書くことの意味
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分量のある論文の仕事が終わった。夜、友人との約束があって、焼酎を3杯あけたのだけれど、自分に対して打ち上げをしたい気持ちがあって、友人と別れてから久しぶりにひとりで、近所の店に飲みに行った。 グラスワインを赤、白、一杯ずつ。読む暇がなかなか取れなかった文庫本を持っていって、ゆるゆると時間が流れた。眠気がゆっくりと脳の中を満たしていって、良い気分になったところで、勘定を済ませた。 帰宅途中で、トイレットペーパーが無くなっているのに気付き、近所のドラッグストアに入った。午後10時。客が誰もいないがらんとした店内のレジで、中年の男性が一生懸命に何かを書きつけていた。 品物を片手に用紙を覗き込むと、英単語がいくつもの矢印に導かれている。数学の照明問題の解答に似ているようで、それにしては数式が登場しない。思わず、「それは何ですか」と聞いてしまった。 「これはね、エイズウィルスに犯された細胞がどうしたら活性化するかを考えているんですよ」。店長の名札をつけた男性は親切にも答えてくれた。「エイズウィルスに犯されると通常の細胞は機能を失う。しかし、別の方面から、この細胞を活性化する可能性が残されているんですよね」「これは薬学ですか?」「いや、免疫学ですね」 チラシの裏側に英文字がびっしりと書き込まれている。酔いで朦朧とした頭脳に急いで、活を入れた。これは面白い話に違いない。 「自分が今考えていることは、猫のエイズウィルスに対しては有効だと、証明されているんです。しかし、種の壁があって人間のエイズウィルスに対してはまだ誰も、試したことがない。しかし、エイズウィルスに犯された人間が意識不明の重体に陥らない限り、この細胞を活性化させることによって再び、機能不全から救うことが出来るのだと思うのです。ただ現代の免疫学は、あまりにも細分化され過ぎてしまって、誰もここには踏み込もうとしないのですがね・・」 日曜の午後10時。誰も客がいない中でドラッグストアの店長がひとり、もくもくとレジ台にチラシの裏を広げて、免疫学の課題に立ち向かう。自分の内側で、琴線に触れる何かがあった。思わず、一生懸命質問していた。「高卒で働き始めて、専門的に免疫学を学んだことは無いんです。けれど独学で色々なテキストを読んでいるのがよいのかもしれない。少なくとも細分化の弊害からは免れているような気がしますね」 書きたいのに何も浮かばない。それが自分の悩みだと思っていたが、現実にはいくらでも、物語が存在するのだ。ただ、それを受け止める、あるいは気付く力が自分には欠けているのだと、痛切に思った。 本当は近所の銭湯に行くつもりだったけれど、今夜は家で、飲み明かしたくなった。
2006年05月07日
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