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2004.08.19
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カテゴリ: 怪談
戸板から声をかけるお岩様

「隠亡堀(おんぼうぼり)のシーン」。よどんだ水面(みなも)に浮いた戸板に姿を現わすお岩様。



「もしもしッ ! ? 」
「プツプツプツ・・・」
彼女「何よそれ、電話に出てるんなら、ちゃんと返事ぐらいしなさいよ、ハイハイとか・・」
私「ハイハイ・・・。プツプツ・・」
彼女「おいこらッ、無言電話の声色(こわいろ)なんて何にも面白くないわよ。当ててやろうか、眠いんでしょ」

私「ううーむ・・・。それとね、軽いウツ状態が去ったから、お祝いに超早寝したはいいけど、超早起きしちゃって、まだ眠い、フワーオ、グググーンム ! ! 」
彼女「またゴジラのマネ。今朝は超へたね。それに大あくびなんかして。どうする、切ってもう少し寝る ? 」


彼女「切るわよ。もう少しきちんとお休みなさい」少しのろけるが、この言い方が、キツくない。何て優しい女だ。一年に一度あるかないかの珍しい口調だ。
私「お前さあ、オリンピック見てる ? 」
彼女「あら、ここでそんなの話題にしたらまずいんじゃない ? 」

私「だって、俺スポーツ全然ダメだろ。そんでさ、夕べは仕事ない日だったから夕飯食べたの早かったけどさ、半井(なからい)さんの天気予報終わったとたんにアテネだろ。もお退屈でフワーオ。余計眠くなっちゃった」
彼女「あの人、きれいだけどちょっと馬に似てるわね」えッ、馬 ? ハハハ、はっきり言うね。
私「なるほどね。ちょっとオウマさんに似てるかもね。明日も厳しい暑さになりそうです、熱中症などに気をつけましょう、ヒヒーンなんてね・・」

彼女「あなた、腹が立たないの ? 、少しからかったのに・・」
私「もう、年だな。ちょっといい女がいるとさ、同時に顔のくせを感じ取るんだよ。ついでにお前の顔は、田丸ミミズじゃない、田丸ミスズに似てるな」
彼女「あら、ほめても何にも出ないわよ」
私「けっこう。何にもいらない。あれだな、田丸ミスズも若い頃はきれいだったけど、今はもう、とうが立って来て、元美人って感じだな」

彼女「わたしがバカだったわ。そう、そうなの、それが言いたかったのね」

彼女「わたし、テレビ見ないもの。お父さんたちはけっこう夢中で見てるみたいだけど」

私「だけどさあ、お前も高校時代は短距離やってただろ。タイムどれくらいだったんだ、うーん、例えば百メートルの」
彼女「わたしなんかダメよ。ただクラブ活動でやってただけだから・・。うーん、そうねえ、わたしの最高タイムは13秒6ぐらいだったかしら・・」
私「ふえーっ ! ! そんなに速かったの、すげえ ! ! それ、たいていの男出せないよ」

彼女「あなた、スポーツは救いがたい音痴だから、知らないでしょうけどね、わたしくらいのタイム出す人はごろごろいるのよ。高校総体の決勝記録なんて、12秒台の前半よ。それでもオリンピックにはほど遠いけどね」さっきはお休みなさいなんて、優しい言葉かけたのに、コロッと変わって救いがたい音痴と来たね。ま、事実だから仕方ない。



彼女「もう、それくらいにしといたら・・。みんなが感動もらったって言ってる時に、不謹慎でしょ」
私「何言ってやがんでぇ。感動どうやったら、もらえるんだよ。感動くれるなら金くれって言いたいよ。あ、そうだ、『愛ちゃんの推定年収7000万円』なんてのあったよ。10で割って、それでまた2で割ったって、俺の年収より勝ってるよ、チキショー」

彼女「もう、そのことは言わないって約束みたいにしたでしょ。わたしの年収だってたいしたことないんだもの。相手はみんな異常なほどの運動能力身につけた人たちなのよ」
私「何言ってやがんでぇ。その昔日本はな、水泳男子の何泳ぎだか知らないけど、3位まで独占した時代があったんだぞ、軍国主義だなんて悪口言われた時代に、粗食に甘んじた時代にだぞ。水上日本って言われたんだぞ」

彼女「わかったわよ、もうそのくらいにして、あなたきょうのテーマ決まってるの ? 」
私「まだだよ。まーだだよ、なんてかくれんぼみたいだな。ああ、昔が懐かしいな。ああ、テーマね。何とかなるよ。一銭のかせぎもない作家みたいなもの。ぎりぎりのところまで自分を追い詰めると、神がかりみたいになって、テーマ決まるの。お気遣い、感謝します。だけどなあ・・」

彼女「もお、またオリンピックのこと皮肉るの。だったら、今度こそ電話切るわよ ! どうするの ? 」また、どうする、アイフルって言いたかったけど、今度はビックリのマークつきだから、神妙にした。俺に近づきたくて富士市に引っ越すって決めたくせに、結局こいつのほうがいばってるじゃないか。何だ、中年小じわ大じわ女め。そうだ、ずるい女に恨みを晴らした男の怨霊ってネタないかしら。

私「よし、決めた。そろそろ下旬に近いから、超オーソドックスネタでいく」
あとはバイクなど、よもやまの話になったので、電話会話ここでおしまい。これより怪談テーマに入ります。両舷(りょうげん)前進微速よーそろーっ。はい、よーそろー。右舷上方敵機 ! ! 総員戦闘配備。おもーかーじ。おもーかーじ。もどーせ。もどーせ。

チャンチャン、チャンチャカチャッチャッ、チャチャチャチャチャッタカタッタッ、守るも攻むるもくろがねの、浮かべる城ぞ頼みなる、浮かべるそのふね日の本のみくにの四方(よも)を守るべし、まがねのそのふね、日の本に仇(あだ)なす国を攻めよかし、チャカチャッチャッチャッタカタッタッ、いわきの煙はわだつみのたつかとばかりなびくなり、たま撃(う)つひびきはいかづちの声かとばかりどよむなり・・

彼女「もお、やめなさいッ ! ! 書き方始めーッ ! 」あ、この人、まだいた。電話中だった。下書き送ったから、リアルタイムで叱られた。へいへい、今度こそ、書きますでございます。おう粂(くめ)、まだ急ぐこっちゃねぇ。湯へ入って、いっぺえやってからにしろ。彼女「こらッ、鬼平のセリフなんかやったら書けなくなるでしょッ ! 」
へいへい。今度こそ書きますでございます。おう、粂(くめ)、あ、いけない。よーそろーっ。




余りにも有名な話だ。しかし怪談を語るに、この話を抜きには出来ないほどあまねく知れ渡っている。
時はだいぶさかのぼり、大正七年の昔にかえる。北海道空知郡栗沢町万字に住む鈴木永吉さん(当時17才)は、まだ年端もゆかぬ可愛い妹のために、札幌で開催された大博覧会を見に行ったおり、みやげとしておかっぱ頭で振りそでを着た可愛い日本人形を買って帰った。これがのちに俗に「お菊人形」と呼ばれるようになったいわくつきの人形だ。

永吉さんの妹の名は菊子。みやげの人形に菊子ちゃんは大喜びし、寝る時も離さぬほど可愛がった。
だが菊子ちゃんは、翌大正八年一月二十四日、風邪がもとで、わずか三つで亡くなった。
死者が生前愛着を抱いていたものは、葬儀の時に一緒に棺に入れるものだとも言う。
だが、忙しさにとりまぎれ、入れ忘れた。その代わり、その日本人形は、菊子ちゃんの位牌と共に仏壇に祭られた。

家族は仏壇に向かい、毎朝菊子ちゃんの霊を弔うべく拝んだが、そのうち人形の髪が買った時よりも少しずつ伸び始めているのに気づいた。
鈴木永吉さんは、この人形を菩提寺の万念寺に預けた。
人形の髪は万念寺に於いても伸び続けた。初め耳のあたりまでしかなかった髪は、星移って、これが話題となり、遂に昭和45年8月15日付の北海道新聞夕刊に載った時には、腰のあたりに達するほどの長さになっていた。

その人形は寺の近所の主婦が手入れなどを引き受けていたが、彼女によると、人形の手はポチャポチャとしていて、まるで生けるが如くの質感だった。更に、綿棒で唇に口紅もさしたが、そのうち初めは閉じていた唇が次第にあいてきた。
これを例によって科学的に検証するなぞと題したテレビ番組などがあったが、結局科学者共などを呼んで、やれ水分だ、材質のせいで長年月にこうなる、ああなるなぞと可能性の限りを並べて、不思議でも何でもない方向へ結論づけていた。

私は怪異談にのめり込んでいるつもりはないが、「人形のいわれに思いを致せ」と言いたい思いで腹が立った。わずか三つのはかない命を散らした可哀相な菊子ちゃんを少しでも哀れと思うなら、たいしたレベルでもない科学とやらで突っつくまねをするなと憤った。
故・吉田茂元首相ではないが、このようなやからを曲学阿世(きょくがくあせい)の徒と言うのだと不愉快だった。

「お菊人形」と呼ばれるようになった亡き菊子ちゃんの形見の人形の話は、うわさがうわさを呼び、評判となって、菊子ちゃんの霊が宿って生き続けているのではないかと言われるようになり、そののちお参りの人が全国から訪れるようになった。
余談だが菊子ちゃんがもし今の世に生まれていたなら、この子は助かったかも知れないと思う。

私の甥で、兄の三人すべて男の子のうちの次男は、幼い頃肺炎を少なくも二度患ったが、現代医療のおかげか、いずれの時も大過なく入院治療を終えて、今やアメリカ、カリフォルニアに生活してすこぶる元気だが、彼は小学低学年の時には、昔でいう脳膜炎、つまり髄膜炎にも冒されたが、両親共々薬大出ということの機転からか、発見と処置が早かったおかげで、これも無事元気に回復した。

願わくは、薄幸の生涯を閉じた菊子ちゃんの霊よ、安らかなれかし。





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最終更新日  2021.01.25 10:57:33
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