からない。
というより、ただ、理解したくなかったからかもしれない。
与えられた言葉は誓言のようで、何者にも侵し難い神聖さを孕んでいた。
まるで神を愛する殉教者のような清冽さで、其の人物は続けたのだ。
<・・・たを・・・・て・・る。>と。
<・・・・・してなど・・・ッ。>
それに本能で抗おうと、咬は激情を唇にのぼらせ、・・・・・・。
そして、目覚める。                                           





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最終更新日  2006年09月11日 14時13分10秒
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