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2006.07.09
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カテゴリ: 物語


 激安洋品店に入るなりそう言って、みどりは白Tシャツをほいほいと買い物かごに投げ入れた。大道具を全部真っ白にしつらえてさ、小道具も白、衣装も白、出てくる人出てくる人みんな白くて、で、ねじれてんの。白ってストイックだよね。
「ストイックって、わかってて言ってんの?」将来性の高いTシャツの見分けがつかなくて、わたしはまだワゴンの中をひっくり返していた。服は将来性が大事だ。百五十円の作業着でも。
 キンヨク・テキってことでしょう? みどりはそう言って、山盛りのかごをレジ台に乗せた。どん。
 レジで本を読んでいた若い女の子が――といっても、同い年ぐらいだったはずだ――けだるそうに、しかし、ていねいにTシャツを一枚一枚畳んでくれた。きっちりと畳まれた白いTシャツはキンヨク・テキに見えないこともなかった。
 結局、将来性のあるTシャツは見つからなくて、わたしは手ぶらで店を出た。みどりは紙袋を二つ抱えていた。
「ねえねえ、見た?」店を出るなりみどりが言った。
「何を?」
「あの子の読んでた本、『O嬢の物語』だった」みどりは嬉しそうに言った。耽美派エロ小説よ。白昼堂々あんなの読んで、そりゃ、アンニュイにもなっちゃうよね。


 激安洋品店の隣は鳩おじさんの家だ。
 鳩おじさんというのは、鳩好きのおじさんである。二階の窓からえさを撒いて、近くの神社の鳩を自宅まで呼び寄せていたのだけれど、おじさんの家は大通り商店街の真ん中に位置していて、しかも目の前にバス停があったものだから、糞害がひどいから鳩にえさをやらないでくれとバス会社と商店街から苦情が出た。
 おじさんは激怒した。二階の窓からえさを撒くのがいけないなら部屋の中で撒く、と自宅の二階部分を鳩に開放してしまった。自宅の部屋の中でやってることまで文句は言えないから、バス会社はバス停の上に屋根をつけてその場をしのぎ、商店街はただため息をついた。
 タイラーメンを食べた帰りには、みどりと並んで鳩おじさん家の二階の窓を見上げるのが習いだった。二階の窓は黒くぽっかりと開いて、見ているまに鳩がしゅうしゅうと吸い込まれていく。部屋の中はきっと糞だらけだ。

「鳩おじさんのこと、書こうかな」みどりは言った。鳩おじさんは鳩の固体識別ができるのよ。訓練を受けたエキスパートだから。やってくる鳩にそれぞれ名前をつけていて、その食事量排泄量飛行距離を事細かにノートに記録している。





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Last updated  2006.07.16 12:15:47
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