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「紫生【シオ】。君も覚えておけ。今までは会うことも無かったが、これから何度も顔を合わせることになるぞ、“彼”と。」
「・・・・・・どういう、ことです。」
聡明な意志が伺える彼女、紫生に惨砂【サザ】は面白くもなさげに口の片端を吊り上げた。
「“彼”は新しい小鳥遊【タカナシ】だ。」
「なっ・・・・・・・・・!?」
「いや、“彼女”と言ったほうが良いか?無性体、という人種も呼び方に困るな。上もないし、下も付いて無いから、どちらとも言えない。・・・・・神人にそれも失礼か。ん?外道だったか?」
惨砂の身も蓋も無い言い分には耳も貸さず、紫生は惨砂に詰め寄った。
「小鳥遊、ですって?“彼”が?何を考えているの。」
「蒐家の長男の若君が“彼”に傾倒していることは有名だから知っているだろう?」

紫生があまりにもきっぱりと断定するのを見て、宗主が数週間前から“彼”に施している教育と“彼”の努力は絶大なほどに報われているらしい、ということが分かり、惨砂は苦笑する。
「それの後始末さ。」
「宗主が自分の物にしてしまえば、いくら若君でも手出しはできない、と?」
「ご名答。宗主の物に手を出せば、それがいくら息子であろうとも死罪だ。手を出した次の日にはそこらの川か海に浮いているだろうよ。ばれない限りは大目に見られただろうが、若君は遣り過ぎたんだよ。“朱樺の御子を強姦して、犯し殺し掛けた”なんて実のある噂が蒐家内だけじゃなくよりによって“朱樺”の地まで届くほどには。」
「・・・・・なんてことを・・・・。」
息を呑む彼女を安心させるように惨砂は続ける。
「今は“彼”の身体の状態は良好だ。精神の方はまだ今日が一日目だから分からないが、ね。だからこれからの“彼”に関する検査は精神療法も兼ねている。十分気をつけて遣ってくれ。」
「ええ・・・・・。それはもちろん。」
はっきりと頷いた紫生はそれでも数瞬の後、キツイ口調で意見を返してきた。
「まさか今の“彼”の状態で小鳥遊の役目を?」
「だろうな。」

蒐家-----------------------。
黒曜国からの帰化人の血筋だ、と言うこと以外はその実態を知る者は政治の中枢にもいない。
莫大な財力と皓国の政財界、裏社会に絶大な影響力を持つ。
そのトップ、・・・・・・・宗主には高額で買い取った男女7,8人の取り巻きがいる。
取り巻き、と言うよりは贅を尽くしたペットか。

彼らは国が一個買えるような高い金を掛けて一流の教育を施される。
語学、経済学、帝王学から果ては調香学まで、幅広い知識や経験、作法を学ばせ、それだけではなく男や女の視線を集めるためのありとあらゆる動作や姿勢、仕草・・・・・・・話術、歩き方、宝石や服の着こなし、性技、酒の飲み方や視線の流し方まで毎日念入りに。
性技は高級娼婦や男娼まで雇って学ばせる。
健康状態も厳しく管理され、発育不良や少しでも体重をオーバーすれば、他に高値で売り飛ばされる。
それを待たずとも宗主に飽きられればそれで御仕舞いだが。
厳しい教育を受けてきた彼らは総じて、有能で何より人を惹きつけるに長けているので宗主は面倒にならないように売り飛ばす時には彼らを薬漬けにして売春宿に売るか、殺すか、どちらにしろ五体満足で蒐家からは出ることができない。
それ故に彼らはしのぎを削って伸し上がる。
彼らの仕事場は主に宗主の寝所か夜会だ。
一夜会に連れて行けば、彼らには堕とせない者はいない。
御高くとまったマダムも御堅い淑女も高慢な紳士気取りも高貴な伯爵も軍人も皆彼らに夢中になる。
蒐家の財閥上、政治上の仇敵もそれ本人か、妻や夫、義兄・・・・・・などは企業秘密の書類を喜んで持ち出し、持参する。
彼らの蒐家での総称が“小鳥遊”【タカナシ】だ。
意味は、鷹がいなければ小鳥は遊べる。
故に小鳥が遊ぶ、と書いて、鷹無し、と呼ぶ。
鷹は蒐家の宗主、小鳥は彼ら。
彼らの境遇を皮肉と哀れみで表した呼び名だった。
“彼”が来た翌日にこの名を付けた宗主はその境遇を皮肉って付けた名であったろうが、まさかその九年後に“彼”が実際に自分の【小鳥遊】になるとは考えても見なかっただろう。





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最終更新日  2006年06月24日 17時55分34秒
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