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2006.07.07
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カテゴリ: 物語



 みどりに会ったのはまだ学生の頃、知り合いの劇団の公演だった。受付を頼まれて行ってみると行った先にみどりがいた。原色を重ねたような独特の色彩のゆったりした服を着て、きょろきょろと周りを見回していた。今にも笑い出しそうな口角の上がった口元を覚えている。
「はじめまして、水野です」わたしがぴょこんと頭を下げると、みどりは右手を差し出してきた。
「はじめまして、みどりです」
 初対面でいきなり下の名前かよ。わたしは少し鼻白んで、差し出された右手を軽くつかんだ。みどりはその手をがっちりと握り返して、シャベルですくうようにわたしの目をじっと覗き込んできた。
 出たよ、不思議ちゃん。わたしはそう思った。舞台の世界には変わった人が多い。いや、本当はフツーなんだけど、自分は人とは違うんだと思うあまり奇行に走る人がたくさんいた。自己顕示欲が強くなければ、舞台になんて関わらない。
 そういう人たちとうまくやっていくコツは、徹底的にフツーに振舞うことだ。奇行に反応しない。見なかったことにする。
 ことさらさりげなくみどりを見返して、あれ、と思った。みどりの左右の目の色が明らかに違っていた。左は黒いのに右の色がやけに薄い。灰色と黄土色の中間くらいの色だった。
 むかし、そんな犬を見たことがある。シベリアン・ハスキーだったか、近所の子どもにバットで殴られて青い目が灰色になってしまったとかなんとか、犬の飼い主が言っていた。

「え?」
「右目。誰かに殴られたのかなって」
「どうして?」
「瞳の色が、違うから」
 わたしはわたしで今よりもっと率直だった。今なら初めて会う人間にあんな直球を投げやしない。
 わたしが犬の話をして、みどりが大笑いをして、それがわたしたちのきっかけだった。その後ゆっくりと、やがて加速して、わたしたちは親しくなっていった。
 みどりは当時、ある劇団の演出部に研究生として所属していた。つまり、脚本家、演出家の卵ということになる。当時人気のあった劇団で、十何人の研究生を取る俳優部門と違って、演出部の採用枠は一年にたったひとり。みどりはその難関を突破したのだった。
 わたしはわたしで、やはり脚本を書いていた。といっても、そんなたいそうなものではない。書きたいものを書きたいときに書いて、たまには上演できることもあったけど、劇団に売り込んでも相手にされないことが多かった。請われれば役者として舞台に立つこともあったし、舞台監督のような仕事もした。スポンサーを探して頭を下げて回ったり、DMを書いたり、製作を担当することもあった。つまりは何でも屋だ。有象無象あるアマチュア劇団の、有象無象いる何でも屋のひとりだった。
 わたしと会った当時、みどりは退屈していたようだった。難関を突破して研究生になったものの、すぐに書かせてもらえるわけではない。会うたびに、書きたい、公演を打ちたいと愚痴のように聞かされた。
 一緒にやろうよ、とわたしが言うのに、そんなに時間はかからなかった。





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Last updated  2006.07.16 00:02:01
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