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2006.07.04
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カテゴリ: 物語


 男とは、みどりを通じて一度だけ電話で話したことがある。みどりと遊んでいるときに、ちょうど電話がかかってきたのだった。
 男は開口一番、あやさんですか、と言った。
「なんでわたしの名前知ってんの?」と振り返ると、あたしが話したから、とみどりは鼻を膨らませた。
 結婚してからは隠居してしまっていたけれど、みどりは本来、男あしらいが非常にうまい。特別に美人というわけでもないが、わたしの知る限り、男が切れることはなかった。相手をものすごく褒めるということ以外に理由はわからない。
 みどりは人を必要以上に褒めた。聞いてるわたしが気恥ずかしくなるような褒め方だ。もっとも、必要以上だと思うのはわたしだけで、本当は過不足なく褒めているのかもしれない。
 みどりの新しい男は腰の低い男だった。声を聞く限りみどりに心底ほれ込んでいるという風で、しばらくはみどりさんの近くに漂っていたいんです、とおどおどと言った。しかし、腰の低い男は用心した方がいい。案の定、妻子持ちだった。
 あの人ね、不倫が趣味なの。みどりは言った。あたしの前にも何人か恋人がいたみたいよ。中の一人はあたしも知ってる人。最近結婚したんだけど。
「愛人っていうこと?」

 でね。みどりは愉快そうに目を輝かせた。結婚しちゃった不倫相手っつう女がすごいのよ。彼のかわいがってた部下と結婚したんだけどさ。その部下も既婚者だったのよ。で、部下は妻と別れて彼女と一緒になったんだけど、式の前の二人で彼を訪ねてきて結婚報告したんだって。わたしたち、結婚しますって二人並んで頭を下げて。本人はあっけに取られちゃって、あいつら、何考えてんのかなって。かなりショックだったみたいよ。かわいいよね。
「かわいいかなあ。見せつけたかっただけじゃない」
「女が? 部下が?」 
「両方でしょう、そりゃ」

 わたしはホームページに乗っていた大代表の番号に、仕事の依頼を装って電話をかけた。会社の規模がどれくらいだかわからないけど、名前を冠しているということは男が社長なのだろう。奥さんと二人で切り盛りしているような会社だったら面倒なことになる。みどりがそれをする分にはいいけど、わたしじゃあね。男も浮かばれないでしょうよ。

 電話に出たのは本人だった。わたしが誰だかすぐにわかったようで、勢い込むように男は言った。
「連絡をくれて良かった。私もあなたを探していたんです」
 変わらず気の弱そうな声で男は言った。しかし、どうにも連絡先がわからなくて。
 それはそうだ。こっちはしがない派遣社員だから。
「みどりはどうしてるんですか?」
「ほっとほと、手を焼いているんです」

「え?」
 男はわたしの質問に躊躇したようで、
「どこまで知ってるんですか?」と疑わしげに訊いた。
 わたしはかいつまんで説明した。部屋が空になっていたこと。以降、連絡が取れないこと。まずいことになっているのではないかと気になって、あなたなら何か知ってるのではないかと電話をしていること。
「あいつ、なにも言ってなかったのか」と男は笑った。柔らかな笑い声だった。

「ええ、呼び寄せたんです」
 いつ?
「ゴールデンウィークのすぐ後です。部屋は六月いっぱい借りてあったんですけどね」
 とすると、わたしが部屋に行ったときにはすでに、みどりは仙台にいたということになる。





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Last updated  2006.07.15 23:56:40
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