虚

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虚乃剣 @ お久しぶりです 怖いですが、美しい詩ですね。 >嗚呼…
茜夜 @ Re:charberryさん コメント、有り難うございます。 自分の…
charberry @ 本当に放って置かれたら、それはそれで・・・ 繊細ゆえに傷つき、疲れ、虚になり、無に…
茜夜 @ Re:虚乃剣さん そう言って頂けるとほっとします。(●^_…
虚乃剣 @ ヤッハー(´Д`)y─~~~ 思わず笑ってしまいました(笑) こうい…

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昼。
快晴。
空はどこまでも高く。
青く。
その青の中を飛んでいる鳥は、気持ちよく高く突き抜ける声で鳴く。
月夜も潤むような夕日の時間もどれも美しいと思うのに、昼間、太陽が出ている時間。
晴れた高い空が視界に入ると、世界は何処までも美しいように感じる。
辛く、気持ちが沈んでいても、それでも世界は美しい、と感じる。
何処までも澄んでいるように感じる。

気持ちが高揚する。
昼餉少し前の村の喧騒は心地よく、長閑だった。
時折すれ違う村人は此方を見て深く会釈をしてくるが、シャン、と胸を張りどこか楽しげに立ち働き、皆“華”がある顔つきをしている。
広場を少し歩けば居並ぶ家屋からは子供たちの弾けるような笑い声と、台所からは昼餉を準備する小気味いい音が聞こえてくる。
少し耳を澄ませば、教会からはかすかに異国の歌が聞こえてくる。
雷霙【ライエイ】が村人たちに教えたのだろう。
生命の讃歌だった。
賛美歌はその言葉通り、生命を讃歌し生きる喜びを歌い・・・・・・・その歌の響きは力強く生命力に満ち溢れて、人の血が通い温かく、そして優しかった。
「・・・・・・・・・・。」
朝風呂に入ったばかりの身体はまだ少し火照っている。
少し濡れている前髪をかき上げ、氷翠王【シャナオウ】は浅く息をついた。

昨夜まで降っていた雪は今はもう溶け始め、水に帰り始めている。
子供たちが歓声を上げながらその景色の中で走り回っている。
彼らが此方に気づき嬉しそうに両手をぶんぶん振ってくるのに片手を軽く振り返し、笑みを返した。
そうして彼らがまた遊びに戻ってゆくのを見届けてから、氷翠王は手近にあった木に背を凭せ掛け軽く腕を組んで瞑想するように瞳を伏せた。
そうすると鮮やかなまつげが、白く張り詰めたなめらかな頬の輪郭に濃く影を落とし凄絶な清やかさを添える。

伏せられていてさえ微かに映るあえやかな、一切の光を跳ね返す宝石のような朱金の瞳。
血の青いすじが透けて見えるような薄く、白い肌が、烏の濡れ羽のような漆黒のその中に蒼ささえ含む髪に映え、凄まじいばかりの清らかさ・・・・・・。
「・・・・・・・・・・。」
風が吹く音を聞き、周囲の空気を掴む。
呼吸を深くし、己の気を拡散し同化させていく。
少し不穏な空気を発している気を静める必要があった。
内通者であったあの男・・・・・(恐らくはもう死んでいるだろうが)、あの男の殺気に当てられて氷翠王が自分の瞳に閉じ込めている神の怨念が騒いでいるのだ。
放って置けば周囲の人間に毒素を振り撒くその念気を、特殊な呼吸法で再び自らの内に嵌め込んでいく。
その過程は自らの心の内と向き合う作業と似ている。
己の記憶と経験の根本であるものを何の抵抗もせず飲み込む。
言葉で言うほど楽な作業ではない。
楽しいものでもない。
そうして徐々に押さえ込み終えると、氷翠王は伏せていた目を上げ木に凭れていた背を起こした。
「疲れてるみたいだね。」
瞳を上げた途端視界に入った姿に、温度の低い涼やかな声。
黒髪も凛々しいその青年に氷翠王は柔らかく微笑みを返した。
「霧破【ソウハ】・・・・・。」
氷翠王のその笑みを見て霧破も優しくいたわる様な笑みを向ける。
「今朝のことを聞いたけど、大丈夫かい?」
万が一にも村人たちに内通者のことを聞かれぬように言葉を伏せるその気遣いを温かく思い、氷翠王は苦笑するような淡い微笑を浮かべ首を軽く傾げて見せた。
その少年のような仕草にけれど氷翠王の瞳だけが寒い。
大地を思うさま駆けるためにあるようなしなやかな肢体は、けれど今は華奢なように霧破の眼には映った。
霧破は氷翠王の研磨された宝石のような瞳を見つめた。
その瞳は他人の心に静かに響きすぎるのに、優しさを与えて包み込んでやるには何も欲してなさすぎる、と霧破はふと思った。
だから霧破は氷翠王のその瞳に・・・・・・心に手が届くよう祈るように思いその髪に手を伸ばした。
そのまま優しく梳くと、氷翠王は少し目を細め柔らかく息を呑んだ。
心地よい、と言うように。
「ずいぶん短く切ったようだね。」
「ああ、・・・・・見苦しいか?」
そう問う割には気にしていない口調に霧破は逆に、らしい、と思い微笑む。
「いや、似合っているよ。」
霧破のその言葉を静かに受け止めて、氷翠王はそうか、とだけ答えて返す。
髪を梳いてくる霧破の手にまどろんでいる様子はまるで子猫のようで微笑ましかった。
「でも少し不揃いみたいだね。・・・・・兵たちの訓練も終わって、今は昼休みだ。僕もいったん屋敷に帰るところだったんだが、君も来るかい?揃えてあげるよ。」
「霧破が?」
「ああ。紅丹【ボタン】の髪を毎週整えてやっているのも僕だが?」
「知ってる。」
その時の紅丹の満足そうな様子を思い出して、氷翠王は思わず微笑した。
だが、今は乱れていた気を抑圧したばかりで、他の人間の傍に長く居ることは少し憚られる。
その氷翠王の考えを読んだのか、霧破は珍しく揶揄するような笑みを向けてくる。
「“人の好意は素直に受け取る”という言葉が君の美点だった筈だが?」
「・・・・・・霧破・・・・・。」
氷翠王は呆れたように声を上げた。
ずいぶんと昔のことを言ってくれる。
瀕死の重傷を負った霧破を助けた時のことを言っているのだろう。
『人が分かり合えることはない、永遠に。にも拘らず触れ合おうとするからそこに摩擦が生まれる。』
権力争いに巻き込まれて疑心暗鬼になっていたのだろう、そう言って霧破が助けの手を拒んだのを、
『そんなことは承知の上で触れている。お前に。壊しても、壊されてもいいだろう。別に。私だけの意味、お前だけの声、私だけの思い、お前だけの祈り、・・・・・・それは全て生きている限り手にすることが出来る幸福だ。分かり合えずとも暖め合うことはできるかもしれないだろう?生きていれば。だから死にそうな今は、素直に人の好意を受け取っておけ。それで死んでしまったのならはなむけの言葉を手向けてやる。一人で死んでいくより気が向いていると思わないか?』
と切り返した時の言葉を言っているのだろう。
「来るだろう?」
霧破が再び誘う言葉を向け、綺麗な長い指で髪を梳いてくる。
その指先から触れた部分が澄み切っていくように感じた。
自分の言葉を持ち出されれば、反論することも出来ない。
「分かった。行こう。」
負けた、と潔いばかりに思い。
氷翠王はいつもの笑みを浮かべた。





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最終更新日  2006年10月07日 17時53分35秒
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