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2006.07.05
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カテゴリ: 物語


 ええ、私も少し手伝いました。男は言った。私って言うんだよね、この年の男の人は。
 みどりが仙台にいるとわかってほっとした。ほっとしたけれど、怒りもこみ上げてきた。何やってんだよ、あいつは。
 男は抑揚なく話し続けた。一度こっちに来ちゃうとなかなか戻れないでしょう。交通費もバカにならないしね。急に決まったんです。それで、うっかり連絡しそびれたんじゃないかな。
 ありえない、とわたしは思った。みどりに限ってそれはない。連絡しなかったのは明らかにみどりの意思だろう。
「一緒に暮らしてるんですか?」声が冷たくなるのを抑えられなかった。
「うーん」男は言いよどんだ。知っててもらったほうがいいのかなあ。私、別に家があるんです。「家が」と強調するように男は言った。
 知ってるよ、妻子持ちだもんね、と思うけど言わない。
 男は続けた。ただ、家とは別に借りている仕事場があるんです。事務所というか、倉庫みたいな場所なんですけどね。一応キッチンとシャワーがついていて、やろうと思えば自炊も出来るし。そこにあいつを間借りさせてるんです。やけにのんびりとした口調だった。

 そうさせた。使役動詞。
「みどりは元気なんですか?」
「うん、まあ、元気で働いてはいるんだけど、時々どうしようもなく感情的になることがあって。気持ちのコントロールが効かないというか」
 それはそうだろう。そんな暮らしで平静を保てるわけがない。癇の強い女だと以前の電話でも言ったはずだ。
「おれもどうしていいかわからないことがあって、それで、もしよければ相談相手になってもらえないかと思って」一人称が私からおれに変わった。
 どうなのかな、この人。わたしは思った。最後までみどりとつきあっていく覚悟があるんだろうか。みどりを思う気持ちが嘘だとは言わない。仙台まで呼び寄せたのも、この人なりの優しさ、あるいは愛情から出た行為だろう。少しでもみどりの経済的負担を軽くしたかった。しかし、男の世話になっての暮らしがみどりの心にどんな影響を与えるかはカウントしていない。いや、わかってて知らない振りをしているのかもしれない。手練れの不倫男とはそういうものかもしれない。
 そんな暮らしが長く続くはずがないのにな。わたしは小さくため息をついた。
 遠くない将来、みどりの存在は男の妻にも知れるだろう。そのときに両立する目算があるのか。あるいは、「家」を切り捨ててみどりとやり直すか。いや、それはないだろう。その覚悟があったらみどりを呼び寄せる前にとっくにそうしている。いざというときに切り捨てるのは、やっぱりみどりだろうな。
 いま現在、みどりはこの人に少なくない体重を預けているだろう。でなければ、わざわざ仙台まで行くわけがない。その状況で、いったん手に入れた支えを失ったらどうなる。
 途中で手を引く残酷さを、この人はわかっているんだろうか。





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Last updated  2006.07.15 23:39:28
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